俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第十六話

 テストも目前に迫ったある日の休み時間、俺は教室で自分でまとめたテスト用のノートをペラペラと見て公式や問題などの解き方や導き方などを掘り起し、その横に開いてあるチャート式問題集を見て頭の中で問題を解き、それが終わったら答え合わせをする。こんな感じで物理や化学、数学などの理系科目はいつも高得点取れてるし、文系科目、特に英語は雪乃と一緒に英語の本を読むためにと必死に勉強したため、そして国語は小説ばっかり読んでるので自然とできるようになったし、社会系の科目は暗記ゲーだから授業で習ったその日に暗記した。

 これで準備は万端……あとはテストで全力を出すだけ……だが一番不安なのは社会系だな。どうしても暗記だからド忘れと言う事が怖い……念入りにチェックせねば。

「ねえ」

「あ?」

 声をかけられ、顔を上げると青みがかった黒髪をシュシュで一つにまとめ、スカートは少し短めでリボンもつけないで胸元が見えている冷めた表情の女子が横に立っていた。

 雪乃とはまた違う冷たさだな。あいつは冷静でこいつは冷めている。

「あんたさ、比企谷だよね」

「……どっかでお会いしましたっけ?」

 待て待て。女子の知り合いなどこの学校ではまだ雪乃と由比ヶ浜位しかいないぞ。故に喋りかけてきているこいつのことは知らない。証明終了!

「うちの弟があんたの妹と学校同じなだけ。よく話してるの聞いてるし」

 …………ま、まさかあの時小町と一緒にいたどこの馬の骨とも知らない男の姉貴か!? まさか小町がそいつと結婚したらこいつと俺が……ないわな。そんなことしたら小町LOVEのおやじが絶望してピキピキヒビが全身に入って怪物生み出すわ。

「へ、へぇ~」

「何あんた汗かいてんの……まぁ、いいや。ところであんたバイトとかしてんの」

「いきなりなんだよ」

「うちのバイト今、人数不足だし忙しい時期だから短期のバイトしてくれる奴探してるんだけど」

「あっそ……で、なんで俺?」

「あんた1人だし」

 そう言われ、一瞬胸がチクッとした。

 こいつ、初対面で初めて喋る人間相手によく「お前、ボッチだよね? ギャハハハ!」みたいなこと言えるな。俺、悲しくて泣いちゃうぞ。えーん……気持ち悪。

「今はやる気ねえけど」

「そう……まぁ、気が向いたら言ってよ」

 そう言い、その女子は俺から去っていくと椅子に座って頬杖をつき、窓の外をボーっと見る。

 バイトか……短期のバイトなら小遣い稼ぎにはいいかもな……。

「ヒッキ~」

「な、なんだよ」

 今にも泣きそうな勢いで目をウルウルさせた由比ヶ浜が後ろから俺の肩を掴んできた。

 何でリア充共は気楽にボディタッチをしてくるのかね……待てよ、雪乃も気楽にボディータッチしてくるからリア充共じゃないな……どうでもいいや。

「テストがやばい~」

「知らねえよ。雪乃に勉強見てもらってんだろ」

「そうなんだけど間に合わないかもしれないの! だからヒッキーも手伝って!」

 なんで俺が由比ヶ浜のテスト勉強を手伝わねばならんのだ。

「やだ」

「ケチ! ケチッキー!」

 ケチとヒッキーをフュージョンさせるなよ。

「とりあえずヒッキーも勉強会に集合!」

「まぁとりあえず勉強会にはいくけど」

 もう1週間前に突入したから部活も休みだし。

 チャイムが鳴り、由比ヶ浜が自分の席に戻ると同時に入り口から先生が入ってきて授業が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっという間に授業は終わり、俺達奉仕部の面子は前回の勉強会と同じ会場であるファミレスに来て勉強会を行っていた。

 にしてもなんでテストが終わってすぐにあるテスト返却の日に職業体験なんか入れるかねぇ。テスト終わった後くらいゆっくり休ませてくれよって話だ。

 結局、俺は隼人と戸塚で職業体験に行くことになったんだが隼人がいるところに女子ありという格言通りに隼人の班にドサドサッと女子が入ってきてクラスのほとんどの女子が入る大所帯になってしまった。

「由比ヶ浜さん。共通因数は次数が小さいもので括るのよ」

「共通因数って何?」

 大丈夫かよ、こいつの学力……よく県内有数と言われている進学校である総武高校に入学できたな……まさか由比ヶ浜の家は実は暴力団で裏口入学……なんてことはないか。

 前回と同じように雪乃が由比ヶ浜に勉強を教え、俺は自分でまとめたノートを見て最終調整をする。

 ちなみに雪乃が理系担当で俺が文系担当という具合に分けている。

 流石に雪乃も復習程度はしなければいけないだろうという俺の考えからこうやったんだが……リアルにこいつはいつ復習をしてるんだ。

 共通因数の説明が終わり、雪乃は疲れ切った表情だが由比ヶ浜はもっと疲れている。

「とりあえずここまでが今回のテスト範囲よ」

「お、終わったー!」

「お疲れさん」

 テーブルに突っ伏し、由比ヶ浜は背筋を伸ばすが何故か雪乃は俺にもたれ掛ってくる。

 いや、俺としては嬉しいんだけどさ…………今回こそ雪乃にテストで勝ってやる……そうすれば俺はまた雪乃に一歩近づけるんだ……よし。

「あ、お兄ちゃんだ~」

「小町……と彼氏」

「彼氏じゃないよ~。ただの友達だって」

 気合を入れ、勉強を再開させようとした時に小町の声が聞こえ、顔を上げると小町の隣には前に見かけた男子が立っており、俺に会釈をしてくる。

 なんだ彼氏じゃないのか……よかったなおやじ。絶望しないで済みそうだ……でも男子の顔初めてみたけど誰かに似てるな……誰だ?

「んん? あ、どうも~」

「やっはろ~」

 どうやら小町は由比ヶ浜と知り合いらしく挨拶をする。

 なんだ? なんで由比ヶ浜も小町も知り合いなんだ? いつから……まぁ、どうでもいいや。

「雪姉久しぶり!」

「ええ、久しぶりね小町ちゃん」

 リアルに雪乃と小町は俺に対して何かしらの秘密条約を結んでいる気がする。

「あ、ここ座りなよ」

「ありがとうございます~。大志君も」

「あ、はいっす」

 由比ヶ浜が席を詰め、その隣の小町が座り、またその隣に大志と言われた男子が座った。

「こちらは川崎大志君。小町と同じ中学校なのです」

「どうも川崎っす」

「実はさ、総武高校にお姉ちゃんがいるんだけど最近、不良化したらしくってその相談を受けてたの」

 そう言われ、ようやく似ている人が分かった。

 ……思い出したぞ。こいつ、今日突然俺に短期バイトしないかって誘ってきた女子にそっくりだ! それに弟が小町と同じ学校だって言ってたし、こいつで間違いないな。そうか、あいつ川崎っていうのか。でもあんまり不良っぽさは感じなかったけどな。

「へ~……で、なんでここにいんの」

「だ~か~ら~。大志君のお姉さんがどうやったら元に戻るかってのをお兄ちゃんに相談しに来たの!」

「そんなもん家族で話し合うしかないだろ」

「そうなんすけど母さんも父さんも共働きで忙しくて姉ちゃんのこと構ってやれないし、下に弟と妹もいるんでなかなかそんな家族会議っていうものが出来ないっていうか」

 なるほど。家族も多いし両親も共働きだからあまり川崎姉に構ってやることもできないと。

「それでどんなふうに変わったのかしら」

「最近はなんか朝帰りっていうか……両親に何してるんだって聞かれても何もないとか言ってケンカしだすし……姉ちゃん中学の頃は本当に真面目だったんっす。総武高校に行くくらいだから……でもなんか2年になってから急に変わったっていうか」

「でも高校生だったら夜遅くに帰ってくるのって普通なんじゃないの? あたしも夜遅いし」

「朝の5時とかなんす」

「夜じゃなくて朝だな」

 ていうか朝の5時に帰ってくるって彼氏でもできたんじゃねえの……でも総武高校に来るくらいに真面目だったらしいから急に2年生から不良になることもないか。

「それに姉ちゃん宛になんか変なとこから電話とかも来るんすよ」

「変なところって?」

「エンジェルなんとかっていう所からっす。それに店長とか言ってて」

「……それ明らかにバイト先の店だろ」

 でもそうなるとまた別の問題が出てくる。18歳未満は夜の10時以降はバイトのシフトは入れられない様になっていたはずだ。ということは川崎姉は年齢を詐称して働いていると言う事になる。

「俺もそうかなって考えたんすけどまだ姉ちゃん17だし」

「お前の家の事情聴かせてもらったけどそれが一番妥当だろ。兄妹も4人いて両親が共働き。高校生にもなったら自分の小遣いくらいは自分でって感じに思うだろうし」

「そうなんっすけど……だったら姉ちゃん、なんで親にも俺にも話さずにやってるんだってなるんすよ」

 まぁ、それもそうか……。

「家庭の事情……どこの家にもあるものね」

 そうボソッと呟いた雪乃の表情は今の大志以上に暗いものだった。

 ……俺は長年こいつと一緒にいるけど家族の深いことまでは知らない。姉がいて両親がいて親父さんが議員で会社の社長してて金持ちっていう事くらいしか知らない。その深いことを知っているのは隼人くらいだろう。

 …………待てよ……使えるな。川崎から短期バイトやらないかって言われてるし……。

「要するに何で家族に黙ってバイトしてるかってのを知りたいのか?」

「そうっす。あとできれば……夜遅くのバイトもやめてほしいというか」

「でも結構難しいんじゃない? バイトするときってお金欲しい時だし」

「え、そうなの?」

「……だからヒッキーはヒッキーじゃん」

「良いんですよ結衣さん。お兄ちゃん専業主夫になるし。ね、雪姉」

 小町がそう言うや否や雪乃は頬を少し赤くして俯く。

 その様子を見て俺も小町の言っていることをようやく理解し、同じように頬を少し赤くして視線を逸らす。

「んん! とにかくだ。大志の件、俺は受けても良いと思うけど」

「何か解決策のあてがあるの?」

「まぁ、あることはある……ただ、動き出すのはテスト終了後になるけど」

「それでも良いっす! よろしくお願いします!」


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