舞う英雄   作:生物産業

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第14話 二人

 夕食を終えてから肝試し大会が始まった。

 肝試しと言ってもただ夜の山を徘徊するだけなので、取り立てて怖い事はない。

 まあ、野性の動物にエンカウントするかもしれないが、基本的に熊以上でも倒す猛者たちが多くいるので、大丈夫だと思う。逆に狩られてしまいそうな動物たちの方が心配だ。

 

「へい! くじを引いてくれ。番号が振ってあるから、同じ奴がペアだぜ」

 

 翔一が用意したであろうクジ箱。

 各々がクジを引いていく。

 人数は全員で20人。男9人、女11人。一斉にクジを引いたため、必ずしも男女のペアになるわけではない。

 

「なぜだーっ!! なぜこんな惨い結果に……」

 

 ガクトは叫び。

 

「若、俺、もうダメだ」

 

 準は死にかけ。

 

「大和、大和、大和、大和」

 

 椎名は壊れた。

 

 ガクトとモロ、なんかもうワンセットな気がする。

 大和は葵冬馬と。準はマシュマロちゃん。椎名は翔一、義経と与一、清楚先輩と燕、一子と源さん、クリスと後輩、紋々と川神先輩、そして弁慶と俺。

 

「紋々のところがひと波乱の予感」

「ガクトとモロも危険」

 

 椎名がムフフとニヤついている。

 

「その感じだと、大和と葵はもっと危険。大和の貞操は奪われると言っても良い」

「はっ! 大和は私が守るっ!」

 

 狩人の目つきになった椎名は隠密行動を開始する。すでにパートナーの翔一は放置された。まあ翔一も自由人だから問題ない気がするけど。

 

「やっぱり私達は赤い糸で結ばれているのかね?」

「ロマンティックな言葉がお望みで?」

「いーんや」

 

 俺の横に立った弁慶はいつものように笑っていた。

 確かにこのメンバーの中から男女ペア、さらに言えば仲良し二人組になる確率は意外と……あれ高い? 一子と源さんもそうだし。与一と義経もそうだし。

 

「……赤い糸なんて存在しないんだよ」

「何、その悟りを開いたような顔は?」

 

 弁慶が珍しく俺の事を心配してきた。

 ただ顔を引っ張ったりするのはやめてもらいたい。

 

「肝試しってドキドキするね」

「美少女と一緒って所に?」

「ううん。本当に幽霊がいたとして、自分に憑依でもされちゃったら恥ずかしい過去の記憶とか見られるんだよ? なかなか恥ずかしい」

「…………」

 

 弁慶が与一を見るような目で俺を見ていたと思う。

 暗がりで良かった。暗い時、人の表情は見えにくい。

 雰囲気から察せてしまう感知能力の高さがこの場合裏目に出ているけど。

 

「よーし、夜のデートを楽しもう」

「そう言えば、デートみたいだね」

「腕でも組みますか?」

 

 冗談で言ってみると、俺の腕に柔らかな感触が伝わって来た。

 

「ドキッとしたでしょ?」

 

 下から見つめる弁慶。ただの飲んだくれだと思っていたけど、今の彼女を見ていると、ただの美少女にしか見えない。

 当然と言えば、当然で、俺の胸はものすごくドキドキしている。

 弁慶のパイオツなんて何回か見てるし、こうやって抱き着かれるのも初めてじゃない。

 なのに、なぜかドキドキする。

 暗がりというのもあるのかもしれない。

 肝試しって凄いなと本気で思った。

 

「ちなみに私が恐怖した時、この腕はボキッと逝くと思う。物理的な意味で」

 

 肝試しってすげぇ怖いなと思った。

 

 ■

 

「何もないね」

「そうだね」

「でも、人の叫び声が聞こえるね。今のは、義経かな?」

 

 おそらく与一に泣いて飛びついている頃だろう。基本的に義経は怖がりさん。近くに弁慶がいないことが唯一の救いかもしれない。

 

「私が義経のそばにいれば、不安を取り除いてあげるのに」

「不安を煽るの間違いでは?」

「そうとうも言う」

 

 ぺしっと弁慶の額にデコピンをかますと、俺の腕がみしっと音を鳴らした。

 本気で腕を折る気だろうか?

 

「ねぇ、金太郎?」

「なに?」

「二人きりだから聞いちゃうけど」

 

 俺はおおっと思ってしまった。

 弁慶さんとラブリーな展開になるとは思わなかったから。

 

「松永燕のこと好きでしょ?」

 

 崖から蹴り落とされた気分だった。獅子は子を千尋の谷に突き落とすというけど、親獅子から見捨てられた子供の気分が今の俺には分かる。がっかりだ。

 

「ないわー。それはあかんよ、弁慶さん。それはあきません」

「似非関西弁がでてるよ」

「俺は京都出身だから」

 

 でも、標準語の方が話しやすいんだよね。

 

「で、どうなの?」

 

 楽しそうに言う弁慶。だけど、なんかいつもと違う気がする。

 

「ない。それはない」

「…………」

 

 ぐいっと顔を近づけて俺の目を見てくる。

 正直に言えと、弁慶の顔が訴えていた。

 

「ないよ。本当に」

「あれ、そうなの?」

「そうなの」

「てっきり惚れていると思ったよ」

「どこをどう見ればそうなるんだよ」

「松永先輩には遠慮がないところ」

 

 遠慮? あいつにそんな事をする意味があるだろうか?

 

「その理屈でいけば、弁慶は与一にぞっこんということに」

「ごめんなさい。私が間違っていました」

 

 珍しく弁慶が頭を下げて来た。

 密着状態だから、弁慶の髪が口に当たって気持ち悪い。

 

「燕は俺にとってはどこまで行っても姉だよ。小さい頃はガキ大将みたいで、今でいう川神先輩と大和みたいな関係だった」

「うわぁー」

 

 それが正常な反応だと思う。

 大和はなぜか受け入れているけど、あんな状態が毎日続いたら、逃げるよ普通。俺は逃げたもん。

 

「でも、憧れもあった。なんでもできるし、外面は良いし。ついでに母親は美人さん。父親はちょっとダメな人だけど」

「松永先輩に関係ない部分が出て来てない?」

「そう? まあでも、燕は納豆の星からやって来た納豆姫だから、普通の地球人の俺とは合わなかったんだよ」

「おーい、姉と呼んださっきのセリフはどこ行った?」

「おおっと。燕と納豆が切り離せないから、そんな思考に至ってしまった。俺と燕が姉弟なら俺も納豆に……そんなのごめんだ」

 

 納豆とは縁を切っているからな。

 

「結局、松永先輩を好きにならない理由って納豆?」

「いーんや。それはちゃう」

「じゃあ、なに?」

「納豆は理由の一つ。燕はなんというか、なんでもできちゃうんだよ。だからこそ面倒くさい」

「どういう意味?」

「一人で何もかもやって、自分で解決する。他人を頼るってことをしない。頼られないっていうのは男として情けないでしょ?」

「それは昔の話しでしょ? 今の金太郎になら困った状況になれば頼ってくると思うけど?」

「それはないよ。あいつは大変になればなるほど人に迷惑をかけずにやる。そういうバカな奴なんだよ。だからこそ、俺はアイツが嫌いなんだ」

「…………」

 

 弁慶は何も言わずにいたけど、少し歩いてから口を開いた。

 

「近すぎるから遠いってことなんだろうね」

「弁慶さんには珍しくポエミーな感じですこと」

「ちゃかすな」

「あ、いて」

 

 先程の仕返しか、空いていた手を使って俺の額にデコピンを放ってきた。

 デコピンというかデコバシくらいの音だけど、弁慶さんだからしょうがない。

 

「頼って欲しいと思いながらも、心のどこかで遠ざけている。燕なら大丈夫みたいな、そんな憧れの感情が金太郎にはあるんだよ」

「…………」

「頼りたいけど頼らない姉と、頼って欲しいけど頼られたくない弟。随分と面倒な姉弟だね」

「うるさいよ」

 

 いわんとしていることはなんとなく分かる。

 

「でも、だからこそ二人はどこまで行っても姉弟なんだろうね。男と女じゃなくて」

「今日は随分乙女な弁慶さんじゃないですか。どうしたの?」

「いやー私も乙女だったってことだよ。気になる異性に女がいたらとか考えてしまう、ね?」

 

 ドキッとした。

 本当に、心がどくんと脈打っているのを感じる。

 

「今、ドキッとしたでしょ?」

「かなりやばかった。弁慶さん可愛ユス、と俺の脳内パソコンに高速で連打してしまった」

「ふふーん、私は可愛いだろ?」

 

 デカい胸を張って、そう言う弁慶を無性に抱きしめたくなった。

 もし弁慶と付き合っていたらそうしていただろう。

 こんな時になって、弁慶の彼氏という言葉が頭の中に溢れだしてきた。

 弁慶の隣を歩く男が、俺はじゃなくて、例えば大和だったら? 翔一だったら? そう思うと、妙に苛立ちを覚えた。

 

「どうした?」

「いや、俺って弁慶のことかなり好きだったんだなって思って。介護の必要な飲んだくれ程度にしか思っていなかったんだけど、実は違ったらしい」

「妙な告白の仕方があるもんだね。それじゃあ、私の好感度は上げられないよ」

「ワタシ、ベンケイ、スキ」

「誰が、似非外人になれと言った」

 

 弁慶のチョップが俺の額に直撃した。

 思いのほか痛かった。

 

「…………」

「さ?」

「好きだよ、弁慶」

「私もさ」

 

 自分の顔が真っ赤だと分かる。

 湯気が出ているかもしれない。

 でも、そんなことはどうでも良い。

 ホント、どうでも良い。

 

「よろしくお願いします」

「お願いするのはこっちだよ。私は金太郎がいないとおそらく生きてはいけない」

「飲んだくれめ」

「頼って欲しいんでしょ?」

 

 言わなきゃ良かったと思う反面、言ってよかったと思う自分がいた。

 

 ■

 

 肝試しを終えて帰って来たとたん、ガクトが全力で俺のほうに向かってきた。

 俺たちはいまだに腕を組んでいる状態だ。それを見たからこその行動だろう。

 

「おま、弁慶さんとなんて羨ましい関係をっ!」

「はっはっはー。ぶぃ」

 

 とりあえず、煽ってみるとガクトは走り去ってしまった。

 

「弁慶ちゃんと金君、おめでとう」

 

 清楚先輩がその名の通り穢れのない笑顔でそう言ってくれた。俺たちをからかうような意図はなく、純粋にお祝いしてくれているみたいだった。

 

「もしかして聞いてた? 清楚も人が悪いなー」

「ううん。でも、弁慶ちゃんの顔を見れば一発で分かったよ。今の弁慶ちゃん、もの凄く可愛いもん」

 

 清楚先輩には手が出せないのか、弁慶は顔を背けることで表情を隠した。

 

「うー私の金ちゃんが」

「コノヒトアタマオカシイデス」

「なんで片言!?」

 

 燕はとりあえず適当に流した。

 いちいちツッコむのも面倒。そしてなによりつけあがるから。

 

「今からキャンプファイヤーだよ。二人で楽しんでね」

「清楚先輩がおかんに見える」

「私もー」

「わ、私は二人みたいな子がいる歳じゃないからっ!!」

「本気で対応してくれる清楚先輩に拍手」

「なでなでー」

 

 清楚先輩で遊んでいると、翔一から集合の声がかかった。

 

「皆、踊るぞーっ!!」

 

 男女で踊るという概念など存在していないかのように、翔一は一人で踊りはじめる。何踊りと言えばいいのか、全く分からないが楽しそうだから良いと思った。

 踊りは何よりも楽しいのが一番。

 

「金太郎、本物を見せておくれ」

「二人でラブるってのはない訳?」

「それはいつでもできる。でも、私の彼氏を自慢できるのはこういう時じゃないと無理そうだから」

「それは褒めているの? 貶しているの?」

「川神水がおいしい~」

 

 弁慶さんとの恋愛はきっと茨の道になるんだと確信した。

 

「まあ、弁慶にそう言われたら、やるしかないでしょ」

「ふぁいとー」

「合点」

 

 皆が踊っている中、俺が中心に向かうと動きを止めて俺のほうを見て来た。

 

「僭越ながら、ここはひとつ舞わせていただきます」

 

 一礼をすると、それぞれが腰を下ろした。

 

「楽しんでください」

 

 何よりも弁慶に楽しんでほしいと思った。

 

 ■

 

「さすがだな」

「紋白が私のところに来るなんて珍しいね」

 

 川神水を飲む弁慶の横に紋白が腰を下ろした。

 飲む? と弁慶が尋ねると首を横に振った。

 

「金時とうまくいったようだな。清楚が嬉しそうにしていたぞ」

「まあね。紋白は? 川神百代と何かあった?」

 

 紋白が川神百代を好いていない。それは九鬼にいる人間なら言われなくとも分かる事実だった。

 紋白が尊敬してやまない、姉揚羽を倒した存在。知識や才能に優れていても紋白はまだ子供。正式な戦いで敗れたと分かっていても、それをそのまま受け入れられるほど精神が成熟しきってはいなかった。

 

「何もなかった。というより、川神百代を我は大きく見過ぎていたのかもしれん」

 

 そう言った紋白の表情はとても晴れやかだった。

 子供の様に、事実、本当の子供の様に笑っていた。

 

「知っているか弁慶。川神百代はお化けが怖いのだとさ」

「へぇー」

「殴れれば倒せるけど、殴れなかったらどうしようもない。そう言って我の背中にしがみついて震えていたぞ。あの武神がっ」

「それは意外だった」

 

 義経という存在を知っているため弁慶はあまり大きな反応を示さなかったが、武神と言われるほどの人間でも普通の人間と変わらないのが少しだけおかしかった。

 

「姉上を倒した存在。それがどれだけ人間離れしているかと思ったら、案外そうではなかった」

「川神百代もただの人ってことだね」

「そうであるな。金時が我に教えてくれたことと同じであったぞっ」

「ほー。私のダーリンはなんて言っていたの?」

「ダーリンとはラブラブな奴め。こほん、アヤツは我にこういったのだ」

 

 ――いいか? どんなに凄く見えても人である以上弱点は存在する。完璧な人間などいない。だからこそ、納豆を世界からなくそう。

 

「なかなかに深みのある言葉だった」

「最後におかしな言葉が混ざっているけどね」

 

 しょうもないことを紋白に吹き込むなと弁慶は火の前で優雅に踊る金時に非難の視線を飛ばす。

 

「姉上も、武神も、そして我も、まだまだ不完全な人間。そして完全となることなどはないのであろう。今回はそれが分かっただけでも良かった」

「そーかい。さて」

「どうしたのだ?」

 

 紋白が不思議そうに立ち上がって弁慶を見た。

 

「私も踊ってこようかなって」

「フハハハ、初めての共同作業ってことなのだな」

「ちょっと違うけどね」

 

 弁慶はそう言ってから足早に金時の前に歩いて行く。

 近くで金時の舞に見入っていた面々は弁慶の登場になんだなんだと興味をかき立てられていた。

 

「来たよ、だーりん」

「お前、人様が必死に踊っていたのにあんまり見てなかっただろ?」

「見てたよ。ちゃんと」

 

 弁慶がそう言うと、金時の腕をとった。

 

「フォークダンスはやってみたいと思っていたことの一つでもあるんだよね」

「皆の前で二人で踊るとか、俺たちバカップルに思われるよ?」

「まあいいさ。気にせず行こうー」

 

 周りからの歓声とそして非難の声が上がる。非難の声を上げているのはガクト一人だけであるが。

 

「では一曲お願います」

「喜んで」

 

 二人のダンスは見ていたものすべてを魅了した。

 決して常人離れした動きをしたわけでも、洗練された動きをしたわけでもない。

 だが、二人のダンスは人を惹きつけた。

 

 二人への歓声は、これからの二人の未来への祝福だったのかもしれない……終わり。




 切が良いのでここで終了です。
 番外編を書くこともあるかもしれませんが……
 今まで見てくれた方はありがとうございました。
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