俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第三十二話

 肝試し大会から30分ほど経ち、小学生共は俺達が汗水流して制作した木の積み木を中心にして手をつないで円になりながら歌を歌っている。

 どいつもこいつも楽しそうに笑みを浮かべながら大きく口を開けて歌っている。

 俺が小学生の頃と言えば雪乃と隼人くらししか喋っていなかったから知らない奴が両隣に来ても俺のあの伝説ともいえる出来事を知っている奴は誰も手をつなごうとしなかったからな……まあ、そいつらの間に雪乃は無理やり君に入り込んできたわけだが。

 

「おっ? ここにモ〇ラ谷君がいるではないか」

「さしずめ先生は小美人すか? 綺麗に歌ってくださいよ」

「良いだろう。モ〇ラ~や」

「あ、いややっぱいいっす」

 流石にアラサーの良い女性が特撮作品に出てくる歌を歌うっていうのはちょっと無理がいだダダ!

「貴様、今失礼なことを考えただろ」

「か、考えてません」

 

 どうやら先生はマ〇トラ、またの名を見〇色の〇気が使えるらしく、俺の失礼な考えを読み取ると首の骨が折れるんじゃないかと思うくらいの強さのヘッドロックをかけてくる。

 ていうか中々、先生も好きなんすね。まあ、あの世界に誇る怪獣王に出てくる怪獣だから有名っちゃ有名か……ちなみに最後の作品は俺はあれはあれで好きだ。

 

「ところで孤立していた子はどうなったのかね」

「…………まあ一応は繋がりってやつを受け入れることにしたみたいっすよ」

「そうか……それは大事なことだからな。どうも最近の若者はフィーリングだけで決めようとするきらいがある。勉強もそう、対人関係もそう。一度触れ、傷つくことで分かることもあるのだがな」

 先生はそう言いながらご立腹の様子でその豊満な胸を寄せるかのように腕を組む。

「まあ、あれっすよ……俺も含め、最近の若者は傷つかずに欲しいんっすよ」

 

 傷つかずして……何の苦労もしないで自分を認めてくれる、もしくは自分を好意的に見てくれる存在が欲しいのだ。何も努力せず、彼女欲し~とか言っている奴だったり……誰もが傷つくことを恐れているんだ。

 

「だがお前は傷つくことで分かったこともあるんだろ? それを似たものに教えれたのは十分な功績だ」

 

 傷つくことで分かったこと…………俺は何もわかっちゃいないさ。だから今でも隼人は雪乃以外の人間と深く関係を掘り下げようとしない。隼人はもともと今みたいなやつだったから除外したとしても……正直、俺も雪乃も互いに依存してるきらいがあるからな……そこまで分かってるくせに俺は関係を掘り下げようとはしない。

 雪乃と出会ってから変わったとみるべきか、それとも雪乃と出会う前のあの時の俺の状態をそのまま引き継いだとみるか……今はどっちでも良いか。

 

「なんにせよ、答えは今は誰にも分らんよ。君がやったことがあっているか否かはな」

 そう言って先生はどこかへと行った。

 …………人生なんて生きてる間には分からない問題だよな。

「八幡」

「雪乃……お疲れ」

「ええ。八幡もお疲れ様」

 

 …………この雪乃の笑顔を見ていると……依存関係なんてどうでも良いって思ってしまうくらいに俺は雪乃にどっぷりと惚れているというわけか。

 

「雪乃?」

 急に雪乃に手で目を覆われてしまい、目の前が真っ暗になる。

「いきなり何を」

「フフ、少し待っててちょうだい」

 そう言われ、少し不安になりながらも待っていると何人かがこっちは近づいてくる足音が聞こえてきた。

「っぉ!?」

『お誕生日おめでとう!』

 

 目隠しが取られた瞬間、クラッカーが鳴る音が次々に聞こえるとともに目の前に小さなケーキが見えた。

 …………あぁ、そういや俺、誕生日じゃん。

 

「本当は昨日の晩御飯の時にしようって思ってたんだけどね」

「ヒッキーもう17歳か~。早いね~」

「おめでとう、八幡」

 

 発起人は小町か雪乃辺りと考えてもこんなケーキやサプライズを考えたのは隼人、由比ヶ浜、戸塚あたりか。

 家族か雪乃にしか祝われたことがない俺が他人に祝われるなんて……初めてか?

 

「ほらほら、早く消して」

「お、おう」

 

 由比ヶ浜に急かされ、ろうそくの火を吹き消した瞬間、パシャッとシャッターが着られる音がするとともにフラッシュがたかれた。

 

「記念の一枚だ。取っておきたまえ」

「は、はぁ」

 どこからカメラ持ってきたんだという突込みは無しにしておこう。

「八幡、誕生日おめでとう」

「……あぁ、ありがとな」

 

 雪乃の胸にこの前、俺があげたネックレスが見え、どこか恥ずかしくなってしまい、頭をガシガシかきながらみんなと一緒にケーキを食した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん~! 楽しかったねー!」

「そうだね。またみんなで来たいかも」

「もしまた行くことが合ったら小町も誘ってほしいです!」

 

 合宿最終日、俺達は小学生たちがバスに乗ったのを確認してから各々の荷物を車のトランクに押し込み、運転手が来るまでの間、集まっていた。

 2泊3日……案外長いようで短かったな……また今度、雪乃と……由比ヶ浜とかも誘ってみるか。まあ、機会があればの話だけどな。

 にしても俺、夏休み意外と謳歌しちゃってるな……とりあえず家に帰ったらゴロゴロしよ。

 

「八幡」

「ん?」

「八幡から見て留美ちゃんの進んだ道はどう見える?」

 

 皆から少し離れた所で隼人にそう尋ねられて少し考える。

 俺から見た留美の進んだ道ねえ…………。

 

「どうとも言えねえよ。人の生き方は千差万別だし…………まあ、ただ人生が潰れるようなことは無くなったんじゃねえの?」

 

 人との繋がりが出来た以上、留美を支えてくれる存在はいつか出てくるはずだろうからな。俺にとっての雪乃のような存在がいつか必ず出てくる……そう俺は信じてる。

 

「そっか…………八幡も雪乃ちゃんも楽しそうで何よりだよ」

 そう言い、隼人は車へと戻っていった。

 …………楽しそう……か。隼人の目にそう映ったのなら本当にそうなんだろうな。

「お兄ちゃーん! そろそろ行くよー!」

 小町に呼ばれ、俺も平塚先生のバンに乗り込むとゆっくりと走りだし、俺達が住む町へと走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暑~い」

「山の中でしたしね~」

 

 由比ヶ浜のウザったそうな声に小町も服をパタパタして中に風を送りながらそう言う。

 山の中と都会じゃこんなにも温度差があるとは……マジでもうビル一戸建てたら5本くらいの木を植えるようにしてくれよ。それなら温暖化とか暑さ問題とかどうにかなるだろ。

 車から荷物を降ろし終わり、各々疲れが残っている体を伸ばす。

 

「みなご苦労だったな。帰宅するまでが合宿だ。事故の無いように帰るように…………特に比企谷はそのまままっすぐ家に帰るようにな」

 

 先生が嫌な笑みを浮かべながら真黒な目で俺を見てくるがとりあえず俺の中で俺の為を思って行ってくれているものだと変換しておこう。

 

「お兄ちゃん、小町は先に帰っているのでイチャイチャしながら」

「京葉線とバスで帰ろうぜ。なんかもう疲れた」

 俺に遮られたことがそんなに気に食わないのか小町は頬を少し膨らます。

「ぶぅー。雪姉もどう?」

「そうね。途中までは一緒に帰りましょうか」

「あたしと彩ちゃんはバスかな」

 

 そんなわけで帰路につこうと別れの挨拶をしようとした瞬間、スーッと静かにバリバリ見覚えのある……というか何度も世話になった黒塗りのハイヤーが俺達の目の前に横付けされた。

 運転席にはあのダンディーな運転手こと都築さんが降りてきて俺達に軽く一礼した後、ドアを開ける。

 見慣れたとは思っていたがやはり人は年月が経てば変化するもの。

 

「ハロ~!」

 真っ白なサマードレスに身を包んだ陽乃さんのハイテンションな声が響くとともにどこか小春日和のような心地いい風が吹いた気がした。

「姉さん……」

「え? ゆきのんの……お姉さん!?」

「雪乃ちゃん夏休みになったら帰ってくるって言っていたのに中々帰ってこないから迎えに来ちゃった」

 

 陽乃さんはいつも通りのハイテンションぶりで雪乃にベタベタ引っ付くが雪乃はどこか強張った様子で心底鬱陶しそうな顔をしながら陽乃さんを押しのける。

 俺には絶対に見せない表情……本当に昔からこの姉妹はよく分からない。

 

「八幡も久しぶり! イケメンになっちゃってー!」

「前に会ったでしょ」

「グフフフ……ところで雪乃ちゃんとはどこまで進んだのかね? A? B? あ、もしかしてZまで行っちゃった!? もう八幡たらだいたーん!」

「あ、あのヒッキー嫌がってるんで!」

 由比ヶ浜がやたらと俺の腹を肘で押してくる陽乃さんと俺の間に立つと陽乃さんはジトッと由比ヶ浜を見る。

「お~新キャラだね。雪乃ちゃんのお姉ちゃんの雪ノ下陽乃です。よろしく」

「ご、ご丁寧にどうも……ゆきのんの友達の由比ヶ浜結衣です」

 その友達という一言に陽乃さんはピクッと眉を動かす。

「友達…………なんだかんだ言って雪乃ちゃんもちゃんと友達作ってるんだね~。えらいぞ~」

「やめてちょうだい」

 

 陽乃さんが雪乃の頭を撫でようとするがピシャッと雪乃に言われ、思わず手を引いた。

「ごめんね~……ほら行くよ。お母さんも待ってるし」

 

 そう言われ、雪乃は体を強張らせ、拳を握る。

 ……俺は彼女の内面のことを全くと言っていいほど知らない。特に家族のことは。

 

「八幡とイチャイチャデートしたいのは分かるけどちゃんと帰ってこなきゃダメだよ。まだお母さん、雪乃ちゃんが1人暮らししてること許してないんだから」

「陽乃。そこらへんにしとけ」

「おっ! 静ちゃん久しぶりー!」

「その呼び方はやめろ」

「お知合いなんすか?」

「昔の教え子だよ」

 教え子……3年離れてるから俺達が入ってきたと同時に卒業したのか。

「ごめんなさい、小町ちゃん。せっかく誘ってもらったのだけれど」

「ううん! また今度!」

「ええ、そうね…………由比ヶ浜さんもまた学校で」

「う、うん。また学校でね」

「……八幡も」

「……あぁ」

 

 そう言い、雪乃が背を向け、車に乗り込もうとした時に彼女の手を取ろうと腕を伸ばすが偶然か否か、俺と雪乃を遮るように陽乃さんが割り込んできて俺の手は雪乃から離れた。

 陽乃さんに背中を押されるように車に乗り込んだ雪乃の表情はここからは窺い知れない。

 2人が乗ったのを確認した都築さんは俺に一礼した後、車に乗り込み、雪乃の実家へと向かって車を走らせ始めた。

 …………またこの時期が来るのか。

「小町、行くぞ」

「う、うん」

 


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