燈閻の誓い   作:夾竹桃

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仕事 × 戦闘 × 大活躍

真っ暗闇に身を潜め、動きを待つ。

いつもはパクノダやシズクがいるけど、今はクロロと二人きり。

自分だけで団長を護衛する緊張と責任感に、少し居心地が悪い。

 

 

「落ち着け」

 

「オチ着いてマスよ」

 

「ならその変な話し方を止めろ」

 

「うぅ・・・っ」

 

 

団長が頭、団員は12本の手足、私は あまり。

言うならば、存在しないはずの13本目の手足。

だからか知らないけど仕事の時はクロロの傍を離れたことはない。

先ほども言った通り、それでも私の他にはパクノダとシズクが居たのに、先刻はぐれてしまったのだ。

 

最初から決められていたものなら まだしも、これは緊急事態だと言っても過言じゃない。

変な汗ばかりが背中を伝っていた。

 

 

「しっかりしろ」

 

「あ、無理です、ありえない、吐きそう」

 

「心中穏やかでないなら、その無表情を解いてみたらどうだ」

 

「分からない、何も分からない」

 

「・・はぁ・・・」

 

 

前方の建物を見据えたまま滝のような汗を流す私に、横から深い溜息が掛けられる。

あ、マズい。

 

 

「なぁシン、俺は誰だ?」

 

「げ、幻影旅団団長クロロ=ルシルフルです!」

 

 

つい先程までとは段違いなほど冷たい声に、汗とは関係ない、冷えた何かが背を這う。

いつものクロロではない、団長の時の彼を怒らせてしまった。

 

それは、そこらの敵の攻撃よりもよっぽど避けたい事態で。

同時に、彼に見捨てられてしまう恐怖は私にとって死よりも恐ろしいのだ。

 

 

「近くに敵が居る、分かるな」

 

「はい」

 

「すべて殺せ」

 

「り、了解・・・!」

 

 

それを知ってか知らずか、背中を押されて侵入通路を塞ぐ敵の前に飛び出る。

正直、あと数分も隠れ留まっていれば他の場所に移動していたはずの警備兵たちだ。

それでもワザと前に出させた。

 

この程度を乗り越えられないなら、幻影旅団(クモ)には要らないから。

私だって、そんなこと百も承知だ。

 

 

「なんだァ?ガキじゃねぇか」

 

『ッ死ぬか逃げるか、選んで下さい』

 

「おいおい、急に何だって?オツムでもオカシクなっちゃったか?」

 

「オニイサンたち忙しいから、どっか行ってくれよ」

 

 

人を馬鹿にした笑い声を上げながら、シッシッと手で払われる。

だが生憎と こんな風に言われるのには慣れてるから、お陰で頭が冷えてきた。

同時にちょっと悲しくなるけど、まあ良いや。

 

 

異界の門(ビーストゲート)・・・出でよ、牛鬼(ギュウキ)

 

 

静かにイメージしながらオーラを練り、懐から取り出した式札を床に投げる。

刹那、閃光弾の様に視覚聴覚を塞ぐ式札に敵が短い悲鳴を上げた。

私は勿論、旅団(クモ)の皆は慣れているが、やはり初対面の奴らには有効らしい。

 

 

「っざけんな!!!!」

 

「この、クソガキが・・!」

 

 

それでも多少は心得のある兵もいて、私の気配を探って、安全装置を外した銃を乱射してきた。

いくら念能力者でも強化系を極めたウヴォーギンやフィンクスと違うから、当たれば適当な傷は負ってしまうだろう。

だが避けずとも、ソレらはコロコロと床に落ちていった。

 

理由は一つだけ。

 

 

「な・・っ!」

 

「誰だテメェ・・!」

 

 

私と敵の間に立つ男に全弾命中したからだ。

 

 

[主、怪我は]

 

『無し。後は宜しく』

 

[承知]

 

 

真黒い浴衣に藤色の羽織を着る長身と少しの会話をして、一歩後ろに下がる。

目付きも悪いし極悪人の様な顔の彼だが、攻撃特化ではない私には羨ましい程の火力を持ち合わせているから頼りになる。

 

実際は私の式神だから、私の火力と言っても理論上成立はするのだけど。

 

 

『団長』

 

「合格だな、先を急ぐぞ」

 

『やった!』

 

 

破壊的な腕力で あっという間に20人前後の敵を全滅させる牛鬼から振り向くと、何時の間にか後ろの壁に凭れているクロロからOKサインを貰う。

それに小さくガッツポーズをして団長の先を歩けば、横にいる牛鬼が小さく溜息を吐いた。

 

 

[主。何故、俺を元の姿で出してくれぬのだ。別にあのままでも意思疎通くらい容易いだろう]

 

『ソッチの方が見た目が良いから』

 

[・・呆れるな]

 

 

そう言って再び溜息を吐く牛鬼には悪いけど、本来は「蜘蛛の胴体、顔は牛、頭には鬼の角」という、正に妖怪チックな彼だ。

更に言えば体長6Mの巨体の持ち主。

だから前に無理言って人間の姿になって貰ったのを覚え、以来イメージするのは全て人化にしている。

 

 

『牛鬼も、猫又みたいに可愛い原型があればソッチにするのに』

 

[会った事はないが、逆に彼女は人の姿を望んでいるらしいな]

 

『悪戯好きだから、絶対させないけどね』

 

 

全ての式神もそうだが、クロロ曰く彼らが1個体としての人格を持ち、術者と当然の様に会話をするのは最早 ”念獣”の域を超えているらしい。

それ以外にも、古の先祖が式神として最もポピュラーな鬼神と駈落ちしたせいで、(のち)の世に生まれた私は先祖返りだ。

鬼龍院一族そのものだって、陰陽師として対峙するべき妖怪を従えている時点で異端者として随分と嫌われていたらしい。

 

結局のところ、只の人間でも陰陽師でもないのだから。

今更気にするほうが可笑しな話かもしれないけれど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『・・、下がってて』

 

[承知]

 

 

ピリッと痛みが走る様な空気が触れて、気付いたクロロも足を止める。

私の声掛けで音も無く消える牛鬼を確認して新しい式札を構えると、前方からヒールの音が近付いてきた。

 

 

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 

 

薄暗い通路から出てきたのは、燕尾服を着た若い男。

一切無駄のない纏だが、見せびらかすようにしているのを見ると中身は大した事なさそうに見えた。

 

 

「適当に相手してやれ」

 

『了解です』

 

 

実力を下に見た瞬間、クロロから団長としての台詞を受けて、嫌でも背筋が伸びる。

見透かされていたようで少し恥ずかしいが、自分が悪いのだからしょうがない。

よし、と心機一転させる私を前に、前方に立つ男が不機嫌そうに手を振るった。

 

 

「時間が無いのでね。お嬢さんには用は無いのですよ」

 

『ちょっと、悲しいこと言わないでよ』

 

 

男の手と同調して波の様に襲ってくる殺気。

隠で見えなくしているのだろうけど、そんなの見えずとも塞いでしまえばいい。

 

 

禁圧の壁(デッドウォール)!』

 

 

周で覆った4枚の式札を通路の形に沿うように投げて、四角い壁を作る。

次の瞬間、壁は男の念を音を立てて弾き返した。

男もそれを見て舌打ちを零す。

 

この程度で舌打ちされても、と拍子抜けしながら男に向かって一枚ずつ式札を投げる。

当然、彼はそれを弾いてしまうけど、特にショックは受けない。

 

 

『さて、どうしよう・・』

 

 

次々と式札を投げて、相手に弾かせる。

どうやら私 程度の速さにも着いてくるのが精一杯なのか、早くも男の息が上がり始めている。

じゃあコレ位でいいかな、と最後の一枚を男の足元に投げれば、勘違いした男は変な笑い声を上げた。

 

 

「ッ!外すなんて・・・ヒャハッ貴女も、疲れてますね・・!」

 

『あ、何も分かってないんだね・・・まぁ良いけど』

 

 

段々と本性が見えてくる男に呆れながら近寄ると、凝りもせず妙な念を放ってくる。

少し目を”凝”らせば、そこには濁った液体が見えた。

今までの外敵はコレで丸呑みにしてきたって事か。

再び壁を作って阻めば、相手はフラついて尻餅をつく。

 

 

(けつ)

 

 

小さく呟いて、短時間で練ったオーラで発をする。

さすれば、自然と男を囲む様に床、壁、天井に刺さった札が光る。

 

今回は たっぷり時間をかけて用意したから、今までで一番強い結界が出来た。

 

 

『さ、これでアナタは其処から出れないし、何も出来ないよ』

 

「な・・っふざけるな!!」

 

 

私の言葉に必死で喰らいついて、尻餅を止めて壁を叩き始める男。

だが彼が突破するのは無理だろう。

 

 

「・・前よりも札の数が多いな」

 

『ウヴォーでも六角形がキツイって言ってたけど、コレは更に辺を増やした陰陽道で言う”籠目”という紋様なの』

 

「一般的に言うなら六芒星、数学用語で表すなら二複合正三角形型か」

 

『さすが団長!』

 

「で、どうするつもりだ」

 

『うぅ・・・っ』

 

 

横に来て難しい単語をスラスラと諳んじる団長に歓声を上げるが、どうやら誤魔化せないらしい。

だがこの男にトドメを射すのは、私には無理な話だ。

 

だってやり方が分からない。

 

 

「まだ発展途上だな」

 

『ヒント、ヒント下さい!』

 

「断る」

 

 

いつもの優しいクロロとは違う、威厳のあるキッパリとした言い方に言葉が詰まる。

だが考えることを放棄しては駄目だ、余計見捨てられる。

 

うーん、とオーラで閉じ込めた男の前に しゃがみ込んで顎に手をやると、見知った気配が感知する。

方向的には男が来た建物の内部からだ。

 

 

「案の定ここで詰まってやがったのか」

 

「シンは想像力が皆無ね」

 

 

どこで様子を見ていたのか、今回の狙っていた宝を抱えたフィンクスとフェイタンが近付きながら好き放題言ってくる。

何一つ言い返せないのが悔しいけど、彼らを見て恐怖に震え上がる男の態度に少しスッキリした。

 

 

『ねえ、どう殺して欲しい・・?』

 

「ひ、ひぃいい!!」

 

 

最早 問いかけにも禄に答えてくれない。

ソレには少しイラついた。

いっそ潰してしまえば気持ち良いけど・・。

 

 

『あ、閃いた。よし、潰れろ!』

 

「ぇ・・あ゛ッッ!―――――・・・」

 

 

何となく、牛鬼を人でイメージするのと同じように、私の一声で潰れる男を想像した。

そしたら何とも呆気ない。

男は”何か”に押し潰された様に中身を撒いて絶命してしまった。

それもたった一瞬で。

 

 

『・・・・・クロロ』

 

 

少し驚いて、つい普段の呼び方でクロロを見上げる。

すると彼は少し悲しそうな笑顔で私の頭を撫でた。

 

 

「正解」

 

『・・そっか』

 

 

ならいいや、と立ち上がって発を解けば、デロリと広がる血液と圧縮されていた元・人間。

 

 

「加減出来たら拷問にも使えるよ」

 

「シンに恐ろしいこと教えるんじゃねェよ」

 

「ホントの事ね」

 

 

先を歩く私たちの後ろで、お宝を抱えながら口喧嘩する二人の会話を聞きつつクロロのコートを掴む。

いつもなら許してはくれないけれど、何故か今日は許してくれるらしい。

振り解かれることのない自分の手を見て、笑みが零れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




『そういえば、パクとシズクは?』

「今頃アジトで待機してる筈だ」

『えっ、どうして・・』

「今日はお前のテストをする予定だったからな」

『何ソレ、聞いてない』

「抜き打ちだからな、当然だろ?」

『えー・・』

「お陰で能力の使い道が一つ増えただろうが。元々禁圧の壁(デッドウォール)はオーラを〔壁に変化〕させると同時に〔空間を具現化〕する技・・・特質系のお前だから出来る事なんだぞ」

『何と ややこしい・・』

「名前の一部に”壁”なんて付けるからだ」

『だってそんな応用があるなんて思ってなかった!』

「本当に勿体無いな、お前は」
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