目の前の人間の首をへし折る。ただそれだけの作業をこなすだけのウリエルだったが、視界が突如暗転。次に目を開くと白い光がこちらに向かってくるのが判った。
「……は?」
一瞬気の抜けた声が零れても不思議では無いだろう。何故なら先程とは一風変わった景色が目の前に広がっているのだから。
全てを呑み込み破壊する白い極光。
その中心には一本の槍。
目を見開くと、その槍は自分達天使を滅ぼす神殺しの一本だった。
扱いが非常に難しく、一介の人間が使用するともなれば高度な演算と膨大な情報量で人の頭なんて容易に壊れる。良くても廃人という極めてリスクが高い代物である。
そんな
(……いや、流石にこれは……)
破壊の極光がウリエルに突き刺さらんと迫ってくる。
殆ど打つ手が無い完璧な一撃。それにウリエルは――
「止めなきゃね」
両手で破壊の極光を抑え込む。
音さえも吹き飛ぶ爆発がウリエルを中心には巻き起こる。
激突する槍と天使。唸りを上げる一撃にウリエルの両腕がギチギチと、する筈のない悲鳴を上げていた。
ーー瞬間。
「ーーッ!!?」
槍の一撃を抑えていたウリエルの両腕が吹き飛んだ。
血飛沫すら舞わず、全てを呑み込んでいく。
この刹那にウリエルをクスッと笑みを浮かべていた。
(まさか、本当にやられるなんて……思いもしなかったな)
チラリと視線を横に向けると二人の人間の顔が視界に入る。一人は先程の『鍵の管理者』。そして、もう一人は私達天使と互角に戦えていた黒髪の少年。
生きた年数はこちらが上だが、何とも『兄』のような存在に思えてならなかった。
(……はぁ〜あ。何ともツマラナイ人生だったな〜)
槍の先端がウリエルに突き刺さる
(……でも、また会おうね。『お兄ちゃん』)
突き刺さると同時に槍が地上の地面へと到達する。
先程の爆発と遜色変わりない衝撃と爆音が辺り一帯に木霊した。
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「……終わった……の?」
ユウに抱きかかえられたままクルルシファーは腕の中で呟く。
先程、槍を放つ前にユウがクルルシファーを救い出していた。
槍の接続が終了した後、瞬時にウリエルとクルルシファーの所へ到達。到達と同時にウリエルの側頭部に回し蹴りを放ちクルルシファーを救い出した上で槍を放った。
エストの神装『堕天』をフルに使い、過負荷ギリギリまで使用したお陰で身体中至る所が痛みで悲鳴を上げる。
「……あぁ、多分な……」
チラリとこちらを見たウリエルをユウは見逃していなかった。
あれで生きているとは思わないが、少なくとも異常に警戒する事は無いだろう。先程の笑みが何を意味しているのかは判らない。ただ、この場においての戦闘は終わった、それだけは変わることの無い事実だった。
ぐにゃりとユウの視界が歪む。身体がふらつき、支えられていたクルルシファーが逆にユウを支えている状況になってしまった。
突然顔を近づけられ一瞬頰を染めたクルルシファーだったが、ユウの状態が芳しくない事に気付くと、ユウの身体を支え下まで降りる。
「どうしたの!?大丈夫、ユウ君?」
「……悪い。ちょっと、ふらついて……」
とユウは零すが、そんな生易しい状態じゃない事などクルルシファーはすぐに見破った。
汗の量が明らかに違いすぎる。息も荒く所々痛むのか、時折呻き声も零す。医療に詳しい訳ではないが、クルルシファーから見ても急いで医者に見せるべきだと判断する。下手に手を加えたら何が起こるか判らない。クルルシファーは機竜の残りエネルギーを確認するとユウを背負い、全員が撤退しているであろう地点へと飛び立った。
======
そこからはあっという間だった。ルクスやリーシャを筆頭に王国からやって来た軍の関係者と途中で合流し、ユウを預けたクルルシファー。ユウの状態にルクスやリーシャは驚愕し、リーシャがクルルシファーに詰め寄る始末。そんな二人をルクスが諭すという光景が出来上がっていた。
ユウの状態にルクスやリーシャは兎も角、軍の機竜使いでさえ驚愕を隠しきれていなかった。自分たちからすれば歳下だが、実力では逆立ちしても勝てない様なユウが満身創痍の状態なのだ。いつものユウを知っている者なら驚愕と同時に恐怖さえも覚える。
この人は
兎に角、応急処置を最優先と軍の部隊長が指揮を執ろうとするが、ユウの状態が急変する。
「……ガッ、ッ…アアァ……!?」
ごふっ、と口から血を吐き出し胸を押さえ苦しみだす。
余りにも急すぎたので、この場の全員が時間が止まったかの様に絶句する。はっ、と息を呑む部隊長が慌てて部下へ指示を送り、応急処置を施そうと試みる。
ルクス達は何が何のかこの状況についていく事が出来ない。しかしユウの状態が楽観視できる程のものでは無いという事くらいは理解しているつもりだった。
「おい、クルルシファー!一体何がどうなってるのだ!説明しろ!!」
「私だって判らないわ!でも……」
両方とも心配が故に声を荒げる。ルクスが間に割って入るが、どちらも止まらない程熱くなっていた。そこにこの部隊を指揮する一人の男性が割って入る。
「……これは特尉殿の神装機竜の能力の一部だと思われます」
「……えっ?」
リーシャの口から驚きの声が零れる。
「詳しくは存じ上げませんが、おそらく『神装』の能力の代償かと……」
「……代償……?」
代償という言葉に三人とも驚きを隠せず、その場に立ち尽くした。
元々ユウはこうなる事を見越した上で『堕天』を使ったのだ。それを三人が知る由も無いのだが、最後のクルルシファーを助けようと更に力を使用し痛めている身体に鞭を打ったのは紛れも無い事実だ。この事に対してクルルシファーか悪いという訳では無い。ただ、戦っていた相手が物凄く悪かった、それだけだ。
これでルクス達が罪悪感を背負う、というのは大きな勘違いなのだがそう思わずにはいられない。
ルクスは『バハムート』を使えば助けになったかもしれないと。
リーシャは知らない敵とは言え、退くことしか出来なかった自分の無能さに。
クルルシファーに至っては、目の前で戦っていたのだ。自分の実力の無さ、全てにおいて憤りを感じていた。
「……知らなかったとは言え、大声を上げて悪かったクルルシファー」
「……気にして無いわ」
一通りの処置を施し終え、二人体制で運ばれるユウ。部隊長を含めた何人かは現場に残り被害状況を報告する記録を取る為と、遺跡『箱庭』の近くなので幻神獣の出現しないか辺りを見回っている。
ルクス達は大人しくユウを運ぶ軍の機竜使いと共に
=====
「ユウ君……」
王立士官学院の保健室。
急遽ここへ運び込まれたユウは点滴を打たれたままベッドへ寝かされていた。所々に包帯を巻かれており、その隙間から血が滲むのが見てわかる。
原因は自分だ……と、クルルシファーは一人心の中で悪態を付く。最後に捕まらなければ、簡単に言えば自分の実力不足。ユウからして見れば天使の攻撃を避けるだけでも称賛ものだが、そんな事クルルシファーは判らない。
徹底して自分の実力不足だと、言い聞かせていた。
そもそもあの場面で出て来て何だったんだ?
遠くからだったが、ユウが天使へ致命傷を与えていたのは判っていた。
自分が出しゃばらず、あのままユウに任せていた方が良い結果に繋がっていたので無いか?
そもそも何で助けに入った?いや助けに入ったどころか助けられた。
結局自分は何がしたかったんだ?足を引っ張って、邪魔をして、迷惑じゃなかったのか?
「……私は……何をしたかったのかしら?」
『……何で、本気でやらないの?』
不意にあの天使が問い掛けた言葉がクルルシファーの脳裏を過ぎって行く。
本気?本気って何?私は搾り出した。限界まで、搾って、搾って。全力で戦った。全力だった!暴走状態一歩手前まで!!
「……あ……っ」
ここで一つ疑問に思った。暴走状態一歩手前?あれだけ高速戦闘の中で神装を使いながら、暴走状態になってない?何で?何処かでセーブを掛けてた?
ユウ君は自分の命を削って迄戦ったのに?痛めている身体を無理に動かして、血を吐く想いで戦ったのに?
「……私は……」
『何で本気でやらないの?』
『なんでほんきでやらないの?』
『ナンデホンキデヤラナイノ?』
『ねぇ何でだよ!?鍵の管理者!!?』
「違うッッ!!!」
ユウが寝ている事も忘れ、立ち上がり大声を上げてしまったクルルシファー。瞬間、気を取り直し蹲るように椅子へと座り込む。
頭の中であの天使が言っていた言葉が何度も何度も、思い浮かんでは消えていく。
「……わた、し……は……」
手に足に、身体全体に力が入らない。助けを求めようも声が出ない。
夕暮れの光が窓から差し込む医務室では、ユウの寝息だけがこの静かな空間で唯一音を発していた。
虚ろになりかけた目でユウを視界に入れようとする。
ーーすると。
「大丈夫か?クルルシファー」
隣から人の声。自分に掛けられた声だと気付いたのはその人物を見てからだった。
「リーズシャルテ……さん……?」
普段見せることはないであろうクルルシファーの弱々しい姿に、リーシャはその後の言葉が出て来なかった。
それを感じ取ったのか、クルルシファーはサッと顔を逸らすと直ぐにいつも通りにリーシャに話し掛ける。
「何か用かしら?」
「……いや、大きな声が聞こえたと思ってな……」
強がっている。リーシャはこんなクルルシファー見たことないなと、思いつつ近くにあった椅子を引き寄せクルルシファーの隣に座った。
「……」
「……」
二人の沈黙が続く中ユウの息を吐く音だけがやたら鮮明に聞こえてくる。
痺れを切らしたのか、先に声を掛けたのはリーシャだった。
「なぁ、クルルシファー。お前ユウと一緒に戦ったんだろ?」
「ええ……。それが?」
「いや、まぁ何だ……いいなって……」
「……?」
リーシャの言葉に疑問を持ったクルルシファーだが、それは直ぐに解消される。
「お前はユウと一緒に戦って私は何も出来なかった。確かに役割と言うものもあったのかもしれないが……何より無知で、弱い私自身が許せなかった」
「……それは」
「それに比べクルルシファー、お前は凄いよ。恐れずアレに立ち向かった。……遠くから見てたがアレは何だ?
「ええ。そう、言ってたわね」
二人揃ってユウを見つめる。起きる気配はまだ無いが、だいぶ落ち着いてはいるようだ。
「ユウが倒れたのはクルルシファーのせいじゃ無いさ。結果的にそうなった。正直あんな化け物と戦って命があるのが不思議なくらいだ。私なら一発であの世行きだろうな」
「……でも!!私がもっとしっかりしていれば!!もっと上手く立ち回っていれば!!」
「なら私達はどうなるんだ!!」
「……ッ!?」
「見ている事しか出来なかった私達は……どうなるんだよ?」
瞳に涙を浮かべたままリーシャはクルルシファーに迫り寄る。
「……」
「……お前にそんな事言ってもただの八つ当たりなんだけどな……。悪い……」
「いえ……大丈夫よ」
再び二人は口を閉じる。だが、最初ほど重苦しい空気ではなかった事は確かだ。
そして再びリーシャからクルルシファーへと声を掛ける。
「……クルルシファー。お前あの男との勝負はどうするんだ?」
「……そうね……」
あの男ーーバルゼリッド・クロイツァー。
先日、自身の婚約破棄の為に決闘を申し込んでいたが、それは自分だけの決闘では無かった。それぞれ相棒を一人ずつというタッグマッチ方式。クルルシファーはユウと一緒にタッグを組むつもりでいたのだがーー
「私一人で戦うわ」
「……ッ!?」
その場にはリーシャもいた為話の内容は色濃く覚えている。バルゼリッドはクルルシファーの従者であるアルテリーゼという女性とタッグを組む。正直ニ対一では単純に敵わない、とリーシャは踏んでいる。バルゼリッドという男は見た目や言動に限らず実力は本物だとあの時理解していた。それに、アルテリーゼという女性もそれなりに実力はある方だとあの時の会話で判っている。
「それは無茶だろ。幾らお前でもあの二人に今の状況で敵うわけが無い。お前だって全快では無いだろ?」
「それでもよ」
そんな事判っていると言わんばかりにリーシャの言葉を切り捨てる。
「これはケジメよ私の。ユウくんは私が無理やり巻き込んだようなものよ。本来なら私一人で片付ける事なのに……後回しにしてきたツケが回ってきたのかしらね」
「だが……」
「それに、あの人はこの状況を喜んでいるでしょうね。バルゼリッド・クロイツァーは。嬉々として決闘を行うわ。確実に」
諦めているといった表情を見せるクルルシファーにリーシャは何もしてやれない。自分が、と言ったところでクルルシファーに拒まれるに決まっている。
「あら私だけじゃ負けるって、言いたいのかしら?」
「もうそれはさっき言っただろう?……まぁ、概ねその通りだな」
と言うか負ける以外の選択肢が思いつかない。リーシャは今の状況を冷静的な判断で下していた。仮にクルルシファーが全快であってもバルゼリッドに勝てないだろうと思っている。ユウから聞いた神装能力が本当なら火力的に向こうが上だ。一対一でも厳しいと言うのに、更にもう一人相手が増えるとなると厳しさが更に増す、と言ったところの話ではなくなる。
リーシャがやはり自分がと言い掛けたところでーー
「……天使……」
「えっ?」
「私達が対峙したあの化け物。あの化け物と同等かそれ以上じゃ無いと今更驚かないわね。昔の私なら無理でしょうけど……。天使と少しとはいえ相手をしたのよ、逆に物足りないくらいだわ」
そんな強気の発言を耳にしたリーシャだったが、それが偽りという事は嫌でも判っていた。
だが、言い出せない。これ以上押し問答を続けても無駄だろう。
リーシャはため息を一つ吐くとクルルシファーの方へと向き直る。
「……こちらの方でも精一杯協力させてもらおう。全快とはいかなくても、今現在の万全の状態までなら何とかなるからな」
「……リーズシャルテさん……」
リーシャはクルルシファーの額をコツンと指で叩くと微笑みながらこの場を後にした。
額を抑えながら、そんな戦友の激励を嬉しく思いつつ笑みを零す。
「……私はもう、大丈夫よ。……だから貴方も……」
それ以上言う事は無く、クルルシファーもこの場を後にする。
眠っているユウが起きた時に笑顔で迎えられるように。
そんな儚くも、暖かい一途の期待をーー持ちながら。
======
暗い意識の中、少年はどこか判らない場所で目を覚ます。
見渡す限りの黒。一瞬起きているのか判らなくなるような光景だが、何故か少年には見覚えがあった。
「……ここは……」
一度来たことがある……ような気がする。
気持ち悪くならない様な軽い浮遊感に身を任せながらーー
『ねぇ』
「………っ!?」
後ろからか前からか?それとも左右どちらか?聞いたことが無い、しかし聞き覚えのあるような声が聞こえた。
警戒をしていなかったわけではない。既知感があるとは言え、見知らぬ空間と言えばその通りだ。そんな場所で職業柄周りの警戒を怠るのはあり得ない。
『聞こえてるよね?ねぇってばー』
声のする方向を振り向く。
『久しぶりだねー』
ひらひらと片手で挨拶をする少女。黒と白が混じり合った髪に、黒と白が左右で分かれているアンバランスなワンピース。
『いや、久しぶりって言うのも可笑しいか。毎日会ってるもんね?』
見覚えのある顔と聞き覚えのある声。
そんな事あるはずないのに、あってはいけない事なのに。
『ーーユウ』
「ーーーーー」
『うーん、聞こえないなー。ほらちゃんと言ってよ私の名前」
「………」
『……まぁいっか。今日はちょっとお知らせ?と言うか警告か……。うん警告警告』
一人でに納得し、ポンと手を叩きながら頷く少女。くるくると回りながら面白そうに楽しそうに、笑い出す。
『アッハハハハ!!』
「……何だ」
『うん。最近さ〜腑抜けてない?ユウ。ちょっと、
「………」
『自覚しているみたいだね。いやねぇー別にいいんだよ?陽に当たっても。けどさ……それはユウに似合わないな』
笑顔で言うが、目が笑っていなかった。
お前は違うだろ?そう訴え掛けているような気がする。
『ねぇ、大人しく私に身を任せなよ。悪いようにはしないからさ』
「……死んでもゴメンだな」
『同じ顔なのに同じ声なのに、何処がいやなの?』
「…………」
『無視は辛いなー』
ケラケラと笑いながら表情を変える黒白の少女。心底楽しそうに喋る様子はまだ純真無垢な可憐な少女を思わせる。
だが、違う。純真無垢?何だそれ?そんなのは犬にでも喰わせておけと言わんばかりにこの少女は
喜怒哀楽が無いわけではない。寧ろ感情が豊かな方であるのは確かだろう。それでも、この少女は壊れている。
ーー
『それよりも行かなくていいのかな?呼び出しておいてなんだけど』
「……今は」
『
ビクッとユウの肩が揺れたのを黒白の少女は見逃さなかった。
『気になる?』
「……」
『アハハハ!喋らなくても判るよ。気になるんだよね?うんうん。いいよー行きなよ』
ーーでも、と黒白の少女は一言区切るとーー
『少し
それだけ言って、ユウの意識はその場で途切れた。
======
ゆっくりと、息を吐く様に目を開けるユウ。全身包帯まみれなのは気にしない。
「いっ……」
ズキズキと全身が痛む。普段は決して使わない槍と神装を同時に使い、挙句の果てには堕ちる寸前まで戦ったのだ。全身の筋肉が今も悲鳴を上げている。
軽く身体を動かすが、やはり所々が言う事をあまり聞いてくれない。
それでも、とユウはベットから起き上がり点滴を取り外し、近くに置いてある制服に着替える。横に立て掛けられているエストとレスティアを見るが、二人からの反応は無い。おそらく
「あいつ……」
今は深く考えない。頭を切り替え、思考をリセットする。エストとレスティアを手に持ち、指定されていた場所へと向かう。
扉をへと向かいドアノブに手を掛けようとするがーー
ガチャっと外から扉が開いた。
「……えっ……?」
中に入ろうとして来たのはノクトだった。
「……ユ、ウ……さん?」
「……」
扉を境に立ち止まる二人。ユウは無言のまま。ノクトは普段の表情からは考えられない様な驚きの表情をしていた。涙を浮かべ、そのままユウへと抱き着く。
「……良かった、本当に……良かった……」
一瞬抱きつかれた事に驚きを隠せずにいたユウだが、よっぽど自分の身を案じてくれていたのだろう。泣き噦る後輩にユウはそっと問いかける。
「心配、かけたか?」
「……えぇ……」
「悪いなノクト」
「皆心配してました。アイリもルクスさんも、シャリス先輩やティルファーさんだって、騎士団の皆さん全員心配してしました!!」
ここまで声を荒げるノクトは見た事がなかった。昔からの知り合いという訳では無いが、この学園ではルクスやリーシャに続いて一緒にいる事が多い事は確かだ。どちらかと言えば余り表情を表へ出すタイプではない。出会って数ヶ月も経っていないが、ユウからしてみればここまで感情を出したノクトは初めてだった。
「クルルシファーさんや……リーシャ様だって……」
「……悪い……」
「……いいえ、謝るのはこちらの方です。……私達はユウさんの戦闘を見守るしか出来なかった。……何も出来なかった……」
「……それは」
この件に関してはユウにも勿論リーシャ達にも非は無かった。そもそもがイレギュラー。全員が
ーーいつか話す時が来るのかもな。
そんな事を思いつつ、ユウはクルルシファーの居場所をノクトに聞いてみる。
涙を拭い、ノクトは答えた。
「クルルシファーさんは行く所があると言い先程……。まさか、ユウさん……」
「あぁ、俺も行く」
「しかし!そんな身体でどうやって!?機竜の方も万全じゃないと言うのに」
「大丈夫だ」
「……え?」
「自分の身体の事は自分がよく知ってる。だから、大丈夫だ」
そう微笑むユウにノクトは何も言えなくなる。
ユウはノクトの頭に手を置き、
「行ってくる」
「あ……」
それだけ言うとノクトの横を通り過ぎ、学園を出ようと門へと向かう。
「まっーーッ!?」
待って……とは言えなかった。動きたくても動けない。遠くなる背中を見ながら手を伸ばしても届く筈なんて無い。
ーー足を動かさなくちゃ。
動かそうとする足も床に縫い付けられたかの様に動いてくれない。
ーーあの時は見てるだけだった。ユウさんの心配をしてながらもあの、あの
運ばれて来たユウの状態を見ていたのはルクス達だけでは無かった。勿論、騎士団のメンバーもユウの状態を見ている。……動揺は隠せていなかった。特にその中でもノクトは一段と動揺を隠していられず、ユウに急ぎ近づくが、シャリスに止められていた。
力が無いことは判っている。所詮は凡人の範囲内。リーシャやクルルシファー、ルクスの様に神装機竜を操れる訳じゃ無い。
ーー私じゃ、届かない。
伸ばしても、伸ばしても、伸ばしても、距離は詰まらず離れる一方。
「……私は……」
『……今は寝てなよ』
「……え……ッ!?」
声が聞こえた。比喩ではなく、本当に。
聞き覚えは無い。あったらあったで怖いのだが、冗談でも笑える状況じゃなかった。
『君が目を覚ます頃には全部終わってるから』
ーーだから、お休み。
それだけ聞こえるとノクトはその場で意識を手放した。
場所は変わり、月下の夜空。そこには三人の影が立っている。
決闘の場所として指定されたのは城塞都市三番街区の外れにある教会跡地だった。
約二年前に
無数に転がっている瓦礫の欠片に、四方を囲う城壁は教会跡地と言うより、一種の
そんな場所へ好き好んで来る輩はおらず、人の気配がする街へとここからじゃかなりの距離がある。
この場所なら多少の騒音は気にするまい。
「よく来てくれたな、我が未来の妻よ。無事に
仰々しくバルゼリッドがそう告げると、対峙するクルルシファーは微かに眉をひそめた。
「ところでそなたが恋人だと言っていたあの男はどうした?女王の番犬だ。あの男も
「……フフッ」
絡みつくような挑発にクルルシファーはものともしない。それどころか笑いを堪えきれず口元を手で覆っていた。
「……何が可笑しい?」
「フフッ、いえ余りにも滑稽な事を言ってるものだから……つい」
クルルシファーは笑顔で答える。人を馬鹿にする様な笑みではなく、本当に心から
「本当は安心してるんでしょ?彼が居なくて。そりゃそうよね、あんな実力の差を目の当たりにしているのだから。貴方は機竜使いとして一流よ、そこは認めるわ。でも、だからこそ判ってしまう事もある。どうあがいても、貴方はユウくんに勝てない」
「……戯れ言を」
「良かったわね?彼が居なくて。彼が全快なら貴方なんて瞬殺よ?……いや、全快じゃなくても瞬殺ーー秒殺かしら?」
「調子に乗るなよ小娘が!!あんな男がいたところでオレの勝利は絶対だ!!貴様に思い知らせて見せよう、オレの、この大陸の覇者の実力を!!」
ザンッと腰から
「今から始まるのはただの蹂躙だクルルシファー。貴様はオレに屈服するだけでいいんだよ」
「二対一で何をほざいているのかしら?まぁ、仕掛けたのは私だけど」
クルルシファーも
アルテリーゼは《エクス・ワイアーム》を。そして、バルゼリッドは《アジ・ダハーカ》を身に纏う。
バルゼリッドはアルテリーゼを一瞥した後、彼女に試合の合図を促した。
「それでは、決闘ーー開始!!」
アルテリーゼの合図で両者が一気に動き出す。
月下のもと、三機の竜が空を舞う。
決闘が意外な方向へと向かうのはこの時誰も予想していなかった。
お久しぶりです。
前の投稿からだいぶ時間が経ってしまい、誠に申し訳ありませんでした(_ _)
色々と忙しく立て込んでいたので、投稿するのが遅れましたが、やっと投稿出来ました。
相変わらずの不定期更新になると思いますが、気長に待っていただければと思います。
これからも頑張って続けていくので、よろしくお願いします。
それでは今回も読んでくださりありがとうございます。
また次回もよろしくお願いします。