舞う英雄   作:生物産業

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第5話 実力?

「弁慶ちゃん、どっちが勝つと思う?」

「金太郎」

「即答だね」

「清楚もそう思ってるでしょ?」

「うん」

 

 二人の顔に疑いはない。

 その様子は普段の女子のおしゃべりといった感じで、彼女達にはどちらかが怪我をするのではないかという不安は一切なかった。

 

「でえいやあああああ!!!」

 

 一子は金時に向かって真っすぐに突き進む。

 清楚はその動きに速さに驚き、弁慶は、ふーんとつまらなさそうにポツリと呟いた。

 

「速いね」

「動きが直線的過ぎるけどね」

 

 まっすぐ向かって来た一子の攻撃、顔面狙いの拳を半身で躱した金時は、勢いのまま抜けていく一子の首筋を扇子でぱんと叩いた。

 

「きゃっ」

 

 自分の思わぬところから力を加えられたことで、一子は地面に倒れてしまう。

 それでも、咄嗟に地面に手を着き、くるりと回転。「とうっ」という掛け声と共に態勢を立て直す。

 

「バランスが悪いな」

「そう? くるくる回って凄いと思うけど」

「それは身軽さから来るもので、あれでは無駄に体力を消費するだけだよ」

 

 一子はもう一度、何の作戦もなく金時に飛び込む。一直線にだ。

 彼女の姉もそうだったが、川神一族は真正面から行かないと呪われるなどと言ったオカルトが存在するのかもしれない。

 

「一子ちゃん、凄い汗」

「金太郎に無理やり流れを変えられているせいもあるけど、川神一子の動きには無駄が多い」

「私にはそんなことないと思うんだけど、弁慶ちゃんが言うならそうなんだね」

 

 清楚には武術に対して何かを言う知識はない。運動神経は、武神川神百代をして優れていると評価される文学少女であるが、鍛錬を積んでいる訳ではない。時折、義経や弁慶に混ざって運動する程度、だからこそ、しっかりとした実力のある弁慶の言葉に頷いた。

 ただ弁慶の顔は優れてはいない。

 

「何か考えごと?」

「金太郎は面倒な奴だなって思ってね。お、完全に川神一子の息が上がった」

「でも、金君、ほとんど動いてないのによくあんなに躱せるよね」

「金太郎は完全に後の先を極めているからね。まあ、足が遅いから自分から動きに行けないって言うのがあるけど」

「私より遅いもんね」

 

 清楚はそこらの平均の男子よりも十分速く、一般の女子の域を超える文学少女。

 金時との100M競争は、彼の心に深い傷を残して終了した。

 

「金太郎は『ためず、ひねらず、ふんばらず』を基本としているからね。だから、スピードと言う面ではどうしても遅れてしまう」

「でも、結構筋トレとかしてるよね?」

「そうだけど、あれは男としてだから。線が細いのを嫌って、身体を鍛えてるんだって」

「でも、そのわりにはムキムキって感じじゃないよね?」

「そこら辺は筋肉の付け方なんじゃない? 無駄マッチョは嫌だとか言ってたし」

「弁慶ちゃんは、金君のこと何でも知ってるね」

 

 清楚は暖かな目で弁慶を見る。弁慶を見る彼女の様子は、年上のお姉さんそのもので、その視線が気になったのか弁慶はむっと清楚を軽く睨んだ。

 

「金太郎はおいしいちくわを作ってくれるからね。それに私の事をちゃんと世話してくれるし」

「なんか、金君が不憫だなー。弁慶ちゃんは、金君のことどう思っているの?」

「清楚はそういう話好きなの?」

 

 急な話題に弁慶が少し顔をしかめる。

 

「私だって年頃の女の子だもん」

「んー……」

「そんなに深く悩むことなの?」

「まあ、金太郎の事は好きだけどね。でも、それがlikeかloveと言われれば、何とも言えないかな」

「ふーん」

 

 自分の予想した回答とは少し違ったのか、清楚は不満そうな顔を見せた。

 だが、弁慶は気にせずに川神水を口に含む。

 

「私はだらけてるのが一番。もしかしたら惰性で金太郎と付き合うことが有るかもね」

「惰性はダメだよ~」

「人には人の恋愛があるってこと。一緒に居る間にそれが自然となるなんてよく有る話」

「なんか年下の弁慶ちゃんに恋愛論を語られるなんて、年上としての威厳が……」

 

 しょんぼりする清楚に弁慶は思わず、手を伸ばす。

 彼女のつややかな髪を確かめるように、ゆっくりと頭を撫でた。

 

「よしよし」

「むーお姉さんをからかってはいけませんっ」

 

 ぷんぷんと怒る清楚を見て弁慶はさらに表情を緩める。

 

「おーっと、勝負が着いたみたいだね。義経の方も終わったようだ。さて、帰ろうか」

「なんか弁慶ちゃん、大人だな~」

「いや、姉御は精神的に老けてるだけだろ」

 

 瞬間、与一は清楚の眼前から姿を消した。

 上半身は何も植えられてなかった花壇にぶっすりと突き刺さって見えない。

 源氏式バックドロップ。洋と和のコラボレーションにより、生け花『与一』が完成した。

 

 ……

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 一子は完全に息があがっていた。

 攻撃を繰り出しても、すり抜けるばかりで、まったくダメージを負わせることができなかった。

 水を殴っている、そんな感覚に一子は襲われていた。

 

「もう終わり?」

「まだ、まだよっ!!」

 

 せめて一撃。

 この短い時間で金時と自分の実力差は痛いほど感じていた。弁慶が全力で行けっと言ったその意味を、遅まきながらいまようやく理解した。

 相手は速いわけではない。むしろ、動きはいつも以上に見えている。なのに当たらない。

 金時の突進に対する最小限の動きと最弱の攻撃で一子の体力は削られていた。

 

「ほれ、ほれ」

 

 扇子で一子を誘うような仕草をする。完全な挑発行為。そして、一子はその挑発に乗った。

 

(なんか腹立たしいわね。テレビで見たことが有るわ。確か、闘牛ってやつよ。なら、望み通り突っ込んでやるわよっ!)

 

 自分の頬をぱんぱんと叩き、気合を入れなおしたのち、よしっと突撃を開始する。

 

「はぁああああ!!!」

「それはダメ」

「へ? あ、きゃっ」

 

 繰り出した拳が扇子によって弾かれ、一子は自分の攻撃の勢いのまま地面を転がって行った。。

 

「すぐに挑発に乗らないの。どんなに速く動いてもまっすぐ来るぶんには誰だって避けれる。相手の動きを見て、それに合わせる」

「分かってるわよ!! 行っくわよ!!」

 

 まだ興奮した感情を抑えきるまでには至ってないが、ここに来て一子はようやく頭を使いだした。

 

(金ちゃんはさっきから動いてない。もしかしてスピードに自信がないのかしら? それなら、直前で横にステップを踏めば、金ちゃんを騙せる……たぶん)

 

 確証は得られなかったが、一子は自分の出した答えを信じて先程と同じように駆け出す。

 

「えいやああ!!」

「また真っ直ぐ――なんてことはないよね?」

「くっ」

 

 一子が直前で直角に曲がったが、金時は足を上手く使うことで、一子に対し正眼の状態を保った。

 しかし、距離はなくなった。

 

 川神流・空衾(そらぶすま)

 

 超至近距離からの攻撃。強烈な跳び蹴りが金時に向かって襲いかかる。

 

「すぅー」

 

 一子の耳に息をはいたような音が聞こえた時、視界は変わっていた。

 先程まで、目の前には金時がいた。

 それなのに、今は誰もおらずいつの間にか倒されたのか、地面にぽてんと座らされている。

 

「呆けてないで、次来なさい」

「あ、いた」

 

 頭を軽く扇子で叩かれたことで、一子は振り向いた。

 

(い、いつ? 一体いつ後ろに回ったの!?)

 

 視界から消えた金時を見て、一子は完全に困惑した。

 自分の姉と同じ超スピードで動ける。その可能性も考えたが、なら今までの攻防に説明がつかない。

 加減されて上にバカにされていた?

 一子は無意識に首を横に振った。まだ付き合いは短いが、そんな事をするような人間には見えなかった。

 だとすれば、金時がどのように動いたのかが分からない。

 一人、頭を捻る一子に、金時は少し笑いながら説明した。

 

「膝の力を抜いたの。曲げるんじゃなくて、抜く。一子の攻撃が俺に当たるころには、もう移動していたからね。自然な動きって言うのは相手に気づかれないものなんだよ。舞のしなやかさを保つにはこういう動き方も必要なんだ。さ、もう一回行ってみよう」

「むーなんか稽古を付けられているみたいだわ。私の方が武道専門家なのに」

()を以って武を制す。我が家に伝わる家訓だよ。反論は俺に一撃当ててからどうぞ」

 

 悔しかった。

 でも、それ以上に自分の身体が動くのを感じる一子。

 疲れている、それは事実なのに、なぜか身体は普段よりも反応してくれる、そんな感じだった。

 

(アホレナリン? がいっぱい出ているのね!)

 

 以前、大和によって教えられた知識。間違っているのだが、一子にはそれが分からなかった。

 言葉はさして重要ではない。身体が動く。今は何よりもそれなのだ。

 一子は拳を突き出し、大きく宣言する。

 

「私の拳の強さを思い知ると良いわっ!!」

「痛いのは嫌いなんだよね」

 

 金時の笑いを消してやる、そう決心し一子は拳を構えた。

 

 ◇◇◇

 

「ふぅー。疲れた」

「ほとんど動いてないくせによく言うよ」

「……なぜに与一が突き刺さってるんだ?」

 

 花壇に与一が頭から突き刺さっていた。

 となりに植えられている花々の中で異端の輝きを放っているので、凄く違和感がある。

 異端って言うか、ミスマッチだけど。

 

「口は災いの元を体現したまでさ」

「災い=弁慶とか、人災じゃん」

「ほーう、金太郎も口に気をつけないくちか?」

「べ、弁慶さん、いや弁慶様。怒ると普段のだらけ信条に揺らぎが生じちゃうよ」

「普段だらけているのに、いざって時は動ける、そんなギャップに人は燃えるらしいよ」

「なんか字が違う気がしない?」

 

 ギャップ萌えって弁慶さんからもっとも遠い言葉だよね。

 むしろ清楚先輩でしょ。

 見てくださいよ、あの腕力。

 地面に突き刺さった与一君を、軽く引っこ抜いてますから。

 あれに萌えるかどうかは知らんけど。

 

「それより、川神一子は良いの? なんかぐっすり寝てるけど」

「最後、焦って一発入れちゃったからね。いやー優雅じゃなかった」

 

 最後の一撃は良かった。

 身体が疲れていた分、動きに無駄が無くなって動きのキレも増した。

 一撃をどう入れるかだけを考えた、その無欲な攻撃のせいで、咄嗟に反撃してしまった。

 

「金太郎はなんだかんだで人の世話するの好きだよね。川神一子の悪い点を指摘しながら、訓練してたもんね」

「いやー、なんか勿体ないなって思うと手を出したくなるんだよね。でも、結構スパルタでしょ?」

「そうかもね。無駄な動きが多いってことを分からせるために体力を削って動きに制限掛けてたし」

「でも、そうした方が身体の動かし方を分かるって思ってね」

「確かに最後の方の動きは良かったね――で、この子はどうするの?」

「川神院に運ぶさ。どうせ、一旦は家に帰るんだし、調度良い」

「なら、私も手伝おう。久しぶりに金太郎の部屋をあさるのも面白い」

「手伝うってことばを辞書で引いてから使ってくれない?」

 

 こいつは横で川神水を飲んでるだけだし。絶対に手伝わない。

 というか、部屋をあさられるだけ。

 

 

 

 

 義経も決闘が終わったみたいでこちらに合流した。

 俺と与一は川神院に寄って行くと、告げて別れる。

 弁慶さん? ホントに部屋のがさ入れをするので丁重にお断りしました。

 で、その結果、弁慶と言う猛獣の前に与一と言う肉を投入する格好になってしまったので、救いを兼ねて与一をこちら側に連れて行く。

 メッチャ感謝されました。

 

「姉御はマジで怖い」

「普通にしてれば力技を使ってこないさ。まあ、与一が真人間になったらそれはそれで気持ち悪いけど」

「ハァ? 俺は魔人間だろうが。俺が存在するだけで、世界に歪みを生む」

 

 こいつはずっとこのままでいて欲しい。

 大人になっても中二病とか、爆笑のタネでしかない。

 

「それより、川神院ってこっちで合ってんの?」

「俺が知るかよ。つうか、この運び方どうにかなんねえのか?」

 

 今俺と与一は一子を運んでいる。

 最初は与一も渋ったのだが、弁慶の名前を出すだけで素直になった。

 

「いやさ、汗を掻いた女の子を背負うのは可哀想だろ? 色々気にする年頃じゃん。俺は気遣いのできる男だから」

「いやいやいや、この運び方の方が可哀想だろ。周囲の視線を見ろよ。明らかに俺たちを見てるぜ」

「それは与一が人気者だから。さすがは偉人のクローン」

 

 ちなみに一子がどのように運ばれているかと言いますと、非常に簡単です。

 まず、手足を縛ってそれを棒に括り付けます。

 それを俺と与一で運んでいるだけ。

 一子の下に火でもあれば、いつでも丸焼きが出来そう。アニメとかで豚が焼かれる絵って大抵こんなんだよね。まあ、さすがにそんなことはしないけど。

 

「まあ江戸時代とか殿様はこんな感じで運ばれていた訳だし、問題ない」

「籠があればな。これじゃあ、ただの見せもんだ」

「歌でも歌う? 陽気な感じで」

「ふざけんな」

 

 とか言いながら一緒に歌ってくれるあたり与一は心根は良い奴。

 

「おー着いた、着いた。看板通りだな」

 

 川神院は観光名所としても有名なので、そこかしこに案内板が有った。

 それを辿るとすぐに着いた。

 

「ここは……気が満ちてやがる。まさか、ここが世界の特異点なのか!?」

「あーはいはい――こんちわーっす。お届け物デース」

「なんか最後おかしくないか?」

 

 与一がツッコんでいる間に中から人が現れた。

 

「ハイハイ、ハンコは私が……お、君達は……それに一子、ナんて無残な」

 

 学園で教師を務めているルー先生がやってきた。

 学園長もそうだが、この人も川神院と学園と二束の草鞋を履いている。

 

「お疲れのようなので、運んできました」

「運んできてくれたことには感謝するガ、もっと運び方はなかったのカイ?」

「これが最良だと思いまして」

 

 ルー先生が大きくため息を吐くと、一子の手足を縛っていたものを解いて、解放する。

 

「ムム、一子、強くなったネ」

 

 一子を抱きかかえながら、ルー先生は彼女の変化に気づいた。

 

「これは、君カ?」

「与一の闇の力です」

「おい!」

 

 普段変なこと言ってるくせにこういう時になぜ反抗する?

 反抗期か?

 

「一子を一日でここまで成長させるとハ」

「化ける時は一瞬で化ける。俺はそう言う人を何人も見てきました」

「お前、それ、絶対誰かの言葉のパクリだろ」

「わかった? 昨日テレビで言ってた」

「分かるわ。真面目な事を言うお前とか気持ち悪いだけだ」

 

 コイツ、さっきみたいに地面に埋めてやろうか?

 

「ハハハ、君は面白いネ。あれだけの舞を踊れるのはどんな人物なのか、気になっていたのだけどネ、まさか既にその域カ」

「ルー先生も見ていたんですね? あれのおかげで、女子からの人気はうなぎ上りですよ――ぐすん」

「なぜ泣いてル?」

「言ってやらないでくれ。色々と事情があるんだ」

 

 あの憧れの目で満ちていた女子達が、俺の顔を見た瞬間落胆するんだよ。

 舞台上では顔を隠していたとは言え、あの態度はちょっと辛い。

 別に不細工ってわけじゃ……ないよね? ないと思いたい。

 

「じゃあ、帰りま――」

「ちっ」

 

 そう言おうとした時、後から妙な圧迫感を感じた。

 

「ほほーう、これはこれは。面白い奴が川神院に居るじゃないか」

「じゃあ、帰りますね」

 

 なんか声が聞こえた気がするけど、気がするだけだ。

 気にしたら負けだと思う。

 九鬼にお邪魔した時、要注意人物として教えられた人間。できることならなるべく関わらない方が無難だと思っていたけど、このタイミングで出会うとは思わなかった。

 

「おいおい、私を無視することないだろー」

「百代、後輩に無意味に絡むのは感心しないヨ」

「ルー師範代、無意味とは酷いなー。コイツは面白い。あの舞台での足運びは常人のそれとははるかにかけ離れている。コイツは強いですよ」

「え?」

「なんだその驚愕した顔は?」

 

 俺ですか?

 与一君っていう面白人間がいると言うのに、俺の方が面白いとか、なにその最大級の侮辱。嫌がらせ? 先輩のすることじゃないよね。

 

「帰ります……」

「おいおい、なんなんだ? 今度は落ち込んで」

「与一、帰ろう」

「あ、ああ」

「おい、待てって」

 

 横を通り過ぎようとした俺の肩を先輩が掴もうとした瞬間、

 

「……! やはり面白い」

 

 なんとなく弾いたら、さらに笑みが増した。

 それと同時に圧迫感が膨れ上がった。

 

「百代!!」

「止めないでください」

「いや、止めてください」

 

 なんか確実に戦闘になる雰囲気なんだけど、帰ってちくわ持っていかないとマジでキレられるんだぞ。

 アイツがキレると与一の命が……。

 責任をとれるのか? 葬式は意外と金が掛かるんだぃ! 与一のことだから戒名もらうとか言いだすだろうし。

 

「おい、なんだその可哀想な目は。やめろ、俺はまだ死なない」

「それ、死亡フラグ」

「さっきから私を無視するとはいい度胸だ」

 

 豊満な胸をこちらに見せびらかすように腕で抱えるポーズをとる。

 おそらくは偉そうなポーズをとっているのであろうが、普通に考えたら胸を見せびらかしているようにしか見えない。

 普通の男なら効くだろう。かなり有効な攻撃だ。

 だが、そこは弁慶という偉人に鍛えられた俺。さらに言えば清楚先輩という素晴らしき年上のお姉さんが近くにいたのだ。

 これくらいで崩れるほどのやわな精神を俺はしていない。

 

「ルー先生、後よろしくお願いします」

「百代、ちょっとこっちにくるネ。説教が必要だよ」

「なっ、教師に頼るとは卑怯だぞ」

 

 怖い先輩に絡まれた悲しい後輩のとる行動、それはズバリ、権力者に頼る事です。学校で言えば教師。

 つまり俺の行動は正しい。

 

「じゃあ、三度目ですね。さよなら~」

「お、おい!! 私と勝負してくれ~~っ!!」

 

 与一を生贄にできないだろうか?

 帰宅しながら考えよ。

 

 

 

 

 

 

「与一、これくらいで良いかな?」

「姉御はちくわならいくらでも入るぞ」

「冷蔵庫に保存してあるのはこれだけなんだよ。弁慶が暴れたら、与一……アーメン」

「ふざけんなっ!! つうか、せめてそこは日本式にしろよ」

 

 まあ、別に俺はキリスト教でもなんでもない。

 

「源氏式、アルゼンチンバックブリーカー……大技だな」

「不吉なこと言うんじゃねぇよ」

「葬式には行こうと思う」

「俺の死は確定事項なのか?」

「さあ? 弁慶の気分しだいだろ」

 

 あいつが川神水とちくわで満足できなければ、それまでという事だ。

 

「まあ、そんな与一君が可哀想だから、ちょっと簡単なものを持っていこう。温めるのは向こうで良いでしょ」

「お前、何気に自活できる奴だよな」

「小さい頃からそういうのはやらされたんだよ。でも、男として料理できる方がモテるポイント高いだろ?」

「さあな? 別にそういう事に興味はないから」

 

 イケメンは死すべし。

 何も努力もなく、女子が寄って来る発言か。

 コイツを葵冬馬にでも、渡そうかな。手足を縛った状態で。ご自由にどうぞとか張り紙でも張っておけば面白い事になるかもしれない。

 

「やめろ」

「何を?」

「お前、今不吉な事を考えただろ」

「エスパーだったのか!!」

「って、本気で考えてたのかよっ!!」

 

 ち、謀とは味な真似を。

 

「さ、急ごう。義経が寂しくて泣いてしまう」

「アイツはウサギかっ!! ってそうじゃねぇ、お前何する気だっ!! 姉御か? 姉御の前に俺を差し出す気なんだな。手足とか縛って」

 

 惜しい。差し出す相手が違う。

 

「ではしゅっぱーつ!!」

「俺は捕まらねぇ!!」

 

 なんか、俺たち色々かみ合ってなくね?

 

 

 

 

 

 

「おそーい!!」

 

 与一の部屋にすでに全員が集合していた。

 出迎えに清楚先輩のお叱りを受けた。

 

「……ドアノブが壊れてたけど?」

「お、俺の部屋が……」

「あ、それは私。軽く捻ったらとれちゃった♪」

 

 可愛く言ってもダメだよね?

 弁慶さんの剛力は全く隠せてないから。

 

「済まない、与一。義経も止めたんだが、力及ばず情けない」

「いや、義経は悪くねぇから。姉御のバカ力のせいだから気にすんな」

「与一……」

 

 なんだろう、与一、本当に義経には無駄に優しい。

 たまに不貞腐れるような態度を取るが、義経が泣きそうになると、こうやって優しく接する。ツンデレ属性を義経限定で発動させるとか、どんな部下だ。

 義経さん、感動してますよ。

 

「じゃあ、今日は与一の属性を何を付ければいいかを、話し合おう、UNOしながら」

 

 持ってきたものをインスタントの皿において皆で摘まむ。

 与一の部屋には集まる頻度が高いので、電子レンジやコンロなど温められる物が取り揃えられていた。

 というか無理やり付けた。九鬼の人に頼んで。その所為で、与一の生活スペースが圧迫されることになったが、与一だからよし。

 

「くー、やはり金太郎が作ったちくわは川神水によく合う。あ、黄色で」

 

 ちっ、色を変えてきやがった。

 

「ざーんねーん。赤に戻すよ」

「清楚先輩ナイスだ」

 

 俺の特性かまぼこを上げよう。

 

「フ、SKIPだ」

「あ、バカ与一」

 

 俺の順番が……。しかも地味に英語の発音がうぜぇ。

 

「義経はここで勝負に出る、ドロー4」

「じゃあ、私もドロー4で」

「私も」

「仕方ねえな、俺も。ほれ金時、黄色だ」

「なんで俺がドロー4を持っていなかのように色を指示してきやがる。持ってるかもしれないだろっ」

「持ってるのか?」

「持ってねぇよっ!!」

 

 いきなり16枚とか嫌がらせの域だろ!!

 

「ふふふ、これだけの手札、しかも俺から。攻めちゃうぞ」

「ああー、これはあれだね。金太郎の強運の為せる技だ。まさか、16枚も引いて記号カードを何一つ引けなかったなんて」

 

 なんで分かるんだよっ!!

 

「金君ってこういう勝負だと、すぐに顔に出るんだよね」

「ドロー2で義経は行こうと思う」

「残念、リバース」

「むむ、金時、済まないドロー2だ」

「義経なんて嫌いだ」

「き、金時っ!?」

 

 ハァ、折角4枚も引いたのに、また数字だけ。

 

「凄いな、金時。カードを集めるルールなら完敗だぜ」

 

 鼻で笑いやがった。

 このとき、なぜか俺の拳が無意識に与一に吸い寄せられた。

 きっと本能だったと思う。

 

「そーい!!」

「ぐはっ」

「与一!! 誰だ、一体誰にやられたんだ!?」

 

 与一が急に腹を押さえて倒れ込んだ。

 腹部に重い一撃を受けてしまった。

 

「金君、さすがにそれは最低だよ」

「犯人はお前だ」

「うぅ、金時に嫌われてしまった。義経は、義経は……」

 

 非難の視線が一斉に俺に浴びせられる。

 

「俺は無実だ!! 与一は何者かにやられてしまったんだ。それと義経、冗談だから本気で落ち込むな」

「ホントか!!」

 

 義経さんの笑顔を見ていると癒されます。

 この笑顔で皆も癒されては――くれないわけね。

 

「堂々とわき腹に拳を繰り出して無実も何もないだろ」

「金君、ルール破りは罰ゲームだね♪」

「清楚先輩、まじ清楚……?」

 

 そんなルールありましたっけ?

 あと弁慶さん、その、どうせ負けて罰ゲームだろ的な目で見るのやめてくれない?

 

「じゃあ、罰ゲーム。何が良いかな~?」

「相談を持ちかけるふりして、既に準備するのやめてくれません?」

 

 彼女は与一の部屋にあった冷蔵庫から、あるものを取り出し、それをぐるぐると混ぜ始めた。

 弁慶はこんな時だけ無駄に速く動き、俺の身体をがっちりとホールドする。

 

「弁慶さん、パイオツが背中に当たってるけど……」

「まあ、金太郎にならそれくらい良しとしよう。さ、清楚準備は整った」

「骨は拾ってやるぞ。義経に任せろ」

 

 合掌するのやめてください。

 

「じゃあ、お姉さんが食べさせてあげるから」

 

 清楚先輩は物を俺の口元に近づける。く、臭い……。

 

「し、死ぬ」

「はい、あーん」

 

 この人たち鬼畜や。

 俺はその感想を抱いた後、意識を失った。

 口の中で感じたねっちょりとしたものが、不快この上なかったことだけは覚えている。

 

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