「はぁ……」
ケチャワチャの討伐から数日後、ヤマトは一人ため息をつきながら空を見ていた。
するとため息を聞いたのか、ユゥナがやってきた。
「何ため息ついてるのよ?
歳よりじゃないんだから。」
「いや、なんと言うかな……」
そう言うと、ヤマトは数日前のことを思い出した。
帰ってきてそうそう、あの『凄く風化した太刀』を手に武具屋に向かった。
理由としては、その武具屋ならば凄く風化した太刀を研磨し、復元加工ができるかも知れないという情報があったからだ。
だが武具屋はやれるかどうか分からないし、まず試しにやってみるもの相当なお金がかかると言われ、今のヤマトでは支払いきれない額を提示してきた。
元々太刀として機能してないほど風化している武器を復元しようとするのだから、それなりの費用は掛かると覚悟していたが、その武具屋はある条件を提示し、それを成し遂げたら一度無償で試してみると言ってくれた。
その条件が、ケチャワチャの討伐だった。
理由としてはバルバレから別の地へ行こうとしていた時に、その行き先の途中でケチャワチャが確認され立ち往生していたとのことだった。
ヤマトとしてもうれしい条件だったため、サナと共にクエストを受け行き、無事狩猟したのだが……
「あ~、その様子からして例のあの風化した武器。
結局ダメだったのね。」
「…………」
ユゥナに言われ少しむっとした顔をしたヤマトだったが、何も言い返せなかった。
ユゥナの言った通り、その武具屋では手の施しようがなかった。
今までに何度も同じような経験をしているから、そこまで落ち込むことはないが、それでも期待をしていた分落ち込みはする。
「にしても、本当にあの武器……
凄く風化してるのに、凄い武器なのかしらね?私からしたらただの錆びた塊にしか見えなのに。」
その言葉にヤマトは狩場でモンスターに見せる鋭い目つきでユゥナを見た。
その瞬間、一瞬ユゥナはビクッと強張ったが、すぐにいつものような強気の姿勢を見せた。
「あれは学者だった親父が長年の末見つけた物だ。
馬鹿にするなら、黙ってないぞ。」
そう、ヤマトがこのキャラバンに同行し世界を回る理由。
それは凄く風化した太刀の復元だった。
学者だった父親が唯一残した物で、生前父親はこれは本当は凄い武器だと言っていたが、周りの者はだれ一人信じず逆にただのゴミだと馬鹿にしてきた。
その後、ヤマトの両親は亡くなってしまったが、ヤマトは父親が残したこの武器を証明するため、また馬鹿にしてきた者を見返す為、絶対復元して見せるため世界各地を巡ってでも復元してみせることを決意した。
そしてその為には、その方法を探るにはハンターになるのが一番の近道かつ、いずれは復元した凄く風化した太刀でモンスターと対峙して見せると誓った。
「……ところで出張所はいいのかよ。」
これ以上この話に触れられたくなかったヤマトは話を変えようと話題を探したが、まだ昼間だというのにユゥナが仕事をせず自分と話しているのが気になった。
ユゥナも痛い所を突かれたのか、ぎこちない笑顔を見せてきた。
「い、いやぁ……
この時間帯なら、皆集会所に行ってるからね。
それにこんな人気のない出張所を使うのは貴方たちくらいのものよ。」
そう言われヤマトもそう言えばそうだと思った。
実際、このキャラバンがある場所は市場からも少し離れた場所にあり、ここでクエストを受けるのも自分達以外見た事はなかった。
だがそれと同時に、一つ疑問が浮かんできた。
「なあ、ずっと思っていたんだが……
どうしてユゥナはこのキャラバンに派遣されたんだ?
言うのも何だが、大きなキャラバンでもないし、別に商業をやってるわけでもないのによ。」
確かに、ヤマト達がいるキャラバンよりも大きなキャラバンもあれば、商業をやっているキャラバンもある。
だが、このキャラバンはヤマト達が来る以前は団長とユゥナ。そしてもう一人の団員と小規模なものだ。
それなのにかかわらず、ハンターズギルドは大きなキャラバンではなくこのキャラバンに受付嬢を派遣しているのには理由があるだろう。
そもそも、このキャラバンを率いているキャラバンの団長の目的もヤマト達は知らされていない。
目的を知っているのはおそらくユゥナともう一人の団員だけで、ヤマト達は各々の目的、目標で世界を巡ろうとしていたのと、団長の人柄に惚れてキャラバンに同行するようになった。
「う~ん、そうね……」
ユゥナは少し考えるように、首を傾げ頬に手を当てた。
サナと違ってヤマトには下手な嘘を言うよりも事情を話そうかどうか迷っているようだ。
だが、しばらく考えると考えがまとまったのかヤマトを見た。
「そうね、今は貴方しかいないから言っておくけど今の貴方達なら知らない方がいいわ。
それが、貴方達のためよ。」
「……なんとなくだが、理由は分かったよ。
けど、団長が何者かくらいは教えてくれよ。
流石にそろそろ俺達も知ってもいいんじゃないか?」
ユゥナの真剣な眼差しにその意味を理解したのか、今は深く追及はしないと決めた。
だが一つ、団長の事だけでも知っておこうと思っていた。
「う~ん、私も全部を知ってるわけじゃないけど……
団長はバルバレのギルドマネージャーの古い知人らしいわよ。
まっ、今教えてあげれるのはそれくらいね。」
そう言い、ユゥナは出張所へと戻って行ってしまった。
結局教えてはくれなかったと、少し落胆していると今度はサナがやってきた。
「あっ、ここにいたんだヤマト。」
よく人懐っこい笑顔を見せてくるサナだが、今日はいつも以上に嬉しそうに笑顔を浮かべていたため何かいいことでもあったのか気になった。
「どうしたんだ?
今日はいつも以上に上機嫌だな。」
「ふふふっ、よくぞ聞いてくれました!!
今日は何と私の新防具ができる日なのでした!!」
そう言いながらビシッとヤマトを指さし誇らしげに言ってきた。
ヤマトはああ、そう言えばそうだな……と先のケチャワチャの討伐で防具に必要な素材が全部揃ったと嬉しそうにしていたなと思い出した。
「さあヤマト!!
さっそく武具屋に行こう!!
新しい防具のお披露目だよ!!」
「そうだな、行くか。
……言っておくが、新しいお披露目はお前だけじゃないがな。」
それから2人してこのバルバレで行きつけになっている武具屋へと向かった。
すでに顔なじみになっていた為、2人がやってくると武器を加工していた鍛冶屋が気が付き作業を止めてやってきた。
「ようお2人さん、待ってたぜ。」
「おじさん、私の防具できてる!?」
「おう、仕上がったばかりだぜ。
さっそく着てくかい?」
「うん!!」
そう言いサナは女性の店員と一緒に奥の部屋へと行ってしまった。
残ったヤマトと鍛冶屋のおじさんは、少し会話をし自分の用事を済ませた後、作業に戻ったおじさんの作業を見学させてもらった。
しばらくすると、奥の部屋から真新しい防具で身を包んだサナがやってきた。
「へへぇ~ん、どうよ!!」
そう言いポーズをとるサナに、ヤマトは微笑ましく見守った。
サナが新たに作った防具は『ケチャシリーズ』と呼ばれるケチャワチャの素材を使用して作られた防具だ。
先の『アロイシリーズ』のように全身を防具で保護しておらず、お腹や二の腕の部分が露出し柔らかそうな肌が見えていた。
またヘルムから伸びた2本の飾りが触角のようにも見え、防具と言うよりは民族の服にも近いようだった。
だがこれで防具としての性能はアロイシリーズの2倍近くあるのだから驚きだ。
「どうだい嬢ちゃん?」
おじさんはサナがやってくると、手を休め防具の状態を聞いた。
ハンターにとってもし防具に支障でもあれば、それが命取りとなる。
何かあってからでは遅い、だからこそ不具合がないか確かめたかったのだ。
「うん、サイズもぴったりだししっくりくるよ。
ありがとうおじさん!!」
だがサナは防具の状態は万全だと言わんばかりに、親指をたてグーサインで答えた。
それを見ておじさんも安心したようだ。
「じゃあ、今度は俺が見せる番かな?」
ヤマトがそう言うと、今度は男性の店員が奥から一振りの太刀を持ってきた。
それはヤマトが使っていた『斬破刀』と同じものだった。
「へ、これヤマトの斬破刀?」
「いや、ちょっと違うな。」
太刀を受け取ったヤマトは触感を確かめるため、鞘から刃を抜き、数回素振りをした。
その度に、斬撃と共に電気が空を切り裂いた。
「これは斬破刀を強化した『鬼斬刃』だ。
此間の狩りでお金に余裕が出てきたから、強化したんだ。」
ヤマトは少し誇らしげに言ったが、サナには何が違うのか分からず、え~っと言った感じで見ていた。
斬破刀と鬼斬刃は見た目形は同じだが、切れ味、威力、帯びている雷属性は2割ほど増している。
「そちらもどうだい?」
「ああ、大丈夫だ。しっくりくる。」
素振りを終えたヤマトに、おじさんが不具合はないか聞いてきたが、ヤマトは問題ない事を伝えた。
それからかかった金額を支払い、2人は武具屋を後にした。
そして自分たちのキャラバンにたどり着くと、ユゥナが『ポポ』に枯草の餌を与えていた。
「ユゥナ、どうしたんだ?」
よく見れば出張所まで閉じ片づけているのが気になりヤマトが声をかけると、ユゥナは少し安心したような顔をした。
「ああ、2人とも丁度よかった。
団長が、これからすぐナグリ村に向かうって。
すぐに支度しなさい。」
「今からか……」
今まで何の前振りもなく出立を告げられた事は幾度となくあるため、さほど驚きはしなかったが丁度武具ができたタイミングでの出立でよかったと安心した。
そしてナグリ村と聞いてヤマトは顔には出さなかったがとても喜んだ。
「ナグリ村か……
ヤマト知ってる?」
「ナグリ村は活火山の近くに位置し、マグマの流れる地底に築かれた巨大な村だ。
『地底洞窟』『地底火山』に近く、地底を好む『土竜族』と言う人種が多く住んでいるそうだ。
また鉱石の加工などを生業としていて、他にも船の製造とかもしているそうだ。」
「……ヤマト、やけにテンション上がってるね。」
いつもの口調でナグリ村の説明をしているが、表面上は隠していても幼馴染のサナにはヤマトが嬉しそうにしているのが分かっていた。
「……ナグリ村には独自の技術を用いた『武具研磨工房』と言う所があると聞いた。
そこなら、あの太刀を復元できるかもしれない。」
隠しても無駄だと思ったヤマトは、ナグリ村と聞いてうれしくなった理由を教えた。
ヤマトが嬉しそうにしている理由を知ったサナは、へ~……と意味深な目で見てきた。
「そ、それより今から行くってサヨリ姉はどうするんだ?
それにヴァンさんも戻って来るのか?」
サナの目に恥ずかしくなったヤマトは話を変えようと、今この場にいないサヨリともう1人の団員、ヴァンをどうするか聞いた。
「ヴァンならついさっき戻ってきたわよ。
今頃自分の幌車にいるんじゃないかしら。
サヨリなら、地底洞窟でのクエストを受けたからそのままナグリ村で合流するそうよ。」
「わ~い、ヴァンさん戻ってきてるんだ~」
2人がどうするか聞いたと同時に、今まで不在だった団員が帰ってきた事を知ったサナはバンザイをしその場で軽くジャンプしていた。
「ねえねえ行ってみようよ。」
「そうだな。久々に顔合わせておかないとな。」
2人はキャラバンの3列目の幌車へ向かうと、中で誰かが何かの作業をしているのが見えた。
「ヴァンさん、お久しぶりです~」
サナが大きな声で言うと、中から20代後半の男性が中から出てきた。
やや痩せこけた顔つきに、ぼさぼさの髪でだらしなく見えるが眼鏡の奥から見える眼にはどこか優しい雰囲気を醸し出していた。
「やあサナちゃんにヤマト君、お久しぶり。
元気だったかい?」
「うん!!元気元気、元気いっぱいだよ。」
「まあ、それなりには……
そう言えばどうでした?」
「はははっ、サナちゃんは相変わらずだね。
ヤマト君も相変わらずで安心したよ。
そうだね、成果としては空振りだったよ。」
2人の様子を見て安心したかと思ったら、次にはバツが悪そうに頭を搔いた。
ヴァンは学者として、主にモンスターの生態系を調査している。
今回はバルバレの集会所へ行き、ハンター話や図鑑、王立書士隊や古龍観測隊の元へ行き、キャラバンにも戻らずずっと資料をまとめていた。
だがあまり良い成果は得られなかったようだ。
「まあ、今度はナグリ村に行くそうだし……
しばらくはゆっくりさせてもらうよ。」
ヴァンがそう言うと、突如サナが大喜びしだした。
「やったー!!
これでまたヴァンさんの手料理が食べれるよ!!」
ヴァンはこのキャラバンで料理を作ることも多くその腕前はかなりのもので、料理だけで食べていけるのではないかと思えるほどだ。
ヤマト達も狩りから帰ってきた時は、ヴァンの手料理が楽しみの一つでもある。
しばらく学者としての仕事を休むと聞いて喜ぶサナに隠れて、ヤマトも見えないようにガッツポーズをした。
その後は2人とも各々の幌車へ行き、出発の準備をした。
しばらくすると、団長も帰ってきてすぐ出発することになった。
2頭のポポに合計5つの幌車を引かせバルバレを後にし、長い旅へと出た。
数日もすれば、砂漠だった大地は徐々に草木が生えた道へと変わり、代わりに熱い空気が辺りを支配してきた。
そして次第に道が開け、一つの村にたどり着いた。
すぐ近くにマグマが流れ、いたるところから金属を叩く音が鳴り響いている。
村の入り口そばにキャラバンを止め、皆が幌車から出るとすぐそばに『ブナハシリーズ』を纏った女性のハンターと1人の土竜族の老人が立っていた。
土竜族は人間と比べで非常に小柄だが、がっしりとした体型をしている。
また地に根付く力が強く、一度決めたらどんな過酷な地でもほぼ離れないと言われ、加工に使う溶岩にも負けないくらいの熱意と勢いで仕事に勤めている。
「やあ、待っていたぞ。」
「これはこれは村長、お久しぶりです。」
逆立った立派な髭をしたナグリ村の村長と団長が握手を交わすと、何やら話し込み始めた。
何やら大事な話のようで、キャラバンの団員とは一言挨拶を済ますと、団長と村長宅へ向かった。
ユゥナは出張所の準備をしだし、ヴァンはポポに餌を与えたりしていた。
ヤマトとサナはブナハシリーズのハンターの元へと向かった。
ブナハシリーズは防具と言うよりもドレスに近く、綺麗な紫色と白いが華やかに目立つ。
背負っている武器は『王砲ライゴウ』。
牙竜種に属する雷狼竜『ジンオウガ』の素材を使用して作れる強力なヘビィボウガンだ。
ジンオウガはオオカミに似た姿をした牙竜であり、「無双の狩人」と呼ばれているモンスターで、俊敏な動きと強力な電撃での攻撃を前に並のハンターでは簡単に返り討ちにあってしまう。
目の前のハンターはそのジンオウガを狩猟した経験のある、十分な実力を持ったハンターであるというのがよくわかる。
「……随分と遅かったな。」
ブナハキャップは髪飾りのような装備の為、女性の顔はよく見える。
凛々しい雰囲気を醸し出しながら、どこかサナにも似た雰囲気を持った黒髪の女性のハンターが少し不機嫌そうにそう言うと、2人とも少し顔が強張ってしまった。
「お姉ちゃん、ごめんね。
どうしてもバルバレからだと遠くなっちゃって。」
「どうしても日数がかかる。
勘弁してくれよ、サヨリ姉。」
2人は言い訳するように言った。
この女性ハンターこそが、キャラバンの最後の1人して、サナの姉であるサヨリだ。
だがサヨリは言い訳など聞かず、2人の近づいて来た。
そして――
「お姉ちゃん寂しかったんだからな~」
いきなり2人を抱きしめると、急に泣き出した。
突然のことに、近くにいた土竜族の住民が何事かと何人も近づいてきた。
「ちょ、お姉ちゃん皆が見てるよ~」
サナは言葉では嫌がりながらも、久々の姉との再会がうれしく離れようとはしなかった。
だがヤマトは恥ずかしいのか、何とか離れようと藻掻いているが逆に強く抱きしめられ動けなくなりつつあった。
「もう、お姉ちゃん2人が心配で心配で……
ケチャワチャの討伐時、一緒に行ってあげられなくてごめんね。」
人目を気にせず、妹と弟分を抱擁しているサヨリは、先ほどの凛々しさはなく、泣きじゃくる幼い子供の様だった。
普段は凛々しく、皆の先頭に立って見本となるサヨリだが、ちょっとしたことで子供っぽくなるところはサナによく似ていた。
ようやく落ち着いたサヨリは、先ほどとは打って変わってちゃんとした表情をしていたが、逆にヤマトはどっと疲れたように近くの石に座り込んでしまっていた。
そしてサナは今度は3人で狩りに行こうと意気込んでいたい。
狩りという言葉に思い出したかのように、ハッとなったヤマトは勢いよく立ち上がった。
「ああ、ヤマト。
お前がこれから行こうとしている武具研磨工房は今店主が鉱石取に行ってるから休みだぞ。」
だがサヨリにやろうとしていた事を先に言われ、おまけに目的のお店が休みと聞いて落胆し、再び石の上に座り込んだ。
ヤマトはしばらく落胆したかと思うと、何かを思いついたのか急に立ち上がった。
「ヤマトどうしたの?」
急な態度の変化にどうかしたのか気になったサナが聞いてきた。
「いや、それならちょっと素材ツアーに行ってみようと思ってな。
ここは鉱石が豊富な地底火山も近いし、ちょっと行ってみようと思う。」
そう言うとサナも私も行くと言い出し、挙句にはサヨリも同行すると言い出した。
ヤマトはただの素材ツアーだから別についてこなくてもいいと言ったが、サナはせっかくだしと同行を決め、サヨリも久々に3人で狩り場に行くのも悪くないと準備を始めた。
ヤマトはまあ、いいかと決めさっそく準備をし始めた。
携帯用のポーチに回復薬など必要最低限のものだけにすると、新たにクーラードリンクを詰め込んだ。
そして最後に大量のピッケルをまとめて入れた袋を背負いユゥナがいる出張所へ向かった。
「あらヤマト。
何か用かしら?」
「ちょっと地底火山に鉱石を取りにな。
素材ツアーで申請しておいてくれないか?」
「地底火山ね……
なら丁度いいのがあったはずよ。」
そう言い、ユゥナは沢山束ねられた紙をめくり出し、しばらくするとその中の1枚を見せてきた。
「だったら燃石炭の納品ってクエストがあるわよ。
鉱石取りに行くなら、ただの素材ツアーよりもこっちを受けた方がいいわよ。」
「燃石炭20個の納品か……
依頼主はここの土竜族の人か。
燃石炭での火力が必要、ね。
分かった、受注しよう。」
「分かったわ。
それじゃ、これにサインお願いね。」
そして依頼書に受注者としてヤマトがサインし、契約金を支払った。
しばらくするとサナとサヨリも準備を終えやって来、事情を説明すると2人とも承諾し契約書の同行者欄にサインした。
数時間後ヤマト達3人はエリア9と呼ばれる地底火山の最下層にいた。
円形にも近いエリアだが、その周囲はマグマで囲われている。
また多くの大型モンスターが寝床として使用することも多く、大小様々な生物の骨が散乱していた。
「あ~、熱いよ~」
サナはピッケルを杖代わりにし体を支えながら、クーラードリンクを飲みほした。
クーラードリンクは飲んだ人物の体温を一意的に下げることで、昼間の砂漠や火山地帯のような熱い狩場でも灼熱による体力の消耗を抑える効果があるが、それはあくまで体力の消耗を抑えるだけで熱いものは熱い。
だがもしクーラードリンクを飲んでいなかったら、その熱さは想像を絶する。
「そんなに何度飲んでも熱さを凌げるものじゃない。
無駄に使うんじゃない。」
クーラードリンクを飲んだサナの元に採掘を終えたヤマトがやってきた。
クーラードリンクなどは1つ飲むだけでしばらくの間効果が持続するが、一気に複数飲んでも効果はない。
精々持続時間を延長させる程度で、サナはなぜか2個連続で飲む全く無意味な事をしていたのだ。
「だって、熱いんだもん!!」
「そりゃすぐそばマグマなんだぞ。
熱いに決まってるだろ~が。」
今度はサヨリもやってきて2人でちょっと攻められサナは少しブーたれたが、2人とっては慣れっこなのかあまり気にせず手に入れた鉱石の確認をしていた。
「今回は運がよかった。
『紅蓮石』を始め、いい鉱石が大分手に入った。サヨリ姉は?」
「こちらは微妙だな。
さて、依頼の燃石炭は私達で納品分あるな。
そろそろ戻るか?」
「そうだな。
もう採掘できるポイントは全部採掘したいし、そろそろ戻ろう。」
2人は早々に帰ることを決め、このエリアから移動するため唯一エリア8に通じる崖を登り始めた。
先ほどまでブーたれていたサナも置いてかれた事に気が付き、急いで2人の後を追った。
そして3人がエリア8に到達した時、想定外の事が起こった。
「そう言えばヤマト、そんなに鉱石どうるすつもりだ?」
「鬼斬刃に強化した時、鉱石も結構使ったから念の為に手に入れておきたかったんだけど……
これなら、新しい防具でも作ろうかな。」
「あれ、鬼斬刃でお金使ちゃったって言ってなかったけ?」
「まあ、何とかやりくり……」
3人は何気ない会話をしていた中、ヤマトとサヨリは突如辺りを警戒し始めた。
突然のことでサナは訳が分からなかったが、2人の様子からしてただ事ではないと身構えた。
すると突如3人の右側前方に流れているマグマが大きく爆発すると、白い巨大な物体がゆっくりと出てきた。
「グラビ、モスだって……」
一番最初に口にしたのはヤマトだった。
ハンターとして今まで幾度となく遭遇してきたモンスターがいる空気とハンターとしての勘が、このエリアに巨大なモンスターがいると警戒したヤマトとサヨリだったが予想外の相手にサヨリも驚きを隠せなかった。
竜盤目竜脚亜目重殻竜下目鎧竜上科グラビモス科『グラビモス』。
鎧竜の別称を持つ巨大な飛龍種のモンスターだ。
その白い甲殻はとても頑丈で、通常の攻撃を全く寄せ付けないほど強固でマグマの中ですら平然としている。
動き自体は俊敏ではないが、その巨体から繰り出される突進は脅威だ。
だがそれ以上に脅威なのは、全てを薙ぎ払う灼熱のブレスだ。
もしそのブレスをまともに喰らってしまったら、命の保証はない。
「お、お姉ちゃん……
ヤマト……」
いきなり想定外のモンスターと遭遇することは、狩場においては珍しいことではない。
だが、今の3人は納品のクエストでこの地底火山にきていた。
勿論大型モンスターと戦うことを想定しておらず、狩猟に有効なアイテムはほとんど持ってきていなかった。
普通なら、気づかれないように別のエリアに移動するなど方法はあるが、今グラビモスは3人の目の前に現れ岩を喰らっている。
エリアを移動するためには、グラビモスの目の前を通ってエリア3かエリア5、6へ向かうしかない。
一度エリア9に引き返したとしても、グラビモスがエリア9へ来てしまったら狭いフィールドで鉢合わせになってしまう。
それだけはどうしても避けたいと思ったヤマトはサヨリを見た。
サヨリも同じことを考えたのか無言でうなずいた。
だが、このままこの場にいては気づかれるのは時間の問題だった。
ならばと2人がたどり着いた答えは一緒だった。
サヨリはその場でヘビィボウガンを構え弾丸を装填した。
その間にヤマトはグラビモスに気づかれないようにそっと接近した。
サナはそんなヤマトを見習って、数歩後ろからついてきている。
そしてサヨリがヘビィボウガンの引き金を引くと、一発丸がグラビモスの尻尾に命中するとピンク色に弾け、周囲に独特の臭いが漂った。
サヨリが先ほど装填したのは『ペイント弾』と呼ばれる『ペイントボール』と同じ効果を持つ弾だ。
狩りにおいて、大型モンスターが途中エリアを移動してしまうことが多い。
だがらハンターはモンスターが逃げても、どのエリアに逃げたか特定するため最初にペイントするのが定石だった。
ペイントは時間が経てば薄れてしまうが、これでしばらくの間はグラビモスを逃す心配はない。
そしてヤマトはペイント弾が命中すると同時に一気に接近し、踏み込むと同時に鬼斬刃を抜き放ちグラビモスの右足に向かって振り下ろした。
だが――
「っ!!」
体重を乗せた一撃は火花を飛び散らせながら簡単に弾かれてしまった。
弾かれた反動で大勢を崩してしまったが、何とか踏みとどまりもう一度鬼斬刃を振り下ろしたが結果は先ほどと同じだった。
ヤマトよりも一歩遅れたが左足には『スノツインズ』を振るうサナがいたが、結果はヤマトと同じだった。
だがサナも負けじと弾けれてすぐ態勢を立て直して攻撃を繰り返すが、それをずっと許すグラビモスではなかった。
ゴアァァァァァァ――……
ヤマト達を排除すべき敵だと認識したのか、グラビモスが周囲に轟くほど咆哮を放った。
その咆哮に、近くにいたヤマトとサナは本能的にその場で耳を塞いで動けなくなってしまった。
唯一、離れていたサヨリだけが影響を受けなかったが、防具による耳栓がなければモンスターの咆哮にあらがう術はない。
咆哮一つでどんなハンターでも、人間のそこに眠る恐怖と言う本能を呼び覚まし動けなくなってしまうのだ。
動きが俊敏ではない事が幸いし、グラビモスが動き出す頃には2人とも体が動くようになり、武器を納刀し急ぎその場から離れた。
「くっ、分かっていた事だが流石に硬いな……」
「う~、手がジンジンするよ~」
お互いの武器が簡単に弾かれた事は想定内だが、焦りは隠しきれない。
ハンターにとって自分の武器が通用するかどうかは、士気にもかかわる。
だが、ヤマトは今回の目的は狩猟ではないと自分に言い聞かせた。
今の準備でグラビモスを狩猟することは難しい。
だから、ここはあえて一度村に戻りグラビモスの事をハンターズギルドに報告する事を優先すべきと判断した。
そのためには崖を乗り越えエリア3へ行くか、強固な蜘蛛の巣をよじ登りエリア6へ向かう。
もしくは一番離れているエリア5へ向かうのだが、グラビモスがそうやすやすと通してくれるとは思わない。
だからあえて一度戦闘をすることで、傷ついたもしくは飽き、体力を補うためにエリア移動させることを狙った。
「サヨリ姉行ったぞ!!」
まずグラビモスが狙ったのは近くにいる2人ではなく、遠くで狙撃しているサヨリだった。
グラビモスの突進に自分が狙われていると分かると、すぐさま武器をしまいその場から離れようと試みた。
だがグラビモスはサヨリの動きに合わせて軌道を調整しながら狙ってくる。
執拗以上に狙われたサヨリが突進に巻き込まれたように見え、グラビモスは土煙を立てながら停止をした。
だがサヨリはギリギリのところで何とか避け、グラビモスと距離をとった。
ヤマトはサヨリの無事を確認すると、ホッとすると同時に移動したグラビモスを追った。
するとヤマトがグラビモスの元へたどり着くよりも先に方向を変え、今度はこちらに向かって突進をしてきた。
その動きを予想していたのか、ヤマトはすぐさま横に跳びやり過ごした。
だが後ろにいたサナが一瞬に反応に遅れ、躱しきれなかった。
グラビモスの巨体と重量を前に、小さな石くらいの大きさのサナは足が掠っただけでも簡単に吹き飛ばされてしまった。
「サナ!!」
サヨリは叫びにも近い声で妹の名を口にすると、グラビモスの気を引こうと片膝をつき、装填されているLV1貫通弾を連射しだした。
ヘビィボウガンは重く自由が効かない代わりに高火力を誇るだけでなく、肩で銃床を固定する代わりに肩に掛けた弾帯を直接銃に連結することで連射することが可能な『しゃがみ撃ち』ができるのだ。
だが、しゃがみ撃ちは銃床を固定させてしまうためその場から動くことが難点があるため、使用するタイミングが要求される。
それをここですると言うことは、自分の身よりも妹の身を案じての事だろう。
そして今撃ち出されている貫通弾は通常の弾とは異なり、その名の通りモンスターの体を貫通しダメージを与える効果がある。
小型のモンスターではダメージを与える前に弾が貫通してしまうが、グラビモスのような大型モンスターには一発で断続してダメージを与えれる。
それが功を奏したのかグラビモスはサナへ追撃するのではなく、ゆっくり向きを変え再びサヨリを狙いだした。
「サナ大丈夫か!?」
その間にヤマトはうずくまっているサナの元へと駆け寄った。
サナは大丈夫と立ち上がり、失った体力を回復するために『回復薬』をその場で飲みほした。
一つでは不安だったのか、もう一本続けざまに飲んだ。
「私なら大丈夫。
早くお姉ちゃんの援護に行かないと。」
「そうだな。
ガンナーであるサヨリ姉にこれ以上負担はかけたくないからな。」
サナが回復するまでの間、ガンナーであるサヨリがグラビモスを1人で引き受けていた。
本来モンスターに接近することは滅諦にないガンナーの防具は剣士タイプの防具に比べて強度は劣る。
それはモンスターに接近する接近武器に比べ、攻撃を喰らうことは少なく、狩場やその日の雨風を肌で感じボウガンや弓の軌道を調整するためにあえて強度を劣らせることで制度を上げるようにしているのだ。
もしサヨリがグラビモスの一撃を喰らってしまったら、剣士タイプのサナよりダメージははるかに大きい。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
サヨリを援護するために急ぎグラビモスの元までやってきたヤマトは、自分を鼓舞するように叫びながら鬼斬刃を抜くと同時に勢いよく振り下ろした。
だが、結果は先ほど同じく右足にあたるが簡単に弾かれてしまった。
しかしヤマトも負けじと、すぐに態勢を直し再び鬼斬刃を振るう。
だが何度もそれを繰り返すと、煩わしく思ったのかグラビモスは足元のヤマトを狙い始めた。
するとヤマトはすぐさま鬼斬刃を納刀し、その場から離れた。
それと同時にグラビモスはその場で力を溜めると、次の瞬間体から白いガスが噴出した。
あれはグラビモスの体内で生成された睡眠ガスで、少しでも吸い込んでしまうとたちまち眠気に襲われ『元気ドリンコ』を飲むか、防具によって睡眠を無効にしない限りその場で眠ってしまう。
一寸の気も抜けない狩場において、ベースキャンプ以外の場所で寝るなど命の保証はない。
ヤマトはハンターとしての勘が睡眠ガスによる攻撃を察知しその場を離れた。
ガスを放出したグラビモスは急に片膝をつきバランスを崩したと思うと、巨体を転がしヤマトを潰そうとした。
「くっ!!」
武器を納刀していたのが功を奏し、その場から素早く離れることができたが、グラビモスの猛攻に反撃することが出来ずにいた。
ヤマトと同じ接近タイプのサナもグラビモスから狙われているわけではないが、中々近づけずにいた。
一方遠距離タイプのサヨリは、LV1貫通弾をしゃがみ撃ちで連射し援護をしていた。
今度は貫通弾が煩わしく思ったのかグラビモスはサヨリの方を向くと足を踏ん張り力を溜めた。
「サヨリ姉!!」
その動作から繰り出される攻撃を察知したヤマトが叫ぶと、同時にグラビモスの口から高熱のブレスがビームのように放たれた。
ヤマト同様、攻撃を察知したサヨリは急ぎしゃがみ撃ちを止め武器を抱きかかえながら横に転がり何とか躱すことができた。
それでもグラビモスは灼熱ブレスを放ち続け、無防備状態になっていた。
それを好機と思ったのか、サナが一気に近づき弾かれながらも双剣を振るっていた。
ヤマトも近づこうとした際、グラビモスの周りに赤い粉が舞っているのが見えた。
「サナ離れろ!!」
粉を確認したヤマトは近づくのを止め、サナに今すぐその場を離れるように促した。
サナは一瞬ヤマトが言ったように離れようか、せっかくの機会だから攻撃を続けようか迷った時、グラビモスが灼熱ブレスを撃ち終えると同時に、過熱した体を冷やすため高熱のガスが噴出した。
足元にいたサナは避けることも出来ず、まともに喰らってしまい噴出の勢いで吹き飛ばされてしまった。
あまりの高温に纏っている防具には火がつき、サナの体力を更に奪っていく。
「サヨリ姉!!」
ヤマトはサヨリの名を叫ぶ当時にわざとグラビモスの真正面に立ち、頭部に向かって太刀を振るった。
今度は自分が囮となって気を引き、その間にサヨリがサナの元へ向かった。
サナはまともに喰らってしまったため、吹き飛ばされた衝撃で気を失っていた。
それを見てサヨリは急ぎ気を失ったサナに無理やり『回復薬グレート』を飲ませ、次に『ウチケシの実』を齧らせた。
ウチケシの実は、あらゆる属性やられをその名の通り打ち消すことができるハンターにとって必須のアイテムの一つだ。
するとすぐさま効果が現れ、サナの火属性やられが打ち消された。
「う、うぅ……
あっ、お姉ちゃん……」
何とか意識を取り戻したサナだったが、その姿はいつものような元気はなく、その眼は弱弱しかった。
「ヤマト、予定変更だ!!
殿を頼む!!」
「もとよりそのつもりだ!!
早く行け!!」
グラビモスと対峙しているヤマトは短く返事をすると、より積極的にグラビモスに接近していた。
そしてサナとサヨリはこのエリアから別エリアへ行くため移動を開始した。
サナはサヨリに肩を借りることで何とか歩ける状態だったため、唯一登らずに行けるエリア5を目指した。
その間ヤマトが1人でグラビモスの相手をするだけでなく、無事2人がエリア移動できるよう足止めも必要だった。
「うおっ!!」
目の前にいるヤマトを吹き飛ばそうと、グラビモスがその場で回転し棍棒のような尻尾を振り回した。
ヤマトは尻尾の当たらないギリギリの高さまでしゃがみ、すぐさまその場から離れた。
更に2回ほどグラビモスは回転し、ヤマトは尻尾の攻撃範囲外へ退避していた。
回転攻撃を止めたグラビモスは、今度はヤマトではなく遠くへ離れつつあるサナとサヨリの方を向いた。
「させるか!!」
その瞬間ヤマトが段差を利用し高くジャンプすると、グラビモスの背中に飛び乗った。
落ちないように片手でしがみつくと、もう片手で剥ぎ取り用のナイフを甲殻の隙間めがけ何度も何度も突き刺した。
背中でチクチク刺しているヤマトを煩わしく思ったのか、その場で回転したり、体を大きく揺らすなど暴れるが、ヤマトも振り落されてたまるかと攻撃を止めしっかりとしがみついた。
しばらく暴れると、疲れたのかグラビモスは動きを止めた。
好機と見たヤマトは再びナイフを何度も突き立てると、堪り兼ねたグラビモスは態勢を崩し倒れこんでしまった。
倒れた拍子で背中から振り落とされてしまったヤマトだが、起き上がろうともがくグラビモスに今だと判断したヤマトは攻撃をするのではなく、急ぎサナ達の元へと向かった。
今だエリア移動出来ていなかった為、サヨリと2人でサナをベースキャンプまで運ぼうと考えた。
グラビモスが起き上がるよりも先にヤマトは2人の元にたどり着き、サナに肩を貸すと急ぎエリアを移動した。
エリアを移動する時、ヤマトは一度振り返るとグラビモスは起き上がり低い声で呻いていた。