洞窟の中を進む。
「なぁ、セレナ」
「なに?」
「なんで俺の腕にしがみ付いてんの」
「はぁ?別にしがみ付いてねぇよ。妄想は頭の中だけにしろカス」
「いやでも明らかにビビってるよね」
リーファも言う。
「へっぴり腰だし、お兄ちゃ……キリトくんの服、半分脱げてるし」
「ビビってねぇっつってんだろ。なに、そんなに俺のこといじめて楽しい?小さいねーお前ら。人が怖がってんの見て楽しむとか人格疑うわ」
「じゃあ離れろよ」
「はぁ?お前の腕に爆乳がくっ付いてんだぞ。もっと喜べよ」
「お前本当に俺のことなんだと思ってんの?」
「いいから早く進めよ」
「そういえば、お前迷宮区とか森林とか雪山とかのボス戦は参加してたけど洞窟だけは来なかったよな」
「は?してましたけど?」
「いやしてない絶対してない。だって覚えがねぇもん」
「なに、お前自分が何もかも正しいとか思ってんの?どんだけ自己中だよ死ねば?」
「暴言吐いて誤魔化そうとするな」
「うっ………」
セレナの頬を冷や汗が通る。気が付けば桐ヶ谷兄妹はいじめっ子の笑いをしていた。
「言ってみろよ。怖いんだろ?」
「こ、怖くねぇよ!いいからアスナを……」
「別におかしな事じゃないだろ。お化けとか誰だって怖いさ」
「お前らと俺を一緒にするな!」
「じゃあお前、一人で行けよ」
「うっ……」
「ちょっとパパ。さすがに……」
ユイが止めるがキリトはやめない。普段、自分をイジるにいじってる奴がビビりまくっているのだ。こんな痛快なこと滅多にない。その時だった。「うっ………」と、声がした。リーファでもなければキリトでもない。当然、ユイでもなかった。
「うえぇぇ……うえええぇぇぇぇん………」
「ち、ちょっとセレナ⁉︎」
リーファが慌ててセレナに声をかける。だが、セレナの泣き声は収まらない。Sだから打たれ弱いのだ。
「ひぐっ……グスッ……」
三人がどうしたらいいか分からず、慌てふためくが、セレナは泣き止まない。
「ち、ちょっとセレナ。落ち着いて、ね?」
「グスッ……直葉ぁ……」
「はうぅ……」
涙目で上目遣いで抱き着かれ、リーファは思わずきゅんとなったが、なんとか理性が勝って、とりあえず頭を撫でて落ち着かせようとする。
「大丈夫だよーセレナ。怖いことなんてないよ。お化けなんていないからね」
「う、うん……」
で、リーファとユイはゴミを見る目でキリトを睨んだ。
「な、何が言いたいんだお前ら……」
「女の子を泣かすなんて最低です。パパ」
「お前がお化けになれ愚兄」
「そこまで言うの⁉︎」
(クッソ……こういう時だけ女の子になりやがって……!)
と、キリトは奥歯を噛んだが、そんなことはこの空気じゃ言えないわけで。
「その…ごめんなセレナ」
「嫌だカス死ね」
罵られたが、ダメージはない。むしろ涙目上目遣いなので少しほっこりキリトだった。
「あー……ほら、パフェ奢ってやるから。な?」
「人のこと散々傷つけといてパフェ……?なめてんの?」
(お前の言えた台詞か!)
「じ、じゃああれだ。俺の出来る範囲で言うことなんでも聞くから。な?」
「………言ったな?」
「おう!」
「ログアウトしたら覚えとけよ」
冷や汗をかくキリト。その時だった。
「パパ、プレイヤーです!12人!」
「12⁉︎」
「お、多い!」
キリトとリーファが声を上げる。
「もしかして……つけられてた⁉︎」
「マズイよ!ここであたし達、殺されてる暇なんか……」
その「殺されてる」の単語にセレナがピクッと反応する。
「おい、俺を殺そうとしてる奴がいんのか………?」
「うん!それも12……」
と、言いかけたリーファの声が止まる。セレナはさっきの可愛らしい泣き顔とは違い、真顔なのにブロリー並みに気迫のある顔になった。
「ちょっと、殺してくる」
スイルベーンで買った安物の刀を抜き、セレナはプレイヤーの反応があった方へゆっくりと歩き出した。
「なんつーかさ……」
「うん……」
「女の涙ってマジ最終兵器な」
ようやくセレナの弱点を見付けたのに、まったく弱点な気がしなかったキリトだった。