土曜日の朝。一着の電話で目を覚ます。着信元を見ると、あずみ姐だ。
『おう、今暇か?』
「あずみ姐。最初の言葉はそれってどうなんだ?」
『なんだ? おはようございますって言われてほしかったか?』
可愛らしく媚を売る声を聞いて、鳥肌が立つ。こいつ偽者か?
『おい、今偽者だと思っただろ』
「そりゃそうだ。何その媚を売る声は!」
『うるせぇ。こっちにも事情があんだよ。で、返事は?』
「ちょっと待ってよ。……ああ、今日は詰まってるわ」
『そうか。じゃあ1時間後に九鬼財閥極東本部な』
「あぁ? 俺の──切れやがった」
通話が切れた音を耳に入れながら、手に持っているスケジュール表を見る。そこには内容がびっしりと詰まっているが、これはカモフラージュだ。
何時如何なる状況においても、正確な情報を残さない。基本の基本だ。
理由も無しにあずみ姐が俺を呼ぶことはない。そう思いながら、準備をして九鬼財閥極東本部へと足を運んだ。
☆
「中はこんな風になってるのか」
九鬼財閥極東本部の入り口で待っていたあずみ姐は、俺を内部へと連れて行く。
テロリストに何度も狙われた経歴からか、中はしっかりとしている。隠し通路の類はない。
が、途中途中に有力な従者を置き、いつでも対処できるようになっている構造。無駄がないな。
「変な気を起こすなよ? 戦友だからといって、敵対するなら潰すぞ」
「職業病だ。何時でもアクションを取れるな」
「ならいいが……。ここだ」
あずみ姐に連れてこられた場所は、トレーニングルームだった。どうやら、俺の暗器術に興味があるということで、知人であるあずみ姐に頼み俺を連れてきた。そう聞かされている。
「それにしてもあずみ姐。俺のスペックを言うなよ」
「ステイシーに言え」
「あっそ」
どうやら、俺のスタイルをばらしたのはステイシーらしい。俺のスタイルは、初見最も有効だ。だからこそ、出来る限りバレないようにしている。いい迷惑だ。
トレーニングルームに入ると、そこには初日にあった黒髪のメイドがいた。
「ああ、あんたか」
「序列16位。李静初です。先日は申し訳ありませんでした」
「気にするな。アポも取らずに行ったんだ。怪しまなければ仕事なんて出来ない」
「ありがとうございます」
言葉を聞いてホッとする李。
「で、俺に何のようなんだ? 見る限り暗器については完璧だろ」
服の上からでもわかるほどの恐ろしい暗器の数を見て、正直に言う。
俺とどっこいどっこい。いや、それ以上を所有している。今更勉学をする必要はないほどに。
「ステイシーから聞きました。あなたは一瞬で銃を組み立てると」
「なるほどな。でもな、自分の商売道具を売るほど俺は優しくない」
その言葉で理解できた。自分のレパートリーを増やしたいのだろう。
だが、これは俺の専売特許であり、技術も売る気もない。これがあるから、俺はここまで生きてこれた。
「でしょうね。ですから、こういうのはどうでしょう」
李は横にあるトランクを開く。そこには札束が入っていた。
「あずみが言うには、あなたはお金を積めば依頼を受けると聞きました」
「つまり、俺と金で技術を買いたい……そういう意味だな?」
「はい」
「契約書は?」
「こちらに用意してあります」
契約書がない場合は依頼を承諾はしてはいけない。
口頭だけでは、詳細な内容を知ることも出来ないからだ。
しかし契約書は違う。書かれている内容しかやらない。やる必要がない。
だからこそ、傭兵の世界では契約書は絶対なのだ。
「なるほど……そちらで用意をした武器でやれってことか。それにしても、大盤振る舞いだな」
「それほどの技量を持っていますからね」
「いいぞ。その依頼を受けよう」
☆
「驚きました」
李は、武の手腕を見て驚愕をした。何故ならば李が用意した武器は、あまり世間では出回っていない武器だったにもかかわらず、組み立てることが出来たからだ。
例えば、組み立て式の根。耐久度に欠けるが、複数の根を回すことで組み立てることが出来るものである。
回す行為に時間がかかる武器なのだが、これを一瞬にして組み立てたのだ。その時間はわずか5秒。
本人がいうには、時間がかかりすぎて使えないとのこと。
規定の回数を見た李は、分解されている組み立て式の棍を持ち、ゆっくりと一本の棍へと変えていく。瞬時に学習という特殊な力を持っている李だが、その力をもってしても、どうやって組み立てているかが理解できなかった。
「……難しいですね」
「そりゃそうだろ。長い間見てきたが、あたいにもさっぱり理解ができねぇ」
「おいおい、理解出来ないからってやっぱり無しってのは聞かないぞ?」
「理解が出来ないことを視野にいれてましたから、それは大丈夫です」
「毎度ありー」
組みあがった武器を、ゆっくりと元に戻していく李を横に、武はお金の話をする。
百聞は一見にしかず。何度も聞いた話だが、自分の目で見なければ理解が出来ない。
当初は同じ暗器ということで、真似が出来るだろうと踏んでいた李だが、それは武の技を見た瞬間に考えが変わった。
一部だけ壁を越えている人物は存在する。武の組み立てる速度。これは、壁を越えているといっても過言ではない。
だからこそ、李はその能力を吸収することを諦めたのだ。
そのようなことを考えていることは関係なく、武は札束を懐の中に入れていくのであった。
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