「それでは新王国第一王女リーズシャルテ対、雨宮ユウの機竜対抗試合を執り行う!」
審判役の教官の声と同時に、舞台が歓声と熱気に包まれる。
学園敷地内にある、装甲機竜の演習場。周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。その中央で、リーズシャルテとユウは対峙していた。
中心のリングは低く、外に行くほど高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿させる。観客席には強靭な格子が張られ、更に生徒の機竜使い数名が、常に障壁を展開して守っており、巻き添えの心配はない。
ユウが周囲を見渡すと、相当な数の女子生徒達、そして教官までもが、この私闘ともいうべき決闘を見物しに来ているようだ。
大勢の学園関係者に見られて、ユウはちょっと居心地が悪い気分になる。
あの後、機巧殻剣―エストとレスティアを返してもらい、頭の中で散々言われた。
『…どういう状況かしら、これは?』
『ユウ、何をしたんですか?』
『いや…この事は後で話すから…』
それだけじゃおさまらず、昨日の風呂場での出来事に散々文句を言われた。話が長くなりそうだったので、王都にあるデザート店の最高級パフェで手を打った。
「…それにしても集まり過ぎだろ…」
相当暇なのか?そう思ってしまうくらいに人が集まっていた。
「理由を知りたいか?雨宮ユウ。私が何故、お前に戦いを挑んだのか」
ユウの目の前で、リーズシャルテが不適に笑う。まだ、お互い装甲機竜は纏っていない。
装甲機竜を纏うのに適した、『衣装』という身体にフィットする服を身につけ、リングの上に佇んでいた。
試合準備が整った後、機攻殻剣を抜き、互いに装甲機竜を接続したと審判が確認すると同時に、決闘の合図が為される。
「―俺があんたの母親のお気に入りの騎士…だからか?」
「それは、私に勝ったら教えてやる」
ユウは気になっていた。本当にただ、それだけなのか?確かにリーズシャルテはユウに対して、好戦的な感じではあるが…。
だが、あのとき風呂場に落ちて彼女を組み敷いた直後、ユウに向けていた視線は―ただの羞恥だけじゃなかった。
「―1つ、確認していいか?」
「何だ?怖じ気ついたのか?今更命乞いは見苦しいぞ」
「…命乞いって…殺すきかよ!?……じゃなくて、本当にその条件でいいんだよな…?だったら俺が勝たせてもらうぞ」
「………」
一瞬の沈黙。
不意に、リーズシャルテの気配が変わる。
「ふっ。私の気のせいかな?」
ユウの問いかけに、リーズシャルテは蜂蜜色の前髪をかき上げ、微笑む。
「この期に及んで、寝言が聞こえたような気がするのだが」
「寝言じゃねぇよ」
「そうか。なら、いいぞ?」
射貫くような視線に、ユウは久しぶりの高揚感を
覚える。
流石、女王の娘なだけはあるな。ユウは口を綻ばせ笑顔を見せる。
今まで余裕の顔を見せていたリーズシャルテも、ユウの態度に少し頭に来たようだった。
赤い機攻殻剣を抜き放ち、柄にあるボタンを押しながら、装甲機竜を展開させる。
キィン。と、リーズシャルテの目の前に光の粒子が集まり、赤の機竜が姿を表す。
「―新王国の王族専用機。神装機竜《ティアマト》。この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ」
リーズシャルテは上からユウを見下ろし、不適に微笑む。
「ユウ選手、接続の準備を」
審判役の教官がユウを促した。
だが、
「安心したよ」
「……何?」
聞こえてきたのは安堵をもたらす声。そのユウの言葉にリーズシャルテは怒りを覚えた。
安心だと?何をバカな事を、と。
「お姫様が汎用機竜だったら、どうしようかと思ってたけど……神装機竜相手だったらちょっと本気出しても問題ないよな?」
ユウも不適に笑い返し、黒い機攻殻剣を抜き放つ。観客席からあまり見えないが、その黒い機攻殻剣は神装機竜だと思えるくらいの存在感を放っていた。
「この前の続きだ。暴れていいぞ、レスティア」
その言葉に機攻殻剣は反応し、光がユウを包み込む。
そして、現れたのは…。
「………羽?」
観客席に座っていた女子生徒の誰かが、呟いた。
舞台に舞うのは黒い羽。そのフォルムが少しずつ露になる。
その姿は見るもの全てを圧倒し、恐怖を覚えさせる。竜というより、天使だ。
地上に落とされた、真っ黒い天使。
「―これが、俺の神装機竜。《レスティア》。さぁ…始めようぜ」
◇◇◇◇◇◇
「神装機竜!?嘘でしょ、男が扱えるものなの?」
「で、でも、リーズシャルテ様が負けるとは思えないし」
「見かけ倒しよ…きっと…」
観客席がざわつき始める。何せ、神装機竜を纏う男を見るのは始めてなもので、同じ観客席に座っていた、ルクス、シャリス、ノクト、ティルファー、レリィ、そしてルクスの妹であるアイリも驚きを隠せずにいた。
「…やはり、神装機竜だったか」
最初に口を出したのはシャリス。彼女はユウの持っている機攻殻剣は神装機竜だと見抜いていた。だが、ここまでとは思わず、つい後ろに引いてしまった。
「……遠くからなのに、随分近くにいる感じがする。圧倒的だ…」
ルクスもユウの神装機竜を見て驚いていた。リーズシャルテのティアマトを見たときも驚いていたが、今回はそれの比ではない。
「どう見る…アイリちゃん」
レリィが隣に座っていた、ルクスの妹であるアイリに話しかけた。アイリはこの学園に在籍しており、ルクスと顔を合わせたのはついさっきだった。ルクスもルクスで妹がこの学園にいたことはびっくりしていた。
「……分かりません。リーズシャルテさんのティアマトは大体分かるのですが、『アレ』については…全く…」
アイリは文官を希望しているので、装甲機竜の事は大体分かっているつもりだが、『アレ』については分からないことが多すぎる。同じ神装機竜なら少しなら分かるつもりだが、『アレ』に至っては、何かが違う気がする。
神装機竜と言えば神装機竜なのだろうけど、根本的に違う用な気がする。
「…ですが、今回の勝負で…少しは分かると思います」
アイリがそう言った後、戦いは始まった。
◇◇◇◇◇◇
戦いが始まる数分前。
「…まさか、お前も神装機竜を使えるとは…思ってもいなかったぞ…」
リーズシャルテは純粋に驚いていた。目の前にいるのは黒い竜…もとい、黒い天使。
一瞬頭に過った言葉。
―勝てるのか?―
いやいや、とリーズシャルテは頭を振る。自分から決闘を行うと言ったのだ。後には引き下がれない。
しかし、リーズシャルテもだんだんと口許が綻んできた。
「(楽しい、と思っているのか…今の状況が?)」
リーズシャルテは決闘で勝とうが負けようが、今回の騒動は見逃すつもりでいた。
ただ、母のお気に入りの騎士だと聞いたときは、頭が真っ白になった。自分と同じ歳…しかもこの国の女王からの信頼がとても高い…。もしかしたら、娘の私よりも高いのかもしれない…、そう思うと、心の底から沸き上がってくるようなものがあった。
嫉妬。
多分、沸き上がってくる感情は嫉妬だろうとリーズシャルテ本人も思っていた。
だったら、懲らしめてやりたい、と。リーズシャルテは思った。それと、母が信頼している男の実力はどんなものなのか知りたかった。
だが、今は違う。
確かに実力がどんなものなのか知りたいが、今は純粋に、目の前にいる人物との決闘を楽しみたかった。
「(…雨宮、ユウ……か)」
フッ、とリーズシャルテは微笑む。神装機竜を扱えるので、凄腕の機竜使いには間違いない。
―面白い男だ―
脳裏にはまた違う言葉が過る。
目の前の人物を見据え、高らかにリーズシャルテは言い放つ。
「…じゃあ、決闘といこうか。私を楽しませてみせろ、雨宮ユウ!」
直後、黒と朱は舞台の上で激突した。
すいません、本当は全部書きたかったのですが、前編と後編に分けました…。
戦いを期待した方申し訳ないです。多分いないと思うんですけど…笑
次はしっかりバトルを書きます。
誤字脱字、おかしいところがあったらご指摘お願いします_(..)_
また読んでくれたら嬉しいです。それでは♪