黒と白と壊れた心   作:東流

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蒼対王国の覇者

 教会跡地での戦闘は思いもよらない方へと進んでいた。

 

「なぜだ!なぜだぁあああ!!」

 

 バルゼリッドの咆哮がこの教会跡地へと響き渡る。二対一というアドバンテージがありながらも、戦況は思いの外クルルシファーへと傾いていた。

 この教会跡地に、凍った瓦礫の欠片や、氷の造形物が出来上がっている。それを可能としたのが《ファフニール》の特殊武装である凍息投射(フリージング・カノン)。冷気を帯びている蒼の閃光がこの状況を作り出していた。

 

「あら、王国の覇者と言うからにはもうちょっと期待していたのだけれど……案外拍子抜けもいいところね」

 

「お嬢、さま……」

 

 クルルシファーの従者であり、クルルシファーの実家の執筆も務めるアルテリーゼは自身の主の強さに舌を巻いていた。

 決してアルテリーゼが弱いという訳ではない。アルテリーゼは機竜使いの中でも特級階層(エクスクラス)と呼ばれる実力者である。

 機竜使いの腕前は大きく分けて五つの階層(クラス)に別れる事になる。

 訓練中の見習いである初級階層(ビギナークラス)

 条件次第で幻神獣(アビス)との交戦が許可される下級階層(ロウクラス)

 更には戦闘要員として主力になる中級(ミドル)、指揮統率が可能となる上級(ハイ)、最高で特級(エクス)へとランクが上がる。

 つまり、アルテリーゼは機竜使いの中ではトップの実力者という事になる。単純な機竜操作や技術などは、神装機竜を駆るルクスやリーシャ、クルルシファーよりも上だ。そのアルテリーゼが舌を巻き、クルルシファーの強さに脱帽する。

 

(余程良い師に恵まれたのか……それとも)

 

 正直甘く見ていた。昔のあの頃のクルルシファーは兎も角、学園に通い始めた事で訓練を怠ると行かないまでも、それなりに腕は落ちているだろうと思い込んでいた。先日会った時に歩き方や仕草をそれなりに観察していたが、昔程の剣呑さは無くなっているものも、やはり思った通りと睨んでいたのだが……

 

「……足りないわね」

 

「え……」

 

「物足りないわ。()()()()()()()()()()()()()()?貴方達」

 

「……何をーー」

 

 と言いかけたところで隣からガンッ!!という機械音が響いた。

 何事かと急いでその方向へ顔を向けると、バルゼリッドが纏う神装機竜《アジ・ダハーカ》の両肩に特殊武装である双頭の顎(デビルズグロウ)がクルルシファーに標準を合わせていた。

 

「ふざけるなよ小娘が!!」

 

 ドウンッ!と二筋の砲撃が、《ファフニール》へと襲いかかる。

 

「……それ、もう飽きたわ」

 

 二筋の砲撃はクルルシファーの前へと展開している盾により防がれる。

 使用者の意志に関わらず作動する自動式の特殊武装ーー竜鱗装盾(オート・シェルド)。この七つの盾が常にクルルシファーを守っている。

 

「天使戦じゃ一発で壊されそうだったからしまっておいたけど……いつもより調子が良いわね」

 

 そう、自分自身でも判っていた。()()()()()()()()()調()()()()()。頭が冴え渡っている感じがする。

 

「もう知っていると思うけれど《ファフニール》の神装能力は未来を読む力よ。どうせ特殊武装の辺りもアルテリーゼが話していると思うけど」

 

「……ッ」

 

 否定はしない。勝つために情報を集めるのは基本中の基本。それが知り合いともなれば能力への対策は万全にしておく。いくら主従関係が有るとはいえ、全力で倒すと決めていたのだ、卑怯などとは思わない。

 

「でも、私も貴方の神装機竜の能力は知ってるのよ?王国の覇者さん」

 

「……何ッ?」

 

千の魔術(アヴェスタ)それが貴方の神装の名前。能力は他人の機竜のエネルギーを奪い自分の物とする。後はどうやって奪うか?そこがまだよく判ってはいないけど、多分()()()()()()()()()()。無制限に触れずに奪えるんだったらもうとっくに発動している筈。それがまだ無いという事はやっぱり触れないと駄目という事ね。……まぁ、貴方がそれを切り札として隠しているのなら、私に勝ち目は無いわね。アルテリーゼのエネルギーも含めると単純計算で四対一って事かしら?」

 

「……ッ!貴様ァ……何処でそれを……」

 

「言うわけないじゃ無い。まぁ憤りを感じているのなら十中八九触れないと駄目みたいね」

 

 なら、とクルルシファーは区切り、ライフルを構えると、

 

「遠距離射撃を続けるまでよ。貴方に触れなければいいのだから。わざわざ敵の間合いで戦う事もないしーー確実に仕留める」

 

 ダァン!とライフル特有の乾いた音が教会跡地へと響く。銃口から放たれた弾丸は一直線にバルゼリッドへと向かっていく。

 バルゼリッドは姿勢を低くくし、低空飛行でライフルの弾丸を避ける。

 再び双頭の顎(デビルズグロウ)を構えるがーー

 

「遅いわよ」

 

 クルルシファーが間髪入れずに弾丸の雨をお見舞いする。だが、そんなものお構い無しにバルゼリッドは双頭の顎(デビルズグロウ)から二筋の砲撃をクルルシファーに放つ。

 迫ってきた砲撃を右へ躱すと今度はアルテリーゼが下からクルルシファーへと追撃を始める。

 

「次は当てます」

 

 アルテリーゼはブレードを構えると勢いよく地面を蹴り上げ猛スピードでクルルシファーへ迫り始めた。

 放たれる弾丸を躱しつつ、クルルシファーの前へと躍り出る。

 

「貰いました!」

 

 振りかぶったブレードを躊躇なく振り下ろす。

 

「甘いわ」

 

 だが、向かってきた凶刃は竜鱗装盾(オート・シェルド)により防がれる。

 カンッ!と金属音が鳴り響き、態勢を崩したアルテリーゼの一瞬の隙をクルルシファーは逃さない。素早く凍息投射(フリージング・カノン)を構えると、ほぼゼロ距離と言っても過言ではない距離でその引き金を引く。

 

「お嬢ーー!?」

 

「ごめんなさいアルテリーゼ」

 

 ドォン!!と爆発と爆発音がアルテリーゼを襲う。

 

「くっ……!?」

 

 そのまま外壁へと飛ばされるアルテリーゼ。爆発による損傷だけでなく、凍息投射(フリージング・カノン)により《エクス・ワイアーム》の至る所が氷で凍らされている。節々も同じ様に凍っておりこのまま動かすのは困難とみた。

 

「……まさかここまでお嬢様が強くなられているとは……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いや、仮にそうでは無くても結果は同じだろうと判断する。

 開始直後に周りに弾丸を乱射した時は何をしているのかと思っていたが……

 

「全て貴女の掌の上ーーと言う事でしたか」

 

 誠に見事と言わざるを言えない。

 そうーー

 

「見事ですよお嬢様ーーーー()()()()()()()()()()()()()

 

 視線の先に見据えるは自分の主。本当ならば従者として一刻も早く止めさせるべきなのだが……

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その覚悟がアルテリーゼは何なのかもう判っていた。だから、()()()になったら本気で止めるつもりでいる。幸いにもクルルシファーは機竜適正値が群を抜いて高い、その事から()()()()()()()()()()()()()()とアルテリーゼは判断する。正直もうこの時点で止めないと既にまずい状況なのだが、それはクルルシファー本人も判っている事だ。

 

(おそらく()()()()()()()()()()()。暴走と言うよりその前……かしら?)

 

 殆ど変わりは無いのだが、一つ違いがあるとすれば制限時間。

 

(この方法は……確か……)

 

 機竜の限界値を一時的に飛躍させる方法があった筈ーーとアルテリーゼは思考させるが……

 

 

 

 ドォン!!

 

 

 

 爆発音がアルテリーゼの思考を邪魔する。

 

「今は……」

 

 兎に角()()()がいつ来てもいい様に機竜のエネルギーを回復させる。

 

 クルルシファーとバルゼリッドの決闘は佳境を迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで一対一かしらね。思う存分やれるわ」

 

 アルテリーゼを吹き飛ばした直後クルルシファーはバルゼリッドに向かいそう言い放った。

 バルゼリッド本人は未だに苛立ちを隠しきれていない。だが、決闘前の様に余裕で勝てるーーという驕りは既に心の中から消えていた。

 チラリと吹き飛ばされたアルテリーゼを一瞥するバルゼリッド。内心、神装を発動するのが早すぎたかと苦悶する。

 

「……ふぅ。いや参った、クルルシファー。貴様がここまで出来るとは正直思ってもいなかった。流石はユミル教国から単身留学しているだけの事はある」

 

 苦悶したからこそ、苛立ちを抑え逆に冷静になる事が出来た。別に勝負は決まったわけでは無い、まだまだこれからだ。

 

「お世辞は結構よ。これでようやく互角の勝負が出来るわ」

 

「世辞ではないよ、これは本心だクルルシファー」

 

 ジリッと少しずつ後ろへ退がるバルゼリッド。先も述べられた様にこちらの神装はクルルシファーの推測通りだ。触れないと千の魔術(アヴェスタ)の効果は発揮出来ない、ただそれはクルルシファーの神装も同じであった。

 

(一定距離内では無いと神装の効果が発揮出来ないのはお前も同じだ)

 

 アルテリーゼからクルルシファーの情報は既にバルゼリッドに行き渡っている。

 遠距離ではクルルシファーが確かに有利だろう、しかしーー

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 両肩の双頭の顎(デビルズグロウ)を最大威力で地面へと発射する。

 

 

 ドォン!!

 

 

 爆発で砂埃が一気に舞い上がった。

 ようは目くらまし。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としても、その先の数秒先は一定距離で相手を視認しないといけない。しかも、一定距離内に入ろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 砂埃が教会跡地を包む。

 クルルシファーは視界が悪い中砂埃を払おうとするが、あまりの量にどんどん舞い上がる一方だ。

 

「これは厄介ね」

 

 だが、出た言葉とは裏腹にクルルシファーはその場に()()()()()()()

 

 そして、ゆっくり下へと下がる。

 唯一の救いはバルゼリッドが一直線に向かってこなかった事。向かってくれば設置は出来なかった。

 まぁ、()()()()()()()()()()()()()からあまり意味はないのだが。

 わざわざ砂埃の動きでバレないように迂回しながら後ろを取るつもりなのだろう。

 

「でも残念ね。貴方は一つ勘違いをしている」

 

 下へと到達し、先程の位置と反対になる様に場所を取る。

 丁度両者とも反対の位置に来ただろうか。クルルシファーは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

時を穿つ氷の刃(クレンセドゥ・クレイブ・ヴェルン)

 

 パチンと指を鳴らすと、バルゼリッドの悲鳴と同時に氷の造形物がクルルシファーがいた場所に出来上がっていた。

 

「ごっ…がぁ……ッ!?ク、クルルシファー……貴、様……何を……ッ!?」

 

 身体の半分を氷漬けにされ憤怒の形相でクルルシファーを睨みつける。氷による寒さと痛みが同時にバルゼリッドを襲う。

 

「簡単な事よ……。私は貴方が砂埃を使い視界を妨げその隙に裏から一撃を叩き込む事を知ってたから」

 

「な、何を……」

 

「神装って()()をするものなのかしらね?」

 

 クルルシファーがここまで強くなったのは理由がある。

 

「調子が凄く良いわね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから」

 

 バルゼリッドはクルルシファーの発言に驚きを隠せないでいた。壁へと吹き飛ばされているアルテリーゼを疑ったが、聞いていた神装能力とあまりにもかけ離れている。それに、わざわざアルテリーゼが嘘を付く理由もない。

 

「さてとお喋りはこのくらいにしてさっさと終わらせーーゴフッ……!?」

 

「……?」

 

 突然の事でバルゼリッドは最初は訝しげに見ているだけだったが、ニヤリと口角を上げた。

 

「そうか……そういう事か……ハハハハハハハハハハ!クルルシファー、お前もう既に機竜が暴走していたのか!!」

 

 咳き込むクルルシファー。口元に手をやると掌に血がこべりつく。

 

「クッ……もう時間が……」

 

「道理で敵わんわけだ」

 

 バルゼリッドは氷漬けの下半身部分を力と機竜の熱で砕き、溶かしていく。

 

「聞いていた情報よりも明らかに違い過ぎる。こちらに来て力をつけたなら兎も角、ユミルから新王国まであまりにも時間が無い。装甲機竜を扱う者なら判るだろ、機竜使いの実力は一朝一夕で上達するものでは無いと。それが神装機竜ともなれば、な!」

 

 ドォン!!とバルゼリッドは《アジ・ダハーカ》の出力を上げ右手に戦斧(バルハード)を構え、真正面から突撃する。

 クルルシファーはそれを見越した上で、

 

「……発動」

 

 パキンと氷の刃がバルゼリッドに突き刺さった。

 クルルシファーが仕掛けていた罠の一つ。その場所を通過した瞬間に氷の刃が通過したものに突き刺さるよう仕掛けていたのだ。

 

「ちぃ、小賢しい!!」

 

 バルゼリッドは突き刺さった氷の刃を砕くと再びクルルシファーを狙うべく戦斧(バルハード)を構える。

 

「喰らえ!」

 

 振り下ろされる戦斧(バルハード)は《ファフニール》の特殊武装である竜鱗装盾(オート・シェルド)により防がれるが、勢いに押されそのまま壁へと吹き飛ばされた。

 

「クッ……はぁ、はぁ…」

 

 クルルシファーが急激に強くなったのは三つ程理由がある。

 

 一つ目は意図的に機竜を暴走させた事。

 これは所謂限界突破(オーバードライブ)と呼ばれる技法に似ており、制限機能(リミッター)を外し機竜の限界値を超える荒技。ユウの堕天(ジ・ファレン)と酷似しているが別物だ。

 これをクルルシファーは意図的に機竜を暴走させる事で同じ様な力を引き出そうと考えていた。

 着目したのはクルルシファー自身の機竜適正値の高さ。他の人に比べ、群を抜いてクルルシファーは機竜適正値が高いのだ。これなら機竜を暴走させても喰われるまで時間があると踏んでいた。

 そもそも、クルルシファーは限界突破(オーバードライブ)の存在を知らない。限界突破(オーバードライブ)は機竜に隠されているパスコードを解析し、解除する事で発動する事が出来る。参考にしたのはユウの堕天(ジ・ファレン)の方であった。

 これは謂わば考えからやり方の時点で既に破綻している、擬似的な限界突破(オーバードライブ)

 機竜を意図的に暴走させ、その力を逆に利用しようとした結果がこれであった。

 

 二つ目は天使との死闘。

 一撃一撃が死を招く類のものであった為、単純にバルゼリッドとアルテリーゼの攻撃がお遊びに見えてしまっていた。大部分は擬似的な限界突破(オーバードライブ)が占めているが、クルルシファーにとって天使との戦闘は常に死と隣り合わせ。

 幸いしたのが天使と戦ったのがつい先日だった、という事である。その時の感覚が未だに残っており、擬似的な限界突破(オーバードライブ)と合わせて感覚が常人を超え、神装を使わずとも二人の攻撃がある程度読めていた。

 

 

 そして三つ目は……

 

「はぁああああああ!!」

 

 ガキン!!と金属音が響く。

 クルルシファーは氷の刃を。バルゼリッドは戦斧(バルハード)を。

 両者一歩も譲らず鍔迫り合いを続ける。

 

「もう、降参しないかクルルシファー。お前じゃ俺に勝てない。現にお前は最初程の力じゃ無くなっている。このままだと機竜に喰われて死ぬぞ」

 

「貴方に降参するくらいなら《ファフニール》に喰われて死ぬ方がいいわ。現に私は命を懸けているのだから!!」

 

 

 

 覚悟の違い。

 

 

 

 バルゼリッドの胸部部分を蹴り上げ、凍息投射(フリージング・カノン)を構える。クルルシファーは躊躇いなく引き金を引いた。

 

「ちっ、まだこんな力があるのか」

 

 バルゼリッドは前に三重の障壁を展開させると、凍息投射(フリージング・カノン)の砲撃を受け止める。

 

「凍れ!!」

 

 パキン!とバルゼリッドの右腕の装甲部分が一部だが凍った。チッと舌打ちをし、後ろへ退がるバルゼリッドをクルルシファーは見逃さない。

 畳み掛けるようにその手に持つ氷の刃で斬撃を繰り出す。相手の呼吸をリズムを崩しながら前へ前へとバルゼリッドに反撃の隙を与えない。

 ジリジリと追い込まれながらも、クルルシファーの猛攻に耐え切るバルゼリッド。バルゼリッド自身、もう時間との勝負だと考えていた。こちらが攻撃するまでもなく()()()()()()()()()()()。少々不恰好だが、手を煩わせるだけ無駄だ思った。……思ったのだが。

 

「少しくらい俺の神装も見せてやろうクルルシファー」

 

 ガンッ!とファフニールの腕を掴む。

 

「しまっーー!?」

 

千の魔術(アヴェスタ)発動」

 

 ガクン!!と何かが吸われたのが判った。腕だけ掴まれ膝をつくクルルシファー。

 力が入らない。そう認識したのは膝をついてからだった。立ち上がろうにも立ち上がれない。機竜の出力を上げようと試みるが《ファフニール》は微動だにしない。

 

「それ、が……貴方の……」

 

「あぁ、そうだ。貴様が最初に言っていただろう?クルルシファー。お前の力を()()()()()()()()。と言っても全てでは無いがな」

 

 言い終わると同時に掴んでいた腕を振り抜きそのまま壁へと吹き飛ばす。

 

「かはっ!?」

 

 背中から叩きつけられたクルルシファーは口から酸素を吐き出す。エネルギーが無くなっている分機竜による障壁も竜鱗装盾による防御も機能しない。機竜を纏っているとはいえほぼほぼ生身で衝撃を受けているのと一緒だ。

 クルルシファーはその場で蹲る。

 

「……こんな物か。だが、俺を追い詰めたのは紛れも無い事実だ。そこは褒めてやってもいいぞクルルシファー、クハハハハッ、ハハハハハハ!!」

 

 笑い声を響かせながらクルルシファーに近づく。

 

「しかし、正直期待していた以上だクルルシファー。美だけでなく、力と聡明さも兼ね備えている、ククッ、今から存分に可愛がってやる。そうだな……()()()じゃ生きていけないような身体にまずは仕上げてやろう」

 

 クルルシファーの髪を掴み上げ顎を支える。

 

「本当に下衆ね、貴方は……ッ」

 

「地肌に這いつくばるお前に言われたくは無いな。機竜の力も殆ど無くなった状態で何が出来る?判るか?お前は敗けたんだ」

 

「………」

 

「物分かりが早くて助かるよクルルシファー。……さて、アルテリーゼ殿、そろそろ終わりをーー」

 

 と言いかけ所で、

 

「まだよ」

 

 クルルシファーが口を開く。

 

「ーーあぁ?ッ!?何だこれは!!?」

 

 バルゼリッドの足元、そこには青い幾何学模様が浮かび上がっていた。

 

「ーー弾けろ」

 

 ドォオオオオン!!!

 

 轟音。クルルシファーが紡いだ言葉と同時に地面から爆発が起きた。それはクルルシファーが、最初の戦闘で仕掛けていた罠。だが、これは出来れば使いたく無かった最終手段。クルルシファーは戦闘が始まった直後にありとあらゆる場所にライフルの弾丸を打ち込んでいた。殆どは時を穿つ氷の刃(クレンセドゥ・クレイブ・ヴェルン)の様な冷気を纏った弾丸だったが、一部違うのを混ぜていた、それは……

 

「単純……な、爆弾よ……少し改良を、加えた」

 

 《ファフニール》を纏わず、機攻殼剣(ソード・デバイス)をバルゼリッドに向ける。あの一瞬、《ファフニール》を盾にし、爆発を最小限防ぎきったクルルシファー。だが、決して無傷とは言えず、爆発の影響で舞い散った破片などで身体中傷だらけにしていた。

 対するバルゼリッドは油断していたこともあってか、爆発を真正面から喰らってしまい、近くの岩を背にし肩で呼吸をしていた。こちらも満身創痍の状態である。

 

「……これで、勝負…は、決着かし……ら?」

 

 チラリと横を見た時、アルテリーゼはまだ先程吹き飛ばした場所に居たのでこの勝負はこれで決着だろう。

 

「そうだな……これは、降参ーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーすると思ったかクルルシファー!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え………ッ!?」

 

 突然の怒号に怯むクルルシファー。すると、いきなり右腕に激痛が走る。気付いた時は既に地面を二、三転転がり回っていた。

 

「……な、に……が……?」

 

 霞む視界に映ったのはバルゼリッドでも、アルテリーゼでもない、第三者の機竜使いだった。

 

「遅いぞお前ら」

 

「いやー、出るタイミングが無くて、でもボスも無事でしたし」

 

 若い男性の声、気配から察するに一人二人では無い。少なくとも数十人は今、この場所に居た。

 

「な、んで……?」

 

 元々満身創痍だった身体に鞭を打って出た今回の決闘、クルルシファーはこれまではっきり言って気合いだけで戦っていたようなものだった。だが、それも、先程の一撃でプツリと途絶える。

 

「これは決闘だクルルシファー。だがな、お前は権力者の戦い方を知らない」

 

 バルゼリッドが機竜を解除し、クルルシファーへと近づく。

 

「試合に負けても、勝負で勝てばいいんだよっ!!」

 

 ドンッ!とバルゼリッドはクルルシファーが抑えている右腕を蹴る。

 

「ぐっ…ッ!?」

 

 機竜を纏っていない状態で機竜の一撃を喰らっているクルルシファー。手加減はされていたようだが、最悪折れている可能性もある。

 更に暴行を加えようとバルゼリッドが構えたところで、

 

「クロイツァー卿!!」

 

 ダンッ!!とアルテリーゼが間に入る。

 

「どういう事ですかこれは!!これは私達だけの決闘だった筈です!!後ろの方達は誰なんですか!?」

 

「これはこれはアルテリーゼ殿。後ろ者達は私の部下ですよ。ここの周りを見張らさせていただけなんですが、先程の爆発で私の事が心配になったのか、駆けつけてくれたようです。ハハハハハ」

 

 バルゼリッドの笑いに釣られ機竜を纏った他の男達も一緒に笑い出す。

 

「お嬢様を攻撃をしたのは後ろの方ですね?明らかなルール違反です」

 

「ルール?そんなものはありはしませんよ。王都内のトーナメントでもあるまいし」

 

「見損ないましたよクロイツァー卿」

 

「縁談を申し込んで来たのはそちらだアルテリーゼ殿。見損なうも何も無い」

 

 バルゼリッドは再び機竜を展開させるとアルテリーゼの腕を掴む。

 

「機竜のエネルギーを回復させていたようだが、俺の方が少し早かったようだ」

 

「どういう……ッ!?」

 

 アルテリーゼもクルルシファーと同じ様に膝をつく。回復させていたエネルギーを全てバルゼリッドに奪われた。

 バルゼリッドは部下がこちらに来たと同時に部下の一人の装甲機竜のエネルギーを千の魔術(アヴェスタ)を使って回復させていた。全快では無いものも、アルテリーゼより動けるくらいまでは至っている。

 エネルギーを奪い取ったアルテリーゼはもう用無しと言わんばかりに地面へと投げ捨てる。

 

「貴様も俺の女にしてやるアルテリーゼ。遺跡(ルイン)の『鍵』とエインフォルク家の執事。ふむ悪くない」

 

 ニヤニヤと口角を歪ませ歪な笑顔を見せる。

 

「おい、お前ら何も無くて退屈していただろう?そこに転がっている女自由にしていいぞ。だが、程々にしておけよ?俺も楽しみたいからな」

 

 バルゼリッドの言葉に男達は喜びの声を上げる。

 

 ビクッとクルルシファーは肩を震わせながらも、それをただ見ている事しか出来なかった。

 

「おっと、その前に俺の話が終わってからだ。それからは自由にやっていい」

 

 落胆の声が聞こえるが、それでも卑しい声である事には違いない。

 

「さてと、クルルシファー少し話をしようか」

 

 覗き込んで来るバルゼリッドにクルルシファーは顔を背けるが、無理やり顔を合わせられる。

 

「今の気分はどうだクルルシファー」

 

「………」

 

「確かに今の一撃は良かったぞ。もし仮に()()()()()()あれで決着がついていただろう。だが、認識が甘かったなクルルシファー。先程も言った通りお前は権力者の戦い方を知らない」

 

 睨みつける様な形相のクルルシファーに対してバルゼリッドは涼し気な顔で流す。

 

「要は勝てばいいんだよ。決闘だ何だと言いながらもこれは所謂()()()。そんなものなど思考の甘えた馬鹿共だけにやらせておけばいい。きっちりとした公式戦じゃ無いんだ。非公式な戦いにルールも関係あるまい」

 

「……それこそ甘えじゃない。貴方一人では何も出来ないからそこにゴロツキ紛いの人達がいるんでしょ?自分で言っている様なものだわ」

 

「何事にも対策はしておくべきだ。それが過剰であれ何であれ。何が起こるか判らないからな?」

 

「フフッ……小さい男。こんな小娘一人に何を怖がっているのかしら」

 

「小娘?あぁお前を()()()()()()()()()。唯の遺跡(ルイン)を開ける()()に過ぎん。まさか自分が人間だとでも思っていたか?滑稽だ、滑稽だよクルルシファー!!ハハハハハハハッ!!お前はその中でも美と聡明さを持っているだけだ。まぁ、俺から言わせてみれば女など皆男を喜ばせるだけの道具に過ぎんがな」

 

 蔑む視線と歪んだ口元。そこには本来のバルゼリッドの本性が見えていた。

 まだギリギリで耐えていたクルルシファーもバルゼリッドの本性に恐怖を感じる。それと同時にーー

 

 

 ーー道具。その言葉クルルシファーは身震いした。

 

 

 本来判りきっていた事なのだ。自分が遺跡(ルイン)の『鍵』だと言う事に。それに目を背け、ひたすら機竜使いとしての技能を高める日々。だが、高めれば高める程離れて行く、遠ざかって行く。正直自分を拾ってくれたエインフォルク家には感謝している。だからこそ絆を深めようと血を滲ませながらも努力をしてきたのに、何もかも無駄だった。そもそも深める絆が無い。所詮は大事の為の道具。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……私は……)

 

 

 

 

 

 ーー何の為に生まれてきたのだろう。

 

 

 

 

 

 この世界の人間とはかけ離れた存在。全く違う人種。同じ存在はーーいるかも知れないが自分を受け入れてくれるとは限らない。

 結局は自分の居場所など、何処にもーー。

 

 身体が冷えて行くのが判る。熱が篭らず、ただひたすら冷えて行く。目からも生気が消えて行く。

 誰も助けてはくれない。当たり前だ。自分がそれを拒んだのだから。差し伸べた手を払ったのは自分だ。それは心配を迷惑を掛けたくなかったからと。でも、それでも、自分勝手な思いは重々承知だ。

 

 

 誰か一人でもいい。

 

 

 

 

 

 

 ーー助けて。

 

 

 

 

 

 

「……助けて………ユウ君………」

 

 

 

 

 

 

 叶う筈も無い願い。消え入る様に呟いた言葉は風によって掻き消される。

 

「さて、話は終わりだ。お前ら待たせたな、祝勝会といこうじゃないか」

 

 ウォオオオオオ!!と男達の歓喜の雄叫びが聞こえる。

 バルゼリッドはそれを見ながら口元を歪めると、クルルシファーの髪を掴み、

 

「お前も後でたっぷりと調教してやる」

 

 卑しい囁きだがクルルシファーは何も答えない。冷めてしまった心にはもうどうでもいいと、何も感じていなかった。

 バルゼリッドはつまらなそうに、だがこれも良いかと思いつつ、男達の方へと近づいていく。

 

「おい、見回りしていたあいつらも呼ぼうぜ」

 

「えぇ〜めんどくせぇ。お前が竜声で呼べよ」

 

「仕方ねぇな。流石にあいつらだけ除け者にしちゃ後が怖いからな」

 

「だろ?もうどうせここには誰も来ないんだしな……。おい聞こえるかもう戻って来て良いぞ」

 

『………』

 

「あ?おい聞こえてーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 突如響き渡った絶叫。それに一斉にこの場にいる全員が固まった。

 事の発端は仲間の一部がまだ来ていないので竜声を使い声を掛けて呼ぼうとした事だった。あまりにも酷い声に生気を失いかけていたクルルシファーや、勝ち誇り酔いしれていたバルゼリッドですら肩をビクンと震わせる。

 

「おい!何があった!?」

 

 男は再び竜声を使い声を掛けるが、

 

『た、助けてくれええええッ!!い、命だけは……お願いしますお願いしますお願いしますーー』

 

「あ?おい!?一体何があった?返事をーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャァン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 返事をしろ!そう言い掛けた時だった。男達には見覚えのある装甲機竜がグシャグシャになって物凄い勢いで落ちて来た。それも一機だけでは無く、二機、三機と同じ様に落ちて来る。

 全部で六機。周りを見張らせていた男達の仲間だった。装甲機竜は唯の鉄屑になりかけ、乗っていた男達は生きているのが不思議なくらいな肉塊になっている者もいた。四肢はもぎ取られ、まさに虫の息状態。突然の事にクルルシファーやバルゼリッド達もただただ呆然とするしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーおい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然上から聞こえた男の声。男達には聞き覚えは無い。だが、バルゼリッドとクルルシファーには聞き覚えのある声だった。白い機竜を身に纏った一人の機竜使い。

 

「…………ユウ、くん……?」

 

 クルルシファーが掠れた声で声の主の名を呟く。

 

「俺も混ぜろよ。ゴミ屑共」

 

 ただひたすら冷たく、冷え切ったその声とその目は確実にバルゼリッド達を恐怖へと落とす。

 この時点で感じた、感じてしまった。目の前の白い機竜使いには絶対に勝てないと。本能が身体全体に警鐘を鳴らす。今すぐここから逃げろ、でないと殺される…と。だが、バルゼリッド達は動かない。一歩でも動いてみろ、確実にやられる。矛盾した思いが交錯し、バルゼリッド達はただ立ち尽くす事しか出来ない。

 それを傍目にユウはゆっくりと満月を背に《エスト》の翼を広げる。

 全く知らない者からしてみれば月下の夜空に現れた一体の白い天使にしか見えないだろう。

 しかし、バルゼリッド達にはーー

 

 

 

 

「……し、死神……」

 

 

 

 

 誰かが呟いた。

 そう。バルゼリッド達からしてみればユウは白い天使ではなくーー

 

「さぁ、タッグマッチとやらの続きと行こうか。安心しろ、お前ら全員で掛かってきていいから」

 

 口角を釣り上げると、右手に『魔王殺しの聖剣』を出現させる。

 

「じゃ、やろうか」

 

 狂気の笑みを浮かべる白い死神にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、月下の夜空に狂気の白が舞い降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
前話から長らくお待たせいたしました。
久々の投稿なので、誤字脱字おかしな所があるかもしれませんが、極力無いようにしています。もし、見つけたらご報告等お願いいたします。

さてと原作二巻も残り僅かになりました。
今回の話、と言うより二巻は原作から大いに乖離してしまった事により、クルルシファーの強化。バルゼリッドの私兵及び傭兵が元気な状態で登場しました。次回はどうなるかはわからないですが……。少なくとも私兵、傭兵達はルクスがリーシャに進言したから返り討ちに出来たのであって、今回の話ではそれが無かったので元気よく登場させました。まぁ、完全に自分のご都合主義ですね、はい。

後一話程度で原作二巻を仕上げてしまう予定なので次はいよいよ原作三巻に入っていきます。

やっと学園最強さんを出せます。いいですよね、セリス先輩。


さて、今回もここまで読んでいただきありがとうございます。
また次回もよろしくお願いします。それでは〜
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