しかし、コナンにはまだやることが残っていた……
注意:映画を視聴済であること前提で、所々省略しています。
未視聴の方には厳しいかもしれません。また、独自設定も含まれています。
独自設定はFile00 独自設定を参照ください。史実との矛盾点なども含まれます。
※3/23 キッドとコナンの会話に少々変更と追加をしています。
八月二五日。城でスコーピオンと対峙した翌日。阿笠邸にコナンの姿があった。
その姿はコーヒーを片手に非常にくつろいだものであった。心なしか顔色も明るくみえる。
「それで?話っていうのは?」
コナンの向かいに座る哀が、来訪してからコーヒーを飲むだけで用件を話さないコナンに問いかける。その顔には、若干苛立ちが浮かんでいる。
「ああ。何から話したらいいかな……?」
「呆れた。ちゃんと考えておきなさいよ。あの子達には聞かせられない……大事な話なんでしょ?」
「そうなんだけどよぉ……。昨日帰ってから色々あってさぁ……」
口調の割には、コナンの顔は穏やかである。要領を得ないコナンの言葉に、哀の眉間に次第にしわがよっていく。それを見たコナンが、観念したかのようにため息を一つ吐くなり、衝撃の一言を告げる。
「オレの正体がバレた」
「……え?」
コナンの言葉に哀が一瞬固まる。当然である。必死に隠している事実がバレたと言われたのだ。それなのに、コナンは普段通りに振舞っている。しかも、コーヒーを飲みながら何でもないことのように言われたのだ。
(落ち着きなさい……。冗談なのよ。ほら、焦ってる様子もないし……。ここは、冷静に事実かを確認しなければ)
哀は事実を確認する為に、口を開こうとする。しかし、それはコナンに遮られる。
「あ、蘭にじゃないぞ?キッドだよ。……怪盗キッド。いやぁ、キッドで助かったぜ」
――更なる爆弾が落とされた。
冷静になる為に、コーヒーを入れ直した哀はソファーに座ると口を開く。
「それで、説明はしてくれるのよね?」
「ああ。昨夜、事務所で……」
コナンが言うには、昨夜蘭と二人きりで話す機会があったそうだ。
その時、蘭が言ったのだ。
コナンが新一だったらいいのに、と。まるで、新一みたいだけど別人なんでしょ?と。
その瞳に涙を浮かべ、切なそうに。
それを見たコナンは返す言葉がなかったそうだ。どうすればいいのか。正体をバラすことは出来ない。でも、蘭の悲しい顔は見たくない。そんな葛藤をしている時、現れたのだ。
――工藤新一が
「工藤新一……?だって、それは」
そこまで、物静かに聞いていた哀が堪らず声をあげる。それまでは、顔を伏せ大人しくコナンの話を聞いていた。自身の思いが顔に出ても気づかれないようにしながら、蘭の気持ちを思い自分を責めていた。しかし、工藤新一が登場すると言うありえない事態に、顔をあげたのだ。
それに対するコナンの返答はあっさりとしたものであった。
「そ。キッドが変装した工藤新一」
「キッドが……?でも、それでアナタの正体がバレたとは限らないんじゃない?事務所の娘から、何か聞き出そうとしたのかもしれないじゃない」
キッドが変装した新一が現れたことが、イコール正体がバレたとはならない。哀はその疑問をコナンにぶつける。その瞳は、アナタが焦って自分からバラしたんじゃない?と語っていた。
「オレからバラした訳じゃねぇよ。キッドが来た理由は……まぁ、あとでまとめて教えるとして。キッドは……」
そう言うとコナンは、キッドとのやり取りの一部を話し始めた。
オレは蘭が席を外した時に、事務所から出るヤツを追って外に出たんだ。そして……
「待てよ。怪盗キッド」
「……何かな?」
「最初は気づかなかったぜ?お前が白鳥警部に変装して船に乗り込んでいたなんてな。お前、あの船で何か起こるって知ってたのか?」
白鳥警部がキッドの変装!?
ああ。ま、それは置いといてだな。続けるぜ?それで、キッドは……
「その可能性は考えたが確証はなかったさ。まぁ、オレを撃ってまでエッグを手に入れようってヤツがいることは分かってたからな。念のために、無線は盗聴させてもらってたぜ?あと、電話する時はもう少し周囲を気にするんだな。オレが追っ払わなきゃ、あの
「ご忠告どうも……。そして、エッグを狙った理由は……夏美さんにエッグを返すためだな。エッグを……受け継ぐべき正統な主に渡そうとしたんだ。お前は知ってたんだ。エッグの製作者が香坂喜市だと」
「ま、あのエッグの資料はオレも持っていたからな。そこに二つのエッグと、その製作者について書いてあったのさ。それで、せめて二つのエッグのうち、所在が明らかな鈴木財閥が持っている方だけでも返してやろうかと思ってな」
「その為の犯行か。確かに、有効な手段だ。お前は盗品を後で返すことで有名だからな。夏美さんと会長が、接触する時間を稼ぐ。その後、いつものようにエッグを返す。ついでに、その資料とやらも添えるつもりだったんだろ?」
「お見事。そうすれば、あの鈴木会長の性格からして所有権を譲ると思ってな。毛利探偵の口添えもちょっとは期待してたんだぜ?」
「直接交渉しないのは、怪盗の美学か?お前なら変装して、交渉も出来ただろうが」
「知らねぇのか?怪盗は、誇りがあるから怪盗なんだぜ?それで……他には?」
「夏美さんの曾祖母が誰かってことを言いたいのか?」
そうオレが言ったら、キッドのヤツ、鳩を出すのを止めて……
待って……。キッドは鳩を出してたの?話しながら?
ん?ああ、次か次へと出してたぜ?最初の一羽は、オレが保護してた鳩だったけどな。
そう……。いいわ、続けて。
おう。そうしたら、キッドのヤツ……
「忠告しておくぜ?工藤新一。世の中には、秘密にしておいた方がいいことだってあるってことを。今のお前みたいにな」
「心配すんな。世間に公表することはねぇよ。最初は夏美さんには教えようか迷ったが……騒がれるのを望んでなさそうだったからな。それに、やっと一緒になれる二人を引き裂くのもな……。だから、彼女にこの真実は伝えないことにしたよ」
「そうか……。オレも君の真実は公表しないさ。わけを聞くこともしない。どう考えても厄介そうだからな」
「それがいい」
「さて、最後に問題だ。厄介な敵である君を、わざわざ変装までして助けてやったのは何故か?この謎は解けるかな?」
そう言ってヤツは、答えを言わないまま姿を消したよ。ま、大方、鳩を手当したお礼に助けたってとこだろうぜ。
コナンの説明を聞いた哀はため息を吐く、同時に哀はバレたのがキッドで良かった、とも考える。
(全く……彼の言葉ではないけど、バレたのが怪盗キッドで良かったわ。悪戯に吹聴することもないでしょうし、キッドの言葉が本当なら、こちらに干渉することもなさそうだし)
そこに、コナンがここからが本題だと告げる。それを聞いた哀は、これ以上重要なことがあるのかとため息を吐く。今日だけで、何度ため息を吐いただろうかと思いながら。
「それで?まだ何かあるの?もう驚かないわよ……」
「ここからはオレとお前だけの秘密だ。博士が相手でも言うなよ?」
「ええ。分かったわ」
真剣な表情で告げるコナンに、哀も真剣な表情で返す。その言葉に満足したのか、コナンは口を開く。
「本当は、お前にも秘密にした方がいいのかもしれないが……。お前なら、いつか気づくかもしれないからな。その為の材料も、お前は既にもっている」
哀はコナンの口ぶりから、ここ数日の間にあった出来事に関係することだと判断する。そして、先程までの話……。哀には、何についての話かを想像することは簡単であった。そして、何故秘密にしなければならないのか。その理由も……
「そういうことなの……?じゃあ、あの写真の彼女が……」
「ああ。夏美さんの曾祖母……」
哀が導き出した答えと、コナンとキッドが辿り着いた真実。
城の地下で発見された夏美の曾祖母。彼女こそが、ニコライ皇帝一家暗殺時に行方知れずとなり、その行方を幾人もの人物が追い続けている歴史的に有名な女性……
「「ニコライ皇帝の三女、マリア」」
「驚かないって言ったけど、これは無理ね……。それに、世間に公表なんて……」
歴史ミステリーの一つが解明されたのだ。これを発表してしまえば、夏美の望む喜市とマリアを同じ墓に埋葬するということは叶わないだろう。事実確認の為のDNA鑑定や、ロシアから遺体を引き取りたいと言い出すかもしれない。夏美さんも皇帝の血筋と注目されるだろう。
哀はため息と共に言葉を紡ぐ。一生分のため息を吐いたのではないかと、哀が思う程今日一日はため息が尽きない。
「確かに、喜市さんと一緒に写っていた女性は、皇帝一家の写真にも写っていたし……。あの執事さんも、喜市さんと日本で撮影した写真だろうって……」
「それだけじゃないさ。マリアだとすると、城についても説明がつく。彼女の母親は、ドイツ人。だから、城がロシア風じゃなくてドイツ風だったんだ」
「あのエッグがあった部屋に入る為の仕掛けも、ね。皇帝ゆかりのエッグ。それの隠し場所だからかと思ったけど……」
「マリアの遺体を安置しているから、だろうな。それに、もしかすると太陽に光を当てるって仕掛け自体にも、マリアの死後の安寧を祈るってのと、皇帝一家の繁栄を祈るって意味もあるのかもな」
哀は否定する材料がないかを探すも、よくよく考えてみれば、曾祖母=マリアでないと説明がつかないことの方が多い。
やはり、ため息が尽きないと思う哀であった。
「で、秘密にするってことでいいよな?」
「そうね。それでいいと思うわ。全く、キッドにマリア……か。……もうないでしょうね?」
ジト目で問いかける哀に、コナンは真剣な顔で口を開く。
「実は……」
「まだあるの!?」
「昼メシ食わせてくれ!!おっちゃんはエッグのことで鈴木会長と話すって急に出て行ったし、蘭は園子と遊びに行っちまったからな。昼飯のあてがないんだ」
「そう……。ま、それくらいならいいわ。ただし……」
「荷物持ちでもなんでもします!!」
「よろしい」
前回の引きはフェイントだったのだ!!……すみません、冗談です。
蘭とのやり取りは映画とほぼ同様になる為、こんな形になりました。
これで、三章は完結であります。次章はやり損ねた七月編を回想形式でお届けしようかと。
File00 独自設定はその内。
あと、まえがきもシリーズ仕様から通常使用に戻ります。
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