舞う英雄   作:生物産業

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 適当な部分がありますが話に関わってこないのであれば無視してください。


第1話 始まり

 親友曰く、森は心の平穏を取り戻してくれる神聖な場所。どんなに深い傷を負おうとも、ここにいれば自然と癒されて行くらしい。

 正直馬鹿じゃないかと思っている。

 そんな神聖な場所で特訓でもすれば何か特殊能力に目覚める……なんて思っていないけど、とにかく俺は汗を流している。。

 

「9995……9996……9997……9998……9999……10000っと、ふぅ~」

 

 腕の感覚がない。ばたりと地面に倒れる。

 一度力を抜いてしまった所為か、限界を迎えた腕にもう一度何かをさせる余裕はなかった。

 ごろりと身体を回転させ、仰向けになる。頬についた土が気持ち悪いが、今は払う気にもなれない。

 ぱりっと葉を踏みしめる音がした。そちらの方に視線を向けると、気怠そうに歩く親友が見えた。

 

「相変わらず、無駄に頑張るな。ほらよ」

 

 放り投げられたペットボトルとタオル。

 それを俺は……顔面でキャッチした。

 疲れてヘトヘトで腕が上がらないのに、捕れるわけがない。

 優しい人間なら、そっと俺の顔の横に置いてくれる。コイツはそう言う人間ではなかった。

 

「鼻が痛い」

「悪かったな」

 

 そうは言うが、空を見つめるばかりで反省の色が全く見えない。

 ふりそそぐ太陽の光、コイツにとっては何か危険なものなのか、敵を睨みつけるようにそれを見ている。

 何か太陽と対話でもしたのかもしれない。しばらく睨みつけた後、俺の近くに転がったペットボトルを手に取り、キャップに手をかけた。

 

「ほらよ」

 

 ムム、実は反省をしているのか?

 ペットボトルの蓋をあけ、差し出してくれる――わけもなく、そのまま顔にかけてきた。

 冷たくて気持ちが良いけど、頬についた土が泥となるから普通に口元に寄越して欲しかった。 

 

「スッキリしたか?」

「覚えておけよ。後で、ですとろい」

「ふっ、一流のスナイパーである俺が、ただの人間にやられる訳もない」

「……イケメンの癖に、その残念な感じ、どうにかならないわけ? 確かに俺たちは中学二年生だよ。だからって、さすがにそれはない」

「俺は闇に生きる男で、世界の特異点だからな。まあ、お前たち一般人から見れば残念に見えるかもしれないな」

 

 かもじゃない。見えるんだ。誰がどう見ても残念に見えてしまうのだ。

 俺の親友と言っても良い存在ではあるのだが、悲しい事に心に病を抱えている。

 現代医学では明確な治療法がなく、コイツを治してやることができない。

 そうなると困るのはコイツの周りにいる人間だ。

 友人が中二病を発生すると、なんというか居た堪れなくなる。

 行動の一つ一つが常識から外れすぎて、一緒に居るところを見られてるとこっちまで恥ずかしくなる。

 彼にはさっさと病を治してもらいたいところだ……頑張れ、天才医師たち。

 

「与一、闇に生きるなら、名前を夜に変えた方が良いんじゃないか?」

「おお、それは良いな!! 夜一か。こっちの方が俺に合っている気がするぜ」

 

 地面に書いた夜一の字が気に入ったのか、携帯を取り出して、それを写真におさめていた。何度も何度も、角度を気にしては笑みを深め、シャッターボタンを連打する。

 正直、見てて軽くひく。

 放っておくと、写真家にでもなりかねないので、与一に話をかける。

 

「お前は、練習しなくて良いの?」

「他人に見せる努力を、俺は努力とは言わない」

「格好良いことを言いたいのは分かるけど、その右手で顔を覆うポーズがすべてを台無しにしてるから。ただのナルシストにしか見えない」

「じゃあ、こうした方が良いか?」

 

 今度は額に手を当てて髪をかき上げるような仕草を取った。

 まあ、顔はイケメンだし、黙っていれば女子も寄ってくるから、似合ってない訳じゃない。

 ただ、ホントにナルシストにしか見えない。

 改名したみたいだし、ついでにあだ名も変えてやろう。

 

「ナルシー、じゃあ暇でしょ? 俺の訓練に付き合って」

 

 腕も動くようになったので、起き上がって与一に提案をする。

 

「ナルシーは止めろ。なんか心が傷つく」

「お前、メンタル弱いよな。その割に痛い発言を繰り返すけど」

「そのうち、お前も俺の言っていることが分かるさ。世界は俺たちを自由になんてさせてくれない。そして改めて俺が特異点である事を認識する」

「あーはいはい。それじゃあ、あっちからいつもみたいに撃って来て」

「おまっ、俺の扱いが雑になってんじゃねぇか?」

「親友の扱いなんてこんなもんだろ?」

「そ、そうか? まあ、そうかもしれねぇな」

 

 親友ってそんなもんじゃないでしょ。

 お前の中での友達と言う定義はどうなってんだよ。

 ハァー、高校に行く前にはこいつをもう少し普通の人間にしたいな。

 

 ◇◇◇

 

 登校日。

 爽やかな朝を満喫しつつ学校に向かっているのだが、足取りは重い。

 今日は転校初日の大切な日であるのだが、そんなことお構いなしの輩が若干名居るので、やる気が上がらないのだ。

 若さが足りないと言っても良いかもしれない。

 

「世界はいつだって俺に厳しいぜ」

「世界って言うか、世間だよね。風当り的に」

 

 やる気がない分、冷静になっているのか、いまだ病が治らない親友にも冷静に対処できる。

 これが炎天下だったら、たぶん、死ねの一言で終わりだ。いや、もしかしたら一撃をみまう可能性の方が高いかもしれない。

 全く。高校生、それも二年にもなっていまだにこれだからな。少しは改善されているとは言え、まだまだ痛々しい。

 健全なお子様に見せられないR15指定の存在だ。教育上よろしくない。

 

「金太郎、そのバカにいちいちツッコまなくて良いよ。あー川神水がおいしい~」

 

 高校生ながらに酔っぱらうという行為を平気で行う。

 酔いが酷いのか豊満な胸を俺の腕に押し付けるという乙女には恥ずかしい行為ですら一切躊躇なくやってくる。

 密着した状態であるからこそ、女性特有のフェロモン、厳密に言えばアルコール的な匂いが俺の鼻を刺激する。

 肩にかかる程度の黒髪で活発そうな感じを持っているのだが、全く以ってそんなことはない。

 朝から酒……ではないけど、ほぼ酒のような水を飲んで酔っ払っている。

 アルコールが入ってるかどうかが重要じゃないと思うんだ。

 他人に迷惑が掛かるほど酔っぱらってしまうことが問題なんだと思う。

 

「痛い子に酔っぱらい。義経、配下はもう少し選んだ方が良いと思う」

「よ、与一も弁慶も、良い奴らなんだ。金時もそれは分かってくれると義経は思っている」

 

 良い。俺の辞書には肯定的な意味で載っているのだが、実はそんな事はなかったらしい。中学で国語の勉強を間違えてしまったようだ。

 二人の主人である義経は、常に心労が絶えない。

 酔っぱらって足元がおぼつかなくなる弁慶に気が気でない義経。一応、俺が支えているとはいえ、いつ転ぶか分からない。

 その後ろで与一はゴーイングマイウエイ。

 別に誰も見てないのに、気配を感じるとしきりに後方を窺う。いるとしたらお前の尻を狙う変態どもだ――中学とか大変だったな。

 

 この漫才しているようなズッコケ三人組が、かつて英雄と称えられた人物のクローンと言われて、一体誰が信じるだろうか?

 

「源さん家の義経さん、良いって言葉は難しいと俺は思う」

「そ、そんな他人行儀な言い方は止めてくれ。義経は悲しい」

 

 義経はしょぼんと目に涙を浮かべる。

 やめて、心が痛む。冗談でしょ、冗談。

 お前が泣くといろんな人が怒るからやめてくれ。

 

「おいおい、私の主を泣かせてくれるなよ。ぷはぁ~」

 

 弁慶が義経を守るように、俺の前に立ちはだかる。酔っぱらいが珍しい行動に出たなと感心したところで、弁慶はくいっと川神水を口に運んだ。俺の感動を返せ。

 

「それより、なんかあれだよね? 俺だけ場違いな感じが……」

 

 改めて考えるとそう思う。

 英雄源義経とその他二人。その中で一般人な俺。もしかすると、俺って一般人じゃないのかもしれない。類は友を呼ぶ、その言葉のとおり、俺も実は……的な事があるかもしれない。

 今度電話して爺ちゃんに聞いてみようかな。

 

「義経はそうは思わないから心配するな。金時には皆と仲良くしてもらっているから、皆の主として、義経は感謝している」

「別に感謝はいらないよ。同じ中学校なら出会うのは当たり前だし。まあ、友人となったのは与一繋がりだから、感謝は与一にすればいいんじゃない? いやー偶然だよ、偶然」

「義経はそう思わない。金時と義経たちの出会いは必然な気がする」

 

 必然と偶然が同じと言う意味なら、必然なんだろう。

 言葉って難しい。

 だから、変人と偉人も一緒なんだと思う。

 

「おい、早く行くぞ。転校初日から遅刻なんて、義経みたいな真面目な優等生にはまずいだろ」

「弁慶さん、弁慶さん。与一君がまともなこと言ってますよ。ちょっと、俺感動しているんだけど」

 

 正直、胸の鼓動が早くなった。

 弁慶に近づいたことでいい匂いがしたからなんだけど。

 与一の感動はそのおまけ。

 

「与一も主君を思いやる気持ちに目覚めたんだな。私も嬉しいよ」

「よ、与一……」

 

 弁慶は成長した弟を見るような目で、義経は巣立ちを迎えた子を見守る親鳥のような目で与一を見ていた。

 与一更生計画はいい方向に向かっているらしい。

 

「義経はこの感動を胸に、学校に意気揚々に行こうと思う。さ、与一早く行こう」

 

 なぜか義経は走り出した。

 足取りが普段の数倍は軽い。心労が取れた、そう言うことだろうな。

 

「別に走る必要はねぇだろ。はあ、元気な奴だな」

 

 ハァーとタメ息を吐きつつも、与一は義経の後を追った。

 ルンルン気分の義経なので、少し心配になったのだろう。

 

「まさかのツンデレか。中二病とツンデレとはなかなか面白い属性を持ってるな。もう、いっそのこと、色んな属性を与一に付けてみるとか良いかもしれない。さしあたって、バラでも咥えさせておく?」

「いや、さすがにそこまで行ったら、痛い子ではすまされない。私の幻の左が炸裂してしまうかもしれない」

「アバラ粉砕コースは確実。さすがは弁慶さん」

 

 普段は川神水を飲んで、ふらーっとしているだけなのに、剛腕は増すばかり。

 どんな反則的なトレーニングをしているのか、ちょっと気になる。

 飲めば飲むほど強くなる……未来型酔拳?

 

「それよりもさ、金太郎は良かったの? 与一のために転校までして」

「九鬼からお金はがっぽり貰ってるし、川神には面白そうな人がたくさんいるって聞くし、俺としてはいい話だと思ってるよ。世話になってたおじさん達にも負担をかけずに済むしね」

「美少女とも登校できるもんね」

「義経は美少女だもんね」

「ほーう、それは私に対する挑戦と見て良いのかな?」

 

 なぜか普段から常備している錫杖を俺の方に向けてくる。

 酔っぱらいは酒癖が悪いから困る。

 現状の自分をきちんと把握してもらいたいものだ。

 

「酔っぱらいはどんな美人でも、その評価を落とす。これしき一般教養。想像してくれよ、絶世の美女がゴミ箱に顔から突っ込んで、しかも嬉しそうに、捨てられた加齢臭のする枕を抱きしめている姿を」

「いくら私でも、そこまではしないな」

「まあさすがにそこまではしてないけど、似たような事はしてるし。もうそれは美少女とは呼べない。与一が残念イケメンであるのと同じ理屈だ」

「なんか酔っぱらいってだけで、与一と同列になるなんてちょっとショックだ……」

 

 弁慶はショックのあまり、川神水を自重……なんてことはなく、止まることなく飲んでしまっている。

 今日、皆の前で自己紹介するんじゃなかったっけ? また義経があわあわするな。可哀想に。

 

「あ、早く行かないと、本当に遅刻するぞ」

「だ、ダメだ。酔いすぎて、速く走れる自信がない。金太郎、おんぶ~」

「バカでしょ。俺は鈍足なの。余計に遅くなってどうすんだよ。酔っぱらったお前より足が遅い自信があるわ」

 

 酔っぱらいはこうやって人の心を無自覚に傷つける。

 中学最後の運動会だってそうだった。

 男女混合リレーでアンカーという大役を任された俺は、全力で走った。

 元々、一学年あたりの人数が少ないから、リレーは強制参加だし、俺たち赤組は足の速い順に走者を決めてしまったため、俺が最後という事になった。

 赤組には義経が居たから、圧倒的大差で俺のところまで回って来た。

 白組のアンカーは弁慶(酔っぱらい)。負けるはずもない、そう思っていた。

 

「そう言えば、半周以上の差があっても金太郎は私に負けたもんね」

「黙れ、酔っぱらい。泣くぞ。恥も外聞もなく、わんわん泣くぞ」

 

 スタートするまでおぼつかない足取りで、見に来ていた保護者の皆々様に心配される始末だったのに、スタートしたら雰囲気を一転させ、俺を瞬く間に抜き去って行った。

 ゴールした時には弁慶は酔っぱらいに戻っており、俺の心は大きなダメージを負う。

 さらには、それだけの大差がありながら、負けてしまった俺に対する仲間からの批難の数々。与一にすら、お前ダメだな的な視線で見られた時は、そのまま早退するほどだった。

 

「泣いても良いよ。私が慰めてあげるから」

「そうやって優しいふりをして、さらに追い込むという事を俺は知っている。ホント義経が不憫でならない。今度から優しくしよう」

「お二人とも、そんな暢気な事を言っていますと、本当に遅刻してしまいます。車を用意しましたので、お急ぎください」

「さすがは、万能執事と名高いクラウディオさん。もう、毎日送迎してもらいたい」

 

 急に後方に現れた紳士。

 世界一とも名高い九鬼財閥で、執事をしている老紳士だ。

 好みのタイプはふくよかな女性という事で、口説こうとする前に必ずあと30キロは肉を付けた方が良いと割と失礼な事を言ってしまう人だ。

 女性に太れとか、なかなか言えるものではない。

 

「クラウ爺、金太郎は弛んでるから置いてって良いよ」

「お前が言うなよ、酔っぱらい」

「大丈夫ですよ」

 

 何が? 俺はそう聞こうとしたんだ。

 そしたら、いつの間にか、無駄に長い車に乗り込んだ弁慶が、こっちに向かって手を振っている。

 さらには、クラウディオさんまでにっこりとほほ笑んでいるのが見えた。運転席で。

 いつの間に消えたし……。

 

「じゃーね~」

「お先に失礼します」

 

 呆然とする俺を余所に、車は行ってしまった。

 

「もう、今日はサボろうかな」

 

 与一が居た時より、学校に行く気が無くなった。

 九鬼の奴なんか嫌いだ。

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