俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
第一話
曰く、持たざる者は持つ者を排斥するという。
曰く、人は人を排斥する。
曰く、正直なものほどこの世界は生きにくい。
曰く、人は闇から救われると愛を抱くという。
俺はいったい何なのだろうか……そんな事ばかりを考えてきた。
曰く、比企谷八幡という小学3年生は小学生を逸脱した知識、思考を持っているらしくよく天才だねと言われるがなんのその、天才なんかじゃない。本当に天才というのは全てのことを完璧ともいえるレベルでこなす奴のことを天才というのであって俺はただ単に知的好奇心とやらが人よりも激しく燃えており、自分の中で解決するまで調べ続けるという性格なだけであり、スポーツは全くできないし、興味のないことは本当に何もしない。
一人ぼっちゆえに何物にも邪魔されなかったという事も関係しているのだろうが学校にいる時は大体、家の近くにある大きな図書館から借りてきた小難しい本を読んで自分の中で格闘している。
さて、今俺はある事象について勉強をしている。それはイジメだ。
異端者を排斥するために行われる一種の行動のようなもので今まさに教室でそれが起きている。
その被害者は名も知らぬ女の子。その子の上履きは現時点で35回隠され、机は落書きだらけ、お道具箱に至ってはクラス共通のゴミ箱と化している。
その子はやけに打たれ強いのかは知らないが特にすることなく、ただひたすら相手の攻撃を受け流している。
先生も何もしていないわけじゃない。対策を取ったが1度、広がってしまった悪意というものは水の上に絵具を垂らしたかのように一瞬にして広がっていく。
それがきっかけとなりクラス崩壊が起きた。もうこれで担任が変わったのは何回目だろうか。だが大人たちは担任の力が弱かったと認識しているのかイジメに関してはノータッチ。
「…………読了」
そう呟き、パタンと本を閉じた時には既に教室にはその女の子と俺しか残っていない。
相変わらずその女の子の机には落書きがあり、女の子はそれをボーっと見ている。
「…………消さないの?」
横を通り過ぎる際にそう呟くと女の子は驚いたような顔をしながら俺を見上げる。
「ええ。こうして残しておくことで証拠を取り、その後に消すの」
そう言いながら女の子はメモ用紙に名前をつらつらと書いていく。
「……やり返さないの?」
「ええ。やり返したら同レベルの存在に落ちてしまうもの。貴方も分かるんじゃないの? そんな大人が読むような本を読んでいる貴方を見ている人たちと喋っても意味がない。だからあなたは喋らないんじゃないの?」
そう言われ、俺は思わず小さく笑みを浮かべてしまった。
もしかしたら……自分でもわからないけれど嬉しいのかもしれない。同類……いや、それ以上の何かである女のこと出会ったことが。
「……比企谷八幡」
「……雪ノ下雪乃」
互いに簡易的な自己紹介をする。俺たちの視線はずっとぶつかったままだ。
「雪ノ下…………一緒に帰ろ」
「……ええ、良いわよ」
雪ノ下は小さく笑みを浮かべながら俺が差し出した手を優しく取り、立ち上がった。
雪ノ下雪乃と知り合い、俺の生活はガラッと変わった。
どうやらこいつと一緒にいると俺もターゲットにされたらしく、ちょこちょこ上履きがなくなったり、お道具箱がゴミ箱になったりしたが特に教科書なども持ってきていなかった俺にはダメージは皆無。
今では夫婦と言われるくらいに熱々の関係だ。
そんな雪ノ下と俺は放課後、残ってお喋りをしている。今は2人して鶴を折っているけど。
「八幡。どうして貴方はおり方をいっぱい知っているの?」
「気になったことは突き詰めて自分の中で解決するまでやるからいつの間にか覚えた」
「そう……知的好奇心が凄いのね」
もう何羽目を折っただろうか。流石に飽きてきたな……。
ふと良いことを思いつき、余っている折り紙を1枚とって雪乃に背を向けて作っているものが見えないようにしつつ、迅速に作っていく。
5分ほどでそれは完成し、雪乃の方を向く。
「雪乃」
「何? 八幡」
「ちょっと手、貸してくれ」
不思議そうな顔を浮かべるが雪乃は俺に手を差し出したので片方の手で雪乃の目を塞ぎ、もう片方の手で雪乃の指に今さっき作った物をはめてやった。
目隠しを取ってやると雪乃は自分の指にはめられているものにすぐに気付き、最初はポカーンとしていたがすぐに頬を少し赤くして、小さく笑った。
「ありがとう、八幡」
「っっ。お、おう」
笑みを浮かべながらそう言う雪乃を見た瞬間、俺の心臓がドクンと跳ね上がり、恥ずかしさが込み上げてくる。
「ちょ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん」
そう言い、足早に教室を後にしてトイレに入り、用を足す。
…………まだドクドクいってる…………まださっきの雪乃の笑顔が…………なんか俺おかしくなった?
熱くなっている顔を冷やすためにひんやり冷たい水で手を洗ってからバシャバシャと顔にかけ、鏡を見ると顔の赤みは無くなったけどまだ少し顔が熱い。
…………戻ろう。
トイレから出た時、教室から飛び出してくるクラスメイトの女子3人組が俺の横を通り過ぎていき、一瞬見えた横顔は何故か笑っていた。
廊下を走り回って何が楽しいのかな……ふぅ。
息を整え、教室に入ると何故か雪乃は床にへたり込んでおり、時折鼻を啜る音が聞こえてくる。
「雪乃? どうし」
そこまで言ったところで俺はそれ以上言葉を発することが出来なかった。
こちらを見上げる雪乃が両目から涙を流していた。
今まで苛めに屈しなかった雪乃が、今まで笑顔は見せても泣くことは無かった雪乃が今、俺の目の前で肩を震わせて泣いていた。
雪乃の足元を見てみるとさっき俺が作った折り紙の指輪が破かれていた。
「ごめん……なさい……八幡」
そう言いながら泣きじゃくる雪乃を俺は妹をあやすように優しく抱きしめて頭を撫でると雪乃は今までずっと我慢してきたのか俺の胸で必死に声が出そうになるのをかみ殺しながら泣いた。
頭の中が今までにないくらいにスーッと真っ白になっていき、冷えていくのを感じるとともにさっき俺の横を通り過ぎて行った女子たちの顔を思い出した瞬間、奥底から何か触れるだけで全てを凍り付かせるような冷たい何かが上がってくるのを感じる。
あぁ……本で読んだことがある…………殺意……憎しみ……そういった類の奴だ……。
うちの小学校には作文大会というものがある。クラスから1人、優秀な作文を先生が挙げてそれを全校生徒の前で本人に読ませるというもの。うちのクラスは崩壊しているせいで作文を真面目に書いた奴は俺くらいだ。
雪乃はショックのあまりか体調を崩したらしく、ここ1週間来れていない。
だから俺はその時を狙う。大人たちが動かないのなら俺が動く。雪乃を泣かした奴を今度は俺がそれ以上のことでやり返す。俺の……俺の友達を傷つけた代償はきっちり取らせる。
続々と担任に挙げられた奴らが各々の作文を大きな声でマイクに向かってしゃべり、それが終わる度に盛大な拍手が挙げられる。作文大会には毎年、教育委員会から数人派遣されるし、授業参観の様に保護者も呼ばれる。
生憎、うちの親は休みが取れなかったらしく、ここには来ていない。
『では次は比企谷八幡君の作文です』
俺の名前が呼ばれ、俺は担任の先生から提出した作文を受け取り、離れたところでポケットに入れていた読む予定の作文を入れ替えた。
先生からマイクを受け取る。
「題名・僕のクラスについて。僕のクラスは学級崩壊しています。そしてイジメが発生しています。ある子がイジメられています。上履き隠し、机の上に落書き、お道具箱にごみを入れる、鉛筆を折るなどの酷いことをしています。――――――さんと――――――さん、――――――さんは――月――日にある女の子を叩きました。――――さんと――――さんは机の上に死ねやバカなんかの落書きをいっぱいしていました」
予定にはない凄まじい内容の作文に教師たちは止めに入ろうとするがお偉いさんに一喝を入れられたのかそのほとんどの奴らが椅子に座り直し、顔を俯かせて俺の話をただただ聞く。
そこからはもう俺のまさに独壇場。これこそまさに公開処刑。極悪非道、下劣……そんな言葉がお似合いだと自分で考えながら読んでいく。
体育館の中は阿鼻叫喚、地獄絵図だ。あちこちから泣き叫ぶ声が聞こえてくる。
俺が名前を挙げていく度に先生によってその子が体育館の外へと連れ出されていく。
向こうさんは聞かせない様にという対策のつもりだろうがそれが逆に他の奴らに真実味を与える。
「これが僕のクラスの毎日です。もしも心優しい先生がいるなら今挙げた子たちを叱ってください」
一礼し、俺は壇上を降りた。
あの事件の後、教室は嘘のように静かになった。
イジメに加担した奴らにはそれ相応の制裁が下ったのか元気いっぱいに走り回っていた奴らはシーンと静かになったり、学校に来なくなったり、凄い奴で言えば転校した奴までいる。
俺もいつもの静かで平和な日常が戻ってきた。雪乃も体調が元に戻ったのか数日前から学校に来出しているがこの前までの状況がガラッと変わったことに酷く戸惑いを覚えているらしい。
もう恒例となった放課後のお話し会。
「八幡、何したの?」
「別に。もう体大丈夫なのかよ」
「うん。もう大丈夫」
…………よし。
心の中で決意を固め、俺はポケットから折り紙で作った指輪を取り出し、雪乃の前に置くとこの前と何ら変わらない笑みを浮かべながら俺を見てくる。
「……何個でも指輪は作ってやるからさ……元気出せよ」
「…………八幡、つけて」
そう言われ、雪乃の手を軽く持って彼女の薬指に折り紙の指輪をはめてやると今度は雪乃に俺の薬指に指輪をはめられ、俺達の薬指には同じ指輪がある。
「ずっと一緒よ、八幡」
雪乃の笑みを見た瞬間、また俺の心臓が鼓動を大きく打つ。
……よく分からない現象だ。
「あぁ、ずっと一緒だ」
俺もそう言いながら久しぶりに笑顔を浮かべた。
連載にするかは分かりません。