俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
――――出会いがあれば必ず別れがある。
――――大切に飼っていたペットとの別れ
――――クラスメイトとの別れ
――――そんな当たり前のことを俺は考えていなかった
――――いや、もっと遠く未来のことだと思っていた。
小学校に入学してあっという間にに6年間が過ぎた。
ずっと本を読んでいた俺に初めてできた友達……っぽい雪乃や隼人、陽乃さん達と出会ってから今まで本しか読んでいなかった俺にとって新鮮味しか感じない数年間だった。卒業式では陽乃さんが勝手にサプライズソングを先生たちに歌いだして号泣記者会見ならぬ号泣卒業式になるわ、隼人と一緒にいたから女子たちの冷ややかな視線が来るわ、雪乃に無理やりルーム長を一緒にやらされるわ、実行委員会に一緒に行くわとグルングルンに振り回された3年間もあっという間に終わり、卒業式すら終わってしまった。
そんなわけで雪乃と写真を撮ろうと雪乃を探すが姿がどこにも見当たらず、校舎の周りを俺はグルグル何周もしていた。父さんと母さんは卒業式までは来れたけどあとは仕事がつっかえているらしく俺を残して帰っていった。もちろん写真は撮ったけど。
「どこ行ったんだ雪乃……もしかして帰ったか?」
そうは思ったがそれはないだろうと考え、もう1周回ろうとした時。
「あれ、八幡?」
「ゲッ、隼人」
名前を呼ばれ、振り返るとそこには学校1のイケメンともてはやされ続けた葉山隼人が大量の封筒を抱えてポカーンとした表情で立っていた。
こいつ、またラブレター貰ったのかよ……リア充が。こっちは大変だったんだからな。バレンタインのチョコやラブレターの中継役にされて勘違いしまくったわ!
「こんなところで何してるの?」
「何してるのって雪乃探してんだけど。あ、どこ行ったかしらね?」
そう言うと隼人は驚いたような表情で俺の方を見てくる。
「……知らないのか?」
「知らないって何を」
そう言うと隼人は一瞬、迷った表情を浮かべるが決めたのかまっすぐ俺の方を見て俺が知らず、隼人が知っていた事実をそのまま伝えた。
その話を聞いた瞬間、俺は考えるよりも先に雪乃の家めがけて全速力で走り始めた。
曲がり角は少し速度を落としながらもひたすら走り続け、信号は車が通っていなかったらいけない事とはわかっていながらも無視し、走るがろくに運動もしていない俺の体力が続くはずもなかったけどどうにかして雪乃の家の前に辿り着いた。
「ハァ、ハァ…………遅かったか」
『雪乃ちゃん、小学校を卒業したら海外に行くんだ。俺には連絡が来たんだけど』
「なんで……何で教えてくれなかったんだよ」
雪乃が俺に教えてくれなかったことに対しての怒りよりも雪乃に信頼されていなかったという怒りの方が遥かに大きく、俺は信頼に値しなかった俺自身が憎かった。
もっとあいつと一緒にいれば信頼されたのではないか、もっと雪乃と向きあえば……そんな後悔の念が襲い掛かってくるなか、後ろで自転車のブレーキの音が聞こえ、振り返ると息を切らした隼人がいた。
「んだよ」
「八幡、乗れ」
「何言ってんだよ……もう間に合わねえだろ」
「さっき雪乃ちゃんを公園で見かけたって友達が言ってたんだ! 早くしないと一生後悔するぞ!」
そう言われ、自転車の後ろに乗り、肩の辺りを掴む。
流石は運動している隼人。俺という荷物を載せても普段と変わらない速度で自転車を走らせる。
自転車はぐんぐん速度をあげていき、あっという間によく雪乃と一緒に遊んでいた公園に到着した。隼人に礼を言い、公園に入るとブランコに乗っている雪乃の姿が見え、はやる気持ちを抑えながらゆっくりと近づいていく。
俺の足音に気づいた雪乃が顔を上げ、目があう。途端に雪乃は顔を伏せ、ブランコから離れて俺の隣を通り過ぎて行こうとするがその手を掴んだ。
「離して」
「……なんで言ってくれなかったんだよ」
俺の問いに雪乃は何も答えない。
「雪乃…………」
「…………から」
「え?」
「八幡の顔を見たら…………離れたくないって思うから言わなかったの…………やっと……やっと決められたのに………ずるいよ、八幡」
そう言いながらこちらを向いた雪乃の顔は涙でグシャグシャになっていてそれを見ただけで雪乃がどれほど離れたくないかが分かった。
雪乃は涙を流しながら俺の胸に飛び込んでくる。
震えている雪乃の体を抱きしめようとするが、ここで雪乃を抱き留めてしまったらせっかく決めた雪乃の気持ちを壊してしまう気がした。伸ばしかけた手を歯を食いしばって降ろし、その肩を優しく持って少し離した。
「はち……まん?」
「…………雪乃………………また会える」
「え?」
「必ずまた会える。俺達はずっと一緒だってあの時、おまじないしただろ…………絶対にまた会おう」
そう言いながら小指を軽くたてると雪乃は服の裾で流れ出てくる涙をぬぐいながら小さく笑みを浮かべ、細くて綺麗な小指を俺の小指に絡ませる。
「約束…………また会いましょう、八幡」
「あぁ……約束…………また会おう、雪乃」
雪乃の手を握り、車が止まっている公園の出口まで一緒に歩き、開けられている扉の前で握っていた手から力を抜くとスルスルと雪乃の手が離れていく。
扉が閉められ、ゆっくりと車が進み始め、それを追いかけるように歩き出すが徐々に車が速度を挙げていき、追いつけなくなり、そのまま雪乃を乗せた車が交差点に消えた。
「…………やっぱりだめか」
「何がだよ」
そう言いながら隣にやってきた隼人の表情はどこか諦めたような顔をしており、どこかその眼はいつも見る隼人の目よりも涙で潤んでいるように見える。
こいつがこんな表情するなんてな……いったい何があったんだか。
「いいや、こっちの話だよ…………春休み明けたらもう中学生か……早かったな~」
「……そうだな………隼人」
「ん?」
「…………あ、ありがとう」
そう言うと隼人は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をして俺を見てくる。
「……珍しい。八幡が俺にお礼を言うなんて」
「馬鹿言え。俺だって真人間だっつうの。いつもは嫌いな奴でもお礼くらい言うわ」
「ちょっと考え方が腐った真人間だけどな」
互いに冗談を言い合いながら俺達は進んできた道を戻っていく。
また会える…………世界は繋がっているんだし。
途中で隼人と分かれ、ボチボチ歩きながら家に帰ってくると郵便受けから封筒のようなものがはみ出ていたのでそれを取って家に入るが皆出かけているのか明かりはついていなかった。
とりあえず居間に入り、ボフっと音をたてながらソファに深く座り、郵便受けに入っていた封筒を開けてみると中には今まで遊びに行った際に撮った写真が入っていた。
「……雪乃からか…………ははっ」
思わず写真を見て笑ってしまう。
遊園地行った時の写真を見たら陽乃さんが観覧車ガタガタ揺らしてたのを思い出すわ……植物園に行った時の写真見たら俺がイヤだって言っているにもかかわらず虫が付いた花を持ってくるわで楽しかった思い出がドンドン奥底から溢れてくる。
雪乃と陽乃さんはちょっとよく分かんねぇけど…………楽しかったな……雪乃……。
思い出が溢れてくるとともに今になって目から涙が溢れて来て写真にポタポタと涙がこぼれていく。
結局、雪乃の前だからあんな格好いいこと言ったけど…………やっぱり俺も…………雪乃が遠くへ行くのは嫌だ…………ずっと傍で一緒に…………。
俺は笑った雪乃の写真を見ながら当分、聞こえることのない彼女の声を必死に思い出して楽しかったあの頃の思い出に浸り続けた。