いつもながら、お気に召さないお方はUターンを(;_;)
オカルト研究部のある旧校舎とは別の本校舎は、その木造で作られた旧校舎とは比べ物にならないほど綺麗だ。
この校舎を、ラトヴィッジ校の生徒に見せたらどんな反応をするのだろうか。
それに、こっちの世界に来て初めてエレベーターと言う乗り物に乗ってみた。オレは、ボタン一つで自動に上や下へ移動する機械にカルチャーショックを受けた。だって、屋敷や城にあるのは螺旋階段ばかりだもん。
元は女の子だけの学校だったらしいけど、なんの弾みがつい最近共学になったらしい。
ちなみに、オレは外見は15歳の子どもだけど、本当の年齢は25歳だ。アヴィスは時間を歪曲する力があるから、オレが成人の儀の時に落とされてアヴィスから脱出するまで、元の世界では10年が経過している。
年齢的には学生じゃないけど、リアスさんが融通を利かせて転入することができた。驚いたのが、この学園がリアスさんの私物のようなものだと聞いたことだ。
転入してから3日ほど経つと、異世界の学校にも慣れてきた。最初はこの身なりだし、転入生っていうこともあってクラス中の生徒から良い意味で子ども扱い(頭撫でやら抱っこやら)されて戸惑ったけど、今じゃその波も一応収まって、今はどこの学校でもありふれるのどかな光景が広がっている。
一通り授業を終えて放課後は、オカルト研究部のみんなと旧校舎の部室で部活動を行う。土日も朝から部活動を行う。
ちなみに今日は、オレがみんなに紅茶を淹れる。
一応、元の世界では貴族の子として様々なことを嗜んでいた。紅茶も、従者だったギルから教えてもらい、人前に出しても恥ずかしくない程度まで淹れる事ができた。
水道水の蛇口を思いっきり解放する。この国の水は軟水だ、いい紅茶を淹れるなら、空気を含んでいた方が上手く淹れることができる。
そして、お湯を沸かし終えたら、お湯をティーポットから絶妙な高さで注ぐ。
そうして淹れられた紅茶は香りが良く、甘みも苦味も絶妙なバランスを保っていた。
「美味しいわ……」「美味しいですわ」「うめぇ!」「美味しい……」「うん、美味しいね」「いい味」と、リアスさん達は感想を述べてくれる。オレはニコニコして快く感想を受け取る。
「喜んでくれて何より〜」
「とんだライバルの発見ですわ」
朱乃さんが満面の笑みを浮かべる。朱乃さん、目が笑ってません、怖いです。
「そういえば、二人ともチラシ配り頑張ってるそうね?」
リアスさんがオレたちを褒めてくれる。この世界は、昔と比べて悪魔を信じる人が少なくなっているらしい。
リアスさん達オカルト研究部の場合は、魔法陣と呼ばれる術式が書かれたチラシを配って、契約を集めているらしい。
悪魔の第一歩は契約から始まるとも言われる。
そういうことで、オレはアーシアのために今日だけで100枚ほどチラシを配ってきた。その事について、リアスさんは褒めてくれたんだろう。
「いいなぁオズ、アーシア。俺なんか契約取れなかったんだぞぉ」
オカルト研究部の部室にイッセーのダレた声が響く。かくいう俺は、自分が淹れてくれた紅茶を飲みながら、小猫ちゃんと大量のお菓子を食べていた。
それにしても小猫ちゃん。よく食べるね。
「そういえばオズ、あなたこの世界の事、まだあまり知らないそうね?」
「ま、まぁ……」
「それなら、今日は特別に部活を休みにするから、アーシアと二人で遊んできなさい」
「えっ、それって」とイッセー。
「ふふ、まさか?」と木場。
「デート……」と子猫ちゃん。
「ほ、本当にいいんですか部長さん?」
アーシアが顔を赤くしながらもじもじしながら問う。なにその仕草、めちゃくちゃ可愛いんだけど。
「構わないわ。私たちは用事があるから、あなた達二人で町にでも行ってらっしゃい」
「あ、ありがとうございます!」
オレたちはリアスさんの好意をありがたく受け取り、部室を後にする。
◇
と言うわけで、オレとアーシアは私服姿で繁華街へと来ていた。そこで気になるのは二人の私服。
オレはリアスさんに頼んで作ってもらった、元の世界で祭りの際によく着ていた首元が開いた黒い燕尾服に、膝丈の短パン。黒い靴にハイソックスを履き、首元にタイをつけている。
アーシアは、白のカジュアルワンピースにお揃いのスカートを履き、金髪をたなびかせている。
「わぁアーシア!駒王町って、すごく発展してるんだね〜!」
「オズさんの住んでた町ってどんなところでしたか?」
「うーんとね、馬車が走ってたり、年中祭り事がどこかであったりしたね〜」
「わぁ!楽しそうですぅー!」
「リアスさんからお小遣い貰ったし、どこから行く?」
「まずご飯にしましょう!」
遊びに出かけた時はお昼頃だったので、オレたちはミスドナルドと言うお店へと入った。
「なんだここ?」
「ここは、少し前にイッセーさんに教えてもらったハンバーガーショップって言うところです!」
オレはハンバーガーショップのメニューと呼ばれる紙に釘付けになる。どれを見ても美味しそうだ、よだれが垂れるのを我慢して、一番美味しそうなものを選ぶ。
「あっ、オズさん。ここは私に任せてくださいね!」
アーシアはオドオドしながらも、深呼吸をして決心したかのように店員と向き合う。
「………………」
「………………あ、あの。ご注文は?」
「あ、あの!えっと、その……あうぅ」
なかなか不思議な光景だった。金髪美少女のシスターさんが、直立不動の姿勢で固まってるんだもん。
「あの、アーシア?」
「お、オズさん!いま、大事な時なんです!」
店員も困ってる。シスターも困ってる。周りのお客さんも心配そうに見てる。仕方なく、オレが横からメニューを指差して「これとこれお願いします」と言ってフォローしてあげる。
「あうぅ、また買えなかったですぅ……ぐすん」
「まぁまぁ、俺だって緊張して、最初は露店で何も買えなかったよ」
そう言って、オレは商品の包み紙を開ける。なるほど、周りを見てみれば、皆袋から本体を出して少しずつかぶり付いている。あれだね、ここに来る前に食べたクレープと食べ方が同じだ。
一方、アーシアはまじまじとハンバーガーを見つめるだけで、なかなか食べようとしない。仕方なく、オレが食べ方を教えると、目をキラキラさせながら豪快にかぶり付いた。
「そんな食べ方があるなんて!」
「いや、オレも今知ったよ……」
「なんと!オズさんは飲み込みが早いんですね!」
そう言って、笑いながらお互いハンバーガーにかぶりつく。それにしても、このハンバーガーのテリヤキ味、ベザリウス家の屋敷の料理より美味しい。
その後も、アーシアに手を引かれて色々な場所を梯子した。特に、ゲームセンターと呼ばれるお店に行った時は、その圧倒的な科学力の進歩に驚かされた。平面の壁に、小さな文字が浮かび上がったり、赤や青のコマンドに合わせて太鼓を叩いたりと、音楽を使ったゲームもあった。
ふと、アーシアがあるゲームの前にペタッと張り付く。それは、クレーンと呼ばれる機械で、下にあるぬいぐるみを取るゲームだ。
そのぬいぐるみの山に一つ、見覚えのある黒ウサギのぬいぐるみがあった。なぜか、妙に自分に似ていると思う。
「アーシア?」
「オズさん、私、あの黒ウサギが欲しいです……」
「とってあげようか?」
「い、いえ!そんな気を使わなくても!」
「いいからいいから〜」
オレはコインを入れて、クレーンを動かす。クレーンはみるみる黒ウサギに近づき、その顔をガッチリと掴み上げた。
「こい、こい、こい……」
だめだ、アームが緩い。しかし、ここで諦めるわけにはいかない!
「せいやぁああ!」
黒ウサギを、ゲーム機の中から現れた鎖でアームに固定し、穴へと移動させる。
ボトン!
「よっしゃあ!」
反則気味だと思うけど、気にしない、気にしない。
「はい、アーシア。オレからのプレゼントだよ」
「あ、ありがとうございます!このぬいぐるみ、大切にしますね!」
「これぐらいなら、いつでも取ってあげるよ?」
嘘だ。何度もやってると店員に睨まれそうだ。
「いえ、この黒ウサギはオズさんとの出会いが産んだ素敵なぬいぐるみです。記念すべき日に頂いたものですから、絶対に大切にします」
なんて良い子なんだろうか。なんか、アーシアはラトヴィッジで10年ぶりに再会した時のエイダみたいだった。純粋で、優しく、そして他人思い。
こんな子には幸せになってほしい。だから、護るって決めたんだけどね。
「ふん、下僕の言うことはいつもお人好しだな!」
今なにか、ぬいぐるみが小さな声で喋ったような……
「ん?アーシア、いまこの黒ウサギ喋らなかった?」
「ほへっ?しゃ、喋ってませんよオズさん?」
おかしいけど、アーシアも否定してるしオレの幻聴か。
そんな俺を嘲笑うかのように、黒ウサギがニヤニヤと笑う。
「ちょ、ちょっと待って!いま笑った!」
「もぉ〜オズさん、冗談言いすぎですよぉ〜」
アーシアは気にも留めず、黒ウサギのぬいぐるみを嬉しそうに両手で抱きかかえている。抱かれている黒ウサギは、オレにウィンクすると、力が抜けたようにしおれる。
「気にしたら負けだよね……」
オレは気を取り直して、アーシアと夜の繁華街を練り歩く。
(くっくっく、オズめ。後でたっぷりお仕置きしてやる。それより、肉が食いたい!)
密かに何かを企む黒ウサギであった。
最後のあなたは!?
まだ出番は後でございます!