では、どうぞ
俺は柊家に仕えている十の分家、その中で最も医呪術に優れている二医家の元・次期当主だった。
だった、というのは、今は次期当主ではなく、現当主だからだ。
両親は・・・何者かによって殺された。
吸血鬼にではなく、人間の誰かに。
殺した相手は・・・柊家、ということがわかっている。
とりあえずはこの高校で三年間過ごし、柊に俺という存在を信じ込ませようか。
とかそんなことを考えていると、キャッキャウフフしてるやつらが俺の横を通り過ぎる。
・・・またバカ共がバカなことして生きてるなぁ。
と思いながら、第一渋谷高校の正門に向かって歩く。
が、そこで突然笑い声と液体が飛び散る音が後ろから聞こえる。
見ると男子生徒が誰かが投げたコーラに当たったらしく、髪から制服までコーラでびちょびちょだ。
「グレン様っ!」
「くそっ」
後ろにいた女子生徒が叫び、その男子生徒の前に出ようとする。
だが、その男子生徒が、前に出ようとした女子生徒の肩をつかんで止めた。
そしてそいつはへらへらと笑ったまま頭を押さえ、言う。
「あ~、痛いんだけど?」
すると柊家の息がかかった生徒たちが、一斉に笑う。
―――なんだよあれ。
―――とんだ腰抜けがきたぞ。
―――だーからしょせん一瀬のやつらなんだよ。
あ、そうか。思い出した。
そういえば今年から同じ柊の分家である一瀬の次期当主が入ってくるんだっけ。
「あれ、君は二医の当主じゃない?」
不意に声をかけられる。
声の主は、
「これは深夜様。よくこんな分家のことをご存知で」
「ご存知もなにも、君って天才なんだろ?」
天才。確かに俺には医呪術の才能があった。
昔から、簡単に呪術を使うことが出来た。
真昼様の許婚にも知れ渡っているのだから、隠す必要はない。
ただ、目を付けられなければいい。
「そんな・・・自分なんて五士の跡継ぎや十条の跡継ぎに比べれば、まだまだですよ」
「そう?そんなに謙遜しなくてもいいのに。え~と、名前、なんだっけ?」
「あ、はい。自分の名前は二医流星夜(にい ほしや)です。・・・あの、なんで深夜様は呪符をもってるんですか?」
「流星夜か。ちょっと親近感湧く名前だなぁ。いや、ちょっと、ね」
深夜の持っていた呪符が燃えて、消える。
瞬間、小さな稲妻が現れる。
その呪術の発動スピードは、なかなかなものだった。
さすがは柊で天才と言われている真昼様の許婚なだけはある。
だが、それでも、この程度なら、目を瞑ってでも解呪できるし、余裕でカウンターもできる。
もちろん、お遊び程度だろう。
本気を出せばもう少し速くなりそうだが、俺にはまだ追いつかない。
だが、それは気づかれてはならないことだろう。
なにせ二医家の当主が反乱を起こすというのは、家のみんなに危害が及ぶ。
そしてそこで、稲妻が弾ける。
ポンッという音をたてて、コーラを投げつけられた一瀬の次期当主が吹っ飛ばされる。
「ぐぁっ」
二人の女子生徒が泣きそうな顔で一瀬の次期当主に近づく。
あの二人はおそらくあいつの従者なのだろう。
「グレン様!グレン様!」
一人の従者がグレンという男子生徒の頭を抱えて泣いている。
「顔に胸があたってるぞ」
「ちょっ!?」
そんな場の空気をまったく読んでない言葉が聞こえてくる。
続いてもう一人の従者らしき女子生徒がこちらを向く。
正確には、俺の隣に立っている深夜に向く。
あ、こいつ、そこそこできる。というのが、その行動でわかる。
そこでグレンと呼ばれた男子生徒が起き上がる。
「くそ、いったいなにが起きたんだ・・・」
「あ、あそこから攻撃がありました」
と、ちょっと棒読みなセリフを、従者らしい、冷静そうな女子生徒が言う。
そして、初めてそこで校門を、俺達のいるほうを見る。
まぁ、見ているのは深夜の方だが。
深夜はにこにこ笑ったまま、なにも言わない。
やがて、踵を返し校舎に入っていった。
ただ、一言、俺に言ってから。
「あ、そうだ。あのグレンとかいうやつの手当て、よろしく」
「え、あ、はい」
柊様に言われては仕方ないので、しょうがなく近寄る。
「やあ、血がコーラ味じゃないのかい?」
「誰ですか?」
「グレン様に近寄らないでください」
「え、初対面の人にそんなこと言われるとか。傷を治そうかなと思ってきたんだけど」
「「え?」」
「・・・ああ、思い出した。お前、二医流星夜だろ?」
「よく知ってたな。さくっと治すから動くなよ」
「二医って、あの二医?時雨ちゃん」
「そうだと思うけど」
そんな従者らしき生徒の会話は無視し、呪符を取り出す。
使うのは、柊の呪術だ。
「傷を癒せ」
俺がそういうと、呪符が解け、グレンの傷を癒していく。
「うわぁ」
「・・・これは」
従者らしき・・・いや、絶対従者だ。
が声を漏らす。
だがそんなことは気にせずに治療を完了させ、その場を去る。
「じゃあね」
俺はそう言って、一瀬グレンに背を向けて歩き出す。
また俺の後ろでは主と従者のキャッキャウフフが始まった。
「はぁ。入学初日から疲れるな」
「あはは、疲れちゃダメでしょ」
「あ、もう着いたのか。早かったな、聖夜」
「いや、もう着いたのか、じゃないでしょ。私をおいていったの誰よ?」
「さぁて誰でしょう?」
「あなたなんですけど?二医流星夜」
「フルネームで呼ぶな。名前で呼べバカ。注目浴びるだろうが」
「うっ・・・あなたなんですけど?流星夜」
「言い直さなくていい」
「ええ~」
などと、笑いながら言ってくる。
天野聖夜(あまの せいよ)。それが彼女の名前だ。
二医家には柊家にも他の分家にも気づかれていない組織『帝ノ星』という組織がある。
『帝ノ星』には、二医家を中心に、天野、明星、陰星、流星、夜空の六つの家がある。
両親が殺されて俺が当主になったわけだが、もちろんのこと、俺には子供がいない。
俺が死んでしまったら、二医家の血はそれで途絶えるわけだ。
そこで、聖夜の話に戻るのだが、聖夜は俺の護衛兼許婚だ。
『帝ノ星』の中では、二医は呪術、天野は刀剣術、明星は幻術、陰星は妖術、流星は体術、夜空は封印術と、得意分野がある。
で、聖夜は天野家の天才といわれている程の技術、才能を持っている。
俺は呪術、聖夜は刀剣術と、産まれてくる子供はその才能を受け継ぐことになる。
「ま、はやく教室行こ?」
「はいはい、そうだな」
一瀬に柊に、とこれからの三年間、おもしろくなりそうだ。
両親がなぜ殺されたのか、それはまだわかっていない。
『帝ノ星』総出で調べているが、なにも情報が出てこない。
柊に殺された、ということだけは、わかっている。
まずは、両親が殺された原因を、この三年間で調べようと思う。
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