燈閻の誓い   作:夾竹桃

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Side.シャルナーク & シン


接吻 × 気分 × 不快感

「おいおい、どうしたよ あの怪我は」

 

「さぁ・・ちょっと逸れた間に」

 

「痕残らねェだろうな?」

 

「ああ、それは心配無用だね。打撲と掠り傷くらいさ」

 

 

大都市ヨークシンの外れにある廃墟群。

それに紛れるようにコルトピが作ったアジトで、団員たちはヒソヒソと密談する。

皆の視線の先には、窓際で大人しく本を読むシンが座っていた。

だが大人しいのは態度だけで、表情は正に百面相といった感じ。

 

そしてその整った顔には、派手な怪我が施されている。

転んだくらいじゃ絶対ああ(・ ・)は ならないだろう。

気にはなるが、行動を共にしていたパクノダとマチも知らぬ顔だ。

 

 

「お、フェイ達も戻ったのか」

 

「碌なモン無かたね、探り入れるだけ無駄だたよ」

 

 

パクノダ達が話している最中にフランクリンが軽く手を上げたことで、同じく話していたノブナガが声を上げる。

それに対してフィンクスとフェイタンは浮かない顔で舌打ちを零した。

台詞からして俺が頼んだ情報が手に入らなかったのだろう。

 

 

「完全に無駄骨・・・ん、おい何だアレ」

 

「おう、それなんだけどよ・・」

 

 

あからさまに苛ついた表情で悪態を吐くフィンクスだけど、フェイタンが足を止めてシンを見ていた事に気付き、次いで彼女の怪我に気付いた。

フランクリンの説明を聞きながら ふーん?と再度遠目から見ているけど、広間の端にいる俺からでも怪我が痛むというより、単純に機嫌が良くないと言った顔付きなのが分かる。

 

 

「アノ日なn、ッ痛ェ!!」

 

「役に立たない口、縫い付けられたいかい?」

 

「だー、めんどくせぇな!そんなに気になるなら聞きゃいいだろうが!!」

 

 

何の考えもなしにNGワードを言おうとするフィンクスへ、パクノダとマチから鉄拳制裁が入る。

地味に痛むのか、背中を庇いながら怒鳴るフィンクスに、それが出来れば苦労しないよとマチが呆れた声を出した。

それもそのはず、日頃から表情の読み取れない彼女がこうも分かりやすく顔を歪めているのに、アッサリと聞ける馬鹿が居るものか。

 

 

「浮かない顔ね、何か有たか」

 

 

・・あ、居た。

 

 

「おい、フェイの野郎 迷わず聞いてるぜ」

 

「・・心底呆れるね」

 

 

先程よりも声を小さくして話すノブナガとマチに、同感だと思いながら資料を捲る。

さっきフェイ達が取得できなかった情報を探しなおさないと、団長から持たされたこのレジュメだけが頼りだし・・・。

 

 

『キス、された』

 

 

バリィッ!!!!

 

 

あ、やばい。

 

何がやばいって、皆の一瞬で湧いた膨大な殺気もだけど、何より”つい”でレジュメを引き裂いてしまった・・・けど。

結構マズい事をしたのに、そんな事よりも、なんて思ってしまった事が一番ヤバい。

 

 

「何処のどいつね・・・ワタシが殺してくるよ」

 

「・・同感だ、だが只殺すだけじゃ飽き足らねェな」

 

「生まれてきたことを後悔させてやるぜ・・・!」

 

 

でも、骨をバキバキと鳴らしてシンを問いただそうとするフェイタン、ノブナガ、フィンクスを見て、逆に自分が冷静になった。

どの道、そいつは殺す他に意見は無いけれど。

 

 

「じゃあソレは何の怪我なんだい?」

 

「それに、何で逃げなかったのよ」

 

「シンなら簡単だっただろっ?」

 

 

今更過ぎるくらい優しくレジュメを置いて、フィンクスを押しのけるマチとパクノダに続く。

さり気無く質問して彼女の頭に触れるパクノダを見て、その情報によっては俺も犯人探しに加担しようと思った。

 

だって、確かにシンは いつも物静かだけど、結構 感情の起伏が激しいから。

その男だって、現状で五体満足で居るのか分からない。

 

そう冷静になって考えながら、シンから手を離すパクノダを見ていた。

だが、不意にパクノダの服を彼女が引いたことで、嫌な感じが胸に走る。

 

 

『パク、内緒にして』

 

「・・・分かったわ」

 

 

シンの言葉に、やっぱりか、と眉間に皺を寄せる。

普通に考えて記憶を読み取り終わったパクノダを止めるという事は、話すことを止めることだから。

パクノダも分かっていたのか、俺以外の団員の驚きと抗議の声を聞きながらもYESと返事をした。

 

理由はシンが俺達に知られることで羞恥心に堪えられなくなるからか、それとも脅されているから・・?

いや、一番可能性が高いのは、その男との仲を団員に裂かれたくないから、かもしれない。

 

どちらにせよ、不穏な空気が流れるのは必須。

でも彼女は気にしないといった表情で、また窓の外へと視線を移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドリアン、さん?』

 

「あ・・っ、これは、その・・!」

 

「え、な、何よこの女!!ちょっとアンタ、見てないで何処かに行きなさいよ!!」

 

 

ドン―・・!

 

 

「もう、汚いわね!転んでる暇があったら早く行きなさいよ!」

 

『あ・・・うん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!君に言ったのは本心だ!あいつは、えっと・・」

 

『ああ、私は別に気にしてないよ。あなたの申し出は、元から断るつもりだったから』

 

「は、はァ!?嘘だろ!?」

 

『何で嘘なんて言わなきゃいけないの。私は誰とも付き合う気なんて・・・』

 

「ふざけンな!待てよ!!」

 

『な、・・・・・っ!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『っ・・』

 

 

思い出しては、気持ち悪さに唇を噛む。

その度に衝動的に自分で殴って傷つけた場所がズキリと痛んだ。

 

買出しの時に、大通りで声を掛けてきては何かを寄越してくるから、つい存在を覚えてしまったドリアン=ラビアーノという男。

彼には先日、俗に言う”告白”とやらをされたばかりだ。

自分で想像していたよりも その状況に動揺したけれど、受けるつもりは全く無かった。

ただ、言い逃げをされたから答えが先延ばしになっただけで。

 

そして今日の昼、逸れてしまったマチ達を探している途中で、綺麗な女性を連れて路地裏に入っていくドリアンを見た。

通り過ぎる予定だった場所だけに、少し影になった隙間を覗く事は出来た。

目に映ったのは、その綺麗な女性と深いキスを交わすドリアンの姿。

 

自分がもっと大人だったら、その場から黙って通り過ぎて、次からは顔も合わないように行動するだろう。

でも意外な事に、私の口は彼の名を呼んでしまったのだ。

 

おかしな話だ。

ドリアンの恋人になる気も 次に会う気も さらさら無いくせに、私は彼に期待していたらしくて。

裏切られたって事だけが茫然と頭の中に木霊していた。

 

あまりに馬鹿げた事をしたと瞬時に後悔したけれど、私の声はシッカリとドリアンと女性の耳に入っていて。

罵倒してくる女性の言葉を利用して、また冷静さを取り戻して。

 

 

でも、ドリアンだけは冷静じゃなくて。

 

 

『・・・訳わかんなくなってきた』

 

「なら、コーヒーでもどうだ」

 

 

ボソッと呟いた言葉に、聞きなれた声が鼓膜を震わせる。

それに反応して急いで顔を上げれば、言葉通りにコーヒーを差し出してくるクロロと目が合った。

 

 

「散々な初恋だったらしいな?」

 

『・・そっか、パクはクロロにだけは話すもんね』

 

「悪く思うな、団長命令だ」

 

『別に、問題ないよ・・』

 

 

ふう、と溜息を付いてコーヒーを受け取ると、一瞬前まで私のマグカップを握っていた手が頭を撫でてくる。

あのキスは暴行でも失恋でも無いから、肯定も否定も出来ないけど、とりあえず甘えておこう。

 

 

「で?どんな色男だったんだ?」

 

『んー・・いや、そこまででもないよ。皆の顔に見慣れてると、他の人なんて滅多に綺麗に見えないもん』

 

「くっ、そうか・・そりゃ安心」

 

『それに、言っとくけど私は好きじゃなかったよ』

 

「ほう、とんだ悪女が居たものだな」

 

 

低くノドを鳴らして笑うクロロに髪を撫で付けられ、少し顔が熱くなる。

だって本当の事なのだから仕方が無いじゃないか、幻影旅団には世の中に出回るモデルよりも綺麗な人間が多いのだから。

今更その辺を歩いている他人を見たって、何とも思わないのは当然の話だ。

 

 

『それに、ドリアンは最初から軽かったからね・・』

 

「・・・待て、今のは男の名前か?」

 

『え?うん、そうだよ。ドリアン=ラビアード、クロロと同じ26歳』

 

「・・なら喜べ、ソイツはお前の手柄だ」

 

 

そう言うなり、コートを翻して颯爽と部屋から出て行くクロロに首を傾げてから、ハッと脳が反応する。

リアクションからして、仕事で今クロロ達が探してる男って、あいつだったんだ。

 

 

「あ・・・・シン、いいの?」

 

『良いよ、皆で殺しちゃおう!』

 

 

クロロに続いて広間に飛び出すと、すでに説明を聞いたパクノダが記憶弾(メモリーボム)を構えていた。

団長命令だから叛けないというのに、それでも確認をしてくれる彼女で笑顔で頷いて、全員に私の持つ記憶が撃ち込まれるのを見ていった。

 

それにはキスされた時の映像もあるだろうけど、旅団の活動に個人の感情は無用だから、ポーカーフェイスで逃げ過ごす。

まぁ、苛め抜いて殺すには充分な理由になるかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「ああ、帰って来たぞ」

『お疲れ様ー』

「・・アイツ、最後はショク死したね」

「シンの名前を口にしてたが、初っ端からフェイが熱した針で縫いつけちまってよォ」

「アイツは逃げたかただけ、どこまでも汚い男ね。何時間でも弄られて死んで当然よ」

『ふふっ、ありがと・・』



チュ――・・



「「!!?」」

『・・え、どうしたの?』

「な、何でもないね!」

「おいズリぃぞ!!待てフェイ!」

「待つはず無いよ、この眉なし・・!!」

『・・・? 変な二人ね、クロロ』

「そうだな、あとで説教だ」

『へ?そんなに?』
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