黒と白と壊れた心   作:東流

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前回の投稿から約二週間。遅くなってしまい大変申し訳ありません。

色々と忙しく、中々執筆する時間が無くてようやく出来上がったという感じです。

もう少し更新スピードを上げて頑張っていきたいと思っているので、これからもよろしくお願いしますm(__)m



白の悩みと漆黒の思惑

「――さっきはユウ君に、悪いことをしてしまったわね」

 

 四人で並び、学園への帰路を歩んでいると、クルルシファーがそう呟く。

 珍しく沈んだ声を出すクルルシファー。それもそうだろう。自分から機竜勝負に持ち込み、挙げ句の果てにはユウをも巻き込んだのだから。

 だが、ユウはそんな事など気にせず、かぶりを振る。

 

「別に気にしてない。この事に関しては最後まで付き合うって言ったからな。…それよりも、良かったのか?あれで」

 

 クルルシファーに課せられている婚約の使命。

 こうなることは代々予想はしていたが、まさかこんなに早くとは思ってもいなかった。

 それよりも、いつも冷静なクルルシファーが感情的になっていたことにユウ自身も少なからず驚いていた。

 

「なるほど、つまりクルルシファーは政略結婚が嫌で、ユウを恋人に仕立てていたと、そういうことだったのか。よかった……、安心した」

 

 リーシャがほっとしたように胸を撫で下ろし、ノクトもどこか安心した表情をしていた。

 

「Yes.しかし、あの執事――アルテリーゼさん、でしたっけ?口幅ったい、と言うのでしょうか?何だが不思議な人でしたね」

 

「………」

 

 それはユウ自身も感じていた。

 どうもあの執事とクルルシファーの間には何かがあるような気がする。只の主従関係では無い、何かが。

 

「気にしないで。アルテリーゼは、昔からああだから。それより、本当にごめんなさい。勝手に決闘やら何やら言ってしまって」

 

「それに関しては問題ない。でも、相手がちょっとな…」

 

「ユウさんでも、苦戦するんですか?」

 

 ノクトの言葉に反応したのはユウではなく、リーシャだった。

 

「苦戦?ユウが?何かの間違いじゃないか?」

 

 この中で唯一ユウの実力を間近で見ているのはリーシャ一人だ。なので、正直負けることは無いと考えている。しかも、あの時の実力がユウの本気だとは到底考えにくい。勝率を低く見積もっても、『負け』の二文字は絶対に無いと確信しているくらいだ。

 

「それが、そうとも限らないんだよな」

 

 ユウの言葉に一同の足が止まる。

 

「…《アジ・ダハーカ》。あれの神装は《千の魔術》(アヴェスタ)と呼ばれるもので相当強力だ」

 

千の魔術(アヴェスタ)?」

 

 クルルシファーが問いかける。

 

「触れた相手の力を自分の物にできる神装能力の一つで、これが中々に厄介なんだよ」

 

「触れた相手の力だと!?」

 

 リーシャが驚き、ユウが厄介と言っている訳を探ろうと思考を回転させたら頭の痛い解答が浮かんだ。

 

「…それだと単純計算でも数の利が全く通用しない。まぁ、触れないと条件が満たされないが、だが、これは接近戦を封じられたのと一緒だぞ?」

 

 どんな形であれ触れたら自分の力を相手の力に上乗せされてしまうので、接近戦は見込めない。

 

「まぁ、こっちにも考えがあるからな。俺の予想を下回ってくれているならまだ勝機はある」

 

「予想、ですか?」

 

 どんなものか気になりノクトが問いかけようとするが、

 

 

 

 

 

「貴様たち、門限が過ぎているのにも関わらず、喋りながらの帰宅だとはいい度胸だな?」

 

 

 

 

「……えっ!?」

 

 四人はハッと前を向くと、そこには今にも角が生えてきそうな鬼の形相をしたライグリィ教官が立っていた。

 

「いやー、これはそのー」

 

 必死にリーシャが言い訳を考えようとするが、

 

「もういい貴様たち、さっさと戻れ」

 

 幸運なことにお咎め無しなのか、ほっと息を吐き、ライグリィ教官の横を通り過ぎようとした時、

 

「…この学園は広いからな。掃除は大変だぞ?」

 

 そんな一言が聞こえたような気がした。

 翌日の早朝。ユウたちは四人揃って、掃除当番の罰を受けた。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 ユウ達が帰路を急いでいたその夜。王都の城内では、ユウが言っていた通り会議が行われていた。

 シャンデリアに照らされた円卓の席に座るのは、ドレスや礼服、あるいは軍服に身を固める七名の男女だ。

 上座に座る二名は、新王国女王ラフィと宰相。

 残る五名は、四大貴族と呼ばれる最高位の公爵たちだ。その中にはバルゼリッド・クロイツァーの姿もある。父親であるワーグ・クロイツァーと共にこの会議に出席していた。

 此度集まったのは終焉神獣(ラグナレク)について。

 終焉神獣(ラグナレク)とは一つの遺跡(ルイン)に対し一匹のみ存在するという、超常の力を秘めた幻神獣(アビス)の事だ。現在七匹確認されており、その他の遺跡(ルイン)からは未だに発見の報告はされていない。だが、『扉』については殆どの遺跡(ルイン)に確認されており、この事は女王を含めた三人しか知られていない。

 その会議も一段落し、バルゼリッドが女王に発言の申し立てを進言した。

 

「どうしました?クロイツァー卿」

 

「…いえ、女王陛下に一つ聞きたい事がございまして。雨宮ユウについてですが…」

 

 バルゼリッドが女王にユウの事を聞こうとした時、向かい側に座っていたディスト・ラルグリスが話に入ってきた。

 

「おお、クロイツァー卿もユウ殿をご存じで?」

 

「ええ、まぁ。気にはなっておりました」

 

 内心舌打ちをするが、この際情報が入るなら誰でも良かった。

 

「彼は中々に優れている人物だ。十代にしてあの装甲機竜の乗りこなし。政治に関しても表だって出てくることは殆ど無いが、頭の回転にはいつも驚かされる。女王陛下は一体どこであのような人材を見つけてきたのか、正直、彼の成長は本当に楽しみだよ」

 

「…そう、ですか」

 

 やはり本当だったのかと心の中で悪態をつく。四大貴族のしかも武勇で有名なあのラルグリス家からこのような言葉が出てくるとは思ってもいなかった。

 

「(これは、早急に策を立てる必要があるようだな)」

 

 バルゼリッドはニィ、と口を歪めると、父であるワーグ・クロイツァーと共にこの場を後にした。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 城塞都市一番街区。富裕層の先住区に存在する、白亜の豪邸。

 その広い居間のソファーに、二人の人間が座っていた。

 片方はバルゼリッド。もう一人は、漆黒のローブを羽織り、フードを目深に被った、鋭い眼光の存在だった。

 

「それで、どうだい?俺が売った神装機竜《アジ・ダハーカ》の調子は?」

 

「ああ。素晴らしいぞ我が友よ。オレはついにあの神装を完璧に使いこなすに至った。その気になれば、この国の機竜使いなど、もはや相手になるまいよ」

 

 自信満々なバルゼリッドにローブ姿は笑みを返しつつ、答える。

 

「そうか、それはさすがだな我が盟友よ。では、例の件をよろしく頼む」

 

 親しげなその声に、バルゼリッドは微笑んだ。

 

「確か、オレがあのユミルの伯爵令嬢をめとるという話だったな。異国の女というところが少々引っ掛かるが、何かあるのか?」

 

「あれは『鍵』なのだ。遺跡(ルイン)の封印を開く鍵、その力を秘めている。今までの人間たちでは入れなかった、深層に至るためのな」

 

「では――」

 

「ああ、君にはそれを託したいのだ。だからどんな手を使ってもいい。必ずや彼女を従え、その力を利用して――遺跡(ルイン)の扉をこじ開けてほしい。そうすればその財宝の半分と、いずれ我らの手に落ちるこの国の統治は、君に任せよう」

 

「ふっ、わかった。あの女は気位が高そうだが、そういう女ほど調教のしがいがある。期待に応えてみせよう。我が友よ」

 

 バルゼリッドは肩を揺らし、楽しげに笑う。

 これから歩む覇道の未来地図が、頭の中に出来上がっているかのように。

 

「では、俺はこれで失礼しよう。見送りはいらんよ」

 

「ああ、また会おう。友よ」

 

 それだけ言うとローブ姿は、音もなく屋敷から立ち去った。

 バルゼリッドは屋敷の二階に上がり、窓から人影が路地に消えていく様を見届けた後、

 

「ふん。いつまでもオレを飼い慣らせると思うな。まぁいい、どんな手を使ってでもというのなら、手段はいくらでもあるさ」

 

 そう言ってバルゼリッドは、手元の機攻殻剣を握り締め、舌舐めずりした。

 

「楽しみにしているぞ。この国の次の王は、このオレだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とか思ってんだろうな」

 

 ローブ姿はニヒルと口を歪ませ、先程までいた白亜の豪邸の方に振り替える。

 

「やはり馬鹿は馬鹿か。駒でも何でもないのにな」

 

 再び歩きだし、クツクツと笑うローブ姿。

 自分の計画が上手くいきすぎていて逆に怖いくらいだ。

 

「まぁ、それなりにお坊ちゃん(・・・・・)には頑張ってもらうか。遺跡(ルイン)の話は本当だしな」

 

 コツコツというローブ姿の歩く音だけがこの場に響く。

 

「唯一の障害と言えば……『女王の番犬』ぐらいか。あいつは俺も知らない秘密を知ってるからな」

 

 深層に至った事がある人間はいない。先程はそう言ったが、例外もいる。それが『女王の番犬』だ。

 

「『扉』か…。まぁいい、面白くなるのはこれからだからな。せいぜい楽しませてくれよ」

 

 ローブ姿はいつの間にかこの場から姿を消しており、月明かりに照らされる夜の路地だけが、いつもと変わらない雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

「…千の魔術(アヴェスタ)…か」

 

 バルゼリッドと決闘を取り付けた翌日、ユウは図書館で一人、機竜に関する本を読み漁っていた。

 その中でも数少ない神装機竜に関する資料の一つで、勿論内容は《アジ・ダハーカ》についてだ。

 資料の内容はユウが知っている知識とさほど変わりはなく、寧ろよくこれだけでも集めた物だと感心している。

 

『アヴェスタ?アヴェスター(・・・・・・)じゃなかったかしら?』

 

 不意に頭の中にレスティアの声が聞こえてきた。

 

『発音の違いじゃないか?まぁ、『本人』はアヴェスターって言ってたけど…』

 

 とユウも言ってみたが、何故今回《アジ・ダハーカ》について調べているのかと言うと、理由は先程言った通りだった。

 千の魔術(アヴェスタ)千の魔術(アヴェスター)の違い。どうにもこれが気になってしょうがなかった。

 《アジ・ダハーカ》の神装については確かに知っている。

 だが、果たして前者だっただろうか?

 昨夜は前者の方を語ったが思い返せば、『あの時』の『奴』は千の魔術(アヴェスター)と言っていた気がする。

 

『あの時の力は確か――』

 

 エストが思い出しながら、呟く。

 

『周囲の力を触れることなく無差別に吸収する。……いや、上乗せすると言った方がいいでしょうか?』

 

『ああ。確かに相手に触れて力を奪い取る能力もあったと思う。けど、それだけなのか?《アジ・ダハーカ》を使っているのにも関わらず…』

 

 もしかしたら今回の相手は《アジ・ダハーカ》に似た《アジ・ダハーカ》なのかもしれない。

 千の魔術(アヴェスタ)千の魔術(アヴェスター)。能力も名前もほぼ同じ。だが、もしかしたら『本質』は全くの別物じゃないだろうか?

 もし千の魔術(アヴェスター)ならこちらが一気に不利になる。単純に神装を発動すれば、四対二。いやアルテリーゼを含めると五対二になってしまう。

 

「…さてと、あの時は咄嗟に千の魔術(アヴェスタ)って言ったけど…後者なら本当に不味いな」

 

 ユウ自身も千の魔術(アヴェスター)の怖さは身に染みるほどわかっている。

 元々の実力に加え、相手の力を無制限に自分の力へと上乗せする、正に『無敵』に近い能力だ。

 ユウは一つ背伸びをすると、時計に目を向ける。時計はいつの間にか午後八時を指していた。四時頃にここへ来たので、四時間近く図書館にいたことになる。夕食もてっきり食べ忘れてしまっていた。それほど集中していたのだろう。

 

「…この時間は食堂空いてないな」

 

 というより、何故こんな時間まで図書館が空いているのか、それはユウが鍵を持っている為である。

 それに、この図書館は授業で使われること以外殆ど使われていない。教室棟の図書室の方が綺麗で明るく、こちらは暗いイメージがあるのか、殆ど寄り付かない。だが、そのおかげでここあの地下室を作ることが出来ているのだろうと予測する。

 パタンと本を閉じると、元の位置まで直しに行く。

 夕食をどうしようかと考えていると、出入口である扉の方からワイワイと声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 ユウがその方向へ顔を向けると、ルクス達がお盆におにぎりと飲み物を乗せてこちらに向かっていた。

 

「あ、ユウ!やっと見つけたよ」

 

 ルクスがこちらに走ってくると、おにぎりと飲み物が乗ったお盆を図書館の机へと降ろす。

 

「ルクス?それにリーシャ達もか?どうしたんだ?」

 

 やって来たリーシャは何故か大股で、しかも何やら怒っている様子だ。

 

「どうしたもこうしたもあるか!放課後から急にいなくなったと思えば、こんな時間まで一体何をしてんだ」

 

 リーシャと同意見なのか、全員頷くと、リーシャの後ろの方から溜め息が聞こえてくる。

 

「…兄さんも大分無茶をする人ですが、ユウさんもユウさんですね。夕御飯も食べないで何を調べてたんですか?」

 

 ルクスの妹であるアイリが、まだ机の上に数冊ある神装機竜の資料をペラペラと捲っていく。

 それにルクスやリーシャ、ノクトやティルファーも覗き込む。

 リーシャとノクトは昨夜の事を思い出したのか、アイリと同じ様に資料に目を通す。

 

「これって神装機竜の資料…?」

 

「他には……神話……ですか?」

 

 アイリが捲っていたのは一つの神話に関する資料だった。

 ルクスもそれを覗き込む。

 

「『絶対悪の三頭竜(アジ・ダハーカ)』のお話ですね。でも、どうしてこれを?」

 

 神装機竜の資料なら分かるが神話の資料まで持ち出しているのは些か変だ。

 アイリはユウに尋ねると、

 

「ちょっと、それと同じ名前の神装機竜の使い手と戦うことになってな」

 

「……はい?」

 

 アイリは何を言っているんだこの人は?という目でユウを見ている。同じくルクスやティルファーも同様だ。

 リーシャとノクトは理解しているので、驚きはしない。

 

「どういうこと?何でユウが《アジ・ダハーカ》と戦うことに?」

 

 《アジ・ダハーカ》と聞いてルクスは一人の男を思い出していた。

 

「まさか…四大貴族の一人と戦うんじゃ…」

 

「そのまさかだよ」

 

 瞬間、この図書館に理由を知らない三人の声が響き渡った。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

「まさかそんな事になってたなんて…」

 

「はぁ…。相変わらずですねユウさんは…」

 

「いやー、あの恋人騒動にそんな理由があったとは…。ユウっちも大変だね~」

 

 取り合えず大まかな説明を三人し、クルルシファーの恋人を演じていたことを話す。

 

「と言っても、一日だけだったけどな。今日も入れれば二日だけど」

 

「ですが、何でまたこんな所で調べものを?それも、こんな時間まで」

 

 アイリは溜め息をつきながら聞いてくる。どうやら兄と同じ様に無茶をする人と認識されているようだ。

 

「そうだぞ、ユウ。明日は遺跡(ルイン)調査と幻神獣(アビス)討伐も入ってるからな」

 

 リーシャがそう言ってくるとユウはそう言えばと思い出す。

 

「何だ?忘れてたのか?…まぁお前に関しては殆ど心配することは無さそうだけどな」

 

 リーシャは手前にあるおにぎりを取るとあむっと口に頬張る。

 

「…それ、俺のために持ってきてくれたんじゃないのか?」

 

 ジト目でリーシャを見ると、リーシャはおにぎりを飲み込み、

 

「仕方無いじゃないか、私も食べて無いんだし…」

 

 モジモジとリーシャは指を絡ませ、頬を赤くする。

 

「リーシャ様はユウがいない間ずっとユウを探してたし、夕食だって食べて無かったんだよ?それに、そのおにぎりはリーシャ様とノクトが作ったものだし、別にいいんじゃないかな?」

 

「そうそう。ユウっち駄目だよ~そんな事言っちゃあ。逆に失礼だよ?」

 

 ルクスとティルファーに言われ、失言だなと思った。

 

「悪い、リーシャ。そうとは知らずに…」

 

「いや、こっちも夕食を食べれたのに、食べなかったからな。その、なんだ…。あ、味見だよ、大事な決闘前だからな。腹でも壊したら大変だろ?」

 

「…ありがとう」

 

「…っ///!?き、気にするな。ノクトも一所に作ったからな。感謝しろよ…全く…」

 

 ブツブツと何やら小言を言いながら、そっぽを向くリーシャ。

 ノクトにも御礼を言うと、どういたしましてと返ってきた。

 

「それじゃ、早速」

 

 ユウはおにぎりに手を伸ばすと口の中に入れる。丁度良い塩味が口の中に広がりユウの空腹を満たしていく。

 

「うまい、塩味がいい感じに効いてる。ありがとな二人とも」

 

「と、当然だ。私達が作ったものだからな」

 

「Yes.喜んで貰えて何よりです」

 

 二人は表面上では冷静を保っていたが、机の下で大きくはないが、ガッツポーズをしている。

 それに気付いたアイリは親友を見て溜め息を。ティルファーはこの国を背負っていく将来の女王を見て苦笑いをしていた。

 

「…まぁ、大体の話は解ったけど、どうするのユウ?相手は四大貴族、バルゼリッド・クロイツァー。確か王都のトーナメントじゃ三位だよね?相当な手練れだと思うけど」

 

「その辺りについては色々と考えてるから大丈夫だ」

 

 と言ってみたものも、千の魔術(アヴェスター)だった場合はかなり不味い。触れずに相手から力を奪えるので、こちらの『正体』が解りかねない。それだけは何としても避けたいのだが…。

 

千の魔術(アヴェスタ)か。噂によれば触れた相手の力を奪える神装だよね?」

 

 ルクスが資料に目をやり、ティルファーがそれに反応する。

 

「うへぇ…嫌な能力。そんな神装もあるんだね~」

 

「Yes.それについての対策を今行ってるんですか?」

 

 ノクトがユウに尋ねると、ユウは首を横に振り、違うと答えた。

 その答えに疑問を持つルクス達だが、一人アイリだけは違う。目線を神話の本に向けたままだった。

 ここで何故神話が出てくるのか?確かに装甲機竜は神話やお伽噺に出てくる竜をモチーフとされているが、あくまでも参考にしているだけで、その竜そのものでは無い筈だ。

 

「…ユウさんは何か別の事…それも全く『本質』の違うような事を調べてる?」

 

 自分の知識では到底考えつかないような事。

 それは――。

 

「……装甲機竜そのもの…。いや『竜』そのもの?…でも……」

 

 一人、思考の渦へと巻き込まれる。

 すると、

 

「対策自体はもう既に済んでるし、正直負けることは無いと思ってる」

 

 その言葉にアイリの思考も止まり、全員が安堵するが、

 

「ただ、ちょっと私用で調べたいことがあってな、それだけだよ」

 

 私用?アイリはその部分に反応する。

 

「…どうしたの、アイリ?」

 

 ルクスが声を掛け、アイリはその声に現実へと戻ってくる。

 そして――。

 

「大丈夫です、兄さん。それよりも、ユウさんこの本少しお借りしても良いでしょうか?」

 

 全員が首を捻りながらアイリの言葉に疑問を持つが、ユウだけは何故か少し驚いた様子でその言葉を聞いていた。それと同時に、納得した様子で快くその提案を承諾した。

 

「ありがとうございます」

 

 アイリは一つの本を手にすると、そのまま出口へと歩いていく。

 不思議な提案にユウ以外が驚くなか、ユウは手早くおにぎりを頬張り、資料を元の棚へと戻す。

 

「お前らもありがとな、何か付き合わせて」

 

「いいんだよ。それよりもアイリどうしちゃったんだろう?」

 

 ルクスは唸るなか、ノクトはアイリを追い掛ける為にユウ達に頭を下げた後、一足先に図書館から出ていく。

 時間もいい頃合いになってきたので、このままだと、先日のような罰を喰らわされる事もあるかもしれない。

 ユウ達はそれぞれその場で解散し、明日の遺跡(ルイン)調査に備えるため、各自部屋へと戻っていた。

 

 

 

 

 △▼△▼△▼△

 

 

 

 

 アイリはルームメイトのノクトより先に自分の部屋へと戻り、一刻も自分で調べたい為にさっさと図書館から出てきた事に少し後悔をしていた。

 

「…まぁ、大丈夫でしょう」

 

 そう口に出し、本を広げていくアイリ。

 内容は『絶対悪の三頭竜』のお話。余り知られている神話では無いが、本をよく読む人なら知っている神話の一つだ。

 決して薄くはない量を物ともせず、数分もしないうちにノクトが帰ってくる。

 

「アイリ、どうしたのですか?その本に、何か?」

 

「ええ、ユウさんが調べてる内容に少し興味を持って」

 

「…?」

 

 ノクトは余りそういった話に詳しく無いので、先にシャワーを浴びようと浴槽へと歩きだす。

 一度集中すると途切れるまでは、自分の世界へと入るので、邪魔をせず、親友が話してくれるまで待とうと思ったノクトだった。

 

 △▼△▼△▼△

 

 翌日。

 遺跡(ルイン)調査に向かう準備をするために演習場の控え室へと集まっていた。

 なのだが、驚くことが二つある。

 一つは留学生であるクルルシファーの遺跡(ルイン)調査の同行。別に同行自体に問題が有るわけでないのだが、ユミル教国からの留学生なのでこういった調査に参加するのは余り見られないのだが、本人の希望もあり、今回の遺跡(ルイン)調査に同行することになった。

 そしてもう一つは――。

 

「オレの名はバルゼリッド・クロイツァー。ベルヘイク地方の領主補佐を務めている。二年前に、機竜使いの士官学校を首席で卒業した身だ。この度の幻神獣(アビス)討伐及び、遺跡(ルイン)調査の任に関し、手助けになればと思い、協力を申し出た」

 

 バルゼリッド・クロイツァー

 四大貴族、『王国の覇者』の異名を持つこの男が、遺跡(ルイン)調査を手伝うよう学園に来たこと。

 

「よろしく頼む」

 

 面倒くさい事になりそうだ、とユウは心の中で溜め息をつくのだった。

 

 

 




どうだったでしょうか?

誤字脱字、おかしい所がありましたらご指摘の程よろしくお願いします。

次回も読んでくれたら嬉しいです。それではm(__)m
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