長いようで短く感じる20代の一年
紅魔館応接間
「相変わらず、良い品を持ってくるわね。俤」
「気に入っていただけて何よりですよ」
紅魔館の応接間でグラスを眺めながら口元を吊り上げ言うのは紅魔館当主、レミリア・スカーレット
ぎこちなさ残る笑顔で答えるのは雑貨屋『万商』店主、俤秋乃
「江戸切子(えどきりこ)、だったかしら?偶にはこういった物も良いわね」
「確か、以前の宴会で日本酒を受け取ったと聞いていたので」
「どこからそんな話を聞いてくるのかしら?なるほど、この国の酒にはこの国の器でって訳?」
「足の高いワイングラスよりは壊れる機会が少なくなるかとも思いまして」
「事実だけど、そのことは思ってても言うべきではないわね。俤」
不敵な笑みを浮かべ、目を細めるレミリア
幼さ残る見た目に反して妖艶さすら感じる表情だ
「これは失礼しました」
頭を下げ、謝罪をする秋乃
レミリアもこの程度で気分を害するほど気が短くはないし、寧ろ吸血鬼である自分に思った意見をを率直に言葉にする秋乃に好感すら抱いている
このやり取りは紅魔館の恒例の光景なのだ
レミリアは秋乃に友愛に近い感情を持っている
理由は秋乃のレミリア自身に対する態度だ
『食糧』として紅魔館にやってくる人間は誰しもレミリアを見れば見た目で強気そうに出て、正体を知った途端、惨めな姿を見せる
それが正常
レミリアに対する当然の態度だ
その中の数少ない例外
従者として仕えている咲夜は当然ながら
異変解決の為、紅魔館に乗り込み、レミリアと弾幕勝負を演じた二人の人間
博麗の巫女、博麗霊夢
普通の魔法使い、霧雨魔理沙
そして目の前にいる俤秋乃だ
秋乃は能力こそ持っているが、何の力も持たない唯の人間だ
その秋乃が自分の友人に接するかのように
吸血鬼であることなど関係無いかの様に接する
ちぐはぐさを錯覚するような態度にレミリアは好感を覚えたのだ
さて、話を続けるかとレミリアが口を開こうとした時、不意に応接間の扉が開いた
扉から顔を覗かせたのはレミリアと似た顔つきの幼い少女だ
背中から七色の宝石のようなものが釣り下がった枝のような羽が生えている
「あら、フランこんな時間に珍しいわね」
今の時間は日の入りの少し前
吸血鬼は基本、夜活動する為、人間でいうなら日の出前の時間に活動するようなものだ
現にフランと呼ばれた少女はトロンとした寝ぼけ眼でくしくしと目を擦っている
「俤、紹介するわ。妹のフランドールよ。フラン、こちら人里の雑貨屋の店主の俤秋乃よ。挨拶なさい」
「こんにちわ、フランドール・スカーレットです」
矢張り半分夢の中なのか、フランドールの挨拶はおっとりした印象を与える
「今日は、俤秋乃です。人里で雑貨屋をしています」
「ざっかや?ざっかやってなぁに?」
首を傾げるフランドール。どうやら雑貨屋について全く知らないようだ
「ん~、色んなものが売ってるお店ってことだよ」
「ふーん」
秋乃の説明ではいまいちピンと来ないのか素っ気ない返事で返すフランドール
「フラン、今は大事なお話をしている最中だから、少し向こうで待っていてくれるかしら?」
「うん。分かった」
レミリアがフランを部屋から出るように促す
フランが部屋から出た後、レミリアと秋乃は再びお互いに向き合う
「妹さんいたのですね、紅魔館と直接赴いて取引を始めてから一月ほどになりますけど、初めて会いましたよ?」
「いろいろ理由があったのよ。別に意地悪で秋乃に会わせなかった訳では無いのよ?」
「理由?差支えなければ、教えていただいても?」
秋乃の言葉を聞いて紅茶を一口、口にしてレミリアは話し始めた
東 方 雑 貨 録
『悪魔の妹』
紅魔館当主レミリア・スカーレットの妹、フランドール・スカーレットの二つ名である
一部では『恐ろしい波動』等とも呼ばれているそうだが、『悪魔の妹』の呼び名の方が有名だ
紅霧異変時には精神状態が非常に不安定だったらしく、レミリアの手により紅魔館の地下に監禁に近い状態だったらしい
どういう因果か異変解決に向かった一人の魔法使いの少女との弾幕ごっこの末、一時的に精神が安定したらしい
その様子を見た紅魔館の図書館に居を構える魔女が『他者と交友によって精神が安定するのでは?』という仮説を立てたそうだ
以降レミリアは紅魔館限定ではあるがフランドールを自由に出歩かせ、複数人の監視下であれば紅魔館を訪れた幻想郷の住人と交友することが許可されたのだ
俤秋乃がフランドールと出会ったのは丁度、そんな時期だった
東 方 雑 貨 録
「なるほど、そのような経緯が」
「今度、博麗神社で宴会は開かれたらフランも参加させるつもりなのよ」
説明を終えたレミリアは再び紅茶を口に含みコクリと飲み、ふぅ…と一息つく
「そういえば、そろそろ日が暮れるわよ。帰らなくて大丈夫かしら?」
レミリアに言われ窓の外に視線を移す秋乃
外は太陽が沈み始め、空は暗くなっていく最中であった
「もうそんな時間か。じゃあ、そろそろ御暇しようかな」
再び視線をレミリアに戻し、先程までの敬語が嘘のように砕けた口調となる秋乃
「相変わらず切り替えの早いこと。ま、面白いからいいけどね」
レミリアは咲夜を呼ぼうとした時、丁度咲夜が部屋へと入ってきた
「お嬢様、お食事の用意ができましたが」
「あら咲夜、今日は随分と食事が早いじゃない。どうしたのかしら?」
「実は、妹様がお腹が空いたと申しまして…申し訳ありません、秋乃さん。御帰りはお嬢様たちのお食事が終わるまでお待ちいただけないでしょうか」
咲夜の言葉にレミリアはやれやれと溜息を一つついて秋乃に向き直る
「俤、そういう訳だから夕食を食べていきなさい。咲夜良いわね?」
「はい、多めに作りましたのでご心配は有りません。秋乃さんも宜しいでしょうか?」
「流石にこの夜道一人で帰ったら死んじゃいますからね。ご相伴に預かります」
紅魔館と人里の間は本能に忠実な妖獣や人食い妖怪などの危険が多い
その為、秋乃は人里までの道のりを咲夜の護衛を受けてやって来ているのである
東 方 雑 貨 録
「ねぇねぇ秋乃!秋乃のお店はどういうお店なの?」
「今フランドールちゃんが持ってるグラスのような普段使う日用品を扱うお店だね。後、駄菓子も売ってるよ」
「お菓子、お菓子も売ってるの?」
「今度持ってきてあげよう」
「ありがとう!後、フランドールだと長いからフランでいいよ!」
紅魔館の食堂、スカーレット姉妹と秋乃は長テーブルに着き幻想郷では珍しいオムライスを食べていた
咲夜はレミリアの傍らで静かに待機している
最初こそ静々と食事をしていたが、その空気に耐えられなかったのかフランドールが秋乃に話題を振り始めたのだ
秋乃もフランの質問などにキチンと答えている
「フラン、行儀が悪いわ。食事は静かにするものよ」
レミリアは窘めるようにフランに言う
フランドールは不満なのか口先を尖らせる
「良いじゃない。お姉様は秋乃と沢山喋ったけど、私は初めてなのよ?もっと秋乃のお話が聞きたいわ」
「食事の後でいいじゃない」
「秋乃は食事が終わったら帰っちゃうんでしょう?」
「じゃあ、今度来た時でいいじゃない」
「お姉様は私が起きるのが遅いこと知ってるでしょう!」
「早起きすればいいわ」
「それができれば苦労しないよ!」
姉妹の会話というべきか、喧嘩というべきか
第三者である秋乃にしては反応に困る状況となってしまった
居た堪れずに咲夜に目線を送るが咲夜は『いつものことだ』と苦笑気味に返すだけだ
「秋乃!」
不意にフランドールから声が掛かり少し驚く秋乃
「な、なんだい?」
「もう少しここに居ない?私もっと秋乃の話が聞きたいわ!」
「フラン、余り俤を困らせるものではないわ」
「それは秋乃が決めることだよ!ねぇ秋乃、良いでしょう?私、館の外にあまり出ないし、人里に行ったことないのよ。人里のこともっと聞きたいわ」
「フラン!」
遂にレミリアは椅子から立ち上がる
フランドールはツンとレミリアから顔を背ける
一体どうしてこんなに興味を持たれたのだろうか…
顔には出さないが心の中で溜息をつく秋乃
「じゃあ、少しだけ館に居てもいいですか?レミリアさん」
フランドールの強引さに半ば諦めたような顔でレミリアに許可を求める秋乃
レミリアも同じような考えなのかフゥと溜息一つついて
「俤が良いのならこちらは構わないわ。私としてももう少し取引の話がしたかったし」
「お姉様、最初は私が秋乃とお話するの!」
この後、秋乃はフランドールと人里の話題で話に華が咲き、レミリアとの商談を進めたのであった
こうしてフランちゃんと親睦を深めた秋乃であった
感想、質問待ってます
現在、この作品は『このキャラを出してほしい』、『こういうシチュエーション』などの要望お待ちしています
ある程度、原作品の時系列に沿っていますのでその辺りはご容赦ください