まだ本調子じゃないので、速度がしばらく落ちます。
高熱怖い。
「あっつ……」
6月の半ばに近い朝。飛行機から降りた俺に熱風が吹き荒れる。
前にいたところでは、真冬並みの寒さが肌に刻んでいたためか、砂漠並みの暑さである。
首元を緩めながら、施設の看板を確認する。
何時いかなる時でも気を抜かない。何かあったらいつでもアクションを取れるようにするための、一種のクセだ。
大まかな施設の配置を把握し終えた俺は、懐にしまっている萎びれた紙を取り出す。
「人工島……大扇島エリアの九鬼財閥極東本部ねぇ」
情報屋に頼んで入手してもらった、ステイシーとあずみ姐の住居だ。そこであずみ姐は従者部隊の序列1という大役を担っているらしい。
また、あのヒューム・ヘルシングやクラウディオ・ネエロやゾズマ・ベルフェゴールといった化け物たちも所属している。
情報の整理をしながら、自動化ゲートを抜ける。世の中便利になったものだ。
無駄に現代の進化を感じながら、コンベアで流れてきたトランクケースを取えい、外で待っているタクシーに乗り込む。
「お客さん。何処までだい?」
「ああ、川神市まで頼むわ」
「あいよ」
怪しむことなく、タクシーは走る。少し前までは信じられないことだ。
ふと助手席においてあった新聞に目が行った。
「なぁ、新聞読ませてもらってもいいか?」
「そりゃいいけど、汚すなよ?」
「手垢で汚れるっていうなら、汚れるぞ?」
「はは。いい返しだ。遠慮なく読みな」
「あんがとさん」
感謝の言葉だけを伝え、助手席から新聞をかっぱらう。日付は……今日だな。
足を組み、新聞を眺める。親父臭くなったものだ。
「おいおい、何時から日本はクローンなんて作ったんだ?」
「武士道プランかい? 起きたときにニュースを見たときは吃驚したよ」
その新聞の表紙に書かれていたのは、武士道プランというものだった。
過去の偉人である源義経や武蔵坊弁慶、那須与一と言った人物を蘇らせることに成功したというものだ。
その一面を見たとき、首裏に痛みが走る。嫌な予感がする。
憂鬱な気持ちと共に、新聞をめくっていく。が、これと言って面白いものがなく、助手席に新聞を返した。
「もういいのかい?」
「ああ、それと言って面白いものもなかったからな」
「そうかい。さて、川神市に着いたよ」
「おう、さんきゅうな。あ、釣りはいらねぇぞ。とっとけ」
「これはこれは、ありがとうございます」
運転手のおっさんに感謝を述べながら、言われた札を渡す。釣りはチップだ。
太陽の光を浴びながら、俺は目的地の場所までトランクケースを引きながら歩いていった。
九鬼財閥極東本部のある大扇島へ行くには、海底トンネルを通っていく必要がある。海底トンネル内部には、冷暖房が完備しており先ほどまで暑かった気候が嘘のようだ。
過去の偉人をクローンで蘇らせることが出来るのならば、世の中すべてをドームで覆って冷暖房を完備して欲しい。まぁ、無理だろうがな。
無駄なことを考えつつ、歩を進める。どのくらい歩いたのだろうか。ふと横にある非常ベルボタンを通ると同時に、首裏に痛みが走る。
嫌な勘がするときの痛みだ。何時襲われてもいいように、周囲を警戒する。
が、俺に襲ってくる気配がない。気のせいか? 俺の勘が外れる珍しい。周囲の警戒を緩めることなく、出口までの距離のアナウンスを聞きながら海底トンネルを進んでいく。
海底トンネルから出てすぐそこに目的地を見つけた。いや、見たといったほうが正しいのだろう。さすがは名高い九鬼。立派なビルだ。
これは、ステイシーやあずみ姐をおちょくらないと気がすまないな。
どうやっておちょくるかを考えながら、ビルへと近づこうとしたときだった。
「すみません。関係者以外はこれ以上、近づくことを禁じられています」
入り口に立っていた黒髪のメイドが近づいてくる。歩くたびになるはずの足音が、微妙にしかしない。暗殺者か。
俺は素直に聞いてみる。
「此方にステイシー・コナーと忍足あずみと言う人はいませんか?」
「規則がありますのでお答えできません」
警戒するのも当たり前か。こういうタイプは、事情を言っても通してはくれないだろう。
「わかりました。《武器倉庫》が会いに来た。夜、魚沼さんのバーで待ってる。と伝えておいてください」
「よくわかりませんが、おぼえておきましょう」
「ありがとうございます。では」
そう言って、九鬼財閥極東本部を後にする。夜までどうやって時間を潰すか。
☆
夜、魚沼さんのバーに入ると懐かしい顔ぶれが揃っていた。その二人が座っているところへ行き、俺も座る。
「……ファック」
「悪いな。先客がいんだ」
「そうだ。ケーレケーレ」
「ああ、気づいてないのか。ほらよ」
舌打ちをしたステイシーに、少し柔らかく断ってくるあずみ姐。
あれから3年も経っている。当時少年だった俺だときづかないのだろう。仕込んでいたハンドガンのパーツを組み立てながら、目の前の机の上に置いた。
これが、武器倉庫と呼ばれた由縁だ。
「その技は、武か?」
「斉藤武以外にこの芸が出来るなら会ってみたいな。あ、マスター。ノンアルコールあるか?」
「客のニーズに応える。それがうちの基本戦術」
「さんきゅ」
最初から客の注文を予想していたのだろう。その言葉と共に飲み物が出てくる。それを受け取り、二人のほうへと向く。
3年という月日が流れたが、二人とも相も変わらずだ。
「あんな小僧がこんなにでかくなるとはな」
「やめてくれよあずみ姐。もう17だってば」
「あずみ姐、今では3×歳──」
「あぁん?」
「お客さん。店内で殺気は飛ばさないでくれよ」
あずみ姐がステイシーの言葉で、殺気を飛ばすとマスターは注意を促す。海外のバーでならば日常茶飯事だが、治安の良い日本ではいけないのだろう。
「さて、まずはロックに乾杯と行こうぜ!」
そういって、真紅に染まった液体が入ってるコップを目の前に出してくるステイシー。あずみ姐と俺もそれに合わせるためにコップを手に取る。
「三人の再会に」
「「「乾杯!」」」
ステイシーの言葉で三人のコップがぶつかり合う。全員がコップを飲み干した後だ。ふと思い出したかのように、俺はこう言う。
「あ、俺来週から学生になるから」
「「なにー!?」」