一言:こっそり
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今年もあの季節がやってくる。二月十四日――バレンタインデー。
男どもが一喜一憂し、同時に女たちも色恋沙汰で盛り上がる季節が。
世間の何処か浮ついた雰囲気は、コナンたちが通う帝丹高校でも変わりはなかった。数人で集まっては、各々バレンタインについて話をしている。
特に、これから告白しようとする女生徒や、彼氏持ちの女生徒のところに集中しているのは、女性の性と言うものであろう。
「もうすぐバレンタインだけど、今年はどうする?」
二年A組の教室でも、歩美が哀にバレンタインについて尋ねていた。
「どうするって……。いつも通り、歩美とチョコを作るつもりだったけど……」
「そうじゃなくて、コナン君に! 今年も贈らないの?」
「ええ。チョコを渡すつもりはないけど……毎年聞かなくてもいいんじゃない?」
首を傾げながら答える哀に、歩美は一つため息を吐く。歩美の自慢の幼馴染であるこの
別に哀がチョコを贈らない主義と言う訳ではない。同じく幼馴染である元太や光彦、クラスメイトにはチョコを贈っている。
「まぁ、今更チョコを贈るってのも変な感じなんだろうけどさ……。そんなことじゃ、勘違いする人たち出てくるよ?」
「勘違い?」
「そ。去年もいたじゃない。哀がコナン君にチョコ渡してないって聞いて、二人はフリーってことで猛アピールして来たヤツ。まぁ、去年は高校入って初めてのバレンタインだったってこともあるとは思うけどさ」
歩美と哀の脳裏に浮かんだのは、バレンタイン後に露骨に哀とコナンに近づき出した生徒たちの姿。それまではコナンと哀は恋人、もしくは両片想いだと思っていた彼らだったが、バレンタインと言う恋人たちの定番イベントをスルーしたことで、二人は別れたのではないか、ただの幼馴染だったのではと噂になっていたのである。
「そう言えば、そんな人たちもいたわね。ホワイトデーにいきなり、彼と別れたのならオレと……なんて、意味の分からないことを言って来た人が。クリスマスの前もやたらと、一緒に過ごさないかって誘われたし。てっきり、何かの罰ゲームだとばかり……」
「いやいや、高校生にもなってそんな罰ゲームやんないって……多分。というか、告白して振られた上に、真剣に取られてないなんて。いっそ、哀れだわ」
自分のこととなると、途端に卑屈とも言えるほど謙虚(?)になる親友に、思わず被害者たちに同情する歩美であった。
同じ頃、コナンは元太と光彦と一緒に売店へと向かう途中であった。
「にしても、元太は食いすぎじゃねーか?」
「ですね。二時間目が終わってすぐお弁当を食べて、お昼はパンを三個。それでも足りず、今から買いに行くんですから」
「仕方ねーだろ? 二時間目は体育で腹減ったし、パン三個じゃ放課後まで持たねーしよ」
どうやら、昼食が物足りなかった元太の買い出しに付き合っているようである。購買に到着すると元太はパンを三個、光彦とコナンはそれぞれ飲み物を二つずつ購入する。
「そう言えば、コナン君はいつもそれですよね」
「これが購買の中じゃ一番だからな。ま、ウチで飲むコーヒーには敵わねぇけどな」
「まぁ、コナン君は専門店で豆を購入してますしね。それと缶コーヒーを比べるのは……」
苦笑気味に答える光彦に、コナンもまた苦笑で返す。コナンとしては、哀の淹れるコーヒーが一番だと答えたつもりなのだが、光彦には伝わらなかったようである。
最も、コナンには光彦の勘違いをわざわざ訂正するつもりはない。惚気と取られるだけだからである。
「お~い、オレ先に教室戻ってるからな!」
「あ、おいっ! ……ったく、そんなに早く食いたいのかよ」
「まあ、廊下で食べださないだけいいじゃないですか」
走り去っていく元太をため息混じりに見送っていた二人だったが、彼らも教室に向かって歩き出す。
「そう言えば、もうすぐバレンタインですけど……今年は灰原さんから貰えそうですか?」
「ん? どうだろうな。オレはチョコはいらないって言ってるし、今年もないんじゃないか?」
軽い調子で答えるコナンに、光彦は去年の騒ぎを思い出す。当人たちも大変そうだったが、その状況を見て静かに怒っていた歩美を宥める光彦たちも大変だったのである。
「まぁ、今年のバレンタインは土曜日で学校は休み。それなら、去年みたいな噂が立つこともない……筈。全く……お二人はいいかもしれませんが、振り回される周りの身にもなって欲しいものです」
「あ? 何か言ったか?」
「いえ。それより、早く歩美ちゃんたちにジュースを届けないといけませんね」
三日後、バレンタインデー当日。
今年はコナンと哀に遠慮したのか、歩美や元太、光彦たちから前日までにチョコを渡すようにと頼まれてその通りにしている。また、部活も完全休養日となっている為、歩美には二人きりにしてあげるから、バレンタインデートを行うようにとまで言われていた。
そこまで言われたコナンと哀がどうしているのかというと、工藤邸のリビングで静かに本を読んで過ごしていた。
そんな中、哀が読んでいた雑誌をテーブルに置いて立ち上がると、キッチンへと向かう。戻って来た哀の手には、カップが二つ。その内の一つを、コナンの前に黙って置くともう片方のカップに口をつける。
「お、ショコラショーか。久しぶりじゃないか?」
「そうね。たまにはいいんじゃない?」
「そうだな。ところで、良かったのか?」
「何が?」
自分を見て問いかけるコナンに対し、首を傾げる哀。そんな哀に、推理小説に視線を戻しながら答えるコナン。
「歩美に言われたからって訳じゃないけどさ。出掛けなくても良かったのかなって」
「いいんじゃない? 別に行きたいところなんてないし」
「……ま、いいならいいけどさ」
コナンとしても哀がイベントだからと外出をせがむような性格ではないと知っているし、バレンタインが近づくにつれ話しかけてくる同級生たちの相手に疲れていたこともあり、出来ればゆっくり過ごしたいとは思っていた。その上、哀から提案された家で過ごすということに依存はなかった。
それでも、聞いてしまったのは工藤新一として経験することがなかった、高校二年生のバレンタインを何処か特別な――記憶に残るものにしたいという気持ちが多少なりともあるからである。
バレンタインに限った話ではないが、コナンは新一として過ごしてきた時のことを思い出すことがある。過去を懐かしむことは誰にでもあることだが、コナンの場合は二度目として経験することになるのである。その為、つい以前経験した時(主に蘭と過ごした時)と比べてしまうのである。
コナンは哀と思いを通じ合わせてからは、そのことを多少後ろめたく思っていた。それらから解放されるのが、新一として過ごした最後の学年――高校二年生――を超えた今なのである。
(ま、これもオレたちらしいってことか。それに、コイツとのことなら……)
「そろそろ焼きあがるわね。テーブルの上片付けといてくれる?」
「了解。で、今年も期待していいんだな?」
「そうね……。ま、食べられないってことはないんじゃない?」
そう言ってキッチンへと向かう哀を見送るコナン。哀に指示された通り、テーブルの上を片付けながら、無意識に言葉を呟く。
「きっと、何時まででも覚えてんだろうな」
こっそり更新。
これらは拙作内の設定です。
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