舞う英雄   作:生物産業

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第10話 ビーチバレー

 今日は水上体育祭。

 一年の中で男子がもっとも狂喜乱舞する一日。

 実は俺も楽しみです。

 

 だというのに……。

 

「なんで俺はお前と居るんだろうな」

「逃げて来たからだろ?」

 

 俺の隣には制服姿の与一。

 別に与一の裸を見たいわけじゃないからそれは良いんだが、問題は男二人で岩陰に隠れているというその一点。

 

「お前、なんで変な奴らに狙われるの?」

「知るかっ!!」

 

 俺たちが逃げている最大の理由、それは与一がイケメンすぎるから。

 女の子に追われているなら役得だ。

 だが、そうじゃない。与一を狙っているのは男。それもレスリング部とかボクシング部とか強靭な身体を持っている奴ら。

 中学時代から与一の尻を狙う奴は多い。

 

 脳筋な奴らだから、簡単に撒けるかと思ったが、向こうには変態の総大将葵冬馬がいる。

 自分は女子を視姦し、俺たちの探索は肉体系の奴らに任せる。

 男女両方が大好きなアイツからすれば一石二鳥な状態だ。

 

「俺を巻き込むなよ」

 

 実際、俺は無関係。

 与一だけが狙われるはずだったんだが、コイツが人を売りだした。

 俺が服を脱いだら凄いもんが見れるとか言いだした。

 そう言った瞬間、危険思考な野郎共が俺まで標的にしやがった。

 

「うるせえ。一人で死ぬのはごめんだ」

「親友のために、己が身を差し出すという精神はないわけ?」

「ねえな」

 

 なんて奴。誕生日が祝ってやらなきゃ良かった。

 

「さてと、困ったもんだ。向こうは盛り上がってるのに……」

 

 楽しそうな声が遠くから聞こえて来る。

 俺もそちらに混ざりたいが、いかんせんこの状況では危険だ。

 やはりここは与一を囮にして、その内に逃げるしかないか?

 

「よし」

 

 頬を叩いて自分に活を入れる。

 

「なに気合を入れてんだよ」

「与一……お前は良い奴だな」

「て、てめぇ、俺を囮にする気だなっ!!」

 

 さすが、親友。俺の言いたいことが簡単に分かってくれた。

 

「……人はいつだって何かの犠牲の上に成り立っているんだよ」

 

 だから俺は与一の屍の上を超えていく。

 

「金時、物は相談なんだが、ここは共闘して奴らを倒さないか? 梅屋の牛丼で手を打とう」

「サラダ付で」

「分かった」

 

 友情大切。友達を囮にするなんて良くないってみんなが知っていることだぞ。

 

「まあ、そうは言っても頑張るのはお前だけどね」

 

 俺は自分から攻撃するタイプじゃない。

 走ってもそんなに速くないから、向こうが来てくれるのを待つ。

 

「俺が奴らを射抜く」

「近づいてきたやつは俺が倒す」

「「よし、行こう!!!」」

 

 俺たちの熱い戦いはこれからだ……?

 

 ◇◇◇

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「…………」

「金太郎と与一が虫の息だ」

「アイツら頑張りすぎだろ……」

 

 貞操を賭けた戦い。

 俺たちは見事に勝利した。

 

 激戦に次ぐ激戦。人間の欲望とはここまで人を動物にするのかと恐怖したほどだ。

 与一の弾丸のような矢をその身に受けて、尚も前進してくる猛者たち。 

 理性はない。彼らに会ったのは、与一を襲いたいという純粋なまでの本能だった。

 

「普通に、あんなのが高校生なのがおかしすぎるだろ」

「ど、同感だ……」

 

 途中、いきり立って海パンを脱ぎ出す奴までいたからな。犯罪だろ、普通に。

 なぜ、その欲望が女子に向かわないのかが不明。向いたら向いたで大変な事になるけど……。

 

「というか金太郎はこっちにいて良いの? Fはあっちだよ」

「今は休憩中。戦いに疲れた戦士に、FもSもない」

 

 動きたくないでござる。 

 

「それに最大の懸念事項であった葵冬馬は海に沈めて来たから、ここに居ても大丈夫」

 

 いつの間にか奴もいた。

 俺たちが運動部の猛者どもを倒した後、疲労しきったところを狙ってきた。

 完璧なタイミングの奇襲。

 だけど、それは無に終わった。

 

 与一が根性を見せたというのもあるけど、正直相手は寡兵。

 体力が無くなっていたとは言え、実力差がそこにはある。

 葵冬馬を源氏式一本背負いで海の中に放り込んで、争いは決着した。

 

「変態の数が多すぎるぞ。一体何人の相手をしたんだか」

「50を超えたあたりから覚えてないな。若干、純粋に武術的な意味で挑んでてきた奴らも居たからな。俺の封印されし右手を解放する時が来たかと思ったぜ」

 

 秘密兵器は秘密のままで終わるというのをコイツは知らないらしい。

 

「あー疲れた~」

「私も~」

「お前は何もしてないだろ」

 

 弁慶も俺と与一の横でだらけだす。義経は立派に行事に参加しているというのに、コイツらは本当にダメなんだな。

 部下が主より怠けるとか主従としてどうなんだ?

 

「うー清楚先輩の水着姿とかみたい」

「残念だけど、清楚は制服のままだよ」

「なん…だと?」

 

 わざわざ、あんな不毛な戦をしたというのに、まさかすぎる結果に……。

 

「というか金時もそういうのに興味あるんだな」

「普通あるだろ。男の子ですよ」

「はっ、俺にはそんなもんに興味はねぇな」

 

 ムッツリエロ助のくせに何を言う。

 知ってるんだぞ、お前の部屋にエロ本が隠されていることを。

 

「それよりもお前たちは、私という美少女がここに居てなぜ反応を示さない? スク水を着ているんだぞ?」

「弁慶はこう、なんというか、見慣れた感があるというか、新鮮さが足りない」

 

 与一はそもそも異性として見てないから反応しないのは分かるな。

 

「金太郎、それは私に対する挑戦と受け取った」

「そして、勝負をふっかけるふりして、川神水を飲むという弁慶さんであった」

「オチを言われてしまった。悲しいなう」

 

 だいたい弁慶の考える事なんて分かる。

 

「あー、金ちゃん居た~。ちょっとお願いがあるんだ」

「嫌だ」

「即答?!」

「あ、与一君もここに居たんだね。探したよ」

「お、俺っすか?」

 

 清楚先輩、なぜ俺を探してくれなかった……。

 燕なんかよりも清楚先輩が良かった。

 

「今からクラス対抗でビーチバレーがあるんだ。男女混合で」

「へぇー」

「だから、私とペアで出場しない?」

「清楚先輩となら」

「ごめんね。金君ってF組だから」

「私はスルー!?」

 

 い、今ほどS組に入っておけば良かったと思った時はない。

 

「私は親しい男の子って言ったら、金君か与一君くらいだし」

「京極先輩は?」

 

 言霊部部長、京極……なんとか先輩。

 俺が初めて川神学園で舞を踊った時、和服を貸してくれた優しい先輩だ。

 よく清楚先輩と話しているのを見かける。

 

「京極君は、こういうスポーツ系には参加しないから」

「今も和服着たままですもんね」

 

 暑くはないんだろうか?

 俺の視線の先には厚着をした先輩が汗もかかず、涼しい顔をして立っている。

 イケメンはキャラが壊れるところを見せちゃいけない法則でもあるのだろうか?

 

「与一、なんて羨ましい奴」

「面倒だな」

「ね、お願い」

 

 両手を顔の前で合わせて、可愛く頭を下げる清楚先輩。

 これを断ろうものなら、砂浜に埋めるしかない。

 

「……しゃーないっすね」

「エロ助」

「エロ男」

「き、金時も姉御も、なんだよ!?」

 

 まあたぶん、断って清楚先輩が困るのを見たくないんだろうけど、なんとなくイラついたから言ってみた。

 弁慶も乗るとは思わなかったけど、コイツは面白ければ何でもいいとか考えている節があるからな。

 

「じゃあ、金ちゃんは私とゴールデンコンビを組もう」

「顔面にドライブシュートを叩き込んで良いなら」

「うぅ~金ちゃん……」

 

 燕が泣きそうになっている。

 精神が昔より弱くなっている気がする。

 

「金太郎、レディを泣かすもんじゃないよ」

「弁慶……ハァー、しょうがないな。やるからには優勝するぞ」

「金ちゃんっ!!」

 

 弁慶さんまでそんな事言いだしたらさすがに断れない。

 

「金太郎、優勝賞品の川神水期待しているよ」

「それが目当てだったのね」

 

 遠くの方に見える優勝賞品の品々。

 弁慶は目ざとく、その中に有る川神水一年分という項目を見つけていた。

 さすがだ。

 

 でも、俺と燕で優勝できるか?

 

 

 

 出場者は全部で20組。

 その中にはアレがいる。アレ扱いは失礼なのだが、同じ人間というカテゴリーに入れて良いのか悩む物体をどう形容していいか分からないのだ。

 

「最大の懸念は……武神のペアだな」

「まあ、そうだね。大和君とのペアか」

「燕はどう思う?」

「んー大和君の運動能力は決して高くはないけど、それを補って余りあるモモちゃん」

「いざとなったら一人でやりかねないからな」

 

 直江がお荷物だとしても、武神先輩が一人で対応しかねない。

 

「これがバレーで良かった。これがテニスとかだったら、サーブやリターンの段階で殺される可能性があるからな」

「そうだね。いくらモモちゃんでもレシーブでアタックは出来ないし、山なりのサーブで殺人的な威力は出せない」

 

 ルール競技万歳。

 最初はアンダーサーブだから一発目で仕留められるという可能性はない。

 

「とりあえず、サイン交換くらいはしておこうか」

「そうだね。どんなのが良い?」

 

 基本的なサインを作ってそれを確認し合う。

 まあ、燕の考えていることなんて手に取るようにわかるんだけど。

 1に納豆、2に納豆。3も4もあって、5も納豆。もうこれ一択。

 

「まずは初戦の相手だな」

 

 

 

 

 

 結果から言うと、圧勝だった。

 相手は1年生。こちらには燕という万能人間がいる。

 俺がボールを拾いさえすれば、適当に決める。相手には申し訳ないが、全く相手にならなかった。

 

「次は金ちゃんがもう少し活躍してくれると嬉しいな」

「いやでござる」

 

 俺たちはそのまま勝ち続けた。与一たちは初戦で優勝候補に当たり、無残に散った。本当にそのままの意味で。

 俺たちは逆ブロックのため、なんなく勝ち進むことができた訳だ。サインプレー? 一体そんなものが必要になったことがあるだろうか?

 燕という最大戦力を用いれば敵などいない……ここまでは。

 

 決勝という舞台。相手は世界最強とも言っても過言ではない武神。与一を物理的に飛ばした犯人だ。

 勝率という点で考えると、燕と武神を比較すれば、あちらに軍配が上がるが、俺と直江を比較すればこちらに軍配だ。

 これはチーム戦。総合力が物を言う……はず。

 

「百ちゃん、負けないよ」

「ふふーん、私達が最強の姉弟であるということを証明してやろう」

「私達のコンビネーションはそれはもうシンクロできるレベルだから」

「なあ、直江。レシーブしかしてない俺と燕のコンビネーションってなんなんだろうな?」

「きっと、一緒にいることが大事なんじゃないか? 俺なんて、サーブを打つ以外何もしていないに等しい。姉さんのビックバンアタックで相手が死に体になった」

「……手加減って言葉をあの人に教えてやってくれ」

「それをするなら、姉さんに東大の問題を教える方が簡単だな」

 

 全身の血液が急に冷えだす。夏なはずなのに、身体が震えだした。

 

「それでは試合を始めるヨ」

 

 まだ心の準備が出来てないんですけど!!

 

「いっくよ~」

 

 燕が勝手に始めてしまった。後で海に沈めてやる。

 

 下から打たれたふんわりとしたサーブ。これを直江がなんなくレシーブ。高々と頭上にボールを上げた。

 それを先輩が待っていたかのように、跳躍。軽々ネットを越えた。バレーという競技も超えてしまった。

 

「燕、下がれ。ブロックは意味がない。俺が取る」

「了解。フォローは任せて~」

 

 のんびりとした口調だったが、燕は素早く俺の後方に回り込んで、俺の取りこぼしに備えた。

 ふーと息をはいて呼吸を整える。

 

「ハーハッハッハ!! 食らえ、メテオストライクっ!!」

 

 ぎゅいんぎゅいんと音を立ててボールが落下してきた。

 

 合わせろ。

 うまく合わせろ。

 そうでないと死んじゃうぞ。

 膝の力を上手く抜いて、すべてのエネルギーをゼロに変える。

 

「何っ!?」

 

 腕にボールが当たる瞬間、後方に跳びつつ角度を調整。

 身体は吹き飛ばされたけど、上手くボールの威力を相殺することができた。

 

「燕、今だっ!!」

「おいさーっ」

 

 先輩は空中に跳んだまま。

 つまり、今直江しかいない状態。

 これで決めなかったら、後で地面に埋めてやる。

 

 燕のスパイクが綺麗に決まり俺たちの得点。

 これをあと何回も繰り返さないといけないと思うと、軽く死にたくなる。

 

「金ちゃん、ナーイス」

「おう」

 

 ぱちんと二人の手を合わせる。

 

「それにしてもすごい威力。そう何度も相殺できないぞ」

「全部をやる必要ないよ。それに大和君を狙えば、モモちゃんの動きは制限できる」

「なるほど~。要はあのチワワを吹き飛ばせば良い訳だ」

 

 直江を狙えば先輩は必ず動く。

 アイツがどんな策を弄しようとも、そこだけはどうしようもない。

 

 

 

「燕っ!!」

「よいさ」

 

 アイコンタクト。

 俺がトスを上げようとした時、燕が跳躍。それに合わせて、先輩が燕のマークについた。

 直江を守るよりも、出だしで潰した方が楽と考えたんだろう。ブロックに跳んでいる。

 

「ふんぬっ!!」

 

 ならば、俺はトスをアタックに切り替える。直江は防ぐことができず、そのまま得点となる。

 

「うん、完璧」

「おとりご苦労」

「む、作戦だったか」

「へっへーん」

 

 ぶい、ぶいと燕は先輩に向かってサインを見せた。

 小さい頃から燕から逃げることを考えていた俺だ、アイツの考えなど手に取るように分かる。逆も然りだけど……。

 

「弟、何か作戦はないか? このままだと負けるぞ」

 

 先輩が直江に抱き着くと、会場から非難と奇声が上がる。

 直江が、どんなに頭を使おうが、手札が限られ、それを潰す手をこちらが有している以上、あちらに勝ち目はない。

 

「坂田が防ぎきれない威力でボールを叩くしかないんじゃないか?」

「しかし、それだとボールが破裂してしまう」

「気で纏えば大丈夫なはず。姉さんなら触れなくても、ボールを気で覆うくらいできるだろう?」

 

 ハッハハ、なんてことを言っているんだい?

 

「異議あり!! これは純然ならスポーツ。気とか明らかに常人から逸脱した行為を認めるわけにはいきませんっ!!」

「異議を却下するヨ。己の肉体を使うこと、なんら違反はしていないネ」

 

 そうだった。この学園では常識に訴えるなんてことは到底無理だった。

 ちょっと待って、無理、死ぬ。

 気を込められた最強のボールだよ?

 絶望感的に言えば、フリーザのあまりの戦闘力にビビってしまったベジータの気分だよ!! その前まで、スーパーサイヤ人になったと騒いでいたから、ショックも三倍くらい大きいよっ!!

 

「さすがは弟だ」

 

 やる気満々って表情してます。胸まで張って。

 はち切れんばかりのお胸様が、上下にぷるんと揺れてますね。スクール水着が悲鳴を上げてますよ。胸につけてある名前のところが横に伸びてます。ああ、会場からも歓声が。

 心を落ち着けるために燕の方に視線を向ける。

 

「ちっちぇな」

「失礼すぎるよっ!! 言っておくけど、モモちゃんが大きいだけで、私も普通よりは大きいからねっ!!」

「つばめという文字が、もっと横に伸びるようになってから言うんだな。弁慶なんて、それはもう凄いぞ」

「対象がおかしいんだよっ!! 金ちゃん、セクハラだからねっ」

 

 ふーようやく落ち着いた。

 燕は騒がしくなったけど、今はどうやって生き残るかが大切。

 やはり燕を盾にするしか……あ!

 

「燕さん、ちょっとこっちに来てくださいな」

「金ちゃんが丁寧語? な、なんか嫌な予感」

「お前は俺の支えだ」

「き、金ちゃん……」

「文字通りの意味で」

「ちょっと感動した私に謝ってっ!! 心の支えとか期待しちゃったじゃんっ」

「とりあえず、俺の後ろに背中合わせで立って」

「せめてツッコんでよっ!!」

 

 ぷんすか怒っている燕だけど、歩いてこちらにやって来た。

 

「燕はクッション」

「うー分かったよ。でもちょっと自信ないな。絶対に逃げないでね。私死んじゃうよ」

「…………うん」

「その長い葛藤は何!?」

「俺を信じてくれ」

「無理だよっ!! 今、そうか、その手があったかって顔をしてたもんっ」

「さすが燕。俺の考えていることを言わなくても分かってくれる。俺はお前のことが嫌いだけど、幼馴染の力って偉大だよね」

「二重のショックだよっ!! さりげに、酷い事を考えているって暴露してるし、直接嫌いとかあんまりすぎるよっ!!」

 

 燕が先輩のデスボールで無残に散る姿も見てはみたいが、負けてしまって般若のように怒る弁慶は見たくない。

 苦渋の選択ではあるけど、ここは勝利を得ることにしよう。

 

「拾ったボールは直江にぶつける。OK?」

「OK。大和君も責任をとらないといけないからね」

 

 アイツ、あまり考えなしで言いやがって。死人が出るぞバカ野郎。

 口は災いの元だということを理解させてやる。

 

 

 準備を整えた俺たちはサーブを打って向こうの攻撃に備える。

 最初のプレイの再現のように直江がボールを拾って、先輩が大声を上げながら跳んで行った。

 

「超ウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐!!!」

 

 隕石でも落ちて来たんじゃないかと思えるほどだけど、そんな事言っている場合じゃない。

 

「「3、2、1」」

 

 俺と燕、二人の息を合わせる。

 

「「せーの!!」」

 

 ボールは高く頭上に上げられた。

 腕はじーんと痺れてしまったけど、大丈夫、動く、折れてない、やた!

 

「燕、フィニッシュだ」

「はいよ~」

 

 燕を蹴り上げて、上空に飛ばす。

 

「タイガーショットっ!!」

 

 虎の幻覚が見えるほど強烈な勢いで放たれたボールが直江に向かって真っすぐに飛んで行く。直江は虎に食われて星になった。

 

「大和っーーー!!!」

 

 気絶した直江を抱きかかえ、先輩は叫ぶ。映画のワンシーンを見ているようだけど、とりあえず勝利。

 

「腕が痛い」

「金ちゃん、やったねっ!」

 

 抱き着こうとする燕を蹴り飛ばして、俺は地面に倒れた。

 全身のエネルギーを持って行かれた~。あんなのバレーじゃないやいっ!

 

 ◇◇◇

 

「おお~金時が勝ったぞ。弁慶、見てたか?」

 

 弁慶の隣で義経がはしゃいでいる。

 腕を大きく上げてぴょんぴょんと跳ねる。

 

「見てたよ。それにしてもあの二人、凄いねー」

「ああ、なんというか息がピッタリだ。金時は松永さんのことを嫌っているような素振りだったが……」

 

(まあ、本気で嫌っている感じじゃないからね)

 

 弁慶はなんとなくそう感じていた。そうでなければ、命の危険さえある行為を燕相手に頼むはずがない。

 

(好き嫌いは別としても、松永燕の実力そのものは認めてる、そんな感じなのかね?)

 

 百代の一撃目。それと同じことが最後の攻撃にはできなかった。うまく衝撃を吸収できたとしても打ち上げることはできない。逆にただ弾くだけなら、ボールと金時の身体は海辺の方まで飛んで行ってしまう事になっただろう。

 弾くと支えるを同時に行うのは不可能だった。

 だからこそ、バランスをすべて燕に任せ、金時はボールを頭上に弾くことに集中した。踏ん張らず、ただボールの勢いを殺し、上空に上げることだけを考えた。

 身体は燕が何とかしてくれる、そうした信頼の元に先程のプレーは行われたのだ。

 

「さ、弁慶、金時におめでとうを言いに行こうっ!」

「あ、うん、そうだね」

 

 喜んでいる義経とは対照的な弁慶。川神水を飲んでいるのは相変わらずだが、どこか表情がさえない。

 モヤモヤする、彼女の表情からはそう言ったものが感じ取れる。

 

(まさか、嫉妬してる? 松永燕に?)

 

 弁慶はまさかと首をふって自分の考えを否定した。

 そしてその事を考えないように、弁慶は優勝賞品の川神水の方に視線を向ける。

 

「これで川神水が毎日飲めるな」

 

 不安のような、また別のような感情。それは弁慶が今までに感じたことのないものであった。

 

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