太陽が中天を過ぎる頃、目を覚ました俺は桶を担ぎ、くわえ煙草で湖に向かっていた。
人里に行こうと幻想郷で扱える貨幣は無い、かと言って換金出来そうな物もライター位しか無い。
だが、現代人である俺が火を起こす手段としてライターは必要不可欠だろう。
火打ち石の使い方等知らないので仕方ない。
博麗神社に向かうにも妖怪が現れると言う道を進まないといけない、そもそも二、三日は様子を見ないと折角スルーした異変関連、つまりは宴会に巻き込まれそうで恐ろしい。
故に人が寄り付いていないあの小屋を暫しの滞在場所としようと思っている訳だ。
妖怪や妖精に出逢わず湖に着けば、上空に青い姿が見えた。
まだこちらには気付いていない様子なので、さっさと水を汲んで退散しよう。
水を汲みながら、上空のだったら凍らせて運べるんだろうなぁなんて、考えていると桶の中に入った水だけがピシピシと音を立てて凍り付く。
「……ッ!」
空を見る、だが青い姿はフラフラしているだけで、こちらに未だ気付いた気配は……こちらを見られた。
これはまずい、先手を打たれ気付かれるよりはマシだが、戦闘手段を持たない以上ア《・》レ《・》に絡まれるのは避けたかったのだが。
それに凍り付いた桶の中身の理由も知りたいのだが、調べる時間は無さそうだ。
「そこのあんた! 何してんのよ、ここは私の縄張りよ」
上から声をかけてくる青いワンピース姿、背には氷で出来た翼、公式から馬鹿扱いされる霧の湖を縄張りとする氷の妖精、チルノである。
「水を汲みに来ただけだ、すぐに帰る」
そりゃ幻想入りした以上、原作キャラと絡めるのは浪漫だが、それは持つ者の特権だ。
持たざる者は怯え暮らし、英雄たる者に救いを求める。
それが全てを受け入れる幻想郷の有り様だろう、決して平和とお花畑な世界では無いのだ。
あくまでも、俺の主観ではあるが。
「水? 凍ってるじゃない、あんたわたしの氷を持っていく気ね!」
「いや、これは……」
ちょっと待てよ?
素直に返すよりも上手くやれば氷をもう少し手に入れれるかも知れない。
「……実はそうなんだ、少し離れた所に住み始めたんだが、掃除用に水が欲しくてね、汲みに来たら氷が浮いてたからこれなら持ち運びしやすくて助かると、君が作った氷なら申し訳無い、もし良ければ分けて貰えないだろうか?」
早口で捲し立てる、一部しか嘘は吐いていない。
そもそも、凍った理由も不明なのだが。
「それに君は力のある妖精だろう? 俺は戦う術を持たないんだ、襲われたら逃げるしか無いから、話が通じるならお願いしたいんだ、どうかな?」
「んーよくわかんないけど、氷が必要なのね、特別に持っていっていいわ!」
取り敢えずの危機は去ったか、礼を言って戻るとしよう。
「ああ、ありがとう助かる……」
「わたしも行って凍らせてあげるわ!」
「……よ、って何を言い出す」
「湖のそばに住むなら、わたしの子分って事よね! わたしより弱いんだから、子分の事を守ってやるのもわたしの仕事よ!」
意味がわからない、突然の子分扱い。
恐らくは暇潰しの様な物なんだろう、ついてくると言うのは厄介だが守ってくれると言うならお言葉に甘えよう、現状戦えないのだから。
「あ、ああよろしく……」
「わたしの名前はチルノよ! 大船に乗った気でいなさい」
名乗ってくれて助かる、流石に名乗りもしない名前を呼んだら不審に思うだろう。
実際原作のテキストやらを見る限り、妖精らしく短慮ではあるものの知恵が無い訳じゃ無さそうだし。
「チルノか、よろしく頼む、俺は……あれ?」
名乗り返そうとして気付く、俺の名前ってなんだ?
これは、いわゆる記憶喪失って奴なんだろうか、自分の事が――
草花の匂いに意識を取り戻す。
「あっ、チルノちゃん目覚ましたよ」
視界に緑色の髪をサイドテールにした少女の顔が映る。
名前の無い妖精、大妖精だろう、二次創作では大ちゃんと呼ばれる妖精だな……後はご立派な山をお持ちな様で。
上から除きこむ様な、背中が地面、頭が何かの上に……膝枕?
「子分大丈夫?」
凄い呼ばれ方をされ、身体を起こす。
心配そうな顔をしたチルノが隣で座っていた。
「ああ、なんとか……ええと」
「大妖精です、チルノちゃんと仲良くするなら、大ちゃんって呼んでください」
「だ、大ちゃんもありがとう」
柔らかく微笑まれる、驚異の装甲だけならず、心も大きいらしい。
チルノ?薄いな。
「名前聞く前に倒れたけど」
「ちょっとショックでな、どうやら自分の事を忘れたらしい、名前も家族も……一部除いてだけどな」
そう、今記憶として持っているのは原作知識と一部の名称だけ、ただ俺は喫煙者だって事はわかる、そうじゃ無かったら煙草を素直に吸ったりしないだろう。
「じゃあわたしが名前つけてやろう! 子分の面倒だからな!」
「あ、名前は取り敢えずナナシで良いよ」
本名がわかるかどうかなんて不明だが、取り敢えずの呼び名は必要だと思って名乗る。
チルノは不満そうだが、大ちゃんはにこにこと微笑んでいる、何と言うかまさにお姉さんと言った感じである。
「まあ良いか、それじゃナナシの家に行くぞー!」
倒れた所でチルノがついてくるのは無くならないらしい。
出ていった時には一人だったが、戻って来た時には三人に。
何の因果か大ちゃんも「また倒れたらどうするんですか?」とついてきた。
遠慮する前に二人とも掃除をはじめていたので諦めて俺もやり始めるが、三人も居れば掃除も早いもので。
あっという間に埃臭いのは無くなり、大ちゃんがまだ辛うじて食べれそうな干し肉や保存食を、チルノがひっくり返した収納からは小さい鍋や布団、その他雑貨を見つけてくれた。
俺はそんな間に床拭いてたよ。
「これからどうするんですか? 聞いた感じだと外の世界の人みたいですけど」
「そうだな、誰も使ってないみたいだし記憶戻るまで此処に住むかな」
大ちゃんの言葉に大して考えずに返事する。
博麗神社から外の世界に出た所で、何も覚えていないなら生きるにも困るだろう。
ならば理解している以上、此処で暮らすのもありだろう。
「ならわたしが面倒見てやろう、ナナシは子分だからな」
「ま、それならそれなりに頼むよ」
苦笑しながら囲炉裏に火を起こし、発掘され洗われた鍋に氷を入れたら火にかける。
「そろそろ日も暮れてきたが、どうするんだ?」
「わたしは見回りに行ってくるわ」
「私はチルノちゃんに付き合おうかしら」
なんとも元気な少女達である。
また来ると言ったチルノ達を見送り囲炉裏前に腰かける。
見れば氷は溶けて沸きはじめている。
適当な大きさに干し肉をちぎり、鍋に入れる。
先程かじった所、塩がキツめで野趣溢れる味だったので煮れば良い出汁が出るだろう。
干し肉がくたくたになってきた所で、保存食にあった干し飯を追加する。
二人が居る間は吸っていなかった煙草に火を点け、鍋の中身を箸でかき混ぜる。
俺は誰なのか、そんな事は後回しにする。
まず、考えなければいけないのは生きていく術だ。
幸いな事に、この小屋には俺一人なら暫くは食べていける量の保存食があった。
だがそれも長くて一月と言った所だろう、普通に三食食べるなら半月は無い。
思い付くのは第一に狩りをする事。
これは戦闘手段を持たない以上危険過ぎるだろう、自然動物の危険性と言うのは、今の俺からしたら妖怪とも大差無い。
次に人里で何らかの仕事をする。
これは安全性が高いが、仕事があるか、信用の無い人間に仕事があるかと言う所もある。
三つ目に家庭菜園を作る、田んぼは無理でも畑位なら行けるだろう。
これは作るのは良いが、苗や種の入手、鍬等をどうすると言う問題だな。
後は、直ぐに食料が手に入らないと言う問題は大きい。
四つ目、果物や野菜を自然から収穫する。
まあ、これが最も妥当な案だろう、人里で換金可能ならば他の食料も手に入らない事も無さそうだ。
「……っと、もう良いかな」
考えている内に、鍋の中身が良い感じになってきていた。
保存食粥と言った所か、塩と肉の味しかしない粥だが、まだマシだろう。
木の椀に入れながら、何か忘れている様な?と考えるが思い付かないので諦め、幻想郷に来て初めての食事を楽しんだ。
この作品の大ちゃんは胸と心が大ちゃんです。
チルノは原作から考えると意外と頭良い筈。
メインヒロインになる筈の娘はまだまだ先です
しまったな、衝動で書き始めたから開始する時期間違えたか……