あと1話で家庭訪問編も終わりです。
小林先生を見送ったあと、哀が出かける準備を始めたことに気づいたコナンが問いかける。
「どこ行くんだ?」
「夕飯の買い出しよ。博士用の食事で構わないなら行かないけど?」
「……それは勘弁してくれ。ここ二日くらいインスタントばっかでさ。
がっつり肉が食いたい気分なんだよ」
「あら、そうなの?」
「ああ、おっちゃんも外食に連れてこうとしてたみたいなんだけどさ。
ちょうど依頼が立て込んで時間が取れなかったんだ」
「それは大変だったのぉ。哀君今日はお肉にしよう。トンカツとかいいんじゃないかの?」
チャンスと見たのか、ここぞとばかりに自分の食べたいものをリクエストする阿笠。
それをジト目で見たあと哀が阿笠の希望を粉砕する。
「博士はダメ。……トンカツか、それもいいわね……でも、パン粉が余るわよね……」
「そ、そんな……。た、食べれると期待しただけにダメージが……。
ふふふ、トンカツってどんな味じゃったかのぉ、揚げ物ってなんだったかのぉ」
「ハハハ(……完全に管理されてやがる)」
遠い目をしてトンカツと呟く阿笠にコナンは哀に頼んだことに若干の負い目を感じる。
しかし、これも博士の健康のためだと自分に言い聞かせる。
阿笠の姿をこれ以上見ていたくないコナンは哀と一緒に買い物に出かけることにする。
いつの間にか玄関に立っている哀に近づくコナン。
「おい、俺も一緒に……」
「何してるの?アナタの買い物に行くのだから荷物持ちぐらいしなさい」
「……はい」
あんまりな哀の言い方にコナンは憮然としたが、ジト目で見られると大人しく返事してから靴を履く。不満が顔に一瞬出たが、これまで母親に女性には優しく紳士的にと躾けられているだけに、すぐに手伝うと言わなかった自分が悪かったのだと言い聞かせる。
(俺のせいで買い物に行くんだから手伝うのが普通だよな、なんか納得できないけどさ。
……大体母さんのせいで、強引というか強気な女性には逆らいにくいんだよなぁ)
玄関を出てからは大人しく哀の後ろについていたコナンだが、先程の博士の様子を思いだし哀に問いかける。
「なぁ、お前ら普段何食ってんだ?博士の悲しみようからみて揚げ物はないんだろ?」
「揚げ物がないぐらいよ、まだ。いきなり全部規制して隠れて食べられたら意味ないもの」
「……流石に隠れては食べないんじゃないか?」
「この前はケーキの箱が捨てられていたわ、その前は昼に天ぷら屋に行ってたみたいよ」
「博士……。で、今日のメニューは?さっきはああいったが、別に肉でなくてもいいぞ?」
「せっかくだからトンカツにするわ。博士にもたまに食べさせないとね……。
何処かで食べてこられるよりマシでしょ。ああ、もちろん量は少ないけどね」
「そうか、そりゃよかった。流石に博士のあの姿を見続けるのはな……」
哀の返答にホッと息を吐くコナン。しかし、それと同時に阿笠の健康管理体制が構築されつつある状況に戦慄を覚えていた。
その後、セールにはまだ早い時間だということで、本屋に寄ったり、服を見たりした後に必要な食材を買った。
「オメェ、セールとか気にするんだな」
「今日はアナタがくるから、いろいろ買い足そうって思ってチェックしてたのよ」
「そうですか……だからこんなに買ったのね」
コナンは両手の荷物を見る。そこには買い物袋が合わせて三つあった。
小学生であるコナンが持てる量ではあるが、それでも重いことには変わりない。
哀はコナンが本屋で買った小説と自分の雑誌の入った袋を持っている。
「ねぇ?一つくらい持ちましょうか?」
「いいんだよ、こういう時は男が持つって母さんに言われてるし。
それに結構重いからな、お前じゃ大変だろ」
「そう?落とす前に言ってね?ガキが見栄張って落とされたらたまらないわ」
「大丈夫、重いけどあと少しだしな。落としゃしねーよ」
「そ」
コナンは食材の心配をする哀に笑って大丈夫と返す。短く返事したあと、哀はコナンの前を歩き出す。機嫌を損ねたかとコナンは思ったが、哀の機嫌はむしろ良さそうであった。その後は阿笠邸につくまで会話はなく二人の間に沈黙が流れる。
阿笠邸に着く頃にはコナンも流石に息が上がっていた。玄関で息を整えているコナンを尻目に哀は食材をキッチンへ持っていく。コナンが息を整え、リビングに移動すると機嫌の良さそうな阿笠が近づいてくる。
「聞いてくれ新一!なんと今日はトンカツじゃぞ!トンカツ!
ワシも少しなら食べてもいいと哀くんが言ってくれてのぉ!いや~楽しみじゃのぉ!」
「そうか、そりゃよかったな(……そこまで飢えてんのか?)」
「そんなにはしゃがないの。はい、工藤君。コーヒーはまた後で」
「おっ、サンキュ。夕飯まで小説読んでるからできたら呼んでくれ」
「ダメよ。その前にお風呂を掃除しておいて。博士!いつまでも浮かれてないで洗濯物しまいなさい!」
「「……分かりました」」
哀に家事を命じられた二人はそれぞれの役目を果たしにいく。
それを見送った哀は一つため息を吐くと夕飯の準備をしにキッチンへ向かう。
「ふぅ、終わったぞ。灰原~」
「お疲れさま、あとは博士の相手でもしてあげて。さっきからトンカツってうるさいのよ」
「ったく子供かよ……。あっコーヒー淹れてくれ」
「はいはい。……もう、博士にトンカツあげるのやめようかしら」
風呂掃除を終えたコナンに哀が阿笠の相手をしてくれるように頼む。どうやら久方ぶりの揚げ物にテンションが上昇し続けているようである。よほど何度も聞かされたのか哀からはうんざりといった様子がうかがえる。
そんな哀を見送るとコナンは阿笠が座っているソファーの向かいに座る。食後まで小説はお預けかと思いながら……
「おお、新一!楽しみじゃのぉ、トンカツ!いや~本当に楽しみじゃ。何といっても……」
「博士、あんまり言うとトンカツなしになるぜ?(こりゃ疲れるわけだ……)」
「……哀君が作るからのぉ。普通の料理も美味しいのにそれがトンカツだなんて。
もうワシは夢でも「博士!」……なんじゃ?新一、大声を出して」
「ハァ……(こりゃダメだ)」
阿笠のはしゃぎぶりにコナンは呆れ顔になる。とりあえず、トンカツへの熱い思いはわかったので、話題を今日の家庭訪問へと移す。
「今日の家庭訪問どうだった?内容は聞こえてなかったけど随分楽しそうだったじゃないか」
「ん、そうじゃのぉ」
「はい、コーヒー。そうね、大分笑い声もしてたしね。私も興味あるわ」
「サンキュ。夕飯の準備はもういいのか?」
「ええ、あとは揚げるだけだから」
「じゃあ、はやく食べようじゃないか、哀君。ほら、早く」
「しょうがないわね。家庭訪問の話は私も聞きたいから待ってなさいよ」
「あぁ、そりゃ大丈夫だ。もう、博士の頭はトンカツでいっぱいだから」
「ト~ンカ~ツ、トンカツ!ああ、夢にまで見た愛しの……」
「……そうみたいね」
阿笠の歓喜の声が上がるのはその十数分後であった。
家庭訪問編はまだ続きます。
展開遅くて申し訳ありません。
阿笠博士についてはもうなんでこうなったって感じです。
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