だいたい半年に一度、シンの様子が変わる時がある。
基本的には真顔というより無表情に近い彼女だが、この時だけは絶対に違う。
言葉で表すなら「闘争心の塊」って所か。
今だって仕事あがりのアジトでの宴で、いつもなら疲れて俺の横で船を漕いでいるハズなのだけど。
彼女は食事にすら手を付けず、妙に血走った気配を研ぎ澄ませていた。
それには皆気付いているが 俺達ではどうしようも出来ない事だから黙っておく。
「もっと飲むぞォ!!」
「ワタシは寝るね」
杯を交わしながら騒ぐウヴォーとノブナガから退いて、フェイタンがこちらに来た。
俺も部屋に戻るついでに立ち上がって、奴と擦れ違う。
「任せたぞ」
「分かてるね」
一瞬だけ言葉を交わし、シンを託す。
広間から出て行く間際に振り向けば、フェイタンに着いていく彼女が見えた。
まるで小鴨だな。
「・・・・お、もう出てったのかァ?」
「速ェな、いくらフェイでも置いて行かれるんじゃねェ!?」
「いや、今はまだフェイの方が上だろうな」
広間の上の階にあたる部屋から窓を開けてアイツらを見送っていれば、真下からウヴォー、フィンクス、ノブナガの声が耳に届いた。
奴らもまた、酒を喰らいながら見送っているつもりなのだろう。
結局は最後まで小さくなっていく気配を目で負って、窓際から離れた。
―――・・・
―――・・・
今日はシンの様子がオカシイ。
ある意味で彼女が変なのは何時もの事だけど、今日の様な状態はソレとは格が違う。
何も言わずとも自分の身体に猫又を憑依(念獣を同化)させて、ワタシの前を走り出して行った。
いつもは後ろで隠れるように着いてくるのに、やはりこの時だけは人が違うらしい。
「標的は男一人ね、間違ても騒ぎ起さないよ」
『了解』
速度を並べてから命令を出せば、いとも容易く同意する彼女。
切羽詰ってるのか、男ひとりでも好きに出来れば今日の所は良いらしい。
ふう、と溜息を付いて小型二輪で逃走する男を追った。
男は今日襲った連中の仲間で間違いないだろう、嗅覚も優れている今のシンが何も言わないのが証拠だ。
「・・・待て、ね」
『イヤ』
段々と人気の無い一本道に入っていく男に、シンが我慢ならないと猛っているのは丸分かりで。
口頭で止めて見たは良いが、言い切る前に彼女の身体は大きく前に跳ねていた。
しかも、去り際に否定文まで残して。
『殺す』
「ぎ、ぎゃあぁァァアアあアア!!!!」
そのままシンは、バイクを走らせる男の背後に降り立ち車体のバランスを崩させて、男の肉体をアスファルトに引き摺りながら道路端へと転がっていく。
まるで人間サーフィンね、と彼女に向かって呟くと、否定するように獣らしい唸り声を上げられた。
「た、助けて・・っ!!!」
『無理』
荒い道路に摩り下ろされた皮膚から血を流して、男はシンの前に土下座する。
その前に正座で座りなおして答えを告げるシンには、説教が必要だと考えさせられた。
ほら、そう思ってる内に。
「この女を殺す、イヤなら何処かに行けぇ・・!!」
渾身の力で押し倒されて、首元にナイフを突きつけられているのだから。
「だてよ、シン。どうするね?」
「お前も!泣け!泣いて懇願するんだ!!」
『・・っ』
瞬きしながら見上げるシンの髪を掴んで、男は尚も恐喝する。
だが今の彼女にそんな命令は、奴にとって一番厄介な結果を生むハズだ。
『決めた、連れてく』
「はっ、分かたよ」
髪を掴んだまま立たされて、やっと言葉を発したと思えばコレだ。
やはり可笑しいのは態度だけじゃないらしい。
シンの言葉に、男もビクリと跳ね上がっているが、もう遅いだろう。
「!!? ど、何処に・・あガッッ!!!」
『・・汚い声、嫌い』
一瞬で男の手から抜け出して真下から遠心力のある蹴りを顎にいれるのを見て、思わず口角が上がる。
あんな小さかった少女が こうも成長してるのかと思うと、自分の闘争本能に火が点くのだ。
でもまあ、それを彼女に向けると団員の反感を買うのは百も承知だから、実行はしないけれど。
「・・返ったら拷問の訓練ね」
『痛いの嫌い』
「勿論、する側の訓練よ」
表情の無いシンに近寄って、気絶した男を持ち上げる。
そのままアジトに向かって走り出せば、シンは後を追ってきた。
さ、お楽しみの時間ね。
「・・・・コレでオシマイか、随分と
『人に泣けって命令した癖に、自分が泣いてたね』
「情けない男ね」
『もう遊んで良い?』
「結局シンはワタシの話聞いてなかたから、駄目ね」
『ケチ、どうせ埋めちゃうだけの癖に』
「お前の手、血生臭くするのは
『・・・・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・』
「・・・片腕だけなら、好きにするイイよ」
『せめて両・・「これ以上は譲らないね」・・・はぁい・・』