お久しぶりですね、申し訳ないです。
学校では、なにかがどうにかなって、今は生徒会役員……まぁ、専門委員の副委員長なんですけどね。
ではでは、どうぞ
夜。
時刻は十六時半。
今後の学校でのカリキュラムについて話を聞かされ、それからいくつかの呪術的な試験が、入学式が終わってすぐに行われた後、その日の学校は終了となり、流星夜達は家に帰されていた。
もちろん、流星夜はぶっちぎりの一位だ。実力的には。
しかし、無用な眼を付けられないためにも、ある程度力を抑え、二位だった。
もちろん、一位は柊真昼。
入学式でスピーチをした、柊家の天才様だ。
すべての試験が終わったあと、すぐに下校となり、今に至る。
「……にしても、こんなでかいマンションじゃなくてよかったんだけどな」
「そうかなぁ? 狭いよりは広い方がいいと思うけどなぁ」
「いや、6LDKとか初めて聞いたから」
二医家は……というより『帝ノ星』は、大層立派なマンションを借りてくれたものだ。
この階、俺と聖夜が住むことになっている十七階は、もちろんのこと貸し切り。
さらに十五階、十六階、十八階、十九階と、上下に二階ずつ借り切ってしまっている。
ちなみにこのマンションは二十階建てで、一番上の階はここのオーナーの一族が住んでいる。
いったいいくらかかるのかと考えながら玄関を開ける。
リビングへと長く続く廊下に、その両脇にいくつかの扉。
そしてその廊下も広いことから、中の部屋の広さも、ある程度予想できる。
さっき上下階も回ったのだが、呪術トラップがこれでもかというほど張り巡らされていた。
そして一つ上の十八階には、対呪術の結界がいくつにも張られた部屋があった。
大方、そこで呪術の研究や試作をしろということだろう。
「で、晩ご飯なににしようか?」
「……じゃあ、カレーで。どれくらいかかる?」
「ん~、煮込むなら、一時間と少しくらいかな」
「わかった。それまで寝とくから、できたら起こしにきてくれ」
鞄を自分の部屋に放り、部屋を眺める。
広さは、家具を置いても十二畳ほどあるだろうか。……一人が住むにしては、広すぎるだろ。
部屋の隅に置いてあった箱に手を伸ばし、蓋を開ける。
そこには呪符が綺麗に積み重ねられていた。
中には、白紙のものもたくさんある。
その中から、数枚取り、足音と気配を消して、エントランスホールへと向かい、エレベーターを呼ぶ。
そして、そのエレベーターに、ナニカが乗っていることに気づいたのは、エレベーターが一階から動き出した瞬間だった。
最上階には、オーナーの一族しか住んでいない。
そして、オーナーの一族は、誰も呪術を使っていない。
俺ら二医家でも、『帝ノ星』の関係者でもない。
となると、
「……暗殺者。またかよ、ったく」
呪符を静かに発動させ、拘束の呪術を編み上げる。
使うのは、もちろん柊の呪術。
扉が開いた瞬間に、呪符を投げ、
『捕らえろ』
そう、呪術に命じる。
扉が全開したときには、呪詛で体を封じ込まれた一人のスーツの男性が、こちらを見ていた。
「俺になにか用か? ていうかどこの所属だ? そんな気味悪い人体実験してんの」
「いやはや、君の方が怖いですね。オーナーの一族だったらどうするんです?」
「それはない。オーナーの一族に呪術を使ってるやつなんていねぇよ」
「なるほど。で、ここからが本題なのですが」
男はそういうと、服の内側から呪符がいくつも結び付けられている鎖を放つ。
その鎖は様々な速度、角度で、流星夜に向かって加速していく。
その呪符は、あまり見たことのないものだった。
二医家の人間として、柊の使う呪術――密教と陰陽道をベースに、世界中の呪術を取り込んで複雑になった呪術は、ほぼ全て読めるのだ。
だが、その男が使う呪術は柊家のものとは違う。
根本的に、起動の仕方から違う。断定はできないが、ベースは西欧の呪術なはず。
だとすれば、
『空は満天 闇夜は晴天 光の夜に幸あれよ』
直後、男の鎖が、なにかに塞き止められたかのように、動きを止める。
スーツの男が、初めて驚いたかのような表情を見せる。
「対呪詛用に作られた結界……しかも、詠唱で……?」
鎖についている呪符から、黒い煙の様なものがでて、結界を蝕む。
それを見て、確信する。
その呪詛の組み方を見て、確信した。
「……触れたものを腐敗させる呪詛。この組み方……《百夜教》だな?」
「これは驚いた、ご名答。さすが二医家当主様。申し遅れましたが、私は木島。《百夜教》に属するものです」
「で? その日本最大の呪術組織《百夜教》が俺に何の用だ」
「二医水火(みなほ)と、二医星斗(ほしと)を殺した相手に、柊に復讐するのなら、我々と手を組みませんか?」
「ッ、何故それを知っている?」
「調べさせていただきました」
《百夜教》。
この日本という国の中でもっとも規模の大きい、国家の暗部を支えているといわれている呪術組織だ。
多くの政治化が《百夜教》の援助を受けており、一般人には知られることはないが、ほぼ、この国を影から支配していると言ってもいいほどに、大きな組織。
柊家率いる『帝ノ鬼』を超えるほどの力を持った組織。
「殺された理由についても」
依然ニヤニヤした笑顔で笑う男は、真実をしゃべっているのかいないのか……。
だが、
「そんなものは自分で調べる。そして俺が、柊を潰す。それだけだ」
「……、あなたは一瀬の次期当主よりも話が出来る相手だと思っていたのですが」
「なんでそこにグレンが出てくる? あいつは関係ねぇよ。まぁいい。さっさと帰ってくれ。俺はあんたらにはつかないし、手も組まない」
「ですが、それだと――」
「あぁもううるさい。さっさと帰れ。でなきゃ呪い殺すぞ。五つ待つ」
すると、木島は笑う。
勝手に笑ってろ。終わることない苦痛を与えてやる。
「確かに、君の呪術力はすごい。でも君じゃ私に勝てな――」
「勝てるさ。殺す気がわずかでもあればな。五……」
「…………」
「四……」
そこで、持っている呪符をすべてばらまく。
その数約二十枚。
そのすべてが、地面に落ちる前に、空中で止まる。
そして一枚一枚が、まったく違う種類の呪詛を、あの深夜を余裕で殺せるほどの呪詛を編み始める。
「三……」
と、そこで、木島の表情から、初めて余裕が消える。
それを通り越して、顔が青ざめて見えるくらいだ。
「あぁ、くそ。これじゃまるでさっきと同じじゃないか。これは……一瀬の比じゃない。わかった、今日のところは帰――」
「二……」
男が、一つ、鎖を飛ばし、その鎖はエレベーターの閉ボタンを押す。
呪符は俺の周りを回りながら奇妙な音をたてて禍々しさを増していく。
「ほんとにこれはまずい。二医家当主、侮れないな……。だが、我らと手を組まなかったことを、君はきっと後悔――」
「一」
しかしそこで、エレベーターのドアが閉まった。
呪術の塊が、下へ下へと降りていくのを確認して、呪術の展開をやめた。
「……《百夜教》。もうすぐ戦争でも始める気かな?」
発動途中の呪符を回収しながら、はぁ、と小さくため息をついて言う。
もしも、そうなってしまえば、柊を潰すチャンスが出てくるかもしれない。
しかし、そうなってしまえば、いよいよ柊の天才様方が出てきてしまうだろう。
今現在、柊家当主である、柊天利。最も才能のあるといわれている、柊真昼。この第一渋谷高校の現生徒会長である、柊暮人。
……と、個人で戦ったら負けるかもしれない相手が、前に出てくる。
それに勝つために、もっと強くならなければならない。
二医家前当主、二医星斗のためにも、その妻、二医水火のためにも。
と、そこで部屋のほうから声がする。
「ねぇ流星夜! 流星夜!」
聖夜の声だ。なぜか、妙に慌てている。それからトントントントンと足音が響いてくるのが聞こえて、こちらをすぐに見つける。
「あ、いた! ねぇ流星夜! 重大で深刻な問題が!」
「ん? どうした? なにかあったのか?」
聖夜が重大な問題と呼ぶものとは、いったいなんなのだろうか?
まさか、《百夜教》が――――
「カ、カレーのルーが、バ、バーモンドじゃなくてこくまろなの!」
「……――お前はアホか!? バカか!? バカなのか!?」
少し身構えた自分がバカのようだ。
流星夜はそんなことを思いながら、罵倒と共に重力に作用する呪術を放つ。
しかし彼女はその呪術を全て避けて、頬を少し膨らませながら、。
「バカじゃないよ! ……そりゃ流星夜よりはバカだけどさ、……ってそんなことよりバーモンドだよ!」
「知るかッ!? ……、はははは」
思わず頭を抱えて笑う。
さっきまでの緊迫した空気と、身構えた自分はなんだったのだろう。
聖夜が一気になにもかも吹き飛ばしてくれたようだ。
「え、ついに流星夜が壊れた……?」
「壊れてねぇよ。いや、お前と、聖夜といるとやっぱ楽しいなって思ってさ」
父さんと母さんが死んだ後も、こうして笑えるのは、聖夜のおかげなんだ。
「えぇ、やっぱり壊れてるよ? 熱、ある?」
「ないって。そんな昔みたいにおでことおでこ合わせて計ろうとしないでいいんだよ」
「むぅ、ならいいけど。……そんなことよりバーモンド! ねぇ、30秒で戻ってくるから、行ってもいい?」
ちなみに、カレーのルーを売っている最寄のスーパーまでは、片道歩いて5分はかかるんだが。
それなのに、30秒で、買って帰ってくるというのだ。
聖夜は、昔から体に呪術をかけ、身体能力を上げる呪術に関して素質があり、それは俺も目を見張るほどのものだ。
「ああ、いいぞ」
「じゃ、行ってきまーす!」
聖夜が小さくなにか呟くと、水色の呪詛が聖夜の体を覆っていく。
次の瞬間、視界から消えた。
比喩ではない。ほんとに、そう思えるほどの速さなのだ。
そのまま15秒間、先ほどのことについて考え始めた。
《百夜教》のこと。一瀬グレンのこと。
そうだ、グレンが柊を潰したがっているというのは、果たして俺の勝手な思い込みだろうか?
そういえば、グレンは深夜となにかしゃべっていた気もするが……。
「たっだいま!」
わずか15秒で帰宅した聖夜に苦笑を漏らしながらも、おかえりを言う。
しかし、帰ってきた聖夜の右手には、グレーの色のかごと、その中にこれでもかといわんばかりのバーモンドのカレーのルーが入っているのを見て、
「……レジで精算済ませてきたか?」
「え? 私、“買ってくる”なんて一言も言ってないよ? さぁ、作るぞぉ!」
何事もなかったかのように再び部屋へと、キッチンへと向かって歩いてく聖夜を見て、また流星夜は笑った。
――――――
その日の深夜。
誰もが寝静まったこの時間に、部屋の中には、一人の少女が、父親からの……いや、父親への定期連絡をしていた。
「……はい、わかっています」
「……はい、今のところ順調です」
「……はい、これからも気をつけます、お父様」
部屋も外もまだ暗く、晩ご飯のカレーのにおいがまだ微かに残っている。
少女は、ソファに身を投げ出し、クッションに顔を沈めて、泣いた。
「……私、私は、どうすればいいの……?」
「私、流星夜が大好きだよ……」
「なのに……なのに……どうして……」
………………
「殺さなきゃ、ならないの……?」
………………
誰もいない空間に放たれたその言葉に、その問いに、答えてくれる者はいなかった。
今回、ちょっと長めになりました。
はやくグレンの本気や、深夜の本気、流星夜の本気、聖夜の本気を同時に書ける場面を書きたいですっ。
次は、問題児か、ブラック・ブレットのほうを更新してからなので、また少し時間が空いたりするかもです。
でも、続きは考えてるので、ある程度早く投稿できるのではないかと。
読んでくれてありがとうございました!
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