傭兵は夢を視る   作:Mr.J

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傭兵、お願いを聞く

 土曜日の朝。一着の電話で目を覚ます。着信元を見ると、あずみ姐だ。

 

『おう、今暇か?』

「あずみ姐。最初の言葉はそれってどうなんだ?」

『なんだ? おはようございますって言われてほしかったか?』

 

 可愛らしく媚を売る声を聞いて、鳥肌が立つ。こいつ偽者か?

 

『おい、今偽者だと思っただろ』

「そりゃそうだ。何その媚を売る声は!」

『うるせぇ。こっちにも事情があんだよ。で、返事は?』

「ちょっと待ってよ。……ああ、今日は詰まってるわ」

『そうか。じゃあ1時間後に九鬼財閥極東本部な』

「あぁ? 俺の──切れやがった」

 

 通話が切れた音を耳に入れながら、手に持っているスケジュール表を見る。そこには内容がびっしりと詰まっているが、これはカモフラージュだ。

 何時如何なる状況においても、正確な情報を残さない。基本の基本だ。

 理由も無しにあずみ姐が俺を呼ぶことはない。そう思いながら、準備をして九鬼財閥極東本部へと足を運んだ。

 

 

「中はこんな風になってるのか」

 

 九鬼財閥極東本部の入り口で待っていたあずみ姐は、俺を内部へと連れて行く。

 テロリストに何度も狙われた経歴からか、中はしっかりとしている。隠し通路の類はない。

 が、途中途中に有力な従者を置き、いつでも対処できるようになっている構造。無駄がないな。

 

「変な気を起こすなよ? 戦友だからといって、敵対するなら潰すぞ」

「職業病だ。何時でもアクションを取れるな」

「ならいいが……。ここだ」

 

 あずみ姐に連れてこられた場所は、トレーニングルームだった。どうやら、俺の暗器術に興味があるということで、知人であるあずみ姐に頼み俺を連れてきた。そう聞かされている。

 

「それにしてもあずみ姐。俺のスペックを言うなよ」

「ステイシーに言え」

「あっそ」

 

 どうやら、俺のスタイルをばらしたのはステイシーらしい。俺のスタイルは、初見最も有効だ。だからこそ、出来る限りバレないようにしている。いい迷惑だ。

 トレーニングルームに入ると、そこには初日にあった黒髪のメイドがいた。

 

「ああ、あんたか」

「序列16位。李静初です。先日は申し訳ありませんでした」

「気にするな。アポも取らずに行ったんだ。怪しまなければ仕事なんて出来ない」

「ありがとうございます」

 

 言葉を聞いてホッとする李。

 

「で、俺に何のようなんだ? 見る限り暗器については完璧だろ」

 

 服の上からでもわかるほどの恐ろしい暗器の数を見て、正直に言う。

 俺とどっこいどっこい。いや、それ以上を所有している。今更勉学をする必要はないほどに。

 

「ステイシーから聞きました。あなたは一瞬で銃を組み立てると」

「なるほどな。でもな、自分の商売道具を売るほど俺は優しくない」

 

 その言葉で理解できた。自分のレパートリーを増やしたいのだろう。

 だが、これは俺の専売特許であり、技術も売る気もない。これがあるから、俺はここまで生きてこれた。

 

「でしょうね。ですから、こういうのはどうでしょう」

 

 李は横にあるトランクを開く。そこには札束が入っていた。

 

「あずみが言うには、あなたはお金を積めば依頼を受けると聞きました」

「つまり、俺と金で技術を買いたい……そういう意味だな?」

「はい」

「契約書は?」

「こちらに用意してあります」

 

 契約書がない場合は依頼を承諾はしてはいけない。

 口頭だけでは、詳細な内容を知ることも出来ないからだ。

 しかし契約書は違う。書かれている内容しかやらない。やる必要がない。

 だからこそ、傭兵の世界では契約書は絶対なのだ。

 

「なるほど……そちらで用意をした武器でやれってことか。それにしても、大盤振る舞いだな」

「それほどの技量を持っていますからね」

「いいぞ。その依頼を受けよう」

 

 

「驚きました」

 

 李は、武の手腕を見て驚愕をした。何故ならば李が用意した武器は、あまり世間では出回っていない武器だったにもかかわらず、組み立てることが出来たからだ。

 例えば、組み立て式の根。耐久度に欠けるが、複数の根を回すことで組み立てることが出来るものである。

 回す行為に時間がかかる武器なのだが、これを一瞬にして組み立てたのだ。その時間はわずか5秒。

 本人がいうには、時間がかかりすぎて使えないとのこと。

 規定の回数を見た李は、分解されている組み立て式の棍を持ち、ゆっくりと一本の棍へと変えていく。瞬時に学習という特殊な力を持っている李だが、その力をもってしても、どうやって組み立てているかが理解できなかった。

 

「……難しいですね」

「そりゃそうだろ。長い間見てきたが、あたいにもさっぱり理解ができねぇ」

「おいおい、理解出来ないからってやっぱり無しってのは聞かないぞ?」

「理解が出来ないことを視野にいれてましたから、それは大丈夫です」

「毎度ありー」

 

 組みあがった武器を、ゆっくりと元に戻していく李を横に、武はお金の話をする。

 百聞は一見にしかず。何度も聞いた話だが、自分の目で見なければ理解が出来ない。

 当初は同じ暗器ということで、真似が出来るだろうと踏んでいた李だが、それは武の技を見た瞬間に考えが変わった。

 一部だけ壁を越えている人物は存在する。武の組み立てる速度。これは、壁を越えているといっても過言ではない。

 だからこそ、李はその能力を吸収することを諦めたのだ。

 そのようなことを考えていることは関係なく、武は札束を懐の中に入れていくのであった。

 




依頼だってお願いだよね!

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