舞う英雄   作:生物産業

2 / 14
第2話 坂田金時

「おい、そろそろ起きろ」

「うーい」

 

 目下、義経たちの自己紹介が全校生徒の前で行われている。

 予想通り、義経はあわあわしている。

 それより、立たされている生徒の方は辛そうだな。

 周りを36度の熱量を持った物体たちに囲まれているから、絶対に熱い。

 しかも、弁慶とか義経とかの登場で男連中の熱気が上がったから、相当な体感温度だろう。

 遅刻して良かった。

 遅れてなかったら、あんなムサイ所に居なければならなかったんだから。

 

「那須与一、でませぇぃ!!」

 

 人見知りMAXな与一君では、この状況で登場するなんて事は出来ないな。

 この後、俺も呼ばれてしまうのか?

 い、いや、その可能性は低いはず。俺、なんとかプランの関係者じゃないし。

 与一のお守みたいなもんだから。

 

「呼ばれてるぞ」

「俺の後はお前もだぞ。全校生徒に自分の正体を晒すなんて、アホらしいぜ。誰に狙われているのかも分からんのに」

「お前を狙うのは、ホモくらいのもんだ」

 

 与一はイケメンだ。

 ニヒルに笑っても女子は騒ぐし、プールになれば男女から声が上がる。

 普段、孤高を生きるとか言っているけど、実は意外と人気者。

 女子は言うに及ばず、男子(一部)からも人気があるのだ。

 中学生という好奇心旺盛で思春期なお年頃。

 女子が持っていたB○本――なぜそんなものを持っているかは疑問だが、男子がエロ本を持っていると考えれば分かる――を見てしまった男子が勇者として覚醒してしまった。

 体育の授業前は、与一は常に狙われていたな。

 身体を触りまくってくる変態が居たし。

 あれは可哀想だった。

 

「ホームルームもサボるか?」

「いや、俺はクラス違うから、サボったりしたらこいつ誰だよ的な空気になる。俺はプランとか言うのにも九鬼にも関係ないから、自己紹介はホームルームでしかできないんだよ。遅刻したせいで、朝礼に参加できなかったし」

「つうか、お前はなんで遅刻したんだ?」

「九鬼の選民思想の所為だ。俺は選ばれなかったわけ」

「そういうことかよ。やはり、俺とお前は似ている。俺たちは組織の連中からすれば、厄介な存在だからな」

「それはない。さすがに与一さんのレベルには俺も堕ちることはできない」

「堕ちる? はんっ、俺たちの目指す場所は駆けあがるところだろ?」

「一人で自由に羽ばたいてくれ。もう世界の果てとか」

「さっきからこいつら、何言ってんだ? fuck!!」

 

 アンタこそ、なんて言葉発してんだ?

 与一君でも襲いたいのか?

 九鬼はもう少し働く人を選ぶべきだ。

 

「与一君、金時君、ホームルームには出て頂きますよ」

 

 桐山鯉。彼を語る上で外せない単語、それは……『マザコン』。マザーコンプレックスの略で、簡単に言えばお母さん大好き、結婚してを地で行く感じだ。

 子供の時分なら良いけど、さすがに成人しても言っていると引く。

 何度かツッコんでみたんだけど、本人は何がいけないのかと首を傾げ、ありがたくもないママん講座を開催しだした。

 逃げたけど……。

 

「九鬼の人間、先程の復讐――ですとろい」

「おおっと、金時君、そう怒らないでください」

「……」

「ロックじゃねぇな」

 

 今日の遅刻は九鬼の所為。この恨み、ハラサデオクベキカ。

 

「まあまあ、紅茶でも飲んで、落ち着いて話し合いませんか?」

「俺は宇治茶派なんですよ。京都行って出直してください」

「当然、用意できてます」

 

 宇治茶あるのか、なら許す。

 

「おいおいおい。何普通に受け取ってんだよ! 相手は組織の連中だぞ?! 毒でも入ってたらどうすんだよ」

「そんな事をすれば、宇治茶神が降臨する」

「与一の奴も大概だけど、金時、お前もあれだよな」

「fuckを連呼しているメイドにあれ呼ばわりされたくないです」

 

 顔は美人さんなのに、言動が色々と問題がある人だ。後の李さんを見習ってほしい。

 

「ステイシー、怒って懐から物騒なものを取り出さないでください」

「李、コイツには一度、戦場の厳しさって奴を――ああ、あの腐った硝煙のにおいが……」

「自分で言ってフラッシュバックしないでください」

 

 ステイシーさんは昔傭兵部隊に所属していたらしく、その時の辛い記憶が時折蘇ってくるらしい。

 なんでそんな人がメイドしてるのさ? まあ、そんな事よりも俺にはやるべきことがある。

 

「とりあえず九鬼をですとろい」

「まあ、デストロイは止めておけ。おっかねぇ、おっさんがやってくるぞ」

「ほーう、それは俺の事を言っているのか、那須与一?」

 

 背後に感じる異様な気配。

 来たか、妖怪髭男爵。

 神出鬼没をデフォルトで備えている老紳士。

 

「……ヒューム」

「ヒュームさんだ。あまり舐めた真似をしていると、串刺しだぞ?」

 

 グラウンドにいたはずなのに、いつの間にかここまでやってきている。

 さすがにこの人とは戦いたくない。

 

「ここは戦略的撤退。囮は任せたぜ」

「ふざけんなっ」

 

 俺たちはお互いがお互いを貶めるように争った。

 人間って醜い存在だと改めて思った。

 

 ◇◇◇

 

 全身が痛い。

 ヒューマンさんに与一を差し出したと同時に、与一が俺に足払いを掛けてきた。

 その所為でバランスを崩した俺は、屋上にある扉に突っ込む事になる。

 扉の鍵は締まっていなかったため、勢いそのままに階段へ。

 当然ながら転げ落ちるという結果に至った。

 与一は与一で粛清されたみたいだけど。

 

「ということで、新しく転入してきた坂田金時です。よろしく」

「それよりも気になることが有るんだが?」

「なんですか? 小島先生」

 

 鞭を持っている女教師。

 俺の新しい担任になるようだが、きっと女王様なんだろう。

 このクラス全員が調教されてたら、クラスの変更を求めよう。

 俺はそんな変態にはなりたくない。

 

「なんでそんなに制服が汚れているのだ?」

「この校舎が掃除されてないからです」

 

 全く校舎は綺麗に使うべきだ。

 掃除は丹念に行う、これ常識。

 

「まあ、それに関しては遺憾なことだが、それとお前の制服の件は関係するのか?」

「階段から転げ落ちれば、制服が汚れるのは当然だと思います」

「なら、保健室に行くのが当然だと思うんだが……」

 

 確かに。

 この先生、鞭を持っているけど立派な人だ。

 たぶん、昔ながらの人なんだろう。昔は竹刀とか普通に持っていたらしいし。

 ゆとり世代に対する一つの答えかもしれない……調教とかだったらいやけど。

 

「身体は鍛えているんで大丈夫です。それよりも友人に突き落とされたという事の方が、俺の心の傷として大きいんですけど」

 

 まあ、悪いのは与一を囮にしようとした俺なんだけど。

 そこは黙っておくのが、立派な紳士。

 

「それは由々しき事態だな。その友人と言うのは誰だ? 私が話を付けてやろう」

「隣のSクラスにいる那須与一君です。屋上で仲良く寝ていたんですけど」

 

 とりあえず嘘を言っておく。ふっふふ、これで与一は生活指導行きだ。

 

「……待て、そもそもお前はなぜ屋上にいたんだ? 場合によってお前にも教育的指導を施さなければならんが」

「遅刻したんで朝礼に間に合わず、屋上で与一と終わるのを待っていたんですが、いろいろ鬱憤が溜まっているうちにうとうとしてしまいまして寝てしまいました」

「それって、ただサボりじゃね?」

「とりあえず、自己紹介を終わります」

「全然脈絡もなく話をぶった切ったぞ!! さすがの俺様もビックリだ」

「なんか、また濃い人が入って来たな」

「というか、坂田は武士道プランに関係あるのか? 那須与一とも知り合いみたいだし、坂田金時なんて、あの童話に出てくる金太郎そのものじゃないか」

 

 何度か言われたことがある。家に家系図などと言うそんな由緒正しきものはないので、絶対という確信はないけど、たぶん関係ない。

 爺ちゃんならちゃんとしたことを知っているかもしれないけど、もう歳だから色々とボケ始めている。だから正確な事は分からないかもしれない。

 

「関係ない。坂田という苗字に金時って名を当てただけ。家系はただの一般人……たぶん」

「じゃあ、なんで那須与一と知り合いなんだ?」

「中学が一緒なだけ。義経と弁慶も一緒。その時は素性を隠してたんだけど、基本アイツらバカだし、普通にそのままの名前で学校に通ってたもん。まあ、俺と同じで名前が一緒ってだけだと思ってたけど」

 

 私はクローンですなんて言われて、信じる人間が果たしてどれだけいるだろうか?

 

「それで、与一君が寂しがり屋さんだから、友達のよしみで俺もここに転校してきたわけ。九鬼の関係者から、その事で掛かる費用は全部負担してくれるって言われたから、迷う余地はなかったし」

「そうなんですか。友達思いなんですね。お姉さん、感動です」

 

 明らかにお子様が、このクラスに居た。

 というかこのクラス、なかなか面白いな。

 ホームルーム中でもお菓子を食う奴。一人ダンベルで黙々と鍛える女子。ガングロ。

 バラエティに富んでいるという意味では十分だ。

 

「小島先生、ここは面白そうな人が多いですね」

「いや、たぶんお前もその中に入るぞ」

 

 失礼な。

 俺は与一のような痛キャラでもなければ、弁慶のような酔っぱらいでもない。

 健全な高校生だ……たぶん。

 

「それより、質問良いだろうか?」

「I don't really understand English!!」

 

 外人さんや、外人さんがおる。

 どないしよ、話しかけられたけど全然英語なんて分からへん。

 

「自分は今、日本語でしゃべっているだろがっ!」

「あ、ホントだ」

 

 なんだ、似非外人さんか。ちょっとビックリした。

 

「それと、自分はドイツ出身だ」

「全くドイツ語を話さないけどね」

「Shut up 犬」

 

 ホントだ、そこはドイツ語で言うべきだよね。

 似非ここに極まれり。

 

「それで、ええっと……」

「クリスティアーネ・フリードリヒだ。自分としてはクリスと呼ばれることを望んでいる」

「それで、クリスは何か聞きたいことでも? ちなみに与一に彼女はいません」

「え、ホントに!?」

「これはアタイに狙えってこと系?」

 

 一部で歓喜が起こった。さすが、与一。イケメンなだけはある。まあ、中身は少しは改善されたとはいえ、残念そのものなんだけど。

 

「なぜ那須与一の話になるのか分からないが、自分が質問があるのは坂田殿についてだ」

 

 殿……まさか、ネタ外人さんだったとは。

 

「なんでおじゃる?」

「あ、そのしゃべり方、この学校にいるから、ウケを取ろうとしても無駄だぞ」

「まさかすぎる。イケメン、ここはそんな面白い所なのか?」

「ああ、ここは面白い所だぜ、保証する。それと俺は風間翔一だ」

 

 川神学園……侮れないな。おじゃるとか普通いないだろ。

 

「で、何?」

「なんか自分が空気みたいだ」

「そんなことないよ。それで何の質問? スリーサイズはご想像にお任せします」

「男のスリーサイズに興味なんてあるかよ」

 

 筋肉君、世の中には酔狂な人がいるんですよ。

 与一とか、尻を狙われたことあったし。

 

「さっきから自分が話すたびに、脱線するではないか!!」

「どうどう、落ち着きなさいよ、クリ」

 

 すげぇ、なんか卑猥なあだ名だ。

 サルっぽい奴が、一人喜んでる。

 

「で、なんの話?」

「ごほんっ、自分の質問は一つだ。坂田殿は武術をやっておられるのか? なんか動作の一つ一つがやっている人間のそれだと思うんだが」

「ふっふっふっふっふ」

「その不敵な笑い……やはり!」

「――全然やってない。身体は鍛えているけど。まあ、お家柄でちょっと芸はやってる」

 

 クリスがずるっとずっこけた。さすがネタ外人さん、リアクションも心得ている。

 

「さっきの笑いの意味は?」

「ラスボス的な雰囲気の演出」

「いや、それってどちらかと言えば、直ぐにやられる中ボスキャラでしょ」

 

 根暗少年の鋭いツッコミ。

 そうだよな、変な笑いをする奴に限ってすぐにやられる傾向にある。納得。

 

「それで、芸とは?」

「日本舞踊」

「坂田金時から全く想像できないな」

 

 それは俺も納得。

 金太郎ってあれだよね、ごつくて、森の中で熊と相撲取っているイメージだよね。

 しかも、半裸。

 日本舞踊の対極に位置するようなイメージなんだけど、健やかに育ってほしいとの事でこの名前。

 

「ねえ、ねえ、少し踊って見せてよ」

「えー………………良いよ。でもあとでね。義経に笛を頼んでからじゃないと」

「な、なんでためたのよ!?」

 

 顔面を机に打ち付けるとか、なかなか芸人根性あるな。

 犬と呼ばれるだけある。

 

「じゃあ、お昼休みに期待しているわ」

「よし、質問もここまでで良いだろう。それでは授業を開始する。坂田は、そうだな、あそこにいる源の後ろの席に座れ。源、世話してやってくれ」

「はい。分かりました」

 

 後で、義経に頼みに行かないと。

 それにしても、源ってまさか、義経の子孫だろうか?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。