俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
「八幡! これから僕たち夫婦だね!」
「…………は?」
「八幡。お風呂にする? ご飯にする? それとも……僕という名のごはんにする?」
「はっ!」
今すさまじい夢を見た気がし、布団から飛び上がるように上半身を上げると小鳥のさえずりが聞こえてくる。
本来ならそれで癒されるんだろうがどこかそのさえずりは呪いの声にも聞こえる。
今さっき見た夢の内容は全く覚えてないがそんなに嫌な夢でも見たのかさっきから汗がダラダラ流れてくるし、寝間着も汗を吸い過ぎてぴったりと肌にくっついている。
…………何の夢を見たんだ俺は…………。
「やっと起きた~。随分魘されてたんだよ?」
横を向くと心配そうな表情の戸塚が座っていた。
「あ、あぁ悪い……みんなもう行ったのか」
「うん。まだ時間的には余裕あるけどね」
汗をタオルで拭きながら寝間着から普段着に着替える。
あんなにも汗をかくほどの夢っていったい何なんだ……気になるが何故か思い出してしまうと何かを失うような気がして思い出すのが憚れる。
「八幡、夏休みだからって不規則な生活してるでしょ」
「ん~まあ夜遅くまで本読んだりな」
「あ、そうなんだ……でも夜遅くまで読んでると体に悪いよ?」
「そうなんだけど集中するとついついな」
「僕もあるな~。テニスの練習してるといつの間にか夕方になってたりするし。あ、そうだ! 今度テニスしようよ! 八幡、経験者だし!」
「おう。また連絡くれ」
と言ったところで俺は少し後悔した。
ま~たいつもの癖が出ちまったよ……雪乃以外の人間とあそんなことがない俺だからな。どうしても他人との誘いは受け身というか自分から行こうとはしない。まあ行く気はしないんだが。
「うん! じゃあ連絡先教えて」
…………目覚まし兼ゲーム機能付き雪乃との子機としか使っていなかった我が携帯に戸塚のアドレスが加わるのか……なんてことだ……なんてことだ!
「お、おう。これな」
「えっと」
アドレスを表示した画面で戸塚に渡すと慣れていない手つきでボタンをポチポチ押していく。
にしても何気に俺の携帯にアドレス増えていくよな。雪乃だろ、由比ヶ浜だろ、家族だろ……あと平塚先生……あと誰か忘れているような気もするが……まあいいか。
「うん。登録完了、じゃ行こうか」
「おう」
ビジターハウスの食堂へ入ると小学生の姿は見当たらず、平塚先生と奉仕部の面々、そして隼人グループのメンバーが既に朝食を食べていた。どうやら俺達が最後らしい。
「あ、おはよ! ヒッキー!」
「おう」
「おはよう、八幡」
「あぁ、おはよ」
由比ヶ浜と雪乃との挨拶を終え、俺達の分の朝飯が置かれているテーブルへつこうとするが2つの朝飯が雪乃がいるテーブルと小町が座っているテーブルに分かれていたが戸塚が何も言わずに小町の方へ行ったので俺は雪乃と由比ヶ浜がいるテーブルに座り、朝食を食べ始めた。
海苔に納豆、白飯、焼き魚、デザートにオレンジ……どっかのホテルで出てきそうなメニューだな。
白飯に納豆をぶちまけ、食べていく。
やっぱり納豆と言えば白飯だよな……ここにしょうゆがあればもっといいんだが……贅沢はいかんな。
「八幡、お代わりは」
「あ、頼む」
俺がそう言い、雪乃が茶碗を掴むと同時に由比ヶ浜も何故か茶碗を掴んだ。
「あ、あたしやったげる!」
「あら、由比ヶ浜さん。大丈夫よ」
「ゆきのんこそ大丈夫だよ。ほら、ゆきのんって体力無さそうだからちゃんとここで温存しとかないと」
「あら。由比ヶ浜さんの方こそちゃんと体力温存しておかないと」
2人とも表情は笑顔そのものなんだが2人の間でバチバチと火花が散りまくっているような気がするのは俺の気のせいだと言う事にしておこう。
あと先生が読んでいる新聞紙に穴をあけてそこから片目だけで睨み付けてきているのも無視しておこう。
結局ジャンケンの結果、雪乃が勝ったことでようやく俺は2杯目の白飯にありつけ、海苔と焼き魚で白飯を食べた後、デザートのオレンジを食べ、由比ヶ浜が入れてくれた並々はいっているお茶を飲んだ。
「よし。全員食べ終わったな。今日の予定を伝える。小学生たちの予定は夜までは自由時間を過ごし、夜からはキャンプファイヤーと肝試しがあるから君達にはキャンプファイヤーの準備と肝試しでのお化け役をしてほしい。お化け役の用意は準備してくれているから安心したまえ」
キャンプファイヤーね……火を囲って宇宙人召喚の儀式みたいな変な踊りして何が楽しいのやら。
「ではいくか」
その声とともに俺達は立ち上がって先生の後ろについていき、外へと向かった。
いくら山の中で涼しいといえども日中の日差しを受け続けていれば汗も流れてくる。
男連中は平塚先生にレクチャーを受け、いくつかの係りに分けられ、キャンプファイヤーの準備を行っていき、女子連中はキャンプファイヤーの囲い木を中心にして白線で円を描いていく。
木を割っては積み上げ、割っては積み上げの単純作業をしていく。
「……こんなもんか」
「そうだな」
後ろを振り返れば隼人がいた。
「連中は」
「みんな仕事を終えて自由時間だよ。俺は部屋に戻るけど八幡は?」
「……いや、俺は適当に歩く」
そう言い、隼人と分かれて本当に適当に歩いていると川のせせらぎが聞こえてきたのでその音がする方へ向かうとそれはとてもきれいな水が流れている川を見つけた。
流石は山の中にある川だ。ここから見ても底が見えるくらいに綺麗だ。
川の近くまで行き、手ですくって顔にあててみると冷たい水がどこか心地いい。
「つっめたーい!」
「もう小町ちゃん!」
そんなキャピキャピした声が聞こえ、少し歩くと水着姿の小町と由比ヶ浜が水の掛け合いっこをしていた。
なにやってんだ。
「あ、お兄っちゃーん!」
「ヒッキー!」
「お前ら何してんの」
「先生が川で遊べるから水着も持ってきていいって言ってたから」
そんなこと聞いてねえし……まあ俺、泳げないし川で遊ぶのも嫌いだから別にいいんだけど。
「ところでどう? 新しいの下ろしてきたんだけど」
そう言いながら小町はイエローのフリルが付いたビキニを惜しげもなく見せるように色々なポーズをとって俺に見せてくるが正直、妹の水着姿などどうでも良い。
「あ、うん。宇宙一可愛いよ」
「うわぁ。適当だな~……じゃあ結衣さんは?」
そう言われ、由比ヶ浜の方を向くとどんなポーズを取ろうか悩んでいるらしく、いくつかポーズをとっては首を左右に振っている由比ヶ浜の姿が見えた。
お前はいったい何と戦っているんだ。
「ど、どう?」
恥ずかしそうにしながらも胸元を強調するように前かがみになる。
…………ま、まあ胸がある程度大きい奴の秘密兵器だわな。
「まあ、良いんじゃねえの」
「……反応薄いと」
ボソッと由比ヶ浜はそう言うとふたたび後ろを向いて1人作戦会議を行い始める。
忙しいやっちゃな。
「八幡」
「…………」
雪乃に呼ばれ、後ろを振り返るが雪乃から目が離せなくなってしまった。
透き通るような白い肌、くびれた腰、綺麗な脚線美と昔から水着を何回も見ているはずなのになぜか今の雪乃の水着姿から目を離せなくなってしまった。
……な、なんか年々凄くなってるような。
俺にじっと見られていることが恥ずかしいらしく、雪乃は顔を少し赤くしながらパレオで隠す。
「そ、そんなに見られたら恥ずかしいわ」
「あ、わ、悪い……そ、そのき、綺麗だぞ」
「っっ! あ、ありがとう」
煩悩退散するべく、川の水をすくい上げて自分でも引くくらいの凄い勢いで顔にバシャバシャ水をぶっかけて雪乃の水着姿を見たことで現れた煩悩を退散していく。
煩悩退散煩悩退散! いかんいかん……ヤ、ヤバい。自己発電機がムクムクと起き上ってくる!
「何をしているんだね君は」
後ろからそんな呆れ気味の声が聞こえ、振り返ると白いビキニを着た先生がいたが何故かそれを見ると起き上がりかけていたあれが眠りについた。
…………失礼にもほどがあるから言わないでおこう。
「平塚先生……流石は先生。成熟しきった美しさがあるっすね」
「……ほぅ。それはつまり私はもう成熟しきっておりこれからかれるしか運命がないと言う事を暗示しているのだな。よーし比企谷! 一発死んでこいやぁぁぁぁ!」
「がはっ!」
平塚先生の凄まじいシズナックルが俺の腹に直撃し、全身に衝撃が走り、痛みのあまり両膝からガクッと地面に落ちてしまう。
こ、これがシズナックル……しかもシズファイトに入っているから攻撃力は10倍!
そんな小芝居をやっていると向こうの方からビキニを着た三浦と競泳水着の海老名さんが楽しそうに喋りながらこちらへと歩いてくるが雪乃の隣を通り過ぎ様に胸元を見て小さくガッツポーズをして去っていく。
…………まあ……な。
「何故、今三浦さんは私を見てガッツポーズをしたのかしら」
「まああれだ……雪乃。俺は気にしないぞ」
「そ、そうですよ雪姉! 女の魅力はそこだけじゃないし!」
「小町ちゃんの言う通りだよゆきのん! ゆきのん肌スベスベだし髪も全部綺麗だから総合的にはゆきのんが勝ってるっていうか……全体的な評価は部分的な評価に繋がらないっていうし!」
「いや、多分だけどそれ逆だ」
「へ? ほんと?」
「女の魅力? 気にしない? 部分的……っっ!」
ようやく気付いたのか雪のは胸元を隠し、俺達を軽く睨み付けてくる。
「……ハ、八幡は……ど、どっちが好きなのかしら」
「お、俺!? お、俺は」
何か言おうとした時、チラッと由比ヶ浜の方を見てみるとあいつもあいつで答えが知りたいのか真剣なまなざしで俺を見てくるし小町は小町で何か面白そうなことでも起きるのを待っているかのような顔つきで俺達を見てくる。
「お、俺はそんなの……大きいも小さいもどっちでも良いっていうか」
雪乃なら大きかろうが小さかろうがどっちでも良いっていうか……。
「そ、そう……ふぅ」
「そっか……ちっ」
おい、今明らかに舌打ちした奴いたよな。
そんなこんながありながらも雪乃も由比ヶ浜達と一緒に控えめにだが川で遊んでいる。
俺はそんな様子を保護者の様に見守りながら木の幹にもたれ掛り、木陰の涼しさを満喫している。
俺はあまり大人数でワイワイとはしゃぐのは嫌いだ。大体、1人で遊ぶかグループの隅の方で只々時間が過ぎるのを待っている。
ま、まあ雪乃と一緒に遊ぶときは別問題だがな。
そんなことを思っていると脇の小道からざっと足音が聞こえた。
足音が聞こえた方を向くと鶴見留美と同じグループにいた女の子3人がそこにはいた。