俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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お話しの区切り上、2話更新です。やっぱり甘い作品は難しい


第六話

 翌日のお昼休み、俺はヌボーっとしていると急に教室が少し騒がしくなり、何事かと顔を上げると小さな弁当箱を持った雪乃がまさかの俺の教室の前の入り口に立っていた。

 

 …………何やってんだあいつは。

 俺の姿を見つけた雪乃はトコトコと俺のもとに歩いてくる。

「八幡。お昼、一緒に食べましょ」

 

 その一言の威力は俺に対しても教室の連中に対してもすさまじいものだった。

 とりあえず俺は雪乃の手を取り、俺の弁当をもう片方の手で持って慌てて教室を飛び出し、人気が少ない特別棟へと向かい、そこで雪乃と向き合う。

 

「何してんだよ」

「何って昼食のお誘いなのだけれど」

 わざわざ教室に来なくたって連絡……ってそういえば俺、こいつにまだ連絡先教えてなかったな。

「ほら。連絡先教えるから、これからは連絡してくれ」

「分かったわ」

 

 雪乃と連絡先を交換しながら奉仕部の部室へと向かうが部室の前に誰かが立っているのが見え、近づくと俺達と同じ学年らしい。

 胸元のリボンが赤色であれば俺たちと同じ学年……いや、胸を見てたわけじゃないからね。

 明るく脱色された茶色の髪、三つほど外されたブラウスのボタン、胸元にはキラリと光るネックレス、スカートは短めでハートのチャームとまさに今時の女子高生の格好をしている。

 

「何か用かしら。由比ヶ浜さん」

「え、あ、名前覚えててくれてるんだ……えっと奉仕部ってここ?」

 

 え、こいつもしかして全校生徒の名前覚えてんの……って何言ってんだおれ。こいつ小学校の頃から全校生徒の名前覚えてたじゃん。

 

「ええ、そうよ……もしかして依頼かしら?」

「あ、うん…………ってあれ!? ヒッキーじゃん!」

 え、今頃気づくの? 俺ずっと雪乃の隣にいたよね。

「知り合い?」

「まあ、同じクラスってなだけだ」

「とりあえず中にどうぞ」

 

 部室へと入り、俺達は由比ヶ浜と対面する形で座り、昼飯を食いながら由比ヶ浜とやらの話を聞く。

 

「平塚先生に聞いたんだけどここって生徒の御願いを叶えてくれるんだよね?」

「少し違うわ。あくまで私たちは手助けをするだけ。願いが叶うか否かはあなた次第よ」

「ふ~ん、そうなんだ」

 

 こいつ絶対に理解してないだろ……いや、俺も部員だけど未だにこの部活の趣旨を完璧には理解しきれてないけど。

 

「それで依頼というのは?」

「あ、うん。えっとね……クッキーを作るのを手伝ってほしいというか……」

「んなもん料理本見りゃいいじゃん」

「そ、それが出来ないから来たんだし!」

「それは要するにお前の腕がぁぁぁ!」

 

 下手くそと言おうとしたその瞬間、つま先に凄まじい痛みが走り、思わず叫びをあげながら足を見てみると何故か雪乃のかかとが俺のつま先に乗せられていた。

 

「それは誰かへのプレゼントと言う事かしら」

「う、うん……まあ」

 

 由比ヶ浜は俺の方をチラチラ見ながらそう言ってくる。

 マジ痛い……俺なんか言っちゃいけないことでも言ったか?

 

「ねえ、八幡」

「んだよ雪乃」

「放課後、家庭科室に集合でいいかしら」

「え、やってくれるの?」

「ええ。誰かに送るのでしょ? 私もちょうど作ろうと思っていたもの」

 

 そう言いながら雪乃は俺の方を見てくる。

 え、何? 今2人の間では俺を見つめる遊びが流行中なの?

 

「では放課後、家庭科室でいいかしら」

「分かった。じゃあね」

 

 そう言い、由比ヶ浜は部室から去っていく。

 

「八幡」

「っっっ! な、何故引っ付く」

 

 雪乃は俺の肩にもたれ掛るように体全体を預けてきた。

 頭が近くなったせいかシャンプーらしき良い香りが香ってくるとともに俺の心臓の鼓動が早くなったのを感じ、慌てて引き離そうとするがまるで磁石でひっついているかのように雪乃は離れない。

 

「何故ってそこに八幡がいるからよ……本当に由比ヶ浜さんとはただのクラスメイト?」

 

 ジト目で俺を見てくるその姿に一瞬、ドキッとした俺は恐らく末期症状だろう。あぁ、本気で心筋梗塞で死ぬかもしれない予感がしてきた。

 

「そうだよ。なんでか知らねえけど向こうは俺のこと知ってたみたいだけど」

 

 そう言うと雪乃は俺にもたれ掛りながら何やらブツブツと1人言を言いながら考え始めたがすぐに結論を出したのかまたいつもの表情に戻った。

 リアルに俺、ドキドキしすぎていつか心筋梗塞で死ぬんじゃないのか?

 そんなことを考えながらも俺は雪乃がもたれ掛っているこの状況を受け入れていた。

 

「ねえ、八幡」

「な、なんだよ」

「私がいない間に恋人とか……いた?」

「いるか。中学でもボッチだったし」

「良かった」

「良かったってお前、酷くね?」

「そう? 八幡の魅力は私だけ知っていればいいもの」

 

 そう言われ、また俺の心臓は小学校のあの時の様に鼓動を大きく打つ。小学校時代から抱いてきたこの感情は既に理解はしているつもりだ。

 ……でもまだなんだ。今の俺じゃまだ雪乃とは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、家庭科室へと向かおうとすると由比ヶ浜とやらが後ろから追いかけてきた。

「ヒッキーどうせ一緒に行くんだから待ってくれてもいいじゃん」

「……俺らってどっかであったっけ? 俺、お前のこと知らないんだけど」

 

 そう尋ねると由比ヶ浜は気まずそうな顔をし、俺から顔を逸らす。

 同じクラスだってことは知ってたが由比ヶ浜結衣などという名前は俺の記憶の中に無いし、一度も喋ったことが無いのに何故こいつはこんなにも親しくしてくるのだろうか。

 

「え、えっと……覚えてない?」

 

 そう言いながら由比ヶ浜は少し悲しそうな目で俺を見てくる。

 え、何? 俺、ザクシャインラブとか言われて鍵でも渡されたの? いや、鍵じゃないけど1枚の紙は渡されたな……拙い字で書かれた婚約届けが。しかも雪乃の家族全員がそのコピーを所有しているというね。いつコピーしたんだよって突っ込んだがもう手遅れと言う事もあり、俺はそれ以上は何も言わなかった。

 

 どうせ陽乃さんが真ん中にいてせっせと歯車回す係りをしてたんだろうけど……そんな事よりも由比ヶ浜のことだがまったく記憶にないな。そもそも女子の知り合いはあまりいないし。

 

「覚えてないな」

「……そっか。あ、家庭科室ってここだよね」

 

 家庭科室のドアを開け、中へ入るとバニラエッセンスの甘い香りがするとともにクッキーの焼けた良い匂いがしていたがその焼けたクッキーは見当たらなかった。

 その代わり既に準備万端の雪乃がいた。

 

「今日はよろしくね、雪ノ下さん」

「ええ、よろしく。まずはエプロンを着て手を洗ってちょうだい」

 

 俺は何もやることが無いので少し離れた所に座り、ボケーっと眺めているがどうやら由比ヶ浜とやらは料理スキルが著しく低いらしく、エプロンをつけるところから雪ノ下大先生の指導が入った。

 あいつ変なところで完璧さを求めるからな……雪乃の料理スキルは言わずもがな凄まじくいいんだが問題は由比ヶ浜だよな。エプロンの付け方から指導が入るあいつがいったいどれほどのスキルなのか。

 

「由比ヶ浜さん、クッキーを作ったことは?」

「ん~。カップラーメンとかならあるけど……あ、ネルネルネルネルネルネもあるよ!」

「それは作ったとは言わないぞ」

「え? でも作って食べるじゃん」

 

 むしろあれはカップラーメンと同じような既に準備されたものの最後の工程を施すだけの即席食料みたいなものだから作ったと言う事にはならんだろ……不安過ぎる。

 

「要するに初心者と言う事でいいかしら」

「それの方が良いと思う」

「分かったわ。由比ヶ浜さん、口頭で教えていくからその通りにやってちょうだい」

「分かった!」

「まず卵を割って」

「任せて!」

 

 そう言いながら由比ヶ浜は卵を机の角に軽く叩きつけてひびを入れ、ボウルの上で卵を割ろうとするが力を入れすぎたのか知らないが卵が空中分解した。

 …………どこかの13にでも狙撃されたのか? こんな卵の殻が粉々になるのは初めてみたけど。

 

「…………とりあえず殻を除きましょう」

 

 さっきの俺の不安はどうやら的中したらしく、ボウルに小麦粉を入れて混ぜるがダマが残ったまま、計量カップというものを知らないのか牛乳を入れる際も分量を測らない。

 その結果、完成したのは真黒な物体X……ダークマターとでも呼ぼうか。

 

「…………これ火事現場とかにありそうだな」

「ひど!」

「手とり足とり教えたのに何故、これほどまでに間違えれるのかしら……八幡。とりあえずお願い」

「では…………」

「ちょっと! なんでそんなに変な汗かいてるわけ!?」

 

 意を決し、試しに一口食べてみるが口の中がジャリジャリしてまるで水で固めた泥団子を口の中に含んでいるみたいな感じがした。泥団子なんか食ったことないけど。

 材料は通常の物を使っているので味は普通の味なんだが食感がもう最悪で所々硬かったり、卵の殻がいくつもあったりとクッキーの体を成していない。

 

「味は普通だけど」

「……少し見ていてちょうだい」

 

 そう言うと雪乃の目が本気モードになり、パパパッと手際よくクッキーを作る作業を終わらせていく。

 卵を割る時は片手、牛乳を入れる際は1メモリもずれないように計量カップと睨めっこし、混ぜる時はダマができない様にヘラで丁寧にかつ、素早く混ぜていく。

 …………たった2年の間にこれほどまでスキルアップするとは……恐るべし。

 焼きあがったクッキーを出され、由比ヶ浜のと比較してみるがその差は歴然。火事現場にありそうなクッキーときつね色に綺麗に焼かれたクッキーが俺の目の前にはある。

 

「あ、これは八幡食べなくていいわ」

「あ、そう」

「由比ヶ浜さん、味見してみてちょうだい」

「じゃあ、いただきます…………」

 

 1つ食べた由比ヶ浜の顔が一気に明るいものになる。

「美味しい!」

 

 そんなにおいしかったのか由比ヶ浜は1つと言わずにぱくぱくとクッキーを食べていき、あっという間に焼きあがったクッキーは全て由比ヶ浜の胃の中に入っていった。

 俺も食いたかったんだがな……。

 

「雪ノ下さんって頭も良いし、料理もできるんだね!」

「ありがとう。由比ヶ浜さん、もう一度、レシピ通りに作ってみてちょうだい」

「任せて! 今度こそできる気がする!」

 

 …………怪しいな~。

 基本的に人のやる気とその人の持つ技術は反比例するっていう俺独自の法則があるからな……しかも由比ヶ浜自身、あまり技術無い方だし……心配だ。


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