幻想入りしてから一週間程経った朝、もはや日常と化した朝の水汲みと畑への水やりをこなす。
今朝起きた事態に目を背けていると言っても過言では無い、幾ら幻想郷だろうとも起きない事は起きない筈。
水やりが終わり、問題と向き合う為に小屋の扉に俺は手をかけた。
「……おはようございます、何か御用でしょうか?」
「ああ、だが先に日課を済ますと良いだろう、私は此処で待たせて貰う」
目を覚ました直後に見えた白い姿、現状では数少ない出会った、あるいは出会ってしまった原作キャラに皮肉半分で伝えたが、暖簾に腕押しと言う奴であった。
日課を先にと言われたからでは無いが、事実水は必要だと考え彼女の言う通りに先に済ませた……と言う訳で、これが今から30分、四半刻と言うのが此処では合うか、その位前の話。
いっそ、待ちくたびれて帰ってくれてないかな、なんてあり得ない思考をしながら室内に入るが、先程と同じく、凛とした姿勢で正座する姿があった。
犬走椛、山の哨戒天狗様が何の用で俺に会いに来たのだろうか。
「お言葉に甘え先に済ませていただきましたが、何の御用ですか?」
椛と囲炉裏を挟んで対面に座る。
日課を知っていると言う事は、先日出会った後彼女の持つ能力ーー千里を見る程度の能力ーーにより、監視されていた、と言うのが妥当だろう。
だが、何故監視だけならまだしも、こう直接来たのかが全くの不明だ。
山の妖怪から接触があるとすれば、ブン屋だと思ったのだが。
「まずは名乗らせて貰おう、私は妖怪の山の哨戒天狗犬走椛だ」
「……これはご丁寧に、俺はナナシ、半分記憶喪失の男だ」
記憶喪失の部分で少しだけ眉をしかめる椛。
「私は山からの通達を伝えに来た、まあ休みがてらだが」
今度は俺が眉をしかめる番だった、山に対して俺は何のアプローチもしていない。
強いて言うなら、先日目の前の彼女に出会っただけである。
「大天狗様からのお言葉だ、外来人お前に私が見張る時のみ入山許可を与えるとの事だ」
「……はぁ?」
意味が解らない、何の為に入山許可を俺に与える?
そもそもその入山許可は正式な物なのだろうか。
「その入山許可は正式な物として、でしょうか? それにそもそも何故俺に許可を……」
「正式な物だ、大天狗様が何を考えているかは私には分からないが、山の糧を取りすぎない程度には許可する……との事だ」
俺の言葉を遮り、一枚の紙を懐から出し俺に差し出す。
達筆過ぎて今一つ読めないが、入山許可と犬走椛の文字は何とか読めた。
「つまりは、山の恵みを天狗様の監視下のもと、取りに行って良いと」
俺の言葉に椛が頷く、何故の部分は埋まらないが暫くは山の恵みにより生き延びれそうだ。
「それにもう一つ、今日直ぐ様で無くて良いと言っていたが、大天狗様がお呼びだ」
ますます謎だ、何故一切の面識の無い大天狗とやらに呼び出しを受けねばならないのだろう。
たた、無視する事はちと難しい。
「これで用事は済んだ、私は明日より七日間は哨戒している、山の糧を取りに行くならば来ると良い」
その言葉に椛は立ち上がり、外へ出ていく。
見送ろうと俺も外へ出れば、その姿はもう青空に消えていた。
もはや恒例となっている様に、煙草に火を点け紫煙と共に考える。
何故はひとまず置いておく、考えても理解出来ないからだ。
山に行かないと言うのは残りの食料や、資金からも不可能であるが、大天狗の意向を無視して会いに行かないと言うのはこの時点で無理な話だ。
入山許可をわざわざ出して面会しろと言われている現状、無視するのは得策では無い。
無視して天狗集と付き合わないとした場合でも、最悪の事態として犬走椛が俺を監視出来ていた、つまりは切り捨てるのも容易だと言う訳だ。
ならば、面会しないのは得策では無い、会わねば話は進まないと言う事だ。
この俺に主導権の一切無い、謎の状況は俺に重くのし掛かっていた。
次回も椛が出ます。
そして、少しだけ物語が進み始めます、多分。