黒と白と壊れた心   作:東流

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本当に遅くなって申し訳ございません。
この一年間慌ただしく、投稿するのが遅れてしまいました。
本当なら三月にでも投稿する予定だったのですが、書き直し、書き直しと何度も試行錯誤を重ね、やっと出来上がりました。

今回の話は非常に作成するのが難しく、クルルシファーの良さというのが損なわれないか正直不安で一杯の話です。

作者自身の力不足というのもありますが、楽しんで読んで頂けると幸いです。

それではどうぞ〜



狂気の白と蒼の竜姫

 月下の夜空に狂気の白が舞い降りた。

 翼を広げるその姿はまさに白い天使。だが、バルゼリッド達には自分達の首を刈り取る死神にしか見えない。ガタガタと震えながらもバルゼリッド達の誰かが叫んだ。そのまま機竜牙剣(ブレード)を片手にユウへと突っ込む。

 

 それが合図だった。

 

 次々と武器を取りユウへと突っ込む数十人の機竜使い達。ユウはそれらを一瞥すると、魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)を構える。

 

「クハッ♪」

 

 笑みを溢し最初に突っ込んで来た男の機竜牙剣(ブレード)を弾き飛ばすと、右腕を装甲機竜ごと斬り飛ばした。

 

「ギィヤァアアアアアアアア!!?」

 

 赤い鮮血が夜空に舞い、月の光で鮮血が一層煌びやかに見える。

 ユウは斬り飛ばした腕を更に仕掛けてくる男達に投げつけた。勢い良く放たれたソレは装甲機竜もそのまま纏っている為、人一人を容易に潰せる一つの鉄の弾丸となる。

 

「グギャッ!?」

 

 潰れた声の様なものが聞こえると観覧席辺りに砂埃をたてながら激突した。腕を斬り飛ばされた男はそのまま回し蹴りを喰らうと他の男達二、三人を巻き込みながら地面へ突き刺さる。

 それらを気にせず残った者達で一斉に掛かるが、ユウは男達の攻撃を避けながら逆に自分のその手に持つ魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)で応戦する。剣を受け止め装甲機竜ごと腕を斬り落とし、飛んで来るダガーを掴んでは投げ返す。銃弾の雨を潜り抜け、頭を掴み壁へとめり込ませる。

 翼を靡かせ、縦横無尽にこの廃墟の様な闘技場を駆け巡る。

 仲間の腕を斬り落とし、翼を捥ぎ取り、脚を潰し、頭を地面へと叩きつけられる姿を見れば誰だって恐怖するのは当然だ。

 バルゼリッドが金で雇っていた傭兵達は勿論、純粋な私兵達ですらこの場から一刻も早く逃げたかった。

 

 誰があんな化け物に勝てるのか?

 

 一回りも年下の少年が笑いながら剣を振るうのだ。畏怖を抱かない筈がない。

 機竜の障壁を容易く斬り捨てながら、頭を掴み地面へと叩きつけ、ゴミを捨てる様に投げ捨てる。

 黒い瞳は逃がさない。

 白い純白の機竜を纏っている少年はこの場の全員を逃がさないつもりでいた。

 

「ハハッ。どうしたこんなもんか?」

 

 血で赤く染まった魔王殺しの聖剣(デモン・スレイヤー)を肩に担ぎながらユウはバルゼリッド達を見据える。既に十数人がやられておりその殆どが瀕死の状態。未だ健在の機竜使い達は息を呑みながら後ろへゆっくり下がる。

 ユウはそれらをじっと見つめると、片手を前へと翳し、後ろの空間が歪む。歪みは二つ。その歪みから《エスト》の特殊武装である白天極砲(アルカトロス)を出現させた。

 突如として現れた二つの砲門にたじろぐバルゼリッド達。装甲機竜を軽く吹き飛ばせる様なソレはこの空間の中でも異彩を放つ。クルルシファーは遠目でその威力を知っている為、砲門がこちらに向いていなくても余波の威力を考えるとゾッとせずにはいられない。

 チラリとクルルシファーとアルテリーゼを視界に入れると白天極砲(アルカトロス)をその場に待機させたまま、ユウは瞬時にクルルシファーを救い出す。

 

「あっ……」

 

 刹那の瞬間だった。クルルシファーも自分がユウの腕の中にいた事に気付いたのはユウに救い出された時。クルルシファーをバルゼリッド達の逆方向の観覧席に座らせると、すぐさまアルテリーゼも男達から解放した。

 

 ––そして。

 

「吹き飛べ」

 

 一言呟く。

 

 ––––––ッ!!!

 

 白天極砲(アルカトロス)の砲門から轟音と同時に火を放つ。勢い良く放たれた閃光はバルゼリッド達が認識する前にバルゼリッド達を巻き込み、壁ごと吹き飛ばす。

 二つの砲門から放たれた閃光はこの廃墟の半分を吹き飛ばした。

 転がっていたバルゼリッドの私兵や傭兵達も同じ様に巻き込まれ、今現在確認できるのはユウ達三人のみ。

 白天極砲(アルカトロス)の余波に巻き込まれないようユウはクルルシファー達に障壁を張り事態を見守っている。

 ガラガラと壁が崩れ、地面を抉りながら突き進んだ閃光は止み、辺りは濃ゆい土埃が舞う。パラパラと小石や土埃が晴れる中一つの影が浮かび上がってきた。

 

「ぐっ……ぉ、おぉ………!?」

 

 バルゼリッドが三重の障壁を展開させながら苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げながら立っていた。

 

「へぇ……今のを防いだのか。手加減をしたつもりは無かったんだがな」

 

 バルゼリッドの手前に降り立つユウ。防いだと言ってもバルゼリッドの装甲機竜である《アジ・ダハーカ》は既に半壊。装甲機竜を維持する事すら困難な状態であるにも関わらず、未だに《アジ・ダハーカ》を纏っている姿はユウから見ても称賛に値するものだった。

 

 一方のバルゼリッドは目の前に立つユウ(バケモノ)の黒い瞳に畏怖を抱く。幾らクルルシファーとの戦闘でエネルギーを消耗していたとはいえ、仲間の一人とアルテリーゼの機竜からエネルギーを奪いある程度は動けるまで回復はしていた。

 なのに、動けなかった。

 機竜を直ぐに展開したのは咄嗟の英断だったと言えるだろう。先程の一撃、あんなのを生身の人間が喰らったら生きてる保証なんてありはしない。

 今のを防いだのは唯の幸運。ラッキーに過ぎない。今までは《アジ・ダハーカ》の能力もあってか多少エネルギーを使用したりしても、相手のエネルギーを奪う事で持続時間を伸ばし勝つ事は出来ていた。

 だが、たったの一撃でエネルギーを殆どを失った事は今まで一度も無い。万全の状態だったとしても結果は同じであっただろう。

 

「……ガハッ……ッ……貴様ァ……!?」

 

 今にも人を殺せそうな眼光がユウに突き刺さるが、そんな事、気にすらしない。

 

「分かっているのか貴様ァ!!俺は……!俺はこの国を救おうとしているのだぞ!!ある厄災から!!」

 

 バルゼリッドが言い放った言葉。それにクルルシファーは眉を顰める。何を言っているのか理解出来なかったが、ユウは違った。

 

「それを理解出来ないお前ではあるまい。––終焉神獣(ラグナレク)。女王の番犬であるお前がこれを知らぬ筈無いだろ?現に初めて会った時にお前は言った筈だ『ある幻神獣について』と。俺はソレと戦うつもりでいるんだぞ!!たかが『道具』ごときに肩入れをしよって……番犬風情が……身の程を弁えろぉ!!」

 

 道具という単語に肩を震わせたクルルシファーだったが、それよりも終焉神獣(ラグナレク)という単語が気になった。

 おそらく幻神獣(アビス)の事を言っているのだろうが、クルルシファー自身全く聞き覚えが無い。

 それもその筈、終焉神獣(ラグナレク)の存在をこの国で知っているのは現段階で女王と宰相、四大貴族とバルゼリッド、それにユウだけだった。

 

 確かにバルゼリッドが言っている事は強ち間違いでは無い。

 無いのだが––

 

「––それだけか?」

 

「あ––––?」

 

「言いたい事は……それだけか?」

 

 正直今のユウにとって『そんな事』などどうでも良かった。

 終焉神獣(ラグナレク)?厄災?この国の危機?––あぁ、それは確かに大変だ。前代未聞の危機が新王国に降り注ごうとしているのだろう。

 

 ––で?それが何だ?

 

「あんたのやろうとしている事は立派だと思う。終焉神獣(ラグナレク)という脅威に挑む為に力を欲する。理解出来るし当然だと思う」

 

 ––だかな、と一区切り。

 

「だからと言ってクルルシファーは関係無いだろ?聞いてりゃ道具だの何だの言いやがって……クルルシファーは道具じゃない、『人間』だ!!……血で汚れてる俺や金と権力で汚れてるあんたよりも立派な人間だ。この世界に存在する一人の女の子なんだよ。それをあんたの勝手な思想に巻き込みやがって……俺の大事なクラスメイトに、『恋人』に手を出したんだ。……わかってるよな?」

 

 

 

 ぽたり、と。

 涙が、出た。

 クルルシファーの頰を、一滴の涙が伝う。孤独で気高い、氷の少女。誰にも弱みを見せずに微笑んでいた彼女が、本当に望んでいたもの。

 たった一つの想いを胸に、孤独に戦い続け、ようやく––

 

「……ユウ、くん……ッ……」

 

 救われた。心の底から、そう思えた。

 

 口を覆い、溢れる涙は紅く染まった頰を更に濡らす。

 普段は決して見せる事は無いであろうその表情は、静かにユウに向けられていた。

 

 

 

 対照的にユウの言葉がバルゼリッドの表情を歪ませていく。フツフツと湧き上がる醜い感情。

 バルゼリッドは、抑える事が出来なかった。

 

「……あ、ア……アぁぁぁヴェェエエエスゥウウタぁぁあああ!!!!」

 

 獣の様な叫び声。紡ぐは自身の『神装』の名。残りのエネルギー全てを使い、ユウ目掛けて突進する。

 それに対してユウはただ立ち尽くすのみ。避けるそぶりを一切見せない。

 

「ユウくん!!」

 

 クルルシファーが叫ぶ。

 《アジ・ダハーカ》の神装『千の魔術(アヴェスタ)』。触れた相手のエネルギーを奪うという凶悪極まりない能力。それはユウも知っている筈なのだが、それでも動こうとしない。

 

 バルゼリッドの拳がユウに届く。

 

 ドゴォン!!と勢いでユウの足元に小さなクレーターが出来たが、バルゼリッドの拳をユウは右手で簡単に受け止める。

 そう、受け止めてしまった。

 

 ニヤリとバルゼリッドの口角が酷く歪む。三日月の如く歪まれた口からバルゼリッドの表情が伺える。ひどく歓喜している様子だった。

 

「は、ハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハッ!!触れたな、触れたなァ!!俺に、神装を発動している状態の俺に触れたなァ!!ハハハハハハハハハ!!馬鹿がぁ!!どうやら《アジ・ダハーカ》の神装の能力を知らないらしい。冥土の土産だ、教えてやるこれは––」

 

「知ってるよ」

 

「––あ?」

 

()()()()()()()()()()()

 

 クスッと溢れた笑み。バルゼリッドの脳は警鐘を鳴らしていたが、神装の能力が発動した事により、それは打ち消される。

 バッと飛び退き、感触を確かめるバルゼリッド。

 

「ふ、フハハ、ハハハハハハハハハハハハッ!!素晴らしい!!これ程の力が溢れてくるとは……成る程、想像以上だ!!これなら終焉神獣(ラグナレク)など容易く葬れるだろう。素晴らしいぞ、奥から込み上げてくるこの感じ、これが『力』か!!ハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

 半壊していた《アジ・ダハーカ》が《エスト》のエネルギーを奪った事によりみるみると回復していく。装甲が元に戻り、その形状は最初と比べて明らかに歪だった。

 

「どうして……なんで避けなかったの……」

 

 クルルシファーはユウが何故避けなかったのか分からなかった。そもそも《アジ・ダハーカ》の神装の能力はユウから聞いていたのだ。なのに、何故?

 クルルシファーの思考ではここまでが限界。ユウを見てみると、先程とは変わらない表情。問い質そうとユウに声を掛けようとするが、

 

「あんたの負けだよ。バルゼリッド」

 

 中央で高笑いを続けるバルゼリッド。

 その野太い声すら貫く様な静かで透明な声がひどくこの場に響いた。

 

「––––え?」

 

「––––何?」

 

 クルルシファーとバルゼリッドの声が重なる。

 ユウはもう興味が無くなった様に、バルゼリッドに背を向けクルルシファーの方へと向き直った。

 簡単に背を向けたユウに、バルゼリッドは無言で復元した双頭の顎(デビルズグロウ)の標準をユウに合わせる。

 

「死ね、ガキ」

 

 静かに呟き、双頭の顎(デビルズグロウ)を放つ––––

 

 

 

 

 

 

 

 ––––が、

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、(バケモノ)を取り込んだ代償、払ってもらうよ?』

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()が静かに終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 ○○○○○

 

 

 

「……ねぇ、彼は、どうしたの?」

 

 クルルシファーはバルゼリッドの()()()()に恐怖を覚えていた。

 バルゼリッドに背を向けてクルルシファーの所へ戻ったユウ。そのユウにクルルシファーは問い掛ける。

 最初ユウの背中に双頭の顎(デビルズグロウ)を向けられた時は、危ない!と叫びそうだったが、その直後バルゼリッドの様子がおかしくなった。悲鳴を上げ、所構わずハルバードを振り回してはまた悲鳴を上げる。

 一体どうしてしまったのか?

 静かに佇むユウはクルルシファーの方を向き、口を開く。

 

「自分で扱いきれない力は使ってはいけない。今のバルゼリッドはそういう状態だ」

 

「……どういう事?」

 

 不安そうに聞いてくるクルルシファーにユウは自虐的な笑みを溢すとバルゼリッドの方を見る。その顔に寂しさを感じるのはクルルシファーの気のせいか。

 ユウはふとクルルシファーの視線に気付くと、話しても良いかとクルルシファーの方に向き直る。

 

「《アジ・ダハーカ》の能力は俺が教えたよな?」

 

 ユウの問い掛けにクルルシファーは頷く。

 

「ええ。それのお陰で上手く立ち回れた所があったから感謝してるわ。まぁ……負けてしまったのだけれど」

 

「いや、それでも一人で良く頑張ったなクルルシファー」

 

「––––ッ!?」

 

 不意の笑顔に頰を紅く染めるクルルシファー。素早く顔を背け、モジモジと指を絡め遊ばせる。

 

「そ、それよりも続きを説明してくれないかしら?」

 

 今ユウの顔を直接見れる自信が無かった為、顔を背けたまま説明の続きを求めるクルルシファー。悪いとは思っていても、今顔を見れば、多分()()()()()()。そのくらいまでクルルシファーの気持ちは来ていた。

 

「ああ。《アジ・ダハーカ》の能力は一見無敵に見えて実はそうじゃない。確かに他人のエネルギーは奪える。神装も一時的なら奪った相手からその神装も使える破格の能力だ。だが、欠点も存在する」

 

「……欠点?」

 

「エネルギーを奪える限界がある事と、神装を奪えば奪う程一つ一つの神装の能力が格段に落ちる事。この二つだ」

 

 《アジ・ダハーカ》の神装の弱点は奪ったエネルギーの限界容量が存在する事。無限に奪えるなら《アジ・ダハーカ》に対抗出来る装甲機竜はこの世に存在しないだろう。使用者にもよるが限界容量が必ず存在する。それと、奪った神装の複数使用はエネルギーを使うだけでなく、神装の能力も精度も落としてしまう。

 相手の機竜のエネルギー、その気になれば神装さえ奪える《アジ・ダハーカ》の神装千の魔術(アヴェスタ)。弱い訳では無い。寧ろ強力な神装の一つであるが––––

 

「……言っている事は分かるわ。でも、あの人がそこまで神装を使ってたといえばちょっと疑問が残るわね。奪ったと言っても私のエネルギーは残り少ない時に奪われたし、その後も使ったエネルギーを回復するという意味で仲間の一人に使用していたみたいだけど……しかも、あの人は仮に私の神装を奪ってたとしてもその神装を使って無い。ユウ君も奪われた?としてもまだ余裕があったみたいだから……それに、今の話と彼の状況を考えるに……弱点を突いたというより、もっと異質な何か……」

 

 クルルシファーが疑問に感じたのはそこだった。

 話を聞いている限りだと弱点を上手く突いたとは言い切れない。

 それに、『扱いきれない力を使ってはいけない』という言葉。最初はバルゼリッドが《アジ・ダハーカ》を扱いきれていないという意味だと解釈していたがどうにも違う。

 クルルシファーから見てもバルゼリッドは《アジ・ダハーカ》を完璧に使いこなせていたと思っている。

 では、どういった意味で言ったのか?

 バルゼリッドがおかしくなったのはユウに触れた後すぐの事だ。

 だとしたら––

 

「ユウ君、一体貴方は……」

 

「……《アジ・ダハーカ》の神装能力を逆手に取った」

 

「……どういう?」

 

 先程とは打って変わった表情。その表情は何処までも暗く、哀愁を漂わせていた。

 

「神装機竜《エスト》は()()()()()使()()()()()()()()装甲機竜なんだ」

 

「………………………え?」

 

 今、なんと言った?彼は、ユウは()()使()()()()()()()()と言ったのか?

 訳が分からなかった。確かに装甲機竜––神装機竜なんかは乗り手を選ぶ。現に神装機竜に乗れるクルルシファーもリーシャの《ティアマト》に乗れるかと言われれば即答で否と答えるだろう。

 装甲機竜自体が人の身に余ると言えばそうかも知れないが、ユウが言っている事はこの事とは少し違う様な気がする。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 じゃあ、ユウは一体()を使っているのか。

 

「ユウ君、それは一体……どういう事なの?」

 

 クルルシファーが静かに問い掛けると、悲鳴を上げていたバルゼリッドが突然静かになった。プツンと切られた人形のようにその場へ膝をつくバルゼリッド。その眼差しからは生気が感じられず、生きているのかどうかも分からない。遠くでは聞き取れないが、何かブツブツと独り言を言っているようにも見えた。

 

「……彼は……」

 

「生きてはいる。生きてはな」

 

 先程とは打って変わったその静かな姿にクルルシファーは背筋を凍らせる。

 それと同時にすぐさま冷めていく自分がいた。

 今まで散々苦しめられた相手だ。もしかすると()()()()()()()()()()()()かもしれない。自分の人生は彼奴(バルゼリッド)の道具になっていたかもしれない。(クルルシファー)は救われなかったかもしれない。その様な事を考えると––––

 

 –––『ざまあみろ』

 

「––––ッ!?本当ッ……嫌で、都合がいい女ね」

 

 その様な事を考えた自分に嫌悪した。本当は喜びたい。この状況に感謝したい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 喜んでもいい筈だ。

 嬉しさを感じていい筈だ。

 ……でも、それでも()()()()()()()

 自分の身体を腕で抱き締めながら、爪を食い込ませる。

 

「––––本当にッ……」

 

『都合が良い女』

 

「––––ッ!?」

 

 ふと声がした。

 それは自分が言いかけた言葉だった。その言いかけた言葉が()()()()()()()()()()()

 後ろをゆっくりと振り返る。

 最初に目に入ったのは、黒…と白。無邪気そうで活発、元気が良さそうな可愛らしい少女がそこには立っていた。

 

「……あな、た…は?」

 

『初めましてだね〜鍵の管理者(エクスファー)さん。私の名前は––––だよ。よろしくね〜』

 

「……ッ……?」

 

『あれ?聞こえないのかな?あれー?』

 

 いや聞こえている。少女の声は聞こえているのだが、何故か少女の名前の所だけ聞き取れなかった。酷いノイズが走った様で聞き取れない。

 

『もしもし〜も〜しもし〜?』

 

「えっ、あっ、あぁどうも」

 

『聞こえてるんだったら返事してよねもう〜』

 

 プリプリと怒っている様だが、見た目が見た目だけに何とも愛くるしく見えてしまう。

 流石のクルルシファーも、もうここまで来ると驚きを通り越して悟りを開く寸前であった。

 驚かない驚かない、私は驚かない。この程度では何とも無い。

 

 頭を何回か振るとユウの方へ振り返り、

 

「ねぇ、ユウくん。この子––––」

 

 言いかけた時だった。

 ゾオッ!!!と背筋に寒気が走る。その原因は目の前にいるユウであった。

 

「ユウ、くん?」

 

 冷え切った、余りにも冷え切ったその瞳は静かに黒白の少女を写していた。

 怒りとも取れるその瞳に涼しげな表情で返す少女。

 二人の態度は対照的で、今にも殺し合いが始まりそうな空気を作り出す。

 だが、その空気を破ったのは意外にもユウの方であった。

 

「……どうだった?」

 

 ふと空気を弛緩させた一言。その目には冷え切った感情は一切無かった。

 

『うーん、一言で言えばキモかった?』

 

「なんだそりゃ」

 

『だって頭の中、金と権力と女だよ?典型的な小物で屑ヤロー。アレの中に少しでも私が入ってたと考えるだけで悪寒が止まらないよ』

 

 あーヤダヤダと身振り手振りで表す少女。

 その光景を見ていたクルルシファーは何が何だかと右往左往。悟りを開くにはまだ随分先である。

 

『でも、ユウの助けたこの子がこんな()()()()()()なんてね?これじゃあの王女様の方がよっぽど好感が持てるって言うか』

 

 少女の一言によりクルルシファーはビクンと身体を震わせる。

『都合のいい女』。クルルシファーが自分で言いかけたその言葉は再び自身を嫌悪感へと誘う。

 

『ねぇ?どんな気持ち?差し伸べられた手を振り払って、一人で勝てると思い込んで、無様に醜態を晒して、ねぇ?今どんな気持ち?』

 

「………」

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「………ッ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()って?寒いんだよ。お前』

 

「……違う」

 

『違わないだろ?思ったよな?()()()()()って』

 

「……わた、し…は……」

 

『アハハッ!!()()()()()()()()()––––』

 

()()

 

 ユウの一言により、黒白の少女の言葉が止まる。

 

「…ユウ、くん」

 

『何で止めるの?本当の事なんだから別に––––』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで親の仇でも見るような目で黒白の少女を睨む。その瞳にクルルシファーは恐怖を。黒白の少女は歓喜を孕んだ瞳で見つめ返す。

 

『ふふっ、ははははははっ!!分かったよ。もう虐めないよ。鍵の管理者(エクスファー)って初めて見たからつい昂ぶっちゃった』

 

 黒白の少女はごめんねー、とクルルシファーに謝った。

 

『けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………えっ?」

 

 驚いた様子で黒白の少女を見つめるクルルシファー。

 黒白の少女はじゃあね〜、と手を振りながら粒子状となり()()()()()

 

「……ッ!?消え……ッ!!?」

 

 文字通り粒子状となり消えていく黒白の少女。それはまるで装甲機竜が機攻殻剣に戻っていくような有様だった。

 黒白の少女が消え、慌ただしかった空気が霧散していく。

 残された三人、アルテリーゼは気絶しているが、クルルシファーは半ば展開について行けずにいた。消えた所を何度も見ているだけで呆然としている。

 

「なんか、悪かったな……色々」

 

「いや、えっと、なんて言うか……こちらこそ取り乱して、その……」

 

 お互いに謝り合う二人。目が合うとクスッと笑みが溢れる。

 

「アイツが言いたかったのは––––」

 

 ユウが黒白の少女が居た方を見ると、

 

 ––––クルルシファーは道具じゃなくて、一人の()()。女の子って事なんじゃないか?

 

 その言葉は、クルルシファーを救うには充分すぎるほどで、彼女の笑顔がそれを物語っていた。

 

 

 

 

 

 ○○○○○

 

 

 

 

 

 その後の出来事は驚く程スムーズに事が進んでいった。

『四大貴族』クロイツァー家の嫡男、バルゼリッド・クロイツァーの逮捕。

 公にはされていないが、当事者であるユウ達はその事を耳にしていた。と言うよりも、元々あの夜にユウがバルゼリッドを捕縛するのを女王は了承しており、決闘(?)が終わり次第直接女王の元へ足を運ぶよう伝えていたのだ。

 バルゼリッドは父や一族には内緒で野盗紛いの私兵を集め、遺跡(ルイン)の盗掘、対立者への過剰な圧力など、影の仕事をさせていたらしい。それがバルゼリッド個人によるものか、または一族の総意なのかは判らないが、少なくとも監獄行きは確定している。元々、真実味のある黒い噂が流れ出る家であった為、目を付けられていた。

 あの夜にバルゼリッドの私兵や金で雇われていた傭兵はほぼユウの手が下っているが、生き残った者達の証言によると黒で間違い無い。

 件の本人はというと、檻の中でブツブツと呟くだけの廃人になってしまっている。

 

 ––––やりすぎですよ。

 

 女王の言葉が耳に痛いが、遺跡(ルイン)調査が()()に終わっていればまだ違う結末になっていたとだけは言えた。遺跡(ルイン)調査の事も女王に話しており、一通りの話は昨晩に終えている。

 

 そう、やるべき事は終わった。終わったのだが–––

 

「此度の件、クロイツァー卿の謀を見破れなく勝手に婚姻の話を推し進め、お嬢様とユウ様には多大なご迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 

 エインフォルク家の執事であるアルテリーゼに呼ばれ、朝から高級感のあるレストランへやって来たユウとクルルシファー。護衛として私もついていくぞ!!とリーシャもやって来たが、空気を読んでくれたのか今は大人しく店の外で待機している。

 

「頭を上げて頂戴、アルテリーゼ。……その、何度も頭を下げられるのはちょっと……」

 

 クルルシファーですら困惑を隠しきれないのも無理はない。何故なら、クルルシファーは先日の決闘により身体中を傷付けており、絆創膏や包帯を巻いている。特に傷が酷かった右腕は包帯でガチガチに固められており、数日は不便を感じるだろう。それでも折れていなかったのは幸いした。

 ユウはユウで天使戦での傷が癒えた訳では無いので未だに至る所に包帯を巻いている。先日の決闘に出ていたのが不思議なくらいだ。こちらの完治には数週間ほど掛かると言われているが、ユウは()()()()()()()()()

 

 重傷とまではいかないが、明らかにこのレストランには不釣り合いな二人。アルテリーゼ自身も傷を負っているが、二人程ではない。

 先程から何度も頭を下げるアルテリーゼを見て二人は困惑するばかり。

 今回このレストランを貸切にしてもらっているので中には女店主を含め四人だけ。その女店主からの視線が痛かった。

 

「取り敢えず座りましょう。あちらの視線が痛いわ」

 

「はい、分かりました」

 

 席に着き、改めて話し合う三人。正直ユウとしては悪いが早く帰って寝たいと思っていた。近況報告なら昨日の今日なので、さほど情報なんて無いだろうしと思っていたのだが、

 

「雨宮ユウ様、今後ともお嬢様の事宜しくお願い致します」

 

「……は?」

 

「昨日の決闘、私はうっすらですがユウ様の闘いぶりを記憶しております。正直に申し上げまして私は恐怖を覚えました。しかしながら、その中に見える気遣いと配慮。強さだけでなく、クロイツァー卿の謀略を見破り、罠を打ったその叡智。更には新王国の女王にすら認められるその繋がり。我がエインフォルク家の当主も、婚約者として相応しい––––いや、それ以上だと判断するでしょう」

 

「……ちょっ!?––––は?」

 

 アルテリーゼの慎ましげな笑顔を見た瞬間、ユウは困惑する。

 チラリとクルルシファーに目をやるが、

 

「––––えっと、今からここで言うつもりだったのだけれど……」

 

 クルルシファーも想定外だったのか、慌てた様子を見せているが、何故か妙に嬉しさを漂わせている。

 

「お言葉ですが、アルテリーゼさん。実はこれは––––」

 

「ご安心下さい。ユウ様。ここから先は私のお仕事です。エインフォルク家当主には是非貴方を婚約者にと、全霊をもって推挙させて頂く次第です」

 

「あのー……」

 

「では、私はこれにて。料理のお会計は既に済ませてありますので、お二人でごゆっくりとうぞ。私からのせめてのお詫びです」

 

 そう言うと静かに立ち上がり、頭を下げるアルテリーゼ。

 

「それでは失礼致します。お嬢様––––またいずれ、お伺いします」

 

「ええ、あなたも元気でね」

 

 クルルシファーの穏やかな笑みにアルテリーゼもにこやかに笑みを浮かべる。

 ユウが止まる暇もなく、アルテリーゼは店を後にした。

 

「––––どうすんだよ。これ」

 

「フフッ––––。私は別にユウくんと正式に婚約を取り決めても構わないわよ」

 

 クルルシファーらしい笑みを浮かべるが、何処と無く声色が上ずっている様にも見える。

 

「……冗談だろ?流石にそれは––––」

 

 と言いかけた所で「ユウくん」と声が掛かった。

 

「何––––……っ!!?!?」

 

 唇を塞がれていた。

 いきなりの出来事でパニックになるユウ。クルルシファーは逆に慌てた様子はなく、そっと唇を離すと、

 

「––––ダメ、かしら?」

 

 人差し指を唇に当て上目遣いで言葉を吐く。その光景にクラッと来るのは男としてしょうがない。

 これが、計算されているのか、または素で狙ったものなのかは判らないが、兎に角、()()()()()

 

「こ、これは……」

 

 頭が回らない為何を言っていいのか判らないが、クルルシファーは、

 

「正式に婚約を取り決めるなら、この続きだって––––」

 

 と、爆弾発言。

 

 もう、頭がパニックになる中、バンッ!!と扉が勢いよく開かれた。

 

「コラァ!!クルルシファー!?お前何をして––––!?」

 

 外から様子を見ていたリーシャが店内に乱入し、慌てて割り込んでくる。

 

「ふぅ。リーズシャルテさん、病み上がりなのよ?もうちょっと静かな声でお願いできるかしら?」

 

「あ、あぁ。それは済まなかった––––じゃなくて!!」

 

 リーシャも一瞬謝りつつも、そうじゃないと話を戻す。

 

「婚約の件、お願いね。ユウくん」

 

 クルルシファーがそう話をユウに向けると、リーシャの目がグワッと光った。

 

「ちょっ!?婚約!?どう言うことだユウ!!」

 

 慌ててこちらに問い詰めてくるリーシャ。そんなリーシャを適当にあしらいつつ、

 

「もう勘弁してくれ……」

 

 うな垂れる様に頭を下げる。

 リーシャはユウも病み上がりという事をすっかり忘れているのか、膝に乗っかりグワングワンと身体を揺らす。

 

 

 

 

 

 

 

 城塞都市に慌ただしい日常が戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減降りろよ」

 

ビシッ!

 

「あいたぁ!!?」

 

 

 




長かった。
今回は特に長かった、そして頑張った、はい。

決闘を終えてのクルルシファーの展開ですが、これで良かったのかどうかと正直悩むばかりです。
もうちょっと上手く書けなかったのか?と自問自答ばかり。文才が本当に欲しい。
主人公の展開としてはもう少し上手く立ち回れたかな〜と、書いて思いました。

書いている途中に半分以上が消え、データもとっていなかったので、絶望しかありませんでした。スランプに陥り、正直リハビリと思って書いていました。


はい、という事で、原作二巻も終わり、次からは三巻に入っていきます。

先輩が出てきます。ちょー久しぶりに書きます。本当に久しぶりです。

まだまだ不定期更新となりますが、これからもよろしくお願いします。

誤字脱字などがありましたらご連絡頂けると幸いです。

それではまた〜
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