シュミットさんを連れて俺とアスナは再びヨルコルームへ。それはそうと、とても個人的にイライラすることがある。
「おいサミット、さっきから貧乏ゆすりハンパねぇんだけど。やめてくんない?貧乏が移る」
「シュミットよ。ていうかセレナくんは黙ってて」
で、シュミットはヨルコさんに言った。
「何で、何で今更カインズが殺されるんだ⁉︎あいつが……指輪を奪ったのか?GAのリーダーを殺したのはあいつだったのか⁉︎」
「そんなわけない。私もカインズも、リーダーのことは本心から尊敬してたわ。指輪の売却に反対したのは、コルに変えてみんなで無駄遣いしちゃうよりも、ギルドの戦力として有効利用すべきだと思ったからよ。ほんとはリーダーだってそうしたかったはずだわ」
「それは、俺だってそうだったさ。忘れるな、俺も売却には反対したんだ。だいたい……指輪を奪う動機があるのは反対派だけじゃない。売却派の、つまりコルが欲しかった奴らの中にこそ、売り上げを独占したいと思った奴がいたかもしれないじゃないか!」
「いや、多数決で決まったことを恨んで闇討ちとか社会人としてどうなの」
「セレナくん本当に黙って」
「なのに……グリムロックはどうして今更カインズを……売却に反対した三人を全員殺す気なのか?俺やお前も狙われているのか⁉︎」
「いや、攻略組ならそれくらい返り討ちにしろよ」
「セレナくんもうあれだから。後で本当にもう、殺るから」
「まだ、グリムロックがカインズを殺したと決まったわけじゃないわ。彼に槍を作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたら……リーダー自身の復讐なのかもしれないじゃない?圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーに出来るわけないんだし」
「な………だって、お前さっき、カインズが指輪を奪ったわけがないって……」
「私、ゆうべ、寝ないで考えた。結局のところ、リーダーを殺したのはギルメンの誰かであると同時に、メンバー全員でもあるのよ。指輪がドロップした時、投票なんかしないで、リーダーの指示に任せればよかったんだわ。ううん、いっそ、リーダーに装備して貰えば良かったのよ。剣士として一番実力があったのはリーダーだし、指輪の能力を一番活かせたのも彼女だわ。なのに、私たちはみんな自分の欲を捨てられずに、誰もそれを言い出さなかった。いつかGAを攻略組に、なんて口で言いながら、ほんとはギルドじゃなくて自分を強くしたかっただけなのよ」
「なにそれ。絶対王政?」
その瞬間、俺に殴り掛かってくるアスナだが、俺はそれを取って投げ飛ばした。
「ただ一人、グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ。あの人だけが自分の欲を捨てて、ギルド全体のことを考えた。だから、あの人には、たぶん私欲を捨てられなかった私たち全員に復讐して、リーダーの敵を討つ権利があるんだわ……」
「だから何それ。逆恨み以外の何物でもねーよ」
「「「お前黙れ」」」
うおおぉ……満場一致とか……。と、思ったらシュミットがいった。
「……………冗談じゃない。冗談じゃないぞ。今更……半年も経ってから、何を今更……。お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生き抜いてきたのに、こんな、わけもわからない方法で殺されていいのか⁉︎」
シュミットの絶叫。流石に黙れと言われた矢先、ここで「いや、よくないでしょwww」とは言えなかった。その時だ。とん、と、乾いた音が部屋に響いた。
誰だこんな時に包丁で料理してんのは、と思ったら、ヤケに目を見開いてるヨルコさん。そのままグラリと体が揺れた。そのまま窓から落ちそうになるヨルコさんをその時見えた背中に、黒いダガーが見えた。
「あっ………!」
アスナがそう声を出した時には俺はヨルコさんが落ちそうになるのを防ごうとしたが、そのまま落下し、消えてしまった。死亡エフェクトだ。
「っ……‼︎」
すぐに窓の外を見渡す。すると、屋根の上に黒いローブを着たプレイヤーがこっちを見ていた。
「アスナ、シュミットよろ」
「えっ?あ、あなたは……」
返事を待たずに出撃。窓から飛んで屋根の上に乗った。そして、アイテムストレージから金属バットと硬球ボールを取り出す。
「っらぁっ!」
そのまま打った。打球はグイーンと黒いローブの奴に吸い込まれるように曲線を描いて突き進む。が、転移結晶を使われたのか、消えてしまった。ボールも一緒に。あーこれ、転移先で後頭部にボール当たってるな。ドビーみたいになってる。ナイススナイプ、俺。やりとげた男の顔でヨルコさんの部屋に窓から戻る。
「逃げれた」
「見てたから分かるわよ……顔とかは見えた?」
「なわけねーだろ。性別も分からん。まぁグリムロックなら男だけど」
「………違う」
そんな声が聞こえた。シュミットだ。
「何が?」
「あれは……グリムロックじゃない。グリムはもっと背が高かった。それに……それに、あのフード付きローブはGAのリーダーのものだ。彼女は、街に行くときはいつもあんな地味な格好をしていた。そうだ…指輪を売りに行く時だって、あれを着ていたんだ。あれは……リーダーの幽霊だ」
そして、ははっはははは……とぶっ壊れた人形のように笑うシュミット。
「幽霊ならなんでもアリだ。圏内でPKするくらい楽勝だよな。いっそリーダーにSAOのラスボスを倒して貰えばいいんだ。最初からHPがなきゃ死なないんだから」
「痛い痛い痛い痛い!痛いよーおかあさーん!幽霊が出て、僕眠れないよー!」
また殴りかかって来るアスナ。それをかわして腰に抱きつき、バックドロップをお見舞いしてやった。
「あ、あんた……なんなの?弱点無しなの?」
「お前と違ってな」
「ほざけバーカ!」
で、殴り合いに発展した。そんな俺たちの様子を見ながらシュミットは言った。
「あんたら…なんなんだ?本当にこの事件を解決するつもりがあるのか?」
「あるわよ!少なくともわたしは!」
「そ、それならよろしく頼む。悪いが俺は力になれない…というよりなりたくない……しばらく、情けないが怖くて外には出たく……」
「やだね。お前、明日中に迷宮区のマッピング済ませろ。さもないとHP1になるまでケツバットな」
「やめなさいバカ!」
アスナは怒鳴るとシュミットに向き直った。
「分かったわ」
「すまない……それと、俺をDDAの本部まで送ってくれ」
「一人で帰れよぶっ飛ばすぞ」
「いい加減にしなさい!」
シュミットを送ってから俺とアスナは血盟騎士団本部にあるソファーに二人で座った。
「いやー……そういや腹減ったな……」
ハナクソほじりながらそう言うと、アスナは軽蔑した目で言った。
「手を洗ってきなさい。汚い。そしたらこれあげる」
アスナがストレージから出したのはバゲットサンド。
「お、サンキュー。大丈夫だよね?毒とか仕込んでないよね?」
「いらないならそう言いなさい」
「冗談だよバカ」
で、手を洗ってきた。
「うまそー」
「あなたの性格的に、女の子から手料理振舞ってもらえるのなんて中々ないだろうから、特別サービス」
「いや普段から女の子の手料理食ってるしなぁ……」
「へ……?ど、どういう意味?」
「いやそのまんまの意……」
「ま、まさか彼女いるの⁉︎」
「はぁ?彼女?俺に?お前それ本気で……」
「や、やっぱり聞きたくない!」
なんなんだこいつは……と、思いつつアムッと一口。
「………うめぇ」
「それはどうも」
冷静さを装ってるものの、アスナは頬が赤く染まってた。何を照れる要素があったのか。
「で、あなたは今回の事件、どこまで分かってるの?」
「全部」
「………………は?」
「え?」
「今なんつった?」
「や、だから全部」
「ど、どういうこと?」
「シュミットを送ってる途中で全部解けた」
「なんでもっと早く言わないのよ!」
「いや聞かれなかったし。何より偏差値70キープならもう分かってると思ってたわ」
「んぐっ……!」
「じゃ、説明はするけど移動しながらでいいか?」
「? どういうこと?」
「シュミットを送った時に俺がパーティ申請してたのは覚えてるだろ?」
「う、うん」
「それであいつを探知したんだけど、ちょっとマズイな。まぁあいつが死んだって俺は知った事じゃないけど、お前はヨルコさんとかに死なれたくねぇだろ」
「な、なによ!勿体ぶらないで教えなさい!」
「じゃ、行くぞ」