舞う英雄   作:生物産業

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第4話 演舞後

 英雄とは誰のことだろうか?

 源義経? 武蔵坊弁慶? 那須与一?

 いやいや、俺でしょ。坂田金時。

 俺の時代がようやくやって来ましたよ。

 弁慶さんに鈍足と罵られ、笑われたあの辛かった日々は終わりを告げた。

 舞を舞ってからの数日間、俺は舞い上がってます。

 休み時間は俺のファンであふれるようになった。あまりの数に、クラスでは迷惑が掛かるから屋上に来ちゃうほどだ。

 

「先輩、ホント格好良かったです!! 『舞ってる』時は」

「ホント、ホント。『舞ってる』先輩は最高でした!!」

 

 もう評価はうなぎ上りですよ。

 なんか、妙に強調されている部分が気になるけど。

 気にしなければ、いい気分だ。

 

「うふふ、本当に素晴らしかったです」

「若、嬉しそうにしすぎだ」

「はい、金太郎、マシュマロあげるよ~」

 

 変なのも寄って来た。

 というか弁慶以外呼ばなかった俺のあだ名を呼んでいる子がいる。

 マシュマロはいりません。

 

「金時のおかげで与一がクラスに馴染めるようになったぞ。義経はとても嬉しい」

「お前のせいで面倒なことになったぜ。孤高を生きる俺に馴れ合いは不要だ」

「あーはいはい。与一君は格好良いですねー」

 

 孤高とかいう割に、義経たちと基本的に行動を一緒にしてる。

 中二病でツンデレとか面倒な奴。

 

「金太郎、ここで耳寄りな情報が」

「うるさい、黙れ。弁慶のいう事は、絶対俺の気分を害するに決まっている!」

 

 今はちやほやされて、気分が良いんだ。

 もう少しくらい、この気分を味あわせてくれたっていいだろ。

 そういう優しさが俺は欲しい。

 

「そういや、廊下でお前のこと話してた奴によく会うな。舞っている時は格好いいのに、実物は……みたいな会話を」

 

 俺の手は油断している与一のどてっ腹に吸い込まれて行ってしまった。

 一瞬その事だったから仕方がない。

 

「ぐうぉわ!!」

「俺の心の嘆きを聞け」

「聞けって言うか、物理的にダメージ与えてるよね。私の知っている情報も似たような物だ。顔さえ見なければとか」

「弁慶なんか嫌いだ。俺の友は義経しかいない」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、義経はみんなと仲良くしてもらいたいと思う」

 

 気にしないようにしてたのに。別に不細工ってわけじゃないと思うんだ。ただ比較対象が与一とかになってくると話は別になるんだけど。

 というか、どうしてこいつらは無意識に人を傷つけようとするんだ。

 与一の奴はホントに無自覚に言いやがるからまだ良いとして、弁慶なんか絶対わざとだろ。ニヤついている顔がそれを物語ってるからな。

 

「弁慶の川神水を全部ゴーヤ汁に変えてやろ」

「やめろ!! それをされたら私が死んでしまう。夜な夜な枕元に立つぞ」

「どんな脅し方だよ。ならもっと俺に優しくすることを要求する。具体的には義経くらい」

「ええーメンドイ。今度晩酌に付き合ってくれたら考える~」

 

 無邪気な笑顔。

 というか酔っぱらってるだけだけど。

 晩酌とかになると、もう与一の部屋に泊まるしかないんだけど、あそこはな……。

 九鬼の人とか面倒な人もいるし。

 

「与一の部屋に泊まると若干鬱になるから嫌なんだよな。壁に貼ってあるポスターとか自分で作った奴だし。しかも結界とか訳分からんものもあるし」

「おや、そんな楽しいイベントがあるんですか? ならぜひ私も参加したいですね」

「なぜにお前が来るんだよ。お前が来たら身の危険の方があるだろうがっ」

「大丈夫だよ~。トーマは嫌がる人に対しては何もしないから。たぶん、ずーっと、ねっとりとした視線で見られるだけだよー」

 

 拷問ですよね、それ?

 

「若は自分に正直なんだ。許してやってくれ」

「……ハゲの人、なんか、俺と同じ苦労をしてる気がするよ」

「これはハゲじゃないからな? それと、その意見に関しては同意だ」

 

 変人と言う意味で与一とマシュマロちゃん。精神的負担と言う意味で弁慶と葵冬馬。

 癒しで義経……あれ? ハゲの人の癒しがない。

 

「お前、いつ癒されるんだ? 苦労し過ぎだろう」

 

 なんか目から熱い何かが出てくるのを必死に堪えた。 

 頑張れ……負けるな、ファイトっ!

 

「俺の癒し? そんなもの決まってるぅぅぅ!! 俺の癒しは全世界にいる幼女だッ!!」

「…………」

 

 やたら舌が滑らかだ。

 高速で振動してる。俺も真似をしてみたけど、上手くできなかった。難しい。

 

「もうあれだよね? 高校生とか色々と終わってるよね? あ、Fクラスの委員長は別だぞ。やっぱ女は小学生までだろ。な、そう思うだろお前も」

 

 ハゲの言っていることが頭の中で何度も繰り返された。金時のお悩み相談ボードに投稿すると、返ってきた答えはハゲよ失せろだった。

 絶望感が半端ない。

 ちょっと、コイツ良い奴かもって思ってたら、明らかに犯罪者予備軍だった。

 幼女は温かく見守るものとか、凄い穏やかな目で言ってるけど、鼻息が荒い。逃げてー、委員長、超逃げてー。

 

「準はね、紋白がこの学園に編入してきたその日には、土下座して忠誠を誓ってたんだよ~」

「紋様は、もうあれでしょ、神。いや、天使だな。見ているだけで、俺は天にも昇る気持ちになれる」

「そのまま昇天でもしちまえよ」

 

 え、もしかしてS組ってこんな人ばっかなの?

 バカと天才は紙一重とか言うけど、なんでそれを地で行ってる奴が居んだよっ!!

 

「こう考えると、与一って普通なのか?」

「ああ? なんだよ、急に」

 

 中二病が酷いが、それも少しは改善されている。

 たまに手に負えなくなる時があるけど、それを除けば、与一は意外と常識人。

 義経には優しいし。

 

「普通人は俺しかいないのか」

「金太郎、冗談を言うなら、私に川神水を注いでくれ~」

「絡むな酔っぱらい。そして冗談じゃないわっ」

「金時が普通? はんっ、そんなふざけた世界が有ったら、俺が異端なんて呼ばれねぇよ」

 

 おめぇはどんな世界でも異端って呼ばれるわっ!!

 人の所為にしてんじゃねえよ。

 

「与一、そういう事を言うもんじゃないぞ。金時が可愛そうだ」

「もっと言ってやって!!」

「義経だって、金太郎が変だなって思うことくらいあるでしょ?」

「弁慶、義経は思っても言わない方が良いと言ってるんだ」

 

 俺の心の防弾ジョッキがぐしゃっと紙のように破けた。

 義経という最強の矛に貫かれてしまった。

 

「ぐっ」

「今日は飲もう」

 

 弁慶が優しく肩を叩いてくれる。

 

「え、え、なぜ金時は泣いているのだ!?」

「義経は悪くないから大丈夫。それより、金太郎、今日来る時にちくわ持ってきて」

「やだし。かまぼここそ至高の存在」

「ちくわソムリエの私に対するその挑戦、しかと受け取った」

 

 お互いが距離を取って構える。

 

「ふ、二人とも!! け、喧嘩はダメだっ」

「義経、お前もそろそろ慣れろよ」

 

 義経と与一が何か言っているが、とりあえず放置。

 俺の視線の先に映る弁慶に集中せねば、この勝負勝てない。

 

「最初は目、その次鼻、最後は――」

「おいおいおい、どんなジャンケンだよそれはっ!!」

「アハハハ、おもしろーい」

「斬新ですね」

 

 外野がうるさいが、今は弁慶の右手のみに俺の全神経を集中している。

 

「じゃんけん……」

「「ポイ!!」」

 

 勝者は……。

 

「ちくわは頼んだよ」

「ま、まさかの左……」

「金太郎、考えてることが見え見えだったよ」

「そうだった、弁慶は頭が良いんだった」

「ホント、攻めっ気がある時の金太郎はチョロい」

 

 言いたい放題言いやがって。

 まさか、ジャンケンの瞬間に右手を引っ込めて、左手を出してくるなんて。

 その速さも一般人には見えない程だったから、いつの間にか左に変わっていたなんて思っている奴もいるかもしれない。

 く、さすがは弁慶だ。

 

「ぶっちゃけ、かまぼこもちくわも材料は同じだろ?」

「弁慶」

「了解」

 

 弁慶は不用意な発言したハゲに近づくと、持っていた錫杖でハゲの足を払い、宙に蹴り上げる。

 

「ごわぁ!!」

 

 それに合わせるように、俺は空中に跳んで、蹴り上げられたハゲの口にかまぼことちくわを突っ込んだ。

 それと同時に地面に叩きつける。

 

「ふぁにほぉしひゃぐぁる(何しやがる)」 

「食ってみろ。全くの別もんだという事を思いしれ」

「さすがの早業だな。義経は金時の技量に大いに感心する」

「というか、姉御と息ピッタリの方がすげぇわ」

「それよりも、どこからちくわとかまぼこを出したのかを気にするべきでは?」

「じゅーん、おいしい? マシュマロも一緒に食べる?」

「…………」

 

 ハゲの全身が震えた。

 電気ショックを受けたような震え方で、小刻みに震えているからなんか気持ち悪い。

 

「わぁー、準が陸に上がった魚みたいになってるー」

「それは危ないですね。仕方がありません。私が人工呼――」

「若、その必要はない」

 

 葵が一歩近づいただけで、ハゲは正常に戻った。

 ロリを掲げるハゲならば、まだファーストキスはしてないだろう。

 男が初めての相手なんて、さすがに嫌すぎる。たとえ人工呼吸だとしても。

 

「かまぼこの偉大さが分かったか?」

「ああ。こんなに旨いかまぼこは食ったことがねぇ」

「おいおい、井上準よ、それは勘違いだ。本当に旨いのはちくわだろ?」

「弁慶、みっともないぞ。敗者は去るべしだ」

「いや、ちくわも旨かった。かまぼことは違う触感。同じ材料でも味わいが全然違う。俺にはどっちが上とか判断することができねえ」

 

 コイツ……

 

「「使えねぇー」」

「酷でぇだろっ!!」

 

 感想は弁慶と同じだったみたいで、シンクロしてしまった。

 

「やはり、決着は夜だね」

「与一、今日泊まりに行くわ――ポスター剥していい?」

「ざけんな!! 俺の領域を冒そうとするな――UNOやるか」

「あ、それなら義経も参加したい!!」

「義経はドロー4を連続でやると泣きそうになるからなー」

「でも、泣きそうになっている義経は可愛いー」

 

 弁慶ってホントドS。

 昔、義経が本気で泣いたことが有ったもんな。可哀想に。

 

「なんだか、楽しそうでいいですね」

「ボクもUNOやりたいなー」

「さすがに俺たちが泊まりに行くって訳にはいかないだろ」

 

 九鬼が厳しいもんな。 

 友達カテゴリーに入らないと大変なのかもしれない。

 とりあえず、明日は振り替えで休みだし。オールでかまちく談義とUNO、ついでに鍋パーティーだな。もちろん、具材はかまぼこ一択。

 あ、罰ゲームで与一が負けたら、お気に入りのポスター剥そう。

 

 ◇◇◇

 

 授業が終わり、帰ろうというところなんだが、そこで待ったが掛かった。

 義経は英雄のクローンという事もあって、世界中から挑戦者が現れ、決闘を申し込んでくる。

 学園外に関しては、この学園で武神と呼ばれる先輩にお願いして、対処を任せたらしいのだが、学園内の挑戦者に関しては義経が戦う事になっている。

 そのため、それが終わるまで待っているしかない。正直暇なのだ。

 だから、適当なところに腰掛けて義経の戦いを観戦するくらいしかない。

 

「弁慶と与一が分担すれば?」

「めんどい~」

「俺の闇をこんな衆目で見せるわけには行かないからな」

 

 二人とも義経が主君じゃないの?

 

「今日は何人相手するの?」

「さあ? あ、今4人目を倒したよ」

 

 川神水を飲みながら、弁慶がそう答える。

 というか、弁慶さん飲み過ぎじゃない?

 結構べろべろな気がするけど……。

 

「今の弁慶に勝負を挑めば余裕で勝てるよね」

「そうなったら、まず金太郎に戦ってもらうからー」

「嫌だし。ここは下僕たる与一君の役目だろ」

「誰が下僕だっ!!」

 

 自覚がないらしい。

 軽く弁慶のパシリにされている気がするんだけど。

 

「ああー! 金ちゃん!!」

 

 俺をそんな風に呼ぶのは、この学園では一人しかいない。

 先日、クラスメイトとなった川神一子。

 姉は武神で、爺様が学園長で尚且つ、武術で有名な川神院の師範を務めているという、まさに武術一家。彼女はその一家の末っ子。

 人当たりが非常によく、裏表のない性格なため皆から好かれるマスコット的なキャラだ。

 仲間内ではワン子と呼ばれ、愛玩ペットと化している。

 俺は一子と呼んでいる。なんか犬扱いはちょっと可哀想。

 

 隣にいる椎名が飼い主のように見えてしまう。

 椎名はなんでも、同じクラスの直江の妻らしい。既に籍を入れているとの噂も立っていた。

 彼女はクールキャラなので、あまり詳しい事が分からない。

 旦那らしき直江と、その友達といる以外は本を読んで過ごしているので、ほとんど話したこともない。 

 

「よー。さっきぶり」

「こんなところで何してるの?」

「義経待ち。あー弁慶、こんなところで寝ようとすんなよ」

 

 ぐでぐでになった弁慶が寄りかかってくる。

 川神水はノンアルコールとかいう割に、酒の匂いがしてくさい。

 ただ、さすがに放っておくのもあれなので、俺の膝に弁慶の頭を乗せてあげた。

 本来は逆であるはずだ。

 

「なんか仲が良いわね」 

 

 一子は俺たちを二人を見ながらそう言った。

 まあ、英雄と言われる弁慶に膝枕をしてあげられるくらいには仲が良いと思っている。与一にしてあげる気にはならないけど。

 

「お前たち程じゃないよ。いつも一緒に居るし。椎名なんて直江とラブラブじゃないか。いつも夫婦漫才してる」

「私と大和が仲が良いのは当然。でももっと言ってくれても良いよ。特に校内中に」

「そんなの校内放送でもすれば? 確か昼にラジオ放送あるじゃん。あれに投稿して校内中に流せば、君達の夫婦仲は学園中に広がると思う。外堀を埋める、義経が使った兵法だ」

「ウソ吐くんじゃねぇよ」

 

 椎名は目を大きく見開く。 

 天啓を得たと言わんばかりに激しく頷いた。

 

「ワン子、私ちょっと先に帰るね。大和への愛のメッセージを小一時間ほど綴るから」

「あ、うん」

 

 目が轟々と燃えているので、さすがの一子も一歩引いていた。

 学園で挙式を上げる可能性があるかもしれない。

 その時は、スピーチを担当したいと思う。

 

「む~」

 

 弁慶が口に手を当て始めた。

 

「あ、やめろ! こんなところ吐こうとするなっ!!」

 

 ここで吐くという行為は、偉人どころか、女性としても終了な行為だ。

 いくら俺でも後始末は嫌だぞ。

 

「金太郎ー」

「あーはいはい」

 

 力なく俺を呼ぶ弁慶。

 俺は弁慶のお腹辺りに手を置いた。

 いつもだらっとしているのに、しまるところはしまっている。

 それでも女性らしい特有の柔らかさは残っているから、なんとなくぷにぷにしている。

 このまま撫で続けたら変態、というか犯罪者の仲間入りになりそうな気がする。

 

「お前、絶対姉御の介護士として九鬼に連れてこられたよな」

「4割弁慶、5割は与一、義経が1割だと俺は思ってる。金持ちの考えることはよく分からん」

 

 まあ、おじさんたちに負担を掛けずに済んだし、金も貰えてるから実家に帰る必要もないし、俺としては良かったけど。

 

「金ちゃんはさっきから何してんの?」

「セクハラだろ。姉御相手に良くするな。俺にはできない芸当だぜ」

「セクハラっ!?」

 

 まあ、傍からみるとそう見えるかもしれないけど、与一、お前今日の夜覚えておけよ。

 お前が寝ようとしたら、一本一本眉毛抜いてやるからな。

 まぶたに目も書いてやる。

 

「違うから。弁慶の酔いを醒ましてるの」

「なんだ、えっちぃことしているのかと思っちゃったわ――でも、お腹に手を当ててるだけで治るもんなの?」

「生き物には必ず流れがある。血の流れであったり、気の流れであったりね」

「それは分かるけど……」

「俺の中に流れる闇は、他の奴らとは比較にすらならないぜ。特異点である俺の存在は――」

「へぇー」

「……?」

 

 与一の言った事を理解できない一子。

 まあ、それは仕方がない。

 俺もよく分かんないし。だから、途中で聞き流す。

 

「で、話の続きだけど、今の弁慶は酔っていて乙女としてあるまじき行為を行いかねない状態。で、一応友人として俺がそれを阻止しようとしている訳だけど」

「それがお腹に手を当てる行為と関係があるの?」

「大アリ。川神水はノンアルコールだけど、弁慶は酔っている状態と変わらない。身体の代謝がアルコールを分解しきれてない」

「なんか難しくなってきた」

 

 しゅんと小さくなる。

 叱られた子供のようだ。

 

「なんでそんな顔するし?」

「アハハ……ついくせで。話が分かってないと怒られることがよく有るから」

「ふーん。まあ、別に俺は怒ってないから――で、このダメ女の象徴たる弁……ぐふっ」

 

 弁慶め、治療してる人間に腹パンかますとか、どんなしつけを受けてやがる。

 

「だ、大丈夫?」

「お、おーらい……で、この弁慶さんの酔いを治すのは意外と簡単。気で体の中の流れを操作して、代謝を上げてやれば良い。成果は見ての通り、恩を仇で返すなんてことをしやがる」

「女性を蔑むような発言は頂けないなー。そうは思わないか、川神一子?」

「まあ、そうか……な」

 

 最後、弁慶さん睨んでませんでした?

 まさかの脅しですか? こんな純真無垢な少女を脅しますか?

 弁慶さん、半端ないっす。

 

「あれ? でも、金ちゃんって武術やってないって言ってなかった? なんで気が使えるの?」

「紳士として気を遣うのは当然」

「それ、意味違うから」

 

 ええい、酔いが醒めたんなら、さっさと起きやがれ。足がしびれるわ。

 だが、俺の思いは届かず、弁慶は俺の膝に頭を乗せたまま、語りだした。

 

「金太郎はね、小さい頃から舞を踊って来たんだよ。当然、先日のように人前で舞ったことだってある。川神一子、アンタも感じなかったかい? 奇妙な感覚に」

「あ、感じたわ。金ちゃんを見てたはずなのに、いつの間にか見失ったの」

「金太郎は流れが見えるんだよ。幼き頃から鍛えてきた観察眼って奴なのかもね。だから、観客を自分の流れに乗せることも可能だし、逸らすことも可能」

「ん~~?」

「人は何かに集中しようとしてもふとした瞬間に途切れてしまうものさ。こうやって話している中でも」

 

 弁慶が話をしている時に、歓声が聞こえてきた。

 その声に釣られ、一子は後ろを振り向く。

 義経が決闘に勝利したことを告げる歓声であった。

 

「今みたいに、話している時でさえ後ろの歓声に引かれて集中を途切れさせてしまう」

「あははは、ごめんね。ちょっと気になって」

「金太郎はそのちょっと気になるという意識を利用するんだよ」

「意識? でも、あの会場にはたくさんの人が居たのよ。皆がみんな意識をもっていかれたりするかしら?」

「実際もっていかれたでしょ? 確かに200人近く居たあの会場で、意識を操作するのは、普通にやったら難しい。だからこそ、皆の意識を統一する必要がある」

「意識の統一?」

 

 なんか、自分の事を他人が語るのはちょっと恥ずかしい。

 

「金太郎」

 

 そう言われて、俺は指を軽く鳴らした。

 

「こんな感じ。舞台上では足音や扇子を使って意識の統一を図っていたの」

「へぇー。でも、それをする必要が有ったの?」

「んーないと言えばない」

「それをお前が言うな。理由くらいある」

 

 弁慶、失礼ですから。

 ちゃんと意味があることだから。

 

「金ちゃん、どんな意味があるの?」

「まあ、簡単に言えば、飽きさせないため」

「飽きさせない?」

「そ、一子はさ、本とか読むの苦手でしょ? 特に現代文みたいに堅苦しいやつ」

「う、うん。授業でも見ているだけで眠くなっちゃうわ」

「そう言う人に舞って言うのは結構辛い。最初は物珍しさで見て楽しんでくれたりしてくれるけど、時間が経てば経つほど注意力は低下する。じっと見ていることが得意じゃない人間は集中力がもたない。その舞がどうとかじゃなくて、本能がずっと見ていることを拒む。そしてつまらないという感情を生み出してしまうんだ。だからこそ、こちらからタイミングを計って意識を逸らしてあげれば、飽きは来ない」

「でも、変に途切れたりしたら嫌じゃないかしら?」

「そんな長い間やるわけじゃないよ。そしたら意味が分からなくなっちゃうからね。ほんの一瞬、意識を逸らして興味を引くの。マジックの時にさ、次は何やるかな、種を見破ってやるぜ、みたいな気持ちで見れば飽きずに見れる。舞自体は自信があるから、後はどうやって見てもらうかだけ。それにそう言う方が楽しいでしょ?」

「そうかも。私も初めてみたけど、楽しかった!!」

 

 にっこりとほほ笑む。一子はええ子や。弁慶さん、ちょっと見習ってくんない?

 後、与一、一人でぶつぶつ言ってないでさっさと現実の世界に帰っておいでー。つうか、長ぇよ!! どんだけ、痛々しい発言をする気なんだよっ!! 誰も聞いてないわ。

 

「でも、それと金ちゃんが気を使えるのって関係があるの?」

「ないよ」

「ないな、全く」

「金時は昔から鍛えてるし、義経や姉御との鍛錬を見たりしてるから、いつの間にかできるようになったんだろう」

 

 お、戻って来た。

 会話にすんなり入るその技術だけは認めてやろう。

 

「義経と弁慶!? え、じゃあ、もしかして金ちゃんって強い?」

「俺の戦闘力は53万」

「ちなみに、与一は戦闘力5のおっさんと同レベル」

「姉御、さすがにそれは酷くないか?」

 

 確かに。与一だって偉人のクローンなんだし、さすがにゴミめはないだろう。

 

「じゃあ、金ちゃん、ちょっと手合せしない?」

「えー……いいよ」

「金太郎、私の枕という仕事を忘れるな~」

「人を勝手に枕にしてんじゃねぇよ。もう、酔いは醒めただろ、どけ」

 

 起き上がるのすら億劫な弁慶様は、微動だにしない。

 仕方がないので、俺が無理やり起き上がらせた。

 正直、ホントに介護の必要なレベルだよね。

 俺が弁慶の将来を心配していると、聞き覚えのある声が耳に届いた。

 それを聞いただけで、背筋がビシッとなる。

 

「あ、3人とも、こんなところで何してるの? あ~あ、義経ちゃんを待ってるのね」

 

 弁慶の30倍くらいは品の良さそうな女性が、俺たちの横を横切ろうとしてその足を止めた。

 彼女にはきちんと挨拶しないといけない。

 

「こんちわーっす。ほら、与一、頭下げろよ。ドンだぞ、ドン」

「んっだよ……ちわーす」

「もう~その挨拶止めてって言ってるのに!! 金君も与一君も怒るよ!」

 

 ぷんぷんと腰に手を当てて注意する様は、非常に可愛らしいのだが、実は彼女、半端じゃない人なんです。

 この人もなんかの英雄のクローンらしい。

 らしいというのは本人すら知らないからだ。俺が知ってるわけがない。

 ただこの人の半端なさはそんな事じゃない。マジ鬼畜なんです。主に楽器に対して。

 彼女の名前は葉桜清楚。名をそのまま体現した容姿の持ち主。だけど真逆の性質も持ち合わせている。楽器に対して。

 

「清楚は、今日も読書?」

「うん。やっぱり本を読んでると楽しいしね。あ、それよりも弁慶ちゃんからも二人に言ってよ~」

「金太郎を止めれば、問題ないよ」

「いやーだって、先輩じゃないですか、清楚先輩。俺としては敬った結果なんです」

「バカにしてるだけだろ」

「してないよ、全然。文学少女なのに、芸術面に全く才能がないなんて思ってもないから」

「あ、それは秘密だって言ったでしょっ!!」

 

 慌てて俺の口を塞ごうとしているが、もう言ってしまったし、一子を除けばみんな知っていることだ。

 俺は舞も好きだが、音楽も好きだ。

 だから、皆と演奏をしたりもする。与一には三味線を教えて一緒に弾いたりもした。義経は元から笛を吹けるし、弁慶も無駄に能力が高いので、太鼓に三味線、笛にさらには琴まで弾ける。普段はだらけているだけなのに……。

 で、そんな中、一人だけハブられる格好となった先輩が不憫だったので、一緒に演奏に混ぜようと思ったら……。

 

「三味線、笛、太鼓……天に召された楽器たちがしのばれる」

「あれは悲惨だったな。俺の相棒サタンも破壊されちまったからな」

「ちなみに一子、これ別に比喩とじゃないから。あ、サタンは三味線に付けた名前ね」

 

 先輩は見かけによらずワイルドで、かなりの力持ちだ。

 見た目文学少女だから、初めて見た時はそのギャップに顎が外れかけた。

 

「リズム感とか良いのに、音楽に対するセンスは皆無。舞をやらしても、なんか違う。たぶん、芸術って才能が枯渇してるんだと思う」

「金君、私を苛めて楽しい?」

 

 ちょっと涙目で見られると罪悪感を感じます。

 

「あ~あ、清楚を泣かせると大変だぞ。この学園には既にファンクラブみたいのもあるみたいだし。帰りに闇討ちされるかもね」

「い、嫌だな~。俺と先輩の仲じゃないですか。ちょっと小粋なジョークですよ」

「私の心は深く傷ついたんだけどなー」

 

 つーんとそっぽを向く先輩。

 まあ、見ればそんなに怒ってないのは分かるんだけど、ここらでご機嫌を取っておかないと、この人はマジで強硬手段に出てくるからな。

 ちょっと調子に乗り過ぎた。

 

「杏仁豆腐で手を打ってください」

「うん♪ もし約束破ったら、大変な事になるから。主に食事が」

 

 この人、俺の弱点を知っている。

 まあ、弁慶たちもそうだけど、こいつらは行動には移さないから害はない。

 ただ、清楚先輩は怒ると結構えぐいことしてくるから、逆らうわけには行かない。

 俺の弁当があれで満たされるようなことが有れば、軽く死ねる。

 

「清楚、今日は金太郎が泊まりにくるから作ってもらえるよー」

「え、本当に!? じゃあ、また与一君の部屋でUNOだね」

「先輩のドロー4の引きの強さに誰も勝てない件」

「義経渾身のドロー4を難なく破るからな、葉桜先輩」

 

 あの時の義経の絶望した表情は忘れない。

 

「清楚はトランプの類も強いよ。大富豪で清楚が負けたのを見たことがない」

「姉御、それを言うなら、金時の奴が大貧民から這い上がったことがない方だろ」

「ちげぇから。いつも清楚先輩が俺を潰しにくるからいけないんだよ。絶対、俺より強い手を手に持っていて、狙ったように潰してくるんだよ。俺から始まるのなんて、最初以外ないやい」

 

 先輩の強運はマジで凄い。

 勝負運も相当ある。芸術面の才能の代わりに、勝負に関する運がMAXなのかもしれない。

 革命を起こしても、簡単に返される。庶民は逆らうことも許されないのかもしれない。絶対、王様のクローン。織田信長とかピッタリだと思う。

 

「ねぇ、ねぇ、盛り上がってる所悪いんだけど、私を置いて行かないで」

「あ、一子の事すっかり忘れてた」

「ひ、ひどい」

「金君、女の子を泣かせたら、ダメだよ」

 

 よしよし一子を慰める清楚先輩。時々驚かされることがあるけど、基本的には良い人なんだよね。

 

「じゃあ、軽くやりますか。ちょうど、義経の方も終わりそうだし」

 

 後数人といったところ。

 ほぼ瞬殺することを考えれば、ちょうど良いくらいだ。

 

「武器は?」

「これ」

 

 そう言って俺が見せたのは扇子。

 

「それで戦えるの?」

「ぼちぼちですな」

「じゃあ、私は素手で戦うわ」

 

 しゅっしゅっとボクサーのようにシャドーを開始する。

 お前は川神流じゃないのかよ!!

 

「川神一子、最初から全力でやることをお勧めするよ」

「……わかった」

 

 弁慶のアドバイスに素直に従う気らしい。

 やめて、ハードル上げるの。

 

 お互いに距離を取って構える。

 一子は見るからに、特攻型だろう。開始と同時に攻めてくるはず。

 

「じゃあ、審判は俺がやるか……始めっ」

 

 与一の合図と同時に、一子が一直線で向かってきた。

 小柄な体格を活かしたスピードによる特攻。

 

「でえいやあああああ!!!」

 

 相性が良さそうで助かった。

 

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