『太子さまは何時出るのか?』
私は答えた
『(時系列的に当分先なので)知らんな』
次の瞬間、私のビールは友人の口の中に消えた
解せぬ
今回は試験的に強調の表現部分を『』ではなく“”を使ってみました
どっちが良いかなぁ…
炬燵
冬には欠かせないのではないかと思われるほど日本国民に愛されている暖房器具
幻想郷にも当然少数ながら炬燵は存在する
幻想郷の炬燵は所謂『掘り炬燵』で囲炉裏を床より低くなるようして囲炉裏を覆うように炬燵を置く方式だ
燃料は幻想郷では木炭が主流である
しかし、此処雑貨屋『万商』の炬燵は違う
万商は電気が通っているため電気炬燵なのだ
電気炬燵の利点は小まめな燃料の補充と換気が必要ない事だろう
木炭から発生する一酸化炭素を逃がすため頻繁に換気を行うため、掘り炬燵は些か不便なのである
勿論、電気炬燵も空気が乾燥しないように換気を行わなければならないが、それでも炭炬燵に比べてその回数は明らかに少ない
店主、俤秋乃は幻想郷の中では明らかに快適な炬燵生活を過ごしていたのである
東
方
雑
貨
録
しゅんしゅんとコンロにかけた薬缶から熱い湯気が吹き出す
秋乃はコンロ止め、薬缶から急須へお湯を注ぐ
お湯の入った急須を盆へ移し、炬燵のある居間へ戻る
「にゃぁ~」
秋乃が居間に戻ると帽子を外し、炬燵に突っ伏してすっかり力の抜けた橙がいた
“溶けている”という表現が似合うくらいのだらけ振りである
この少女が先ほどまで寒さと緊張で縮こまっていた少女と同一人物と誰が思うだろう
炬燵の上には皮の剥かれた蜜柑が転がっている
橙の振る舞いはまるで自分の家の様である
秋乃は気にせず湯呑にお茶を注ぐ
今は居ないが店には騒がしい人物というのはやってくる
幸か不幸か秋乃は知り合いの従者の従者が自宅で寛いでいようが動じなくなってしまったのである
「それで、どうしてうちの店に来たんだ?」
秋乃はだれている橙に問う
それを聞いた橙は慌てた様子で姿勢を正して答える
「えっとですね、藍様から“自分たちが動けない状況の時は俤秋乃の店で待っているように”と」
「ふぅん、まさか藍さんがねぇ…」
秋乃はこの場にいない橙の保護者のような立場にいる女性のことを頭の中に思い描いた
その中、橙は籠の中の蜜柑に手を伸ばし皮を剥き始めていた
お茶を入れた湯呑を橙の近くに置き、秋乃は一旦、店の方へ戻る
店先に出て入口の戸に『本日の営業は終了』と書いた木の札を掛ける
その後、店先に出ていた看板などを店の中へと仕舞う
そして座敷の長机のレジスターを開けお金をまとめ、開いていた帳簿を脇に抱えて炬燵のある居間へと戻った
橙はというと自分の茶を息で冷ましながら今度は炬燵の上の煎餅に手を伸ばしていた
随分と食べるなぁと思いながら秋乃は居間の隅に向かう
部屋の隅には重厚な作りの金庫が鎮座していた
手慣れた手つきで金庫を開け、帳簿とお金を仕舞っていく
金庫を閉め終ると秋乃はやれやれと肩を回しながら炬燵でパリポリと煎餅を食べる橙の対面に座った
「それで、藍さんは何時くらいに迎えに来るかってわかる?」
「えっと…それが分からないんです。今日中には終わるだろうって言ってましたけど…」
「そうか…じゃあうちで夕飯食って行くってことだな」
「そんな、わ、悪いですよ」
「さっきまで自分の家のように振る舞っていた君が遠慮することはない。一人分も二人分も作る手間は変わらないからさ。そう鯱張らずに楽にしてなよ」
「あぅぅ…」
先ほどの様子はどこへやら、橙はすっかり畏まった様子で秋乃を見る
秋乃はそんな橙を一瞥した後、若干温くなったお茶を飲み干し、台所へ向かう
台所は床が石造りな上に暖房器具の類はない為、ひんやりと肌寒い
両手を丹前の袖の中に入れながら冷蔵庫の前まで歩き、冷蔵庫の戸を開ける
冷蔵庫の中は一人身の男性故かそれほど物が入っていない
しかし、妙に酒の肴が多いのはご愛嬌である
「ふぅむ、大した物が無いな…ん?」
ふと、秋乃は冷蔵庫の隅にある型紙の箱に目をやる
確か先日八雲紫から受け取ったものだということを秋乃は思い出す
しかし、中身がどのような物だったか思い出せない
箱を開けると幻想郷には珍しいビニールに包まれた、これまた幻想郷では珍しい食材が入っていた
「これは珍しい、紫さんに感謝だな」
秋乃は意気揚々と調理に取り掛かる
東
方
雑
貨
録
「藍様、まだかなぁ…」
秋乃が台所で夕飯の支度をしている中、橙は再び頭を炬燵の上に置き一つしかない居間の窓から降る雪をぼぅっと見て零す
本来の彼女は大人振た態度を取ろうとし、変に斜に構えた態度を取る
“幻想郷の賢者”と名高い八雲紫の従者である八雲藍の、従者として恥ずかしくないようにと気負った結果である
しかし、彼女は秋乃の前では今のように変に緊張してしまう
理由は橙は俤秋乃に対して気後れのようなものを持っているからである
自身の主の主にあたる八雲紫が贔屓にしている人間で主である藍でさえ彼に対しては好印象を持っている
でなければ、橙の面倒を秋乃に頼むなどという事はしない
八雲紫から、藍から言い含められている橙は粗相を起こすまいと自然と緊張してしまう
それに加え、橙は彼の態度も苦手だった
人妖分け隔てなく“客”として平等に扱う態度にだ
これまた彼女の主である藍から日々言い含められている
“人間とは妖怪を恐れ、時には人間を喰むものである”という教えが原因である
食物連鎖の理屈で云えば人間は妖怪より下の立場に当たることになる
故に人間は妖怪を恐れ、妖怪を退治しようとするのである
橙は秋乃の態度に博麗の巫女である博麗霊夢や主の主である八雲紫を無意識に重ねてしまう
博麗霊夢も八雲紫も方向性は違えど、幻想郷の人妖に対して平等だからだ
“分け隔てなく平等”という幻想郷では少数派である態度が橙に気後れさせる原因なのである
人間、緊張する相手とは長居したくないものである
それは橙のような知能の高い妖怪も同じこと
ついつい炬燵の暖かさに負け、気を抜いてしまったが、再び緊張し居辛いような感情が沸き立つ
それ故に橙は外を見て主が迎えに来てほしいと名前を口にしたのだ
コチリ、コチリと壁に掛けられた古めかしい時計の音と時折台所から聞こえる料理の音、そして時々漏れる橙自身の溜息だけが居間に響く
特にこれといってする事のない橙はウトウトと舟を漕ぎ始める
寝まいと時折目を擦るが瞼は重くなる
炬燵に乗せていた頭を起こし正座になるが、コックリコックリと頭が揺れ動く
橙が睡魔と闘いしばらくした頃、秋乃が居間に顔を出すとユラユラと舟を漕ぐ橙の姿が映る
「眠いなら寝ても構わないよ?」
秋乃が声を掛けると途端にビクリと橙が起きる
「い、いえ。大丈夫です!」
しゃっきりと正座に居直す橙を見て驚きながら
「そうかい?じゃあ夕飯にしようか」
御盆にご飯茶碗より少し大きな椀を二つ乗せた秋乃が居間に入って椀を炬燵の上に置く
椀には御粥と中心に少しの鮭が入っていた
「これは、何ですか?」
橙は御粥の中心の鮭を見て秋乃に聞く
幻想郷では鮭は滅多に見ない食材だからだ
「紫さんがくれた鮭という魚だよ。しょっぱいから少しづつ食べるんだよ」
そう言われた橙は鮭だけを少し蓮華で掬い、口に運ぶ
「~~~!」
口一杯に広がる塩の味に驚いて猫の耳と尻尾が逆立つ
御粥に入っている鮭は“辛口塩鮭”と呼ばれる非常に塩辛い塩鮭だったのだ
「大丈夫かい?はい、お水」
秋乃が差し出した水の入ったコップを半ば奪い取るように手に取り、一気に煽る
瞬く間にコップを空にして橙は秋乃に詰め寄る
「何なんですか、これは!」
“辛口塩鮭”、“辛口”と書かれてはいるが、意味は“塩辛い”の辛口である
直接塩を身に擦り込み、積み上げる方法で大量の塩を使っているため、焼くと一面に塩を吹くほどである
塩鮭は塩分濃度毎に大きく“甘口”“中辛”“辛口”“激辛”に分けられ3~10%以上となっている
ちなみに秋乃が出したのは“辛口”で塩分濃度は6~10%未満である
一切れで10グラム近く塩分を取る濃度である
上の説明を橙にした後、秋乃は
「多めの御粥と一緒に食べた方がいいよ」
と言って自身の御粥を食べ始めた
橙はおっかな吃驚としながら秋乃の云う通りに食べる
「あ、美味しい」
後はスルスルと御粥が橙の胃に消えていく
食べている間、橙の中からは気後れや緊張など言う感情はすっかり消えていた
結局、橙は御粥を三杯お代わりをして満腹になり寝てしまった
秋乃は押入れから薄手の毛布を一枚出し、炬燵で寝息を立てる橙に掛ける
その後、残った鮭を肴に薄暗くなる雪降る外を見ながら橙の迎えを待った
私は辛口塩鮭一切れでご飯三杯、日本酒四合いける人間です
代わりに甘口の鮭に物足りなさを感じるんですけどね…
主人公は弾幕撃てません故にタグの通り、主人公が異変解決などは有り得ません
魔理沙がパチュリーの図書館から本を盗むのを止めるくらい有り得ません
紫様が冬眠しないくらい有り得ません
感想、質問待ってます
現在、この作品は『このキャラを出してほしい』、『こういうシチュエーションがいい』などの要望お待ちしています
ある程度、原作品の時系列に沿っていますのでその辺りはご容赦ください