機竜使いが敵として警戒に値するのは、同じ機竜使いだけではない。いや、それよりもよほど気をつけなくてはならない、人の天敵が今の世界にはいた。
幻神獣《アビス》。
十余年前、機竜が発見された遺跡から時折現れるようになった、謎の幻獣。その種類は無数にあり、見つけた人間や動物を見境なく襲うと言われている。獣と違うのは、その尋常ならざる強さと不可解な生態、そして特殊能力だ。故にほとんどの大国では、遺跡の近くや砦や関所、城塞都市を厳重にも置き、機竜使いを配備して不測の事態に備えている。
この城塞都市も王都と遺跡の間にある、防衛拠点も兼ねた都市なのだ。
だが――。
「きゃあああぁっ!?」
「な、何でこんなところにいきなり幻神獣が――!」
「あれって……、本に載ってたガーゴイル型!?どうして警報が鳴ってないのよ!?」
「落ち着け!下級階層の生徒は機攻殻剣を抜くな!慌てずまとまって、校舎へ待避しろ!」
観客席の女生徒たちから、次々と悲鳴が上がる。機竜使いの士官候補生とはいえ実戦を経験した生徒は少ない。
幻神獣は出現率こそ低いのだが、基本的に機竜使いの数倍の戦闘力を備えている。しかも、本来は城塞都市から数十㎞も離れた遺跡から飛んでくるのだから、周囲の砦や関所から連絡が来ているのが普通なのだ。
更に観客席という密集地帯で機竜を展開しようとすれば、召喚までに手間を取るのは目に見えている。ふいに街中で猛獣と出くわしたとき、悠長に目の前で銃の弾込めなどできるわけがない。
観客席の障壁を張るために配置されていた機竜使いの八名ですら、この未曾有の出来事に、まるで身動きが取れずにいた。
「一体、何が……?」
女教官のライグリィは、生徒をまとめつつ上空を睨み、腰の機攻殻剣に手をかける。
幻神獣の習性は肉食動物のそれに似ている。攻撃を仕掛けたものに反撃し、逃げようとした獲物を追う傾向が強い。地上から迂闊に手を出せば上空にいる幻神獣が反応し、眼下の観客席に攻撃を仕掛けるかもしれない。
故にライグリィは判断を迷う。
だが、今幻神獣の目の前にはリーズシャルテがいる。
教師として、一人の大人として、生徒を守らなければならない。
その時、幻神獣が突如吼えだす。
ギィイアアアアイイエェェエエアアアァァ!!
しまった!?と思ったときには幻神獣の両翼の一部から、羽根型の光弾がばらまかれていた。
射出方向は眼下。すなわち、この演習場の、
―――観客席。
「……っ!?」
教官と生徒たちが、息を飲んだ、その瞬間。
黒い雷が全ての光弾を焼き払った。
△▼△▼△▼△
「なっ……!?」
リーズシャルテが、頭上の幻神獣に気を取られた瞬間、ユウは機攻殻剣を突き出し、
「黒の雷線《ヘル・ブラスト》」
黒い閃光と稲妻が観客席一帯を走り抜ける。それと同時に観客席にばらまかれていた光弾が全て焼け落ちた。
「……何で幻神獣がこんなところにいるんだ?」
普通こんなことは有り得ないのだが…、過去にもこういった出来事を見たことがあるのでそこまで驚く事でもない。まぁ、観客席にいる他の生徒やリーズシャルテは別だろうが。
ユウは取り敢えず、幻神獣の興味を観客席に向けないように、黒の雷閃で牽制を取りながら通信でリーズシャルテに声を掛ける。
『…聞こえるか?…リーズシャルテ…でいいか』
『…私は取り敢えずこの国の王女なんだが…まぁいい。何だ?』
『神装機竜の方は大丈夫か?』
『…ああ、何とかな…だがちょっと無理をさせ過ぎた。もうそんなに動けない』
『神装の方は?』
『あと一、二回なら何とか大丈夫だ』
どうする気だ?とリーズシャルテは不思議そうにユウに声を掛ける。
『…ああ、それはな…』
ユウは不適に笑みを浮かべ、
『燃やす』
リーズシャルテはユウが何を言っているのか分からなかった。いやあまり分かりたくはなかった。
△▼△▼△▼△
幻神獣が羽根型の光弾をばらまき、無数の爆発が起きた直後。
観客席とその周囲は、恐慌と混乱に包まれていた。
「ねえ、抜剣の許可はまだ下りないの!?は、早く逃げるか、戦わないと――」
「救援はまだなの!?警備隊は何をしてるのよ!?」
「ど、どうして三年生が演習なんかに行ってる、こんな時に…」
「全員よく聞け!帯剣している生徒は全員抜剣だ!七分の力で、頭上に障壁を展開しろ。剣を持たない生徒の壁になれ!敵の始末はこちらでやる。今は幻神獣に手を出すな!」
初めて目の当たりにする実戦に、狼狽える生徒たちと叱咤する教官。それを離れて眺めながら、三和音の三人と、ルクス、アイリが集まっていた。アイリは身体が弱く、文官志望であるため機攻殻剣と装甲機竜を持っていない。故に彼女を守るように、三人とルクスが機竜を身に纏い、上部に障壁を張っていた。
「やれやれ、やはりまだ候補生らしく、皆さんは突発的は騒動には弱いんですね」
アイリが周囲を見渡しつつ、ため息をつく。
「し、仕方ないよアイリ、流石にこれは予想外すぎた」
ルクスが苦笑いで答えつつも幻神獣への警戒を怠らない。さらにノクトがそれに続くように頷き、
「Yes.――ルクスさんの言うように無理もないかと。幻神獣一体と汎用機竜で戦闘を行う場合、最低でも上級階層の使い手が三名、中級なら七名、下級なら十数名以上をもって、撤退か拠点防衛のみの交戦が可能と言われています。ましてや、不意を突かれたこの状況では――」
「確かに…。全力のリーズシャルテ姫やユウ君が二人で戦うならまだしも、両方とも先の模擬戦で疲弊している。リーズシャルテ姫に至っては暴走仕掛けた…。今のままじゃ…」
蒼髪の凛々しい少女、シャリスは周囲を見渡し、上空の二人を見ながら同意する。
「でも、さっきの幻神獣の攻撃…ユウ君が助けてくれたよね?」
全員上空で戦っているユウを見る。
「ユウ君は確かに強い。だが、今の状態で幻神獣に勝てるかは…」
シャリスがユウを見ながら呟くが、
『…はぁ…暇です』
突如横の観客席から幼い少女の声が聞こえてきた。全員そちらに顔を向けると、一人の少女が座っていた。
腰まで届く長い白髪に、白いワンピース。明らかにこの学園の生徒ではない真っ白な少女がそこにはいた。
「…えっと…君は?」
ルクスが恐る恐る声を掛ける。
『…?あっ、どうも、こんちにはです」
少女はペコリと頭を下げるとすぐに上空のユウと幻神獣を見つめる。
「君、いったい何者だい?返答次第では…」
シャリスがそう言うと全員警戒体制を取るが、
『安心してください』
少女は立ち上がり、その場から去っていく。
『あんなのユウにかかれば数分もかからないです。それでは』
それだけ言うと、少女は姿を消した。
「…えっ?あれ?」
間の抜けた声が上がるが無理もない。突然いたと思ったらいきなり消えたのだ。しかもユウの名前を出していた。
全員何が何だがさっぱり分からなかった。
△▼△▼△▼△
『…エスト、終わった?』
『はい。ユウの言われた通りに』
『…そうか…ならいいや。そろそろかな』
ユウは適当に幻神獣と距離を取りつつ、尚且つ下の観客席へ気を引かさせないように幻神獣と戦っていた。
正直何回もこういうのは経験しているので、幻神獣の相手はお手のものだ。リーズシャルテは機竜が回復したのか、時折下から砲撃を行っている。そのおかけで、『時間稼ぎ』もだいぶ楽だ。
リーズシャルテには神装の天声《スプレッシャー》を撃つタイミングを教えている。
そろそろいいだろうか?
ユウは自分の機攻殻剣を見ながら感触を確かめる。
『…よし。始めるぞ、リーズシャルテ』
『わかった』
時間稼ぎをしながら伝えていた作戦。それは――。
「まぁ、サイズは小さいけど、充分だろ…。上がれ!」
ユウは機攻殻剣を上へと振り上げる。
「…『黒天の太陽』…っ!!」
振り上げた機攻殻剣から一つの光が上がっていき、
幻神獣の大きさぐらいの黒い炎を纏った球体が出来上がった。
それは幻神獣の真上へと上がり、
「…墜ちろ!天声《スプレッシャー》!」
黒い炎を纏った球体ごと、幻神獣は下の地面へと押し付けられた。それと同時に落ちた場所を中心に物凄い爆発が起きる。
観客席にいた生徒達はエストが張っていた障壁により爆発や爆風から難を逃れたが、リーズシャルテはそうでもなかったのだが、
「…悪い、大丈夫か?」
ユウがいち早く障壁を張り、リーズシャルテも爆発や爆風からは難を逃れた。
「…あ、ありがとう」
「…いや、こっちが悪かった。まさかあんなに威力が高いとは思ってなかった。あのサイズなら充分だろうと思ってたんだが…、ミスったか?」
爆発により起こった土煙が晴れていき、そこには綺麗さっぱりに中心だけ穴が開いた闘技場が残っていた。
もちろん幻神獣など、跡形もなく、まるでその場にいなかったのようにこの場所から消えていた。
「(………これで一番『弱い』方の火力?)」
リーズシャルテは恐る恐るユウを見る。
「…どれだけなんだ。この男は…」
フッと笑みを溢すとリーズシャルテは晴れたような気分になり、機竜を解除するのだった。
どうだったでしょうか?
楽しんでもらえたでしょうか?戦闘が薄いな~と思います。まだまだ稚拙な文で申し訳ないです。
感想、ご指摘がありましたらよろしくお願いしますm(__)m
それでは、また読んでくれたら嬉しいですm(__)m