俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
楽しかった夏休みも過ぎ、未だに蒸し暑い日が続く中、教室はそれ以上に熱気を帯びている。
その理由はもう少しすれば総武高校の目玉行事ともいえる文化祭が始まるからであり、カップルはどこへ行こうかなどと今から考え、友達がいる奴は友達とどこを回るかなどを考えている。
俺はと言うと雪乃に告白することでいっぱいだ。まあもちろん、実行委員をやるけとも頭にはあるが少ししかない。やはり屋上だろうか…………とりあえず文化祭の実行委員になるところから始めるか。
ちょうど今はHRだが文化祭での役割決めが行われており、最初はルーム長が取り仕切っていたがもともとそういう性格ではなかったのか流されていき、最終的に隼人が仕切っている。
「じゃあ、今回の花形ともいえる文化祭実行委員だけど誰かやる人居るかな?」
そう言いながら隼人はチラッと俺の方を見てくる。
どうやら俺が文化祭で何をしようとしているのかを理解しているらしい。そして海老名さんが鼻息をふんふん鳴らしてこっちを見ているのはあえて無視しておこう。何かを無くしそうだ。
「俺、やるわ」
「八幡ね。他に誰かいるかな」
周囲の驚きをスルーし、隼人が周りに尋ねるが文化祭実行委員などというルーム長並に面倒くさい仕事をしようなどというやつはこのクラスにはいないだろう。無論、俺も雪乃がいなければそこらへんにるボッチでしかなかっただろうしな。
黒板に俺の名前が書かれるが相方となる女子のメンバーがまだ未定で隼人が全員に尋ねるが誰も手を上げるどころがあれだけ毎日、隼人で色めき立っている奴らが珍しく視線を逸らしている。
「あたし、由比ヶ浜さんが良いと思うんだ」
そんな声が聞こえ、声がした方向を見ると、窓際に座っている女子が俺の方を笑みを浮かべながらそう言っているがその近くに座っている女子数人がそれとは真逆の嫌な笑顔を浮かべている。
あぁ、あの笑みは知っているぞ……あの笑みは見下している時の笑みだ。
「え、えぇ!? あ、あたし!?」
「うん。だって由比ヶ浜さんって彼と同じ部活なんでしょ? いつも一緒にいるから仕事もやりやすいんじゃないかなって思うの」
そいつの言う事に周りの奴らは由比ヶ浜の方を見ながらうんうんと頷く。
対して由比ヶ浜は少し戸惑いを隠せないような表情でそいつの方を見ている。
珍しい……由比ヶ浜があそこまでハッキリと顔に戸惑いの表情を浮かべるとは…………俺と組むのが嫌だからって様子じゃないし…………。
クラスの空気は由比ヶ浜に流れかけたその時。
「ねえ、隼人」
「ん? どうかした? 優美子」
「これって他の奴を推薦するのもありなの?」
「ありだよ。その人が承諾してくれればね」
「じゃあ、あーし相模が良いと思う」
あーしさんのその一言にさっきまで笑みを浮かべていた相模と呼ばれたやつが一気に戸惑いの表情になるとともにあーしさんの方を軽く睨み付けるがすぐに視線を逸らす。
「な、なんでそう思うの? 由比ヶ浜さんはあいつと一緒にいるから」
「一緒にいるからってなんで文実やんなきゃいけないわけ? 超分かんないんですけど。それに結衣はあーしと一緒に客引きやんの」
「え、えぇ!? いつ決まったの!?」
「たった今」
「今!?」
お前らは夫婦漫才でもやる気か。
「このクラスで超可愛い2人がやれば客もいっぱい来るっしょ。どっかの誰かと違って結衣は気が利くし、優しいから勘違いした男子がコロッとイチコロだし」
…………友人ゆえに理解しているのか、それともただ単に一緒にいる奴だからなのか……まあ多分前者だとは思うけど…………結構、あーしさんははべらせている奴らのことも見ているのね。
「だからあーし、相模が良いと思う」
クラスの女王様の一言に由比ヶ浜に向きかけていた風向きが一瞬にして相模へと向けられ、全員の『さっさとお前やっちゃえよ』的な無言の重圧が彼女の注がれる。
これぞクイーンプレッシャー。なんちゃって。
「相模さん。お願いできるかな?」
「ま、まあ葉山君がそう言うなら……あ、あたしやってもいいよ」
あいつの脳内変換では葉山が頭を下げてお願いしたつもりなんだがどこからどう見てもお前に押し付けられた構図だからな…………まあ、なんにせよあいつと由比ヶ浜に何かあるのは間違いない。友人が多いっていうのもなかなか面倒くさいもんだな。
「そっか。じゃあお願いするね。今日の放課後から会議室で委員会があるみたいだから2人ともよろしく。じゃ、あとのことは姫菜に変わるよ。姫菜、お願い」
「オッケー」
教壇から隼人が降り、交代で海老名さんが立つとルーム長にドサッとホッチギス止めされたクラス分の冊子が渡され、早く配れよと目で訴える。
ルーム長はため息をつき、黙々と冊子を配り始める。
ルーム長が完全に陰に隠れているな……まあ、それほどこのクラスの連中が濃いというかなんというか……まあ海老名さんは濃いどころかドロドロレベルだけどな。
「前の会議でうちのクラスの文化祭出店企画の題目がミュージカルに決まったのは知ってると思うけどその脚本を書いてみたから感想、もらえたらいいかな」
どうやらさっきまで配られていた冊子は台本らしい。
ペラペラとページをめくると一番最初に題材が星の王子様であることが書かれており、次のページから物語が始まっているのだが最初の一行を読んだ時点でほぼ同時に全員がため息をついた。
…………迸る~とか熟れた~とか汗滴る~とか俺にはさっぱり分からない単語が書き連ねられており、男子はほぼほぼ俺と同じような反応だが女子は何人か若干興奮気味な奴もいる。
海老名さんはあれである……これじゃ星の王子さまじゃなくてBLの王子様、略してB王になってしまうではないか。それだけは何としても避けたい……あと最後のページの配役一覧にいささか疑問を抱く。
「あ、あの」
「比企谷君、どうぞ!」
「なんで俺と隼人が主役とヒロインな訳?」
「え? なんで?」
うおっふ。疑問を疑問で返されたぜ………ていうか彼女の中じゃこのお題でこの配役なのは決まりなのね。
「ねえ、女の子は出ないの?」
「え? なんででるの?」
別の質問にも質問で返すという彼女の行動に全員がもう承諾せざるを得ない雰囲気になってきたが俺は何と言われようがこの主人公とヒロインの配役だけは絶対に承諾しない。
なんで俺が隼人と出なきゃいけないんだよ…………雪乃に迷惑がかかるどころか『ま、まさか本当にそんな関係だったのね!? 八幡酷い!』なんて言われかねないぞ。
「姫菜。八幡は文実やるし、会議とかで練習は難しいんじゃないかな」
隼人良いこと言った!
「あ~。それもそうだね…………くっ! 致し方ないけどヒキタニ君配役は中止にして」
何故か苦悶に満ちた声をあげながら海老名さんは黒板に変更点として王子様とヒロインの配役の名前を快苦が結局隼人は変わらず、俺のところに戸塚の名前が新たに加えられた。
と、戸塚がヒロインだと…………うん! 良い!
頭の中で戸塚のヒロイン姿を思い浮かべ、思わずニヤつくのを手で隠す。
「え、ぼ、ぼく?」
「うん。戸塚君、髪も綺麗だし、肌もスベスベだから隼人君の迸る筋肉にあうと思うんだ!」
「俺は脱ぐことは前提なのか?」
隼人のそんな質問などどこ吹く風、海老名さんは独壇場を続ける。
「で、でも僕セリフ覚え苦手だし」
「大丈夫! みんな遅くまで付き合うから!」
チラッと戸塚がこちらを見てきたので頷きながら小さくサムズアップすると小さく笑みを浮かべた。
戸塚スマイルはどっかの慈愛の戦士みたいな精神安定光線を放っているのだろう…………戸塚レクト!
「うん、分かった。どこまで行けるか分からないけどやってみるよ」
「よーし。あとは脚本をちょちょっと変えて2人を濃厚に絡ませてグフフフフ!」
海老名さんの腐った笑顔が後の大変さを物語っているような気がするが終業のチャイムが鳴り響いたので全員、帰る準備をする。
俺もカバンを持ち、教室を出ると由比ヶ浜が後ろからやってくる。
「やっはろ~。ヒッキー、これから文実でしょ?」
「まあな…………多分だけどあいつも文実だ」
「あ、ヒッキーもそう思う? やっぱり今日は奉仕部お休みかな~」
「多分な」
「そっか…………じゃあ、あたしはもう帰るね。バイバイ! ヒッキー」
「ん」
由比ヶ浜とは教室の近くで分かれ、俺は文実の会議が行われる教室へと向かった。