黒と白と壊れた心   作:東流

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王立士官学園と蒼の少女

「………」

 

「………」

 

覆い被さったまま約5秒。ユウはこの出来事、状況について頭の中で考えていた。

 

「(どうしてこうなったんだ?)」

 

チラリと横を見るが銀髪の少年はゆっくり顔を振る。間違って前方にいる少女達の裸体を見ないように下を向けるが…。

 

「…………フッ」

 

服を着たまま、お湯に浸かっているユウの下で、少女が笑った。

 

鮮やかな金髪に、勝ち気な赤い瞳が印象的な少女。か細い体躯とは裏腹に、ある種の老成した笑みがその口元に浮かんでいる。色白の滑らかな肌は、入浴のせいで上気し、頬まで赤く染まっていた。

 

まぁ、簡単に言えば可愛い。この一言に尽きる。

 

「……おい変態。死ぬ前に何か言うことはないか?」

 

引きつった愛らしい顔から物騒な言葉が飛んでくる。

まぁ怒るのも無理はないと思う。こういう状況なのだから…。

 

『…後で、ゆっくりお話…しましょうか』

 

『…賛成です。レスティア』

 

『ちょっと待て、どういうことだよ…それ…』

 

エストとレスティアから何やら不振な気配を感じ、頭に直接二人の声が聞こえてくる。

今はエストやレスティアは放っといて、この状況をどうにかしないといけない。

取り合えず謝ろうと思った。

 

「……えっと…ごめんなさい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…なら、さっさと上から降りろこの痴れ者があああぁぁぁぁぁぁぁッ!!後、なんで謝り方が疑問系なんだあああぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怒声を上げてきた。

 

「本当すいませんでしたああぁぁぁッ!!」

 

「ご、ごめんなさぁぁぁい!!」

 

少女が怒声を上げたと同時に全力で謝り、銀髪の少年と一緒に大浴場の女湯を駆ける。

 

「「「「キャアアアァァァアッッ!」」」」

 

それと同時にあらゆる方向から少女達の悲鳴が聞こえ、風呂桶、椅子、石鹸など様々な物を投げつけてきた。

ユウと銀髪の少年は洗い場の方へ撤退する。

 

ユウはどうしたものかと考え、銀髪の少年は先程の荷物があるか確認していた。

 

すると…。

 

その荷物から女物の下着がひらひらと出てきた。

 

「……ちょっと待て……」

 

「えっ?あっ…いや、これは違う。この持ち主はまた別の人で…」

 

また違う誤解をされるぞ…これは…。

 

「キャアアァァッ!!下着ドロ!!覗きの上に下着ドロだわっ!!」

 

「衛兵を、誰か衛兵を早く呼んでッ!!」

 

「剣を持ってきて、今なら正当防衛が成立するわ!!」

 

覗きの上に下着ドロの烙印まで押されてしまった。

なんとまぁはた迷惑な話だ。悪気はないんだろうけど…。

 

二人は浴場を抜け出し、脱衣場を抜けて走り出した。

 

「取り合えずここは二手に別れよう。そっちのほうが逃げやすい」

 

「わ、わかった…」

 

そう言うと銀髪の少年と別れるユウ。後ろから「待てえええぇぇぇッッ!!」とか「逃がすなああぁぁぁッ!!」とか「殺せええぇぇぇッ!!」など物騒な言葉まで聞こえる始末。

幸いユウは身体能力は高い方なので、後ろの少女達との差を広げていく。

 

見えているのは、廊下に敷かれた高級感のある赤絨毯。

パーティー会場のように広い食堂、遊戯室、無数の客室。

所々置いてある、上品な絵画と調度品。

 

最初は高級な宿に落ちたのかと考えていたが、どうも違う気がする。それに…ここが何処だか、もう分かってしまった様な気がしないでも無い。

すると前方から回り込んでいたのか、少女達がやって来た。

 

「見つけたッ!!槍を持ってきて、うちの子の胸を揉んだ痴漢はこっちよ!!急いで!!」

 

揉んでねぇよ!!

そう叫びたいのは山々だが、女湯に突撃したのも事実。変に騒ぎが大きくなっても可笑しくはない。

 

「…クソッ!!こうなったらヤケだ。強引にでも突破してやる!!」

 

一旦、騒ぎが落ち着くまで、逃げ切ってしまおう。そのくらいの自信ならある。

そう思いつつ、この大きな建物のエントランスまで辿り着いたとき、

 

「……うん?」

 

ユウは立ち止まり、再びその目を疑った。

自分が立つ吹き抜けの階段下、蝋燭のシャンデリアの飾られた、広い空間。

そこに三人の、帯剣した少女達が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「王立士官学園校則、第十八条」

 

 

 

 

 

 

 

 

静かな声が、その三人のひとり、凛々しい顔の蒼髪の少女から発せられる。

容姿も雰囲気も全く違う、三人の少女。

ただ、その身に纏った制服と剣帯だけが共通していた。

 

「学園の内外を問わず、上官の許可なく機攻殻剣を抜くことを禁ずる。ただし、現行犯の確認、あるいは自身に危険が及ぶ場合のみ、抜剣と装甲機竜の使用を許可する」

 

広いエントランスによく通る声で、蒼髪の少女は微笑む。

それを聞いたユウはやはりと思った。

 

 

 

 

 

―ここは王立士官学園だ。

 

 

 

 

 

「ふうむ。変態にしては今まで一番いい顔つきをしているな…。……普通にカッコいいな……。私の見合い候補に加えていいくらいだ」

 

「さっきから何言ってんだ?」

 

ぶつぶつ呟くリーダー格らしい蒼髪の少女に、ユウは問いかける。

 

「だが、残念だったな。この女子寮へ忍び込んで、私達、三和音―トライアドに見つかり、逃げおおせた変態はいないのだ!」

 

女子寮…女子寮に突っ込んだのね、俺たち…。

 

「やるぞ。ティルファー!ノクト!」

 

「おっけー!」

 

「Yes,my Lord.ですが、一応気をつけてください。シャリス」

 

シャリスと呼ばれた蒼髪の少女と、その両脇に佇んでいた二人の少女。

その三人が、一斉に剣の鞘を払った。

 

「…ヤバッ…」

 

「―来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》!」

 

シャリスが振るった剣先の空間が揺らめき、歪む。そこに高速で集まるのは光の粒。

無数の淡い光がうねりを帯びて、一つの実体を形成する。

 

現れたのは、人を二回りほど大きくしたような、機械の竜。鋭角な金属が連結され、無数に折り重なった流線型のフォルム。濡れているような光沢は、使い込まれた名剣のように、禍々しくも美しい。

 

「接続・開始」

 

蒼い流線型の機械が内側から開き、無数の部品へと展開される。シャリスの両腕、両脚、胴、頭へと部品が向かい、高速で連結―装着される。

機竜は淀みのない動作で、瞬時にその身を覆う装甲へと化した。

 

「おやおや?ここが何処かも分からず忍び込んだのかい?だが、すっとぼけても無駄だよ、変質者くん。諦めてそこに土下座したまえ。今なら鞭打ち十発ぐらいで済ませよう」

 

「うんうん。覗きは犯罪だよー」

 

「Yes,my Lord.どちらにしろ、処罰します」

 

リーダー格らしいシャリスの言葉に、軽い調子の少女ティルファーと冷静な雰囲気の少女、ノクトが同意する。

その二人もそれぞれ、別種の機竜を身に纏い、同様に戦闘の構えをとった。

 

「…いや…ここが何処かは、もう分かってるんだけどね…」

 

「そうか…では、軽ーく気を失って貰うよ」

 

ワイバーンを身に纏ったシャリスが、床を蹴って、飛翔した。脚部と背中の両翼の装甲から、光を帯びた風を噴射。一階のエントランスの端から一足飛びで、二階の吹き抜けにいたユウを襲う。

金属の装甲で覆われた腕を大きく振りかぶり、いきなり手刀を叩きつけてきた。

 

「…あぶな…、生身の人間に使うような装備じゃないだろ?」

 

紙一重で回避したが、後ろにあった木製の手すりがバラバラに砕け散った。

 

「しまったっ!スピードを抑えすぎたか?」

 

「んな訳あるか!!」

 

そう言いつつ、ユウは階段を滑り降りる。

そこに、今まで入り口にいた陸戦用の装甲機竜。翡翠色の―《ワイアーム》を装着したティルファーが、即座に行く手を阻んだ。

 

「ひゃっふぅぅう。あーあー、てすてす。そこの変態さんに告ぐ。今なら罪は軽いよー」

 

「軽くなろうが、多分殺されるので脚下」

 

ユウは手すりを使い下の階へと降りる。

が、そこにもう一人の少女。ノクトが回り込んでいた。

 

「…えいっ」

 

ノクトが乗っているオレンジ色の装甲機竜は、《ドレイク》と呼ばれる汎用機竜だ。

飛翔型のワイバーン。陸戦型のワイアームに対し、特装型というものに分類されるタイプだ。

索敵、迷彩、補助、修復などの特殊機能を備えた機竜であり、基本性能はやや低めなものの、特定状況下での強さは、他の二種を凌駕する。

 

だが、基本性能が二つと比べて低いと言っても生身の人間が喰らえるようなパンチではない。

 

「大丈夫です、安心してください。加減はしています。…多分死なないだろうなーというくらいです」

 

「それ、普通にヤバイからな?」

 

彼女のパンチを避けきれず、仕方なくユウは自分の機攻殻剣を抜剣する。白の機攻殻剣。エストで彼女のパンチを防いだのだ。

 

「…えっ?」

 

「なっ?」

 

「嘘っ!!」

 

少女達は驚きの顔を隠しきれずにいた。何故なら目の前の少年が機攻殻剣を握っていたからだ。しかも、ただの機攻殻剣ではない。シャリス達が持っている汎用機竜の機攻殻剣ではなく…

 

 

 

 

神装機竜の機攻殻剣だったからだ。

 

 

 

 

別に男が機攻殻剣を持つ事に驚きはない。ただ、女性の方が上手く扱えるだけで、男性も勿論、装甲機竜は扱える。だがそれは汎用機竜での話だ。

 

男が神装機竜の機攻殻剣持つなんて聞いたことがない。

 

軍人や貴族の有権者ならまだ分かるが、目の前の少年はそうは見えない。

 

「(…クッ…ここで神装機竜を纏われたら私達に勝ち目が無い…)」

 

シャリスは嫌な汗を流しながらユウを見る。だが、シャリスから見て、目の前の少年は全く神装機竜を使う気配が無い。何故だと思うが、次の行動で機攻殻剣を抜剣した理由が分かった。

 

ユウは神装機竜を纏わず、そのまま機攻殻剣で三和音がいい感じに壊している二階の床を切り裂いた。

彼女達のおかげで機攻殻剣でも簡単に壊せるような床になっていたのだ。

 

「しまった!」

 

ユウは三人の少女達が呆然としている間に一階の玄関まで辿り着く。多分追ってくると思うが、ユウの脚力ならすぐにこの場から逃げきることが可能だ。

 

そのままユウは女子寮を後にした。

 

「いいのー?このまま行かせてー」

 

「Yes,my Lord.私ならすぐに追い付きますが…」

 

「…大丈夫だ。アイツが正門の所にいる。もし装甲機竜で逃げようとするなら最初からそうしていた筈だ。それに…」

 

「…?」

 

「(白の機攻殻剣…それと、チラリと見えた黒の機攻殻剣。あの黒の機攻殻剣は間違いなく神装機竜だ。彼は二つの神装機竜を持っているのか?あり得ないぞ…。本当に何者なんだ?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

正門まで走るがまだ追ってくる気配は無い。銀髪の少年は大丈夫だろうか、と考えながら走る。

すると、急に空気が変った。

 

目の前の正門からだ。誰も居ないと思っていたのだが…どうやら先を越されたらしい。

 

「あら…今回の覗き魔は随分なイケメンさんね」

 

「…そりゃどうも」

 

目の前に現れた少女は少し微笑むと、すぐに顔つきが変わる。背景の星光で少女のシルエットが露になる。

すらりとした細身の身体と、端正な顔立ちに、冷たい瞳。まるで完璧な美術品のように、少女は緊張も緩みも見せずユウの前に立っている。

先の大浴場で下になった金髪赤眼の少女が可愛いと表せるなら、目の前の蒼髪蒼眼の少女は綺麗と言い表せる。

 

「…悪いけど、このまま覗き魔を逃がすわけにはいかないわ。大人しく捕まってくれないかしら?」

 

「…まぁ…こっちが全面的に悪いんだけど…。色々事情があるんでね…」

 

「そう。残念ね…。銀髪の彼は大丈夫なのかしら?」

 

そう言うと蒼髪の少女は左の木へと目を向ける。するとそこには先程の少年が気を失っているのか木に背中を預けて座り込んでいた。

彼の方が早く来たらしいが、目の前の少女にやられたらしい。

後ろからも「待てええぇぇぇ!!」とか「下着ドロ!!」とか「痴漢よ!!」とか「絶対殺すううぅぅう!!」とか最後の方は物騒な言葉まで聞こえる始末。もう後ろには戻れない。

 

「…貴方が『本気』で逃げようとすれば軽く逃げきれる筈よ?」

 

ユウの腰に下がっている二つの機攻殻剣を見ながら、目の前の少女は口を開く。

 

「…はぁ…そうしたいのは山々なんだけど…、そこの少年も放っておけないし、なによりここには用があるからな…」

 

そう言うとユウは両手を上げて降参のポーズをとる。後ろの声は更に大きくなり、装甲機竜の音まで聞こえてくる。

 

「…そう。懸命な判断ね」

 

蒼髪の少女はそれだけ言うとこの場から去っていった。周りには武器を持った少女達と三和音と言っていた装甲機竜に乗っている少女達。それと、

 

「………(ニッコリ)」

 

一際異彩を放つ金髪赤眼の少女。

 

ユウはため息を漏らしながら少女達のお縄につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウ達の長い一日が終わり、新たに始まろうとしていた。

 

 

 

 

 




誤字脱字、おかしいところがあったらご指摘お願いします。
感想などお待ちしております。

それでは、また読んでくれたら嬉しいです。_(..)_
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