朝、学長室で鉄心は一枚の履歴書を眺めていた。
新堂武。これと言って特徴のない顔をしている青年だ。幼年期から海外で過ごしており、今年日本へ戻ってきた人物。
編入試験では見事満点を叩き出した彼は、特進クラスのSには入れるにもかかわらず、楽しいほうがいいという理由で、変わり者の多いFクラスに編入を希望した。
他にこれといって注目するべきものがない履歴書だったが、これを見た鉄心は違和感を感じ、師範代であるルー・イーに調べさせた。
結果は黒。写真意外は全て嘘のものだった。
彼は、戦場で恐れられている田尻特殊部隊の主力の一人、"武器倉庫"斉藤武ということが解った。
しかし、鉄心はそれを踏まえ編入をさせることにした。
鉄心の直感が、武が必要だと感じたからだ。
「さて、どうなるかの」
鉄心の独り言が、静寂な室内に響き渡った。
☆
目覚ましによって意識を覚醒させられた俺は、スイッチを切る。しかし、覚醒したとは言ったものの、やはり目が覚めたばかりの所為か目蓋が重い。
それに鞭を打ち、洗面所へと行き顔を洗う。冷たいものを浴びた目蓋は、前よりも軽くなった。
そのまま壁にかけたハンガーから制服を取り、袖に腕を通す。
「気持ち悪い……」
これが最初の感想だ。
今まで迷彩服を着ていたためか、このような礼服を着ると変な感じがする。それを我慢しながら、またもやこれまで持った事の無い通学用の鞄を持つ。
机の上には小さな本のような物があり、読むようにと言われていたので開いてみるが、読むのを諦め鞄に放り込み、さらに教科書も全部放り込んだ。
「さて、行くか。」
アパートの扉を潜り鍵を閉めたことを確認すると、学校へと足を運んだ。
☆
「おお、よくきてくれたわい。お主の担任を紹介するぞい。小島梅子先生じゃ」
「お前が新堂武か。教室へ案内する、着いて来い」
「はい」
学長室へ入ると、担任の小島梅子を紹介される。
なるほど、さすがは名のある学校。体つきからして、鞭使いか。いい腕をしているな。
先生とやらに言われるがまま、先生の後について行く。
構造を覚えながら幾つものある教室を通り過ぎ、一つの教室の前へ着くと先生は此方を向いた。
「私が入れと言ったら教室に入るように」
「わかりました」
良い返事だ。と先生は教室へ入っていく。
耳を傾けてみると、この時期に転入生って珍しいな。や、イケメンだったらいいな。やら色々と聞こえてくる。
暫くすると、入って来いと聞こえ俺はドアを開ける。
「なんだ、男かよ」
筋肉質でオールバックの男が失望した声で机にひれ伏す。
俺はそれを無視し、教卓の横へと歩む。そしてチョークを手に取り、黒板に『新堂武』と名前を書いた。
「新堂武だ」
事短く、自分の名前だけを言う。すると沈黙が続いた。
「新堂、それだけか?」
「はい、それだけです」
「そうか。なら質問がある者は挙手をしてするように」
その言葉を待っていたかのように、声を上げながら、赤い髪をした人物が挙手をした。
「川神か。よし、質問を許す」
「何か武術をやってるの?」
「いや、何もやってはいないな」
「ありがとうございました」
さらっと嘘を吐く。自らの武器を晒すのは愚の骨頂だ。嘘ということに気づくことなく、川神と呼ばれた人物は感謝の言葉と共に着席する。
まてよ? KAWAKAMIだと?
「KAWAKAMIというと、学園長の血縁か?」
「ええ、アタシの名前は川神一子よ。そうはいっても養子だけど」
「なるほど」
その言葉で納得した。川神の血縁にしては、全体的に劣っているからだ。
その後、色々な質問攻めに合うが、適当に流して朝のホームルームとやらは終わった。
色々と面倒だな。学校っていうものは。
☆
あれから平凡な時間が過ぎ、昼休憩になった。この時間は体をリフレッシュする時間らしく、全員が飯を食っている。
ポケットから、カロリー野郎を取り出して袋を開け口の中へと放り込む。質素な味とパサパサした感触が口の中の水分を奪っていく。
これが学生か。思ったより暇だな。
朝からのことを考えながら、背もたれに背を預けようとしたときだ。
膨大な気が、この教室へと近づいてくることに気づき、いつでも対処できるように、ポケットの中に手を入れる。
「おっとうとー! 遊びに来たぞー」
「姉さん、静かに入ってこれないの?」
勢い良く開かれた扉から、その膨大な気の持ち主が入ってきた。頭の中の情報を引き出す。
川神百代。川神院・次期総代で武神という二つ名を持つ武道家。最近、瞬間回復を取得。武道四天王の一人で、負け無し。
しかし、一瞬で殺せるな。
いくら瞬間回復をしようが、脳を撃ち抜けば人間は死ぬ。まったくない警戒心を見て、一瞬そう思った。
その矢先だ。首裏に痛みが走る。すぐに回避行動をとるが、逃げ場をふさがれそのまま拉致された。
拉致された先は、屋上だった。
「で、何の用事があるんだ? 後輩くん」
「教室内で変なことを考えるなよ。先輩」
拉致した人物は、予想できた。九鬼紋白の護衛をするべく、1-Sに編入している、ヒューム・ヘルシング。あの一瞬の殺気で気づくとは、やはり最強は伊達ではないというわけか。
「傭兵のクセが抜けない奴はお仕置きが必要だな。ジェノサイド・チェンソー!」
最強の名を持つ、カッターのように鋭い蹴りを武は──
「うおっと! あぶねぇな」
避けた。
「身の危険をもっとも感じる戦場で身につけた勘か。しかし」
「ぐあっ!?」
裏に痛みを感じる前に、体に激痛が走る。
「勘が働く前に当てればいいだけのことだ。さっさと立て。当たる直前に後ろへ飛んで衝撃を消しただろ」
「あ、やっぱりばれてる?」
勘よりも速く間合いを詰めるなんて、反則だろこいつ。
「おイタをした赤子をお仕置きしたところで、俺は戻るか。これだけは言っておくぞ。変な気を起こすなよ?」
「わかってますって。九鬼を相手にしたくないからな」
俺の言葉を聞かずに消える後輩。いい迷惑だ。
しかし、俺の受難はこれだけではなかった。屋上から教室に戻ると、新たな受難の元がいた。
「武器倉庫。ここにいる理由を教えなさい」
「マルさん。彼を知ってるのか?」
「はいお嬢様。彼は忍足あずみの所属していた特殊部隊の一人。武器倉庫斉藤武です」
「マルさん何を言ってるんだ。彼は新堂武という名だぞ」
マルギッテ・エーベルバッハ。猟犬という異名を持ち、彼女が指揮する部隊もその異名をとって、猟犬部隊と名づけられている。
戦場で何度も戦ったが、正面切って戦いたくない人物ナンバー1の人物だ。
それが何故この学園に? と思ったが、その横にいた人物。フランク・フリードリヒ中将の一人娘である、クリスティアーネ・フリードリヒを見て納得した。
彼は娘を溺愛しているのだ。つまりは、監視役だろう。
「猟犬か。学生をやりに来た……といって、お前は納得するのか?」
「理解しかねませんね」
「そらみろ」
「理由はわかりませんが、いい機会です。この学園での歓迎をしましょう」
ワッペンを目の前の机に置く。決闘の儀の申し込みだ。
これの上にワッペンを重ねることで、その決闘は承認されたということになる。
リベンジって所か?
「面白いな。その勝負乗った」
ワッペンを叩きつける。すると、クラス内が沸きあがる。
「前みたいに風穴空けるんじゃねぇぞ?」
「前のように行かないと思いなさい」
「そりゃ楽しみだ」
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