降りて直ぐに目に付いたのは、
灯篭の明かりと、
冷えた鉄格子と、
見るからにペット用の器。
そして・・・。
「人間・・か」
『・・!』
口を突いて出た俺の言葉に、外の連中と似た格好のモノがピクリと反応する。
俯いたまま地面に転がされている為にパッと見じゃ性別の判断は出来ないが、極端に痩せ細っているのは分かった。
「まだ、子供じゃないか」
「信じられないわね・・」
指先を動かしただけの奴を見て、マチとパクノダが顔を顰める。
それもそうだろう、この状況は、完全に牢獄だ。
「・・どうする、団長」
「・・・」
ノブナガの声に一瞬で我に返る。
そうだな、金銀財宝なんて無い場所なのに、アイツらは隠し通そうとした。
そしてこの屋敷には他に価値のありそうな物はない。
つまり、鬼龍院一族にとっての財は、この子供という事。
何より気になるのは、この尋常ならざるオーラだ。
「・・そいつを解放してやれ」
「了解ッ」
俺の一言で、フィンクスが檻を蹴破って中に進入する。
それに驚いた様子も見せずにいる子供に不審感を持っていると、不意に奴の足首に刺さる楔が目についた。
その目線に気付いたのか、同じくフィンクスが楔を慎重に抜き、放り投げる。
途端に、霧散していたオーラが子供の身体に収まった。
「精孔の開いた念遣いにコレたぁ・・随分と悪趣味じゃねェか」
「不思議な道具ネ、触ると四大行出来なくなるヨ」
言いながら鎖に触れるフェイタンを見れば、確かに握っている傍から奴のオーラが溢れ出していた。
こんなものまで取り付けるなど余程のことだろうし、拠りにもよって木材等をカチ割って変形させる為の楔を、足首に刺すとは。
「・・話せるか?」
細い手と穴の開いた足、長い黒髪だけが見えるボロ布の横に屈みこんで、一言だけ声をかける。
それに対して、ピクリとだけ指先が跳ねた。
どうやら返事のつもりらしい。
「お前は誰だ、何故此処にいる」
物は試しと続けて質問を掛けるが、やはり返ってくるのは少しの動作のみ。
答えようとはしているのに、実行するほどの体力が無いのだろう。
あれだけ濁流のように生命オーラを流していたのだから、納得できる話だ。
「パク」
「ええ、分かったわ」
立ち上がって振り向けば、すでに袖を巻いて待機している奴と目が合う。
そのまま擦れ違って壁に身体を凭れさせれば、改めて牢屋の惨状が分かってきた。
岩と土と鉄が剥き出しの環境で、置かれているのは粗末な絵柄のペット用の食器に水と、残飯にしか見えない何か。
おまけに此処は地下だ、冷え切った空気しか流れていない。
流星街を知っている団員達でさえ嫌気が差したような顔をしていた。
「・・・・・・ッあ・・ぅ、・・!!」
「パク・・!?」
目を閉じてしまおうかとも考えた矢先、子供の頭に手を添えていたパクノダが突然悲鳴を上げて後ろによろめく。
それをマチが受け止めるが、どうも様子が変だ。
即座に子供へ構える団員達に緊張感が走るが、パクノダが手を伸ばしてそれを制止する。
「ま・・ッ待ちなさい、私は大丈夫よ・・!!」
頭を抑えながら声を上げるパクノダに、ノブナガ含め全員が構えを解く。
それが分かったのか、パクノダはマチから離れて無理矢理抑えたような息遣いで子供に向き合い始めた。
「・・ごめんなさい、話させて貰うわね」
小さく、だがハッキリと声をかけるパクノダに、俺の時と同様に指だけを動かす子供。
それを確認してから立つパクノダに皆が注目すると、やつは愛銃を俺達に向ける。
「
言うと同時に、端から順に撃っていくパクノダを見ていると、俺に撃つ7発目の念弾を込めながら涙を流しているのが分かった。
一体何を見たというのか、嫌な感覚に眉を寄せながら弾丸を受け入れた。
「おお、恐ろしや!!!祟りじゃ、先祖返りじゃああ!!」
「なんと忌々しい、いいえ、おぞましい・・・!!!」
「終に奴が生まれ落ちたとな・・・・」
「名は
「お前は今日から鬼龍院の母体・・・だがそんな恥晒しは世に出せぬ」
「何をしておるか!!!!役目のみを果たせ!!!!」
「制約と誓約・・・しかと受け取れ」
「ええい!叫ぶな、鬱陶しい!鬼子の声なぞ耳障りだ!!!」
「15で跡継を産み、この世から去れ・・・それまでは生かしておいてやる」
「鬼が苦痛を感じるものか、貴様は黙って我ら一族に身を捧げれば良いのだ」
「誠しぶとい・・・暫くは楔を打て、コレに遠慮は要らぬ」
「残飯の一つも食さぬとは、贅沢者も居たものだ・・・だが餓死と自害も一興だな?」
「「「「「「「「「「生まれてきたのが、悪いのだから」」」」」」」」」」」
「・・・っ!」
気付けば、全員の前に土下座する子供が一人。
土下座とも言えるか分からない、精魂果てたように頭を下げている。
団員の気配からして、気分の悪くなる空気が流れていた。
それもそうだろう。
この子供、受けるには、辛すぎる宿命を背負っていたのだから。
『どう、か・・』
殺して下さい、と。
深々と頭を下げて懇願する”彼女”に手を伸ばし、口から出た言葉は一つだった。
「・・・・