いつもながら険悪を抱く方はUターンしてください。
では、第二話をお楽しみあれ!
しばらくすると雨は止んだが、オレたちはお互い動こうとはしなかった。聞くところによれば、アーシアは堕天使から自分の神器を狙われているらしい。数時間前、教会の神父と堕天使が、自分を殺して神器を奪い取る話を聞いていたらしい。このまま教会に帰れば、間違いなく襲われる。
さっきは、追っ手から逃げている途中に偶然オレと出会ったらしい。
かく言うオレも、いきなりこの世界に飛ばされてきたため、文字通り家無しっ子だ。帰りたくない雰囲気が二人を包み、ただ時間だけが無情に過ぎ去っていく。
それにしても、どうしてトランプが出てきたのだろうか。この世界にも、アヴィスへの道が開かれるなら、警戒するべきだ。
アーシアが唐突に沈黙を破る。
「あ、あの、オズさん!」
「どうしたのアーシア?」
「この町に私の友達がいます。その人に聞けば、オズさんのこれからの生活について何かできるかもしれません!」
「その友達ってどこにいるの?」
「あうっ、分かりません……」
「じゃ、探しに行こう!」
そう言ってオレはアーシアに手を伸ばす。懐かしい、こうするのって10年ぶりに会ったエイダにして以来だった。でも、やっぱり恥ずかしいのが本音だ。
「は、はいっ!」
笑顔で差し出されたオレの手を握るアーシア。
森を抜け、しばらく歩いていると大きな学舎が見えてくる。大きい、ラトヴィッジ校の二倍はあるかもしれない。
「アーシアの友達って同い年かな?」
「はい!イッセーさんはたぶん私と歳が同じはずです!」
「じゃあ、あそこにいるかもね」
柵を乗り越える。うんしょ、と言って柵を飛び降りるアーシアを下で受け止める。
目の前に、今にも崩れそうな木造の校舎がそびえ立っていた。それらを言葉で表すと、不気味だ。
人が好んで足を運ぶ事はないだろう。こんなとこに近づくのはと言われると、アヴィスの門が存在するサブリエの様に、よほど好奇心旺盛な者たちぐらいだろう。
「オズさん、なんか怖いです……」
「大丈夫、オレが着いてるから」
鍵がかかっていると思って正面玄関のドアノブを回してみるが、意外にも施錠されていなかった。それどころか、建物すべての鍵が施錠されていない。アーシアは変わらずオレの服の袖を掴み、オドオドしながら歩いている。
それにしてもこの校舎、外見の割には清掃が行き届いている。廊下にはホコリも髪の毛も落ちていない。
廊下の突き当たりの扉にネームプレートが貼られていた。
「オカルト研究部?」
「何でしょうか?」
「とりあえず入ってみよう」
ドアノブをひねると、案外簡単に扉が開いた。
中には、四人ほどソファーに座っていた。一同、突然入っていたオレたちにポカーンとしているが、正気を取り戻した白髪の少女がオレに向かって来た。
「侵入者」
オレはそのスピードに対応しきれず、少女の渾身の右ストレートを顔面に食らってしまう。
オレと同じ位の体から放たれるパンチとは違い、その威力はアリスのパンチかシャロンちゃんのハリセン並みだった。
「ぎゃあぁあーー!!!」
殴られた勢いで部室の壁を突き破り、廊下の壁に埋め込まれる。そこまで痛くはないが、やはり無傷とはいえない。それを見たアーシアがトコトコと駆け寄ってくる。
「お、オズさん!」
「いってぇ……」
「侵入者は排除」
エコちゃんみたいな少女がオレに拳を振り下ろそうとするが、彼女の手を籠手を付けた青年が止める。
「待って小猫ちゃん!」
「待つのよ小猫!」
青年と女性の声が被る。
「アーシアは俺の友達だ!えっ?」
「オズは私の知り合いよ!えっ?」
声を被らせた二人がお互いを見る。よく見れば、女性はアーシアを助けてくれた、紫の術式から現れたあの時の人であった。
「部長、こいつと知り合いですか?」
「知り合いもなにも、さっき彼に召喚されたわ」
「「「えぇ!?」」」
「うふふ、面白い事になりましたわね」
◇
「粗茶です」
「あ、どうも」
「皆に紹介するわ、彼はオズ=ベザリウス。私を召喚した普通の人間よ」
「「「ええっ!?」」」
「小猫のパンチを食らって平然としてる人間なんて、見たことがないわ」
「いやぁ、それが本当なんですね〜」
現在オレは、オカルト研究部副部長の姫島朱乃から頂いた粗茶というものを飲みながら、出されたお菓子を頬張っている。一緒に食べている小猫ちゃんは、お菓子で意気投合し、勘違いからの行動だったので和解した。
「それで、この子がイッセーの友達の?」
「アーシア・アルジェントです!よろしくお願いします!」
「オカルト研究部、部長のリアス・グレモリーよ」
この時、初めてこの女性の名前を聞くことができた。すると、籠手を付けた青年がアーシアに口を開く。
「それで、アーシア。教会から逃げてきたのか?」
「はい、イッセーさん。教会から逃げている途中、オズさんと出会って。たまたま、私を殺す密約が神父様と堕天使様の間で交わされていましたから……」
「アーシア、自分を刺したチェインと、その堕天使は何か関係しているか?」
俺の質問に、アーシア以外は何を言っているのか分かっておらず、首をかしげる。
「オズ、チェインって何なの?」
オレは口にしていたチョコ棒を頬張り終えると、質問に答える。
「うーん……早い話が、異世界の化け物かな?」
「異世界?冥界とは別なの?」
「それとは違うよ。アヴィスって呼ばれる、入ったら普通は二度と出ることが出来ない永遠の監獄みたいなところさ。チェインはそこに住まう異形の化け物、かく言うオレも、チェインだよ?」
「えっ!?人間にしか見えないわ!」
オレを抱き抱えたリアスが、顔を引っ張ったり目をジロジロ見つめたりする。さすがに、これはきつい。
「あ、あの。リアスさん?」
「あっ、ごめんなさい。あなたの翠の瞳が美しかったからつい」
美しい。そんな綺麗な代物じゃないんだけどね。
「オレはオズ=ベザリウス。またの名を黒ウサギのオズ(ビーラビットのオズ)って言うんだ」
これを聞いたリアスたちは、驚くどころか平然としている。
「大丈夫よオズ、私たちだって人間じゃないわ」
リアス、朱乃、小猫ちゃん、そして木場と名乗った美少年から黒い翼が生える。イッセーと呼ばれた少年は必死に出そうとするが、なかなか出てこない。
「本当に存在するんだ、悪魔って」
「オズ、あなたのいた世界は悪魔とか堕天使はいなかったの?」
「まぁ、チェインが悪魔みたいなもんだからね〜」
オレは笑って答える。が、リアスの顔は少し浮かれない表情だった。
「少し話が逸れてしまったけど、アーシア」
「はっ、はいっ!?」
「申し訳ないけど、あなたをここに長く居させることはできないわ」
「ぶ、部長どうして!?アーシアちゃんは堕天使に命を狙われて困ってるんですよ!?」
リアスの言葉に、イッセーが食ってかかる。しかし、リアスの言葉は非常に説得力があり、そして無情だった。
「シスターは主を神として仕える存在なの。オズならまだしも、悪魔である私たちとは相容れない存在なの。イッセー、わかって」
イッセーは奥歯を噛み締め、拳を握り締める。
「で、でもっ!」
「イッセーさん、もういいです。私が出ていけば良いんです……」
「アーシアちゃん……」
イッセーの気持ちを感じ取ったアーシアは、どこか寂しそうな顔をしてオレたちに背を向ける。
「イッセーさんの気持ちは受け取りました。ありがとうございました……」
そう言ってアーシアは部屋を出て行く。アーシアが部屋を去った後、リアスさんが俺に口を開く。
「あなたはどうするの、オズ?」
「他に行く当てもないし、アーシアと一緒にいるよ」
「そう、分かったわ。何かあったら知らせて、微力ながら力になるわ」
「どうも」
そう言ってオレは部屋を出て、アーシアの後を追う。
「アーシア!」
「オズさん?着いてきてくれたんですか?」
「まぁね、オレもアーシアと同じ境遇だし、一人より二人の方が寂しくないだろ?」
「ふぇぇん、ありがどゔございまずぅ……」
アーシアはオレに抱きついて涙を流す。本当は寂しかったのだろう。あの時、周りに迷惑がかからないように強がって、本当は辛かったんだろう。
アーシアは顔を埋めて、泣き続けていた。
「感動のシーンだけど、強制閉幕させてもらうわ」
「誰だっ!?」
突然の声に周囲を警戒する。ふと空を見ると、二枚の黒い翼を持つ女性がいた。妖艶で美しく、黒髪の長髪で極度に露出した服を着ていた。
天使、いや。あれはリアスさんの言ってた堕天使?
「アーシア、下がって」
「オズさん……」
「探したわーアーシア、盗み聞きしていきなり逃げ出すなんて、探すのに苦労したわ。さぁ、聖母の微笑み、渡してもらいましょうか?」
「あなたがアーシアを狙う堕天使?」
「そうよ、堕天使レイナーレ。よく覚えといてちょうだい、無様な人間よ」
そう言ったレイナーレは、空に手を掲げる。すると、彼女の手のひらに紫に輝く光の槍が現れる。
「死になさい」
レイナーレは俺に向けて槍を投げつける。とっさに大鎌を出現させたオレは、飛んでくる光の槍を切り落とす。
「なっ!?あなた本当に人間!?」
「退けよ、今なら間に合うよ?」
「くっ、そういうわけにもいかないわ。フリード」
「はいはーい!フリードちゃんでありんすよォ!」
オレが声に反応して後ろを振り返ると、白髪赤目の神父が剣を振りかぶっていた。オレはとっさに防御態勢をとるが、間に合うはずもなく吹き飛ばされる。
「ガハッ!?」
「オズさん!」
「これはこれはアーシアちゃあーん、ショタボーイと戯れて何をしてるんすかっ!心配しちゃったよー急に逃げ出したりするからぁ〜!」
「う、く……」
「おやぁ?まぁだ足りないみたいですねー!もういっちょやるか!」
神父はオレに向けて銃を撃つ。痛い、何度も何度も撃たれる。痛みで動くことができない。
「ひゃっはっは!」
「目的のものは手に入ったわ。さっさと逃げるわよ」
神父は血だらけになって動けないオレに背を向けると、無抵抗のアーシアを担いで術式へと消えていった。
まただ。またオレは誰も救えなかった。
「くそがぁああ!!」
「お、おい、大丈夫か?」
殺す、殺す、殺してやるぞ堕天使!
「おい」
「いっ!?」
オレはイッセーの懐を掴み上げる。イッセーの瞳に映ったのは血だらけになり、目が赤く、狂気に満ちた顔をしたオレだった。
アーシアの所在。それはおそらく、彼女のいた教会だろう。ならば、聞くことはただ一つ。
「教会はどこだ?」
「行ってどうするつもりだよ!」
「アーシアを助け、堕天使を皆殺しにする。ビーラビットの力で……」
「分かった、なら俺も協力する。アーシアを助け出そう」
「私は用事を思い出したから、今日はここで解散ね」
リアスの言葉で、メンバーは解散していく。
「いくぞ……」
異なる世界に飛ばされ、出会って初めて生きる希望を与えてくれた少女を助けるため、オレは教会へと向かう。