俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第四十三話

 文化祭も2日目に入ったことにより文化祭が一般公開され、総武高を受験しようとする受験生やその保護者、そして祭り独特の雰囲気に充てられて入ってきた親子、はたまた招待されたのか他の学校の制服を着た奴らが多くはいったことによって校舎内外問わずに機能など比べ物にならないほどの人でギュウギュウ詰めになっており、廊下を歩くのにも一苦労する。

 記録雑務である俺はその人混みの中をカメラを持って歩きながら文化祭の楽しそうな様子をパシャパシャと納めていく。

 

「はぁ……人混みの中は嫌いだ」

 その時、背中に衝撃が走った。

「ちゃお! お兄ちゃん! 会いに来たよ~。あ、今のポイント高い!」

「うっせ……今来たのか」

「うん。にしてもやっぱり中学校の文化祭とは違うね~」

「中学のは文化祭じゃなくて文化活動発表会だろ」

 

 なんで中学は合唱を披露するのかね……別に保護者とか呼ぶわけでもなくただ単に他のクラスの連中に歌を披露するのが何が楽しいんだか。それになんで歌っていなかったらあそこまではぶられるのだろうか……ていうかなんで口パクしてたらバレるの? 見られてるの? やだ怖い。

 

「で、お兄ちゃんは何してるの?」

「仕事」

「……ダメじゃん!」

 え? なんで?

「お兄ちゃんは雪姉とイチャイチャするという仕事があるじゃん!」

「昨日……」

 

 昨日、イチャイチャしたことを思わず喋りかけてしまい、慌てて口を閉じるが既に小町の耳に入ってしまったのか嫌な笑顔を浮かべながら小町がこっちを見てくる。

 しまった……。

 

「へぇ。昨日何?」

「イ、イヤ何も」

「またまた~。あ、もしかしてあ~んとかしちゃった?」

 

 あ、あ~んではないよな……い、いや待てよ……あ~んしてもらったな……うん。

 小町に言われ、昨日のことを思い出してまた顔が赤くなるのが自分でもわかる。

 

「んん! ところでお前、見に来たんだろ」

「まあね。じゃお兄ちゃんまた後で!」

 

 そう言い、てってて~と効果音が聞こえるくらいに機嫌良さそうに走りながら階段を上っていった。

 ふぅ…………ていうかなんで小町はあんなにも感が良いのだろうか……考えたらだめだな。

 そう結論付け、再び記録雑務の仕事に戻ろうとするが大勢の人がある方向に向かって一斉に歩き出したせいで逆走できず、結局俺もその波に従って歩いていく。

 まあどうせほとんどの写真は撮ったんだし……このまま休憩するのもありかもな。

 人の波に従いながら歩いていくと校舎を出てそのまま体育館へと向かっていく。

 

「あら、八幡」

「雪乃……何かあるのか?」

「ええ……八幡も見ていった方が良いわ」

 

 そう言われ、雪乃の隣に立って壁にもたれ掛ると体育館の照明が全て落とされ、ステージがライトアップされるとそこには体のラインを強調するような細身のロングドレスを着た陽乃さん檀上中央に立っており、観客を一周見渡すとスカートの両端を少し持ち、淑やかに一礼する。

 その後ろには様々な楽器を持った集団が後ろに座っている。

 タクトを軽く上げ、レイピアを振るうように鋭く振りぬいた瞬間、旋律が走った。

 …………そう言えば管弦楽部かなんかのOGとか言ってたな……有志に参加して友達も呼んでいいかって聞いたのはこれを披露するためなのか……。

 チラッと雪乃の方を見るとその視線はまっすぐ壇上に向かっている。

 まだ……まだ彼女は姉を超えたいのだろうか……小学生の頃から負け続けてもなお……俺には雪乃の本心も陽乃さんの本心も分からない……ただ一つ言えるのは……この姉妹は他の姉妹とは本質が違うという事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽乃さんの演奏の途中で俺達は舞台袖に向かい、エンディングセレモニーに向けた準備で舞台袖を右往左往、忙しく駆け巡っている。

 有志のオオトリは隼人たちのグループが務めることになっており、記録雑務の俺は体育館に設置されている撮影用のカメラのメモリの残量を確認していく。

 流石に残量不足で撮れませんでしたなんて言えないからな……。

 チラッと隼人たちのグループへ視線を向けると全員緊張しているのか普段の雰囲気は感じられない。

 流石にあの大勢の観客の前で演奏するという事を考えれば緊張もするか……俺だったら緊張のあまり失神しそうで怖いけどな。

 視線を戻した時に雪乃がキョロキョロしているのが見えた。

 

「どうかしたのか」

「ええ……相模さんの姿が見当たらないの」

 

 そう言われ、俺も周囲を見渡してみると確かに相模の姿は見当たらない。

 どこ行ってんだか……もうすぐオオトリの隼人たちが始まってそれが終わればエンディングセレモニーで文化祭は終了だっていうのに……。

 

「相模がいないと困るのか?」

「ええ。セレモニーの打ち合わせをしようと思っているの」

 

 現時点で文化祭が進行できないほどの問題に発展していないから雪乃に全ての権限を一任することは無理だな……ただ……まあ今はいいか。

 めぐり先輩も相模に電話をかけているのかしきりに携帯を耳にあてたり、外したりを繰り返しているが繋がらないらしく、とうとう携帯をポケットに入れて困った表情で俺たちの元へやってくる。

 

「どうしよう。電話にも出ないし放送で呼び出してもらってるんだけど来ないの」

「……めぐり先輩」

 

 そう言うと一瞬で理解したのか先輩は困った表情のまま俺を見てくる。

 確かにあれは最後の手段であると同時に1人の生徒を地に落とすものだ……ただ学校の評判を落とすよりかははるかにましだろう。1人の犠牲なんてちっぽけなものだ。

 学校は一生残るが生徒は3年で消えるからな。

 

「どうしたの? ゆきのん」

 現場の悪い雰囲気を感じ取ったのか心配そうな表情の由比ヶ浜が加わり、雪ノ下から事情を聴く。

「一応、あいつがいなくても動くようにはなってるんだ……時間ぎりぎりまで待って来なかったらその時はその時で保険を使えばいい。優秀賞も地域賞も結果は雪乃も知ってるんだし」

 

 2つの賞の開票結果は隼人たちの演奏が終わった時点で行われるが相模が今現時点でいない時点で雪乃に全てを集めるしか文化祭を進めることはできない。

 

「それはそうだけど……それはあくまで最後の手段」

「分かってる……平塚先生とも約束したしな」

 

 保険を使うのは本当に何もできなくなったときのみと会長、平塚先生の2人と約束したんだ……こんなすぐに保険を使うほど俺はバカじゃない……それに誰だって目の前で地に落ちる奴を見たかないもんだ。

「どうかしたのか?」

 隼人もこの空気が気になったのかこっちの話しに入ってきて由比ヶ浜から事情を聴くと少し考え、何か思いついたのか雪乃の方を向いた。

 

「副委員長。急で申し訳ないんだけどプログラム変更したいんだけどいいかな? 時間もないし、口頭承認でお願いしたいんだけど」

「…………構わないわ」

 雪乃に承諾を貰い、隼人はメンバーの元へと戻る。

「曲を追加したとしても稼げるのは10分……八幡。10分で相模さんを探せるかしら」

「10分…………なんとかしてみる。間に合わなかったらまた電話する」

「あ、ヒッキー! これ相模んの番号!」

 一応、由比ヶ浜から相模の電話番号を教えてもらい、俺は舞台裏を出て外へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて…………どうやって探すか」

 総武高校は地味に広い。10分だけで全ての教室をしらみつぶしに探せるはずもないからある程度は取捨選択していかないと無理だ。

 かといってどこを排除すればいい……恐らく教室はないだろう。今この時間帯は有志のオオトリが近いという事もあってほとんどの教室は閉まっているはずだ。それにたった一人で人目が付く教室にいるはずもないのでそれぞれのクラスは省いていいだろう……恐らく特別棟も無い。

 特別棟では何も催しはないし、特別棟へ繋がる渡り廊下は扉が閉まっているからな……ということは保健室……いやそれも除外だ。めぐり先輩が放送で呼び掛けていると言っていたから保健室にいても無理だろう。そもそも文化祭開催中は保健室ではなく他の大きな教室が救護場所になる。

 仮に保健室の鍵を借りたとしても職員室の先生が気付くはずだ……ならどこだ。何の承諾も許可もいらず、鍵などもいらなくて自分の意志で自由に出入りが出来る場所。人目もつかない…………。

「ある…………人目もつかずに自分の意思で出入り自由な場所が」

 俺はすぐさまその場所へと走って向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の意志で自由に出入りができ、さらに鍵もいらない場所と言えばもう学校の屋上くらいしかない。

 そこに鍵がかけられていたらもうアウトだから探しようがなくなってしまう。

 できれば俺も保険を使わずに文化祭を成功させたい…………ただそれは無理だろうな。

 腕時計をチラッと見るが既にあれから5分が経過しており、めぐり先輩のトークで何とか尺を伸ばしたとしても取れるのは5分も無いだろう。

 階段を上がり切ると屋上への扉が見えたが南京錠でロックされている。

「…………一か八かだ」

 南京錠を全力で引っ張ると呆気なく鍵が取れた。

 随分前に付けて以来、誰も触っていないのか……これはラッキーだな。

 南京錠を放り投げ、ドアを開けると屋上の為か強い風が俺に直撃するがその先に探していた人物を見つけた。

「よぅ。探したぞ……相模」

 

 


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