編入して数週間は過ぎたが、武はクラスに馴染むことはなかった。
いや、自分から馴染もうとしなかったと言えばいいだろう。
それは己の保身。自分以外が人質に取られても、交流を持っていなければ知らない振りを出来るからだ。
しかし、馴染むキッカケが朝に起こった。
「天神館から、二年生へもう一度交流戦をと申し込まれた」
朝、ホームルームの最中に鉄心が校内放送を流した最初の言葉だ。
その瞬間、2-Fの教室がザワつくくが小島の鞭で一瞬で静まり返る。
「放送が終わった後で教員に名前を呼ばれた者は、選手として出てもらうぞ。
他の者は、救護班で来るも良し、眺めるも良しじゃ。ちなみに、決闘までの立ち入りは禁止とする」
会場に罠を仕掛けることを禁ずるために、会場内に立ち入りは禁じられる。だれが仕掛けるかは言うまでもないだろう。
放送終了の鐘の音がなると、小島はポケットから紙を取り出す。そこにはF組と書かれた文字と、名前が記されていた。
それを上から順番に、小島は読んでいく。
「──新堂武、以上の者は放課後体育館へ行くように」
☆
週末の東西交流戦の作戦会議のため、名前を呼ばれた人間は放課後に体育館に集まっていた。
人数は前回と同じ200名。その大人数が集っている体育館は、熱気を帯びている。
「では、前回いなかった人が参加をするようなので、挨拶をしてきましょうか」
2-Sの頭脳役である葵冬馬は、武へと足を運ぶ。
「始めまして、今回作戦を担当する一人。葵冬馬と言います」
「ああ」
自己紹介を最小限に返す武。従来ならばこれで大抵のものは諦めるのだが、冬馬は続ける。
「仲間ですので仲良くしたいと思っているだけですよ。性的な意味でも」
「ゲイか」
傭兵とは、女との出会いはあまりない。
冬馬からの視線を見ると、傭兵時代の一部の人間から出ていた視線だったので、男性に気があると言うことを一瞬で理解できた。
「いえ、私は両方ともいけますよ。どうです? 今夜私の家で裸の付き合いでもしませんか?」
「遠慮しておく。俺にはそんな趣味はないからな」
「それは残念です。では、一緒に作戦を考えてもらいましょう」
「何故俺が考えなければいけないんだ? 頭脳役のお前がやればいいだろ」
「本職の意見も取り入れたいですからね。ほら、あずみさんやマルギッテさんもいますよ」
冬馬の言うとおり、戦場となる地図を囲んでその2人とF組の大和が、今回のことを相談している。
それを見て、面倒くさそうに2人のほうへと足を運ぶ。
「あずみ姐。猟犬。なんで2人が作戦を立ててるんだよ」
一学生の戦いに、本職である2人が参加するべきではないというのは、武の考えだ。
「英雄様が見てんだ。手は抜けねぇよ」
「お嬢様に怪我をさせるわけにはいきません」
が、2人は違うようで、自分の主である者を守るために全力で挑む。
武はさらに溜息を吐く。
「お前ら、一学生の戦いに本職が手を出すのか?」
「あたいらも一学生だからな」
「ええ、立場は同じと知りなさい」
しかし2人の意見は違ったようだ。
「あたいもそうしたいのが山々なんだが、英雄様が怪我したらあたいの評価が落ちんだよ」
「なるほどね。女王蜂さんは、英雄様にお熱ってか?」
「ばか! そうじゃねぇよ」
「わかったわかった。参加してやるよ。愛しい英雄様のためにってね」
「おめぇ、殺すぞこら!」
武はあずみをおちょくりつつ、地図を眺める。東に高い山に中央は広い荒野と川。その川を挟むように西にも少し低い山が広がっている。
「中央でぶつかりながら、東の見晴らしの良い山を手に入れる。東を取り次第、本部を置くのがセオリーだな。西を押さえつつ、中央は川からの奇襲を警戒」
「まぁそうなるわな」
「ならば、中央はお嬢様が部隊長で私が副将になりましょう」
「何言ってんだ。こういう広い戦場だからこそ、猟犬は部隊長として戦うべきだ」
「しかし、お嬢様に何かがあっては……」
「中将の娘なんだろ?こういう場面にこそ指揮を経験させるべきだ」
「それはそうですが……」
普段のマルギッテならば、武の言葉を丸々返してくるはずなのだが、フランク同様にクリスを溺愛している。
それを諭すと、助け舟を冬馬は出す。
「大丈夫ですよ。今回も準を副官につけますから」
前回の交流戦での準の活躍を知っているマルギッテは黙るしかなかった。その後、あーでもないこーでもないと大和と冬馬は部隊を編成していく。
そして編成の終盤になり、大和と冬馬は困った表情をした。
「しかし困ったな」
「ええ、困りました」
最後、一つの駒が残っている。新堂武と言う名前の駒が。
「俺は1人でいい」
「それでいいんですか?」
「下手に部隊に組まれたら、動きが阻害されるからな」
「まぁ妥当だな」
「ええ、それが最善と思います」
武の戦闘能力を理解している、元同業者と現軍人が同意をする。
「お二人がそう言うならそうしましょう。では、連絡の交換を」
「ああ、俺も欲しいな。いざと言うときに連絡できなかったら困るし」
山の中では携帯を通して連絡を行うことから、2人は連絡先を貰おうとするが、武から返って来た言葉は予想外なものだった。
「携帯なんて、俺もってないぞ」
「お前、携帯電話もってないのか!?」
携帯とは、高校生では必需品といっても過言ではないものだからか、大和は驚愕する。
人脈を広げることをしている大和にとっては、携帯を持っていないことは信じられない事実だ。
「当たり前だろ。足のつくのは持たない主義なんだよ」
「そ……そうか」
「なあ、その携帯って今日契約することはできるのか?」
「ええ、お金さえあれば契約は可能ですけど」
「この金額で足りるか?」
冬馬の言葉に、ポケットから財布を取り出して中身を見せる。そこには万札が9枚ほど入っていた。
「こんなにあれば十分ですよ? ですがよろしいのですか?」
「郷に入れば郷に従え。俺も一学生だからな」
「なら、一緒に買いに行きましょうか」
「俺もついていく。連絡先がないと困るからな」
こうして、武は2人を連れて携帯販売会社へと足を運んでいく。
その後、携帯の機能の内容を理解できず、2人の説明でタッチパネル端末と契約を無事済んだことは言うまでも無いことであった。
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