この作品は、私が文芸部の作品としてつくっているものを投稿したものになります。
出来はあまり保障できません。ですが、楽しんでみていただけたらなと思います。
ちなみに作者はろくに調べることをしていません。
イギリスのある町中の小さな鍛冶屋、所々剥がれたブラウンの塗装で包まれた外装、屋根には煙突、クラシカルな玄関。
店の看板は古い木の板で、書かれている店の名は…『Aria』
その店の店主、『ドナテロ・ウァリツングスト』は町で腕のいい鍛冶師(スミス)だと言われていた。
言葉遣いは荒いが、仕事は一流。それが町の人々の見解であった。
May,15th,5:00
まだ日の昇らない時間。その日、その店を訪ねる者がいた。
『 カラン カラン 』と、
「……よう、調子はどうだ?」
店のドアが開き、鐘がなって最初に聞こえたのは低い老人の声。ドナテロである。
店の中は商品や修理中とみられる物が所狭しと並んでおり、その隅でドナテロは機械を弄っていた。
「それはこっちのセリフ、何でまだ営業してるのよ。」
声のほうに向き、応対するのは比較的若い女性の声。
その女性は20代後半に見えるがそれでもなお美しく。
金色の、背に掛かるほどの美麗なカールの髪。白いビジネスブレザーに黒いスカート。
サングラスをかけているその女性は腰に片手をあてながら老人に対して呆れた声を出す。
「何、ぶっ倒れるまでこの仕事は続けるさ。俺の生き甲斐だからな。」
女性はため息を吐きながら
「仕事もままならないような体になってもなの?バカね、閑古鳥が鳴いてるんじゃない?」
ドナテロは鼻を鳴らして答える。
「ハッ、手が動けりゃいつまでだってバカみたいに仕事するさ。」
そして手を止め一息吐く。
「それに、ままなるような体を持ってるやつが弟子になってな、鳥が鳴くにゃまだ早いさ。」
その言葉で女性は目を見開く。
「……冗談でしょ?あなた、弟子は取らないって、私に言ったじゃない!?私があれだけ頼んだのに……、また何で」
ドナテロは作業を再開しながら答える。
「お前は俺の弟子にならなくても、別の道で成功したじゃねぇか、そんなでけぇ声出すなよ。……まぁ、何だ、俺も歳をとったてことだ。弟子くらいとる。」
女性は怪訝な顔をする。
「……あなたの性格からしてあまり納得は出来ないのだけれど、まぁ深くは聞かないわ。」
店の椅子に座って女性は息を吐く。
「で、どんな子なの?その弟子にした子は。」
女性は肩肘を机に置き訪ねる。
「あぁ町の孤児だったやつでな、2年前散歩してるときに声をかけてきて、そいつが持ってたペンダントが開かなくなったっつうもんだから、気まぐれで直してやったんだよ。
そしたら弟子にしてくれって言い出してな、あんまりしつこいもんで、折れちまったんだよ」
ドナテロは作業を終えたようで、女性のほうを向き答える。
「この町らしくない、騒がしい坊主でな。いつでも話しかけてきやがる。
だが手先は器用で、仕事はえらく集中してやるんだ。しかもいい才能を持ってる。」
女性は意外そうな声で
「あら、あなたが褒めるってめずらしいわね。そんなにすごい才能なの?」
「あぁ、もしかしたら俺よりかもな」
「!?」
『 ガタンッ 』 と、
「……あなた以上なんて冗談止めて頂戴。」
頬杖をついていた女性は驚きに肩肘をずらし、驚愕の表情を老人に向けた。
「今はまだまださ、ガキに負ける訳にはいかねぇよ」
「大人でもよ。あなた以上なんて世界に五本の指といないでしょう……。
……『本業』のほうも教える気なの?」
「まだまだっつったろ?ガキに『あっち』の世界を教える訳にいかねぇだろうよ。
それに、俺はもう廃業してる。今はただの鍛冶屋さ。」
そうしてドナテロはタバコを咥えて火をつけようとする、が
「……体悪いんだから禁煙しなさいよ。」
それを女性がすかさず取り上げた。
ドナテロは顔を顰めつつ女性に不満を言う。
「なんだよ…。どうせもう老い先短けぇんだ、今更変わりねぇよ。」
「あんたはそうでも、そのお弟子ちゃんは違うでしょ。中途半端で投げ出す気なの?」
そう言って女性はタバコを店にあったゴミ箱投げ入れる。
「あーあー勿体ねぇ……。中途半端っつっても、俺が『今のあいつ』に教えられることはもう教えたさ。」
立ち上がりながら言う。
「後は……、あいつ次第だ。」
「……たった二年で、そこまで言えるって言うのは才能なのかしら。」
女性は目を細めながら問う。
「かもな。まぁ、俺の腕もあるかもしれんが。」
ドナテロはおどけて言う。
「私はあなたの腕と信じたいわ。自身無くしちゃうもの。」
「よく言うぜ。」
『 コツ コツ コツ 』
と……、ドナテロと女性がそんな話をしているとき、そんな、誰かが階段を降りる音が聞こえた。
その誰かは、ゆっくりとした動きで店の扉を開け二人のところへとやってきた。
そして、欠伸をしながら
「ふわぁ、おはよう師匠。……あ、お客さん?早いね。いらっしゃいませー。」
入ってきたのは16、17前後くらいの少年。
ぼさぼさの茶髪にグリーンの眼を眠気眼にして、服の上からも分かるしっかりとした筋肉がついた体をふらふら揺らしながらながら進んでくる
そして寝巻のまま寝癖を立てて自分の師への挨拶と客への接客を始める。
「だらしねぇ格好して客の前にでるんじゃねぇぞ。それとこいつは客じゃねぇよ。」
老人はもう慣れたかのような声で、少年はそれを「ハイハイ。」とこちらも慣れたように答える。
「ん、じゃあこの人は?師匠の恋人かなんか?」
少年は少し色めき立ったように聞く。
「この歳になって恋人なんぞ面白れぇ話だ。いつもの倍働いてもらうぞ?」
「ジョークだよ。ハハハ。」
少年はドナテロが持っているスパナを見ながら、冷や汗を流し答える。
「で、結局どういう関係なの?こんなところに金髪の美人さんなんて普通来ないでしょ。すっごい気になるんだけど。」
女性は『ドナテロ』に向けて一瞬の驚きの表情を向けるもすぐに平常に戻した。
そして少年へ
「坊やは口がお上手ね。
私はこの人に仕事のことで昔助けてもらったの。そうね、久しぶりに恩人に会いに来たって感じかしらね。」
少年は得心いったようで
「お姉さんもなのか!いやぁ、実は俺も師匠に助けてもらったことがあるんだ!」
女性は顔に微笑を浮かべる。
「フフッ、この人から聞いたわ。話通り、元気な坊やね。
この人の弟子なんですって?凄いわね。」
少年は少し照れながら
「何度も何度もしつこく頼み込んだんだ。ずっと、それこそ一日中さ。
その甲斐あってか、師匠も渋りながら弟子にしてくれたんだ。」
女性はまた小さく笑って
「それもあるけれど、よく鍛冶屋になろうって思ったわねってことよ。悪い意味じゃなくてね。
こう言ってはなんだけれど、今の時代に鍛冶屋になる理由なんて家業くらいのものよ。」
「あぁ、それは……、」と、少年は間を空けて
「……師匠に憧れたんだ、あの時、助けてくれた時に。」
少年は、先程よりもずっと照れくさそうに言った。
「……そう、いいわね、憧れるって。
あなたも、よかったじゃない慕われてて。」
少年にはかつての憧憬を思い浮かべて微笑ましい笑顔を、ドナテロへは含み笑いで女性は言う。
「お前が何考えてるか知らんが、俺は嬉しくねぇからな。
それに、俺に憧れるんならもうちっと大人しくしねぇか坊主。」
ドナテロは少し疲れたように言う。
「いやいや、憧れといってもやっぱり師匠ですから!師弟関係はよくしたいでしょ?
……いや、もちろん静かなのが嫌いってのもあるんだけど。」
ハァ 、とドナテロはため息を吐く。
「なかなか面白い子ねぇ。」と女性は笑って言う。
「元気さが俺のチャームポイントなんで!」
と少年は胸を張る。
「あんまり調子に乗せるなよ……。」
とドナテロは一段と疲れたように言う。
「……あぁ、そういやぁ」と、
「おめぇ、結局何しに来たんだ?まさかただ俺の見舞いに来たってだけじゃねぇだろう。」
ドナテロは目を細めながら女性に尋ねる。
「そうね、私もさっさと用事を済ませなきゃね。」
女性は居住まいを正し、ドナテロへと向き直す。
そして、凛とした表情で口を開く。
「我が社、『SIR』は現在あなたのご友人、『アリア』様から手紙を預かっております。今日はその手紙について、あなたにお話しがあってここに来たの。」
『 シ ン 』と、その時、その部屋、その空間だけが、時が止まったような、そんな静寂に包まれた。
少年は、今まで感じたことのない、言いようもない気配が、
自身が敬している師から発せられていることに気付いた。
少年は、平常とはまったく違う、己の師の雰囲気に圧倒され、戸惑ったように声を上げようとする。
「え、えと、俺は「坊主、少し席外せ。」……わかった。」
続けようとした言葉を遮られ、その言葉を飲み込み少年は己の師に従う。
「……終わったら、呼んでくれ。」
『 パタン 』と少年が出ていった後の部屋に乾いた音が響いた。
それから少し間が空き、ドナテロは静かに口を開く。
「……何故あいつがいる前でその話をし出した。
あいつにゃ関わりねぇことだろ。」
女性はしばし目を閉じ、そして話し出す。
「そうね、配慮が足りなかったかもしれないわ。
でもね、あなたがこのことを隠そうとしても無駄だと思うわ。
あなた、雰囲気が分かりやすいもの。あの坊やなら何かあったってすぐに気付くわ。」
「あいつが例え、何を聞こうと俺は話すつもりなんざねぇぞ。
これはあいつと無関係だ。俺の問題だろ。」
老人はいら立ちを隠そうともせず話す。
「……あの坊やのこと、大切なようね。かつてのあなたからは考えられないくらい。
何かあったのかしら。」
「ただの一般人を関わらせたくねぇってだけだ。
話を戻せ、今それは意味のねぇことだろ。」
「私としては意味のあることなんだけれどね。
そうね、悪かったわ。」
女性はまた少し間を置いて、老人へと話し出す。
それから少し経って
『 ガチャリ 』
扉が開く音が聞こえて、少年は二人の元へと戻る。
ドナテロと少年は入れ違いになり
「坊主、俺は少し外に出る。そいつは頼んだ。」
「あ、あぁ……もう、いいの?」
少年は不安げな様子で尋ねる。
「ええ、もういいわ。
ごめんなさいね、坊やには悪いことしたわね。」
女性は少年に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「いやいやそんな!俺がいても話進まなかったかもしれませんし大丈夫ですって!」
少年は慌てて言う。
「そう、ありがとうね。」
女性はその言葉にホッとしたような表情になる。
「そういえば、自己紹介もまだだったわね。
私はフレデリカ・アルテムスア、フレンダでいいわ。」
そういってフレンダは微笑みながら少年へと手を差し出す。
「そういえばそうだったね。
俺はミロ、ミロ・スミス。2年前から師匠に弟子入りして働いてる。
よろしく。」
ミロはその手を取り、お互いに握手をした。
「ええ、こちらこそよろしくね。
あのドナテロのお弟子さんと知り合えるなんて、幸運だわ。」
ミロは笑いながら
「そんな幸運だなんて大げさだよ。俺はしつこく頼んだだけだし。」
「あら、やっぱりあの人、あなたに自分のこと話してないのね。」
「え?」とミロは何かあるのかと聞き返す。
「昔から秘密主義だったけど、弟子にもそうなのね。
まぁ、わざわざ言いふらすのも似合わないか。」
フレンダは懐かしそうな、どこか寂しげな表情でドナテロのことを話し出す。
「彼はね、世界で誰よりも優れたスミス。かつては『The Smith』と呼ばれるほどの人だったの。」
そのころ、ドナテロは町を散歩していた。
ドナテロは歩きながら、フレンダに言われたことを何度も、何度も考えていた。
『彼女の手紙は会社の金庫に厳重に保管してあるわ。外に出すには影響が大きいもの。
だから、手紙を読むのなら、私の会社に来て頂戴。』
『あなたが今、彼女のことについてどうするつもりでいるのかは知らないわ。
でもね、決めていないのなら、私がここにいる間に答えを出しなさい。』
『あなたの弟子のためにも、ね。』
『あの坊やが関係あるかないかは、あなたの決断に左右されるわ。』
だから、決めなさい。
「……、んなもん決まってんじゃねぇか。」
ドナテロは振り返って歩き出す。自分の決断を伝えるために。
「……。」
不意にその足が止まる。
「……決めた、はずだ。はずなんだ、なのに。」
彼は苦悩する。己の愛した、愛してしまった女性を思って。
そして、己の教え子を思って、苦悩する。
ドナテロは、過去に囚われる。
この話を書いておいて何ですけど技工士って今いるんですかね。