「さて、無事新一もコナンに戻れたことだし……夕食の準備をするか」
「準備って……父さんが作るのか?」
「まさか。もう場所は抑えているから、お前も早く着替えてこい」
優作の言葉に首を傾げるコナンであったが、優作に言われ有希子が昼間買ってきた服へと着替える為に部屋へと戻っていく。
そんなコナンを見送っていた哀は優作たちに振り返ると、阿笠邸に戻ると伝える。
「家族団らんのお邪魔でしょうから、私は博士の家に戻りますね」
「あら、ダメよ。哀ちゃんはこっち。はい、これに着替えて」
有希子から渡されたのは、コナンの服と一緒に買ってきていた哀の服。
「私たちも軽く変装するから……そうね、十五分後にリビングに集合ね」
そう告げると優作と有希子の二人は、呆気にとられている哀を残して変装しに部屋へと入っていくのであった。
「うん、いつ来ても美味しいわね」
「ああ。窓の外に見える風景は変わっても、この味は変わらないな」
ワイン片手に語り合う有希子と優作。コナンと哀はそんな二人の横で黙って、食事を進めていた。夫妻の行動に慣れているコナンとは違い、半ば強引に連れてこられた哀は未だ自分の状況に納得行っていないようである。
「どうした、灰原? 遠慮なんてしないで食えよ。美味いぞ?」
「……そうね。折角素敵なディナーなんだし、楽しまないと……」
「「キャアアアー」」
レストランに響き渡る悲鳴。次いで、殺人、拳銃、エレベーターと断片的に情報が入ってくる。
その内容に、二人はそわそわと落ち着きをなくし、もう二人はため息を吐く。ため息を吐いた者の一人である哀は、コナンに視線を向けると再びため息を吐く。
「……アナタといると、本当退屈しないわね。ほら、行ってきなさい」
「オメェは?」
「哀ちゃんは私とお留守番! まだ料理も残っているしね。優作を連れて行っていいから、さっさと事件を解決してきなさい。デザートは待っていてあげるから」
有希子のその言葉に頷く哀を見たコナンは、向かいに座る優作に視線を合わせる。優作が何処か懐かしそうな顔をしているのは、以前有希子から聞いた出来事を思い出しているのであろう。
自分を見ているコナンに気づいたのか、優作は席を立ちながらコナンを促すと有希子に行ってくるとだけ告げると、野次馬の中心へと歩いていく。
そんな二人を見送った女性陣は、騒然としたままの周囲を他所に食事を再開する。
「それにしても、何度もここで食事しているけど、事件なんてあの時以来ね……」
「あの時……ですか?」
あとはデザートを待つのみとなったところで、有希子が何気なく呟く。その言葉を聞いた哀は、有希子に質問する。食事中の口ぶりから、夫婦二人きりで何度か訪れていたことは分かっていたが、他人が聞くことでもないだろうと思っていた。しかし、事件と聞いて興味の方が勝ったようである。
「ああ、二十年前にもあったのよ。優作に誘われてここに食事に来たら、今日みたいに悲鳴が聞こえて。事件より私を優先しようとしていた優作を送り出したの。デザートは待っていてあげるからって」
「それって、さっき優作さんに言っていた……」
哀が思い出したのは、先程優作を送り出した時の有希子の言葉と、それを聞いた時の優作の表情。普段飄々としている優作が初めて見せた表情は、過去を懐かしんでいた表情だったのかと哀は納得する。
そんな哀に、有希子は少し照れながら話を続ける。
「でね? 優作ったら、事件を解決して戻ってくるなりプロポーズしたの。も~、びっくりしちゃった」
「びっくり……ですか?」
「勿論、嬉しかったわよ? 結婚は意識していたし、優作も考えてくれているなって感じていた頃だったもの。もしかしたらって、撮影の時より緊張していたくらいだしね。でも、事件があったから、そう言う雰囲気じゃなくなっちゃったな~って思っていたとこにいきなり! 完全に油断してたわ、あの時は」
その時のことを思い出しながら語る有希子に、哀はどう返せばいいのだろうかと困っていた。
今の哀には、自分が結婚するという未来は全く想像出来ないが、もし万が一そのような事態が訪れたとして、有希子のように見事にタイミングを外されたとしたら……。
(きっと、それでも喜んでしまうのでしょうね……。それも彼らしいと。そして、私たちらしいと)
この時、哀は自身が想像したその光景に、全く疑問を抱いていなかった。
事件に関すること以外では途端に女心に疎くなる、小さな探偵が相手だということにも。そして、その時が来たら、呆れた振りをしながらも喜んでしまう自分の姿にも。
「そうだ、哀ちゃん。ここから四つ先の席なんだけど……」
「今、デザートが運ばれた席ですか?」
「そうそう。彼処がさっき言ったプロポーズの舞台よ」
その有希子の言葉に、その席を凝視してしまう哀。このレストランでプロポーズされたと本人から聞いたばかりではあるが、それが行われた当時の席を見ると、何故か気恥ずかしくなるのが不思議である。
「毎年、結婚記念日はあの席で食事することにしてるの。今年は優作と二人きりだったけど、来年は哀ちゃんも一緒に行きましょうね。彼処からの眺めも最高よ?」
「え? いえ、私なんかがお邪魔するわけには……」
「大丈夫。いつも優作と二人って訳じゃないし。優作が缶詰で来られない時は、新ちゃんと来たりするしね。最も、ここ二年くらいは新ちゃんも付き合ってくれないんだけどね」
どうやらあのキザな探偵も、母親と二人でのディナーは気恥ずかしかったようだと、コナンをからかうネタを仕入れられたことに密かに満足する哀。
そんな哀の様子を気にも留めず、有希子はマイペースに話を続けていく。
「新ちゃんが哀ちゃんをこの場所に誘うことがあったら、その時は覚悟した方がいいわよ?」
「覚悟……ですか?」
「そ。だって、新ちゃんもあの席で優作がプロポーズしたのは知っているもの。その新ちゃんが、あの席に女の人を連れていくってのは、告白かプロポーズの為に決まってるじゃない!」
これで5章は終わりです。原作では新蘭だったところを、コ哀風味でお送りしました。
事件については、速攻で解決したことでしょう。
次話は12月編を予定。
工藤夫妻の結婚記念日の過ごし方。
これらは作中設定です。
関連活動報告は【コナン】。
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作中に登場する人物、企業、建物、団体はフィクションです。