その男、幻想の郷で目覚める
「深淵を覗く者は深淵から覗かれているなんて言うが、ハッキリ言ってこれは予想外だ」
自室で寝ていた筈の俺は、吹く風の寒さに目を覚ました。
辺りを見回せば、赤い霧が視界を覆う。
更にその先には赤い紅い西洋様式の館が聳えていた。
「まて、まずは落ち着こう」
呟き一呼吸置く。
「平凡なおっさん外見なのは元から、何となくの万能感が漂うのは恐らくは能力、場所は確定要素は無いが幻想郷、つまりは東方Projectの、上海アリス世界観と言う訳だな」
幻想入り、その言葉がしっくりと来る現状。
確かに東方作品は好きで、二次創作の幻想入り作品も読んで居たが作品主人公達と同じ様に何の覚悟も無かった。
「そもそも最新作の辺り知らないしなぁ……っと、後だ後」
辺りの情景と過去読んだ二次創作の言葉から、『原作知識』と呼ばれる物から考えるならば、これは『紅霧異変』であると予想される。
霧の湖の畔に建つ紅魔館の主、永遠に幼き紅い月――吸血鬼レミリア・スカーレットが起こした異変。
流石に理由までは覚えていないが、幻想郷の賢者と呼ばれる妖怪、八雲紫の示唆により起こされた筈だ。
知っているからとは言えど、不用意に口にして良い事ではあるまい、人智を越えた事態だろうと死にたい訳じゃ無い。
中二病だったり、チート持ちならば即座に原作介入や、原作キャラとコンタクトを取ろうとするだろうが、俺は恐らくただの人間。
先程気付き理解した『能力』も上位の妖怪に通じる気がしない。
こんな危険な場所は、さっさと離れるに限る。
能力を理解するのと使いこなすのはまた別だろうしな。
記憶にある幻想郷の大まかな地理から人里へ向かう。
途中で廃屋と化した洋館を見かけ、休息をと思ったが中から楽器の音が漏れだし慌てて離れた。
あれはプリズムリバー三姉妹が住む館だろう、湖の外れにあると見た記憶がある。
まだ人里こそ見えないが、森と言うには密度の薄い林の中、ひっそりと佇む廃屋を発見し入り込む。
元は狩りに使う猟師小屋か何かなのだろう。
小屋内にあるものは古びて最近人が入った気配が無いが、まだ使えない事も無さそうだ。
歩いている途中、夜半過ぎには霧が無くなったのも救いである。
博麗の巫女か、普通の魔法使いが異変を解決したのだろう。
今日か明日、博麗神社にて宴会が催され、更にその先には紅い館の周りにだけ雨が降るのだろう。
寝る時には脱いでいた筈のジャケットからオイルライターと紙巻の煙草を取りだし、火を点ける。
ついでとばかりに囲炉裏にも火種を入れる。
何故かはいていた靴と言い、ライターと言いご都合主義染みているが非常に助かっているので文句は無い。
パチパチとはぜる囲炉裏の火を見ながら、紫煙を燻らせる。
「まず、幻想入りだとして今は東方紅魔郷のストーリー終了時、次は冬から春にかけての妖々夢か……問題は弾幕決闘法《スペルカードルール》が理解出来ても飛べる気配も無いし弾を撃てる気配も無いと」
即ち、戦闘は生身での格闘戦のみと言う、萃夢想の美鈴もびっくりの縛りプレイである。
能力も理解はすれど使い方が今一つ解らないのが問題である。
「『つくる程度の能力』ねぇ? 作り出す事が出来るってのは理解したが、材料も何がなのかも全く判らん……わからんから寝る!」
短くなった煙草を囲炉裏の灰に押し付けて横になる。
埃臭いが眠れるだろう、多分。