傭兵は夢を視る   作:Mr.J

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傭兵、初めての学校

 朝、学長室で鉄心は一枚の履歴書を眺めていた。

 新堂武。これと言って特徴のない顔をしている青年だ。幼年期から海外で過ごしており、今年日本へ戻ってきた人物。

 編入試験では見事満点を叩き出した彼は、特進クラスのSには入れるにもかかわらず、楽しいほうがいいという理由で、変わり者の多いFクラスに編入を希望した。

 他にこれといって注目するべきものがない履歴書だったが、これを見た鉄心は違和感を感じ、師範代であるルー・イーに調べさせた。

 結果は黒。写真意外は全て嘘のものだった。

 彼は、戦場で恐れられている田尻特殊部隊の主力の一人、"武器倉庫"斉藤武ということが解った。

 しかし、鉄心はそれを踏まえ編入をさせることにした。

 鉄心の直感が、武が必要だと感じたからだ。

 

「さて、どうなるかの」

 

 鉄心の独り言が、静寂な室内に響き渡った。

 

 

 目覚ましによって意識を覚醒させられた俺は、スイッチを切る。しかし、覚醒したとは言ったものの、やはり目が覚めたばかりの所為か目蓋が重い。

 それに鞭を打ち、洗面所へと行き顔を洗う。冷たいものを浴びた目蓋は、前よりも軽くなった。

 そのまま壁にかけたハンガーから制服を取り、袖に腕を通す。

 

「気持ち悪い……」

 

 これが最初の感想だ。

 

 今まで迷彩服を着ていたためか、このような礼服を着ると変な感じがする。それを我慢しながら、またもやこれまで持った事の無い通学用の鞄を持つ。

 机の上には小さな本のような物があり、読むようにと言われていたので開いてみるが、読むのを諦め鞄に放り込み、さらに教科書も全部放り込んだ。

 

「さて、行くか。」

 

 アパートの扉を潜り鍵を閉めたことを確認すると、学校へと足を運んだ。

 

 

「おお、よくきてくれたわい。お主の担任を紹介するぞい。小島梅子先生じゃ」

「お前が新堂武か。教室へ案内する、着いて来い」

「はい」

 

 学長室へ入ると、担任の小島梅子を紹介される。

 なるほど、さすがは名のある学校。体つきからして、鞭使いか。いい腕をしているな。

 先生とやらに言われるがまま、先生の後について行く。

 構造を覚えながら幾つものある教室を通り過ぎ、一つの教室の前へ着くと先生は此方を向いた。

 

「私が入れと言ったら教室に入るように」

「わかりました」

 

 良い返事だ。と先生は教室へ入っていく。

 耳を傾けてみると、この時期に転入生って珍しいな。や、イケメンだったらいいな。やら色々と聞こえてくる。

 暫くすると、入って来いと聞こえ俺はドアを開ける。

 

「なんだ、男かよ」

 

 筋肉質でオールバックの男が失望した声で机にひれ伏す。

 俺はそれを無視し、教卓の横へと歩む。そしてチョークを手に取り、黒板に『新堂武』と名前を書いた。

 

「新堂武だ」

 

 事短く、自分の名前だけを言う。すると沈黙が続いた。

 

「新堂、それだけか?」

「はい、それだけです」

「そうか。なら質問がある者は挙手をしてするように」

 

 その言葉を待っていたかのように、声を上げながら、赤い髪をした人物が挙手をした。

 

「川神か。よし、質問を許す」

「何か武術をやってるの?」

「いや、何もやってはいないな」

「ありがとうございました」

 

 さらっと嘘を吐く。自らの武器を晒すのは愚の骨頂だ。嘘ということに気づくことなく、川神と呼ばれた人物は感謝の言葉と共に着席する。

 まてよ? KAWAKAMIだと?

 

「KAWAKAMIというと、学園長の血縁か?」

「ええ、アタシの名前は川神一子よ。そうはいっても養子だけど」

「なるほど」

 

 その言葉で納得した。川神の血縁にしては、全体的に劣っているからだ。

 その後、色々な質問攻めに合うが、適当に流して朝のホームルームとやらは終わった。

 色々と面倒だな。学校っていうものは。

 

 

 あれから平凡な時間が過ぎ、昼休憩になった。この時間は体をリフレッシュする時間らしく、全員が飯を食っている。

 ポケットから、カロリー野郎を取り出して袋を開け口の中へと放り込む。質素な味とパサパサした感触が口の中の水分を奪っていく。

 これが学生か。思ったより暇だな。

 朝からのことを考えながら、背もたれに背を預けようとしたときだ。

 膨大な気が、この教室へと近づいてくることに気づき、いつでも対処できるように、ポケットの中に手を入れる。

 

「おっとうとー! 遊びに来たぞー」

「姉さん、静かに入ってこれないの?」

 

 勢い良く開かれた扉から、その膨大な気の持ち主が入ってきた。頭の中の情報を引き出す。

 川神百代。川神院・次期総代で武神という二つ名を持つ武道家。最近、瞬間回復を取得。武道四天王の一人で、負け無し。

 しかし、一瞬で殺せるな。

 いくら瞬間回復をしようが、脳を撃ち抜けば人間は死ぬ。まったくない警戒心を見て、一瞬そう思った。

 その矢先だ。首裏に痛みが走る。すぐに回避行動をとるが、逃げ場をふさがれそのまま拉致された。

 拉致された先は、屋上だった。

 

「で、何の用事があるんだ? 後輩くん」

「教室内で変なことを考えるなよ。先輩」

 

 拉致した人物は、予想できた。九鬼紋白の護衛をするべく、1-Sに編入している、ヒューム・ヘルシング。あの一瞬の殺気で気づくとは、やはり最強は伊達ではないというわけか。

 

「傭兵のクセが抜けない奴はお仕置きが必要だな。ジェノサイド・チェンソー!」

 

 最強の名を持つ、カッターのように鋭い蹴りを武は──

 

「うおっと! あぶねぇな」

 

 避けた。

 

「身の危険をもっとも感じる戦場で身につけた勘か。しかし」

「ぐあっ!?」

 

 裏に痛みを感じる前に、体に激痛が走る。

 

「勘が働く前に当てればいいだけのことだ。さっさと立て。当たる直前に後ろへ飛んで衝撃を消しただろ」

「あ、やっぱりばれてる?」

 

 勘よりも速く間合いを詰めるなんて、反則だろこいつ。

 

「おイタをした赤子をお仕置きしたところで、俺は戻るか。これだけは言っておくぞ。変な気を起こすなよ?」

「わかってますって。九鬼を相手にしたくないからな」

 

 俺の言葉を聞かずに消える後輩。いい迷惑だ。

 しかし、俺の受難はこれだけではなかった。屋上から教室に戻ると、新たな受難の元がいた。

 

「武器倉庫。ここにいる理由を教えなさい」

「マルさん。彼を知ってるのか?」

「はいお嬢様。彼は忍足あずみの所属していた特殊部隊の一人。武器倉庫斉藤武です」

「マルさん何を言ってるんだ。彼は新堂武という名だぞ」

 

 マルギッテ・エーベルバッハ。猟犬という異名を持ち、彼女が指揮する部隊もその異名をとって、猟犬部隊と名づけられている。

 戦場で何度も戦ったが、正面切って戦いたくない人物ナンバー1の人物だ。

 それが何故この学園に? と思ったが、その横にいた人物。フランク・フリードリヒ中将の一人娘である、クリスティアーネ・フリードリヒを見て納得した。

 彼は娘を溺愛しているのだ。つまりは、監視役だろう。

 

「猟犬か。学生をやりに来た……といって、お前は納得するのか?」

「理解しかねませんね」

「そらみろ」

「理由はわかりませんが、いい機会です。この学園での歓迎をしましょう」

 

 ワッペンを目の前の机に置く。決闘の儀の申し込みだ。

 これの上にワッペンを重ねることで、その決闘は承認されたということになる。

 リベンジって所か?

 

「面白いな。その勝負乗った」

 

 ワッペンを叩きつける。すると、クラス内が沸きあがる。

 

「前みたいに風穴空けるんじゃねぇぞ?」

「前のように行かないと思いなさい」

「そりゃ楽しみだ」




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