舞う英雄   作:生物産業

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第6話 作戦会議

「気を失ったか」

「ホント、金君はこれダメだよね。美味しいのに。あーむ」

「義経も好きだぞ、〝納豆"」

 

 金時には抗うことができないものが三つある。

 一つ、弁慶と清楚のお胸様。

 二つ、義経の涙。

 三つ、納豆。

 臭いで意識を失いかけ、口に入れられた瞬間に完全に気を失う。

 

「なんでダメなんだろうね?」

「よく分からないけど、トラウマに似た反応だな、これは。与一もよくやる」

「弁慶ちゃん、与一君にもう少し加減してあげなきゃダメだよ。これ以上頭が変になったら大変だよ」

 

 清楚の言葉に弁慶は思わず苦笑する。

 それは義経も同様だった。

 与一が気絶していて良かったなと二人は思った。

 清楚は純真で無垢だ。だから、何気ないその発言は彼女から出た本音である。

 それを心が豆腐で出来ていると言われる与一が聞けば……おそらく引きこもる。

 

「あは、金時の寝顔、可愛いな~。義経はなんだか嬉しくなるぞ」

「でも、なんかうなされている気がしない? 悪い夢でも見てるのかな?」

「んーわからん。とりあえず、口の中に残った納豆の処理くらいしてやるか」

 

 弁慶は持っていた瓢箪を直接金時の口に近づけた。

 いわゆる間接キスというやつだが、もう何度もやっていることなので、弁慶は別段気にすることなく、川神水を金時の口の中に流し込んでいく。

 そして、それが当然かのように手で鼻をつまみ、空気の通り道を奪った。

 

「弁慶ちゃん、それはさすがに……」

「お、おい、弁慶、金時が暴れているぞっ……あ!」

 

 金時は生気がなくぐったりとしている。

 口の洗浄を終えたと、弁慶は一息つく。金時が生死の境をさまよっているとは彼女は露ほどにも思わなかった。

 

「さて、二人の意識が戻るまで、私たちは風呂にでも入っていようか。義経、頭洗って上げる」

「二人を放置して大丈夫か? 義経は、本気でそう思う」

「大丈夫、大丈夫。金太郎はそんなやわじゃないし。与一はすぐに目を覚ますさ」

 

 金時と与一を綺麗に並べ、手は胸のあたりで組ませている。

 さながら神に捧げる生贄のようだ。

 

「お風呂あがってそれでも、目を覚まさなかったら、クラウディオさんを呼べば大丈夫じゃない?」

「そうそう。さ、お風呂でのんびり川神水だ~」

「弁慶、さすがにそれはダメだ。ホントに溺死しかねない」

 

 以前溺死しかけた弁慶。

 義経は川神水を取り上げてから、固く注意をする。

 しょぼんとした弁慶は、清楚に背中を押されながらも風呂場の方に向かって行った。

 

 …………

 

 ああ、なんだろう。凄くいい匂いがする。

 あの腐され納豆とは雲泥の差だ。

 

「トイレの消臭剤か? む、視界が暗い」

「おきて早々失礼な奴だな。これはシャンプーの匂いだ」

 

 目を開けると大きなメロンが二つ。声の主からして、このメロンを持っている人物は弁慶さんですね。

 

「これはあれですね。膝枕という、うれしドッキリなイベント」

「金太郎は、意外とエロいよね」

「男の子ですから。パイオツに夢を抱くのは当然だろ」

 

 弁慶が少し前に動くだけで、俺の顔をぽよんと柔らかいクッションがつついてくる。

 ここは天国か!

 

「そう言えば、他は?」

「清楚と義経はまだお風呂。紋白が途中で入って来たから、話しこんじゃってね」

「紋々か。アイツはエネルギッシュだからな。まあ、九鬼の人間全員に共通するけどね。あれ、でもじゃあ、なんで弁慶はここにいるの? お風呂好きなはずじゃん」

「金太郎にいたずらする方が面白そうだから早めに上がって――別に顔に落書きなんてしてないよ。ちょっと一本一本髪の毛を抜いてただけ」

「うおい!!」

「冗談だよー、冗談」

 

 鏡見たら禿てましたなんてことはないよね?

 あったら、九鬼の人になんとかしてもらおう。九鬼の技術力世界一のところを見せてもらわないと。

 

「与一は?」

「さっき起きてどっか行ったよ。たぶん弓の鍛錬」

「さすが。俺も後で舞の練習しなきゃ」

「まあ、与一も義経の部下だしね。主を守る力くらい身に着けておかないと、いざと言う時に困る」

「弁慶は?」

「私だって鍛錬くらいしてるよ。面倒だけどね」

 

 そんなこと言っても強い弁慶さん。世の中の理不尽さがここには有った。

 

「首が痛い」

「私に膝枕をしてもらって、その感想とは贅沢な奴め」

「英雄に膝枕とか、俺凄くね?」

「凄くないよ」

「あ、メールだ」

「また何とも唐突だね。誰? 金太郎に私たち以外に友達なんか居たっけ?」

 

 さり気に失礼な事を言いやがる。

 

「はてさて…………」

 

 画面に映し出された件名に書かれている名前を見て、絶句。

 持っていた携帯が力を失った俺の手からこぼれ落ちる。

 ベートーベン『運命』交響曲第五番第一楽章が俺の頭の中で何度も響いていた。じゃ、じゃ、じゃ、じゃーん。

 

「金太郎はホント顔に出るね。なに、その絶望感たっぷりな表情は?」

「なぜだっ!? 連絡先なんて教えてなかったはず。それなのにどうして……」

「うわぁ、私の話が聞こえてないよ。相当ショックだったんだね」

 

 弁慶が何かを言っているけど、正直どうでも良い。

 全身から血の気が引くのを感じる。

 明日からずっと学校が休みになって欲しい。割と切実に。

 

「俺、転校するわ」

「ホント、急だね。何か嫌なことが有ったの? 悩みがあるなら聞いてあげるよ」

「優しい弁慶さんとか、ちょっと胸にぐっとくるんですけど」

「その代わり、川神水に合うおつまみを用意してね」

 

 あ、やっぱりギブ&テイクの関係ですよね。

 もう少し、ラブラブな展開とかありませんか?

 

「じゃあ、軽く卵焼きを」

 

 のそのそっと起き上がる。弁慶さんのおもちから離れるのはちょっと寂しいけど、ここは彼女の知恵が必要だ。そのためのエネルギーを俺は手に入れないといけない。

 とりあえず、九鬼家のキッチンを目指す。材料はかっぱらおう。

 

「おーお、金時ではないか」

「紋々じゃないか」

 

 キッチンに向かう途中、風呂上がりの紋白と、義経、清楚先輩に遭遇した。義経とか髪を下しているからちょっと色っぽい。清楚先輩は言わずもがな。紋々はチンマイ。

 

「我をそのように呼ぶでない。紋様と呼ぶがいい」

「ないわ。お前の部下でもないのに、年下のお前を様付する趣味は俺にはない。むしろ、金時様と呼べ、先輩を敬う感じで」

「たわけが。我は九鬼ぞ。九鬼は支配者側なのだ。様付などありえん。せいぜい先輩と呼ぶ程度だろう」

「じゃあそれで」

「だが断る!! 金時は金時なのだー!! うはははは」

 

 元気っ子め、なんて騒がしい。ご近所に迷惑が掛かるでしょ。

 まあ、この巨大な屋敷で迷惑が掛かるなんてありえないけど。

 

「生意気なチビッ子め。本来ならお尻ぺんぺんの刑に処すところだが、それをすると」

「当然、お前が串刺しになる」

 

 どこからともなく現れる、似非紳士。

 溢れるダンディズムを惜しげもなく披露するこの男は、九鬼家の中でもっとも危険な存在。

 

「ヒューマンさん」

「ヒュームだ、バカもの。本当に串刺しにするぞ」

 

 この串刺し好きめ。すぐに刺そうとするんだから。

 

「あ、厨房を借りますね。ついでに食材も」

「ふん、好きにしろ。どうせ、弁慶のパシリだろう?」

「正解!! さすがは歳を重ねているだけある」

「あまり調子に乗るのは頂けないな」

 

 それと同時に拳を繰り出してくる。

 当たると痛いので、軽く逸らす。

 これが似非紳士たる部分だ。すぐに暴力に訴える。

 もう一人の老紳士を見習ってもらいたい。

 つまらないダジャレをいう事を除けば、あの人はかなり万能な人だ。

 

「上品さに欠けますよ?」

「ふん、相変わらずの動きだ。ステイシーあたりに身に着けてもらいたいものだな」

「ロックンロールを民謡に変えれば良いんじゃないですか?」

 

 話も終え、厨房に向かう。

 なぜか、紋々と清楚先輩がついて来た。

 

「夜食べ過ぎると、ぶくぶくになるぞ」 

「ふはははは、我は育ち盛りだから問題はない!!」

「うるせーよ。先輩はお腹押さえてるけど?」

「最近お腹まわりがちょっと気になるの」

「のわりに、つまみ食いをしようとする先輩であった」

「もう!! でも、金君の料理がおいしいからいけないんだよっ!!」

「なんという責任転嫁。紋々、ここは九鬼の人間として言ってやれ」

「清楚は美人だし問題なかろう。それに十分スリムではないか。あまり痩せすぎても健康的な女性とは言えんぞ」

「そうですね、あと30キロくらい肉を付けるのがベストだと思います」

 

 九鬼の執事は神出鬼没じゃないといけないのか?

 

「クラウ爺、お前の趣味をとやかく言うつもりはないが、あまり女性にそういう事を言うのは失礼だぞ」

「なんて正論。さすが紋々。そしていきなり現れたことにツッコみを入れない辺り、相当慣れている」

 

 チビッ子という一点を除けば、一番大人な紋々であった。

 お茶の用意を整えると、老執事は去って行った。

 

「清楚先輩、あれはあくまであの人の意見だから、やけ食いとかしようと思わないくださいよ」

「しないよ!!」

 

 ぶくぶくになってもこの上品さを保てるかな?

 どうしよう、ピザを常備しているような人になったら。

 

「ちょっと見てみたい」

「金君、変な想像してるでしょっ!!」

「与一の部屋にあるパソコンでコラージュしてみよう。いやー最先端技術は怖いですなー」

「ちょっと与一君と話してくる」

 

 与一のパソコンがあの意味不明な剛腕の下に撤去されるかもしれない。

 

「清楚もたまに暴走するものよな」

「紋々は何食べたい?」

「うむ、金時特製チャーハンだな」

「ここでケーキとか言ってこないところが、弁慶とは違う」

「ケーキは時間がかかってしまうであろうが」

「バカめ。俺の実力を甘く見るなよ。気を使えば、ものの五分で作ってやるわ」

「なんという気の無駄遣い……」

「もっと褒めて~」

「褒めておらんわ、たわけめ」

 

 いやいや、気を戦うためだけに使っている人よりはかなり有意義だぞ。

 弁慶の介護がてらに身に着けたこの技量は、世界で通用すると思っている。

 

「つーか、お前勉強は良い訳? いつもならこのくらいはやってるじゃん」

「今日はお前が泊まるに来ていると聞いてな。だから、早めに片付けてきた。UNO合戦に我も参戦するぞ」

「UNOは死んだんだ。あれは不幸しか招かない。やはり人生ゲームで人生を見つめなおすところから始めないと」

「ああ~、お前はこういう運は持ち合わせておらんからな。決してギャンブルに手を出してはならんぞ」

「お前は俺のオカンか」

 

 紋々のデコにチョップをかます。

 さすがに暴力執事も対処できなかったようだ。ふふ、ざまーみろ。

 

「何をする!」

「そのペケ印が俺の本能に訴えかけてきた。殴れと」

「これは九鬼の証だ!! ふはははは」

 

 そんな嬉しそうに言われても困るんですけど。

 

「よしできた」

「しゃべりながら、てきぱき動いておったが、さすがよのぉ。というかホントにケーキが出来ておるわ……」

「これを弁慶に食べさせ、次の日の体重計で悲鳴を上げさせる作戦」

「あやつは食ってもあまり変化はおこらんだろ」

 

 そうなんですよね。

 世の中の大半の女性を敵に回してますよね。

 

「卵焼きに、紋々ご所望のチャーハン、そしてデザートにケーキと、かまぼこ」

「なぜナチュラルにかまぼこがデザートに入っておる?」

「かまぼこは別腹だから」

「ふむふむ……って納得できるかっ!!」

「ノリツッコミとはなかなかやるじゃないか。芸人の道に一歩近づいたな」

「我は九鬼ぞっ!!」

「九鬼は多芸じゃん。一人くらい芸人が居ても良いでしょ」

「良くないわっ!!」

 

 紋々の攻撃を軽くあしらいながら、与一の部屋へ。

 これだけ用意したのだから、奴への対策を皆で考えてくれるだろう。

 

 ◇◇◇

 

「では、作戦会議を――って、はいそこ! 無視して人生ゲームを始めない。というか俺も混ぜろ」

「金太郎は最後で良いでしょ? むむ、いきなりハワイ旅行で一回休みか」

 

 卵焼きを肴に、川神水をぐいっと行く弁慶さん。

 全く話を聞いてくれるような感じじゃない。

 

「あ、私は武者修行に出て、レベルが30に上がっちゃった」

「この人生ゲーム、お金じゃなくて武力で結果が出るからな。まったく川神らしいぜ。最後に武神との決闘に勝利すれば1万レベルアップだからな。よし、弓兵同士の決闘での勝利。闇レベル50だぜ」

 

 ぶっちゃけ終わりがない。飽きるまでゆるゆる続く謎のゲーム。

 普通にヒュームさんとかこのゲームにいるからな。武神を倒した後のボーナスステージとかで。

 

「それより、金時の話とはなんだ? 作戦会議のようだが」

「ケーキに満足する義経が可愛い~」

「酔っぱらいは戦力外の方向で――で、実は相談があるんだ。明日から、俺の宿敵たる人物が川神学園にやってくるとの情報が入った。どうすれば抹殺できるか考えて欲しい」

「抹殺とは物騒な話ようのぉ。あむ」

「紋々、ご飯粒が付いてるぞ」

 

 全く育ち盛りだからとは言え、むしゃむしゃ食べすぎだぞ。

 清楚先輩と義経はケーキ。弁慶が卵焼き、俺と与一がかまぼこ。紋々がチャーハン。

 明らかに、紋々の量が間違ってるけど、まあそれはいい。

 大事なことは奴を屠る作戦を考えられるかどうかだ。

 

「生クリームを鼻に付けている清楚先輩、何か良い案を」

「へぇ!?」

 

 赤面する清楚先輩は、ティッシュでクリームを取った後、こほんと咳払いをして話し始める。

 

「その抹殺する相手と言うのは誰なのかな?」

「敵」

「それだけでは情報が少ないと義経は思うぞ。あとなるべく争い事は避けるべきだ」

「それは無理な相談だ。俺のアドレスを奴はどういうわけか手に入れている。何年も連絡を取ってなかったのに、なぜか知っていたんだ。俺の現在住所が割れている可能性も考えると、こちらから行くしかないだろう。ちなみに引っ越しの準備ができるまで与一の部屋に泊まろうと思う」

「泊まらせるか!! アホ」

「なら、私の部屋でも良いよ」

「え、マジ!? さすがは弁慶さん」

「弁慶、さすがにそれは拙いと思うぞ。男女なわけだし」

 

 それって今更だよね。

 今の弁慶さんの格好見てくださいよ。

 裸ワイシャツですよ。ちょっと動けば色々見えてしまいます。

 俺や与一がいるのにその格好なんだから、もう気にしないだろ。

 

「いや、余裕」

「金太郎に同じく。ずっと飲んでいられそう」

 

 まあ、別に俺が居なくても飲んでいそうだけど。

 

「でも、そんなに嫌いな子なんだ」

「そうなんです。もう最悪です。正直、川神学園転校を考える程です。ああ、しないから義経はそんな顔するな」

「そうか! 義経はホッとした」

 

 全く、可愛い奴め。

 

「でも、さすがに抹殺は良くないであろ?」

「紋々、男にはやらねばならんことが有るのだ」

「お前にそこまで言わせるとは、一体どのような人物なのだ?」

 

 やはり気になるか。

 

「アイツを一言で表現するなら『納豆』だな。二言目には納豆と言っている」

 

 皆がああという顔になる。それと同時に和やかな空気に変わった。なぜだ?

 紋々だけは何かを考えているけど。

 

「ああ、そういう事か。お前納豆嫌いだもんな。てっきり向こう側の世界の人間かと思ったぜ」

「バカめ。何を納得した気になっている。アイツの納豆脳は常軌を逸している」

「バカとか言うな、傷つくだろ」

「とりあえず、与一は置いておいて、具体的に何をするのさ?」

「まず人の食事すべてに納豆をかける。アイツの味覚が壊れているのかどうかは知らないけど、とにかく納豆マニア。毎日、毎日、毎日、毎日、茶、茶、茶、茶の光景が繰り返される。食卓のすべてが茶色に染まるとか拷問でしょ」

「うっ、さすがにそれは嫌だな。魔に魅入られた俺でも抗う事は無理そうだ」

 

 魔がどうとか言うレベルじゃないから。

 四六時中、納豆の臭いが身体に付いているようなあの感覚。

 

「分かるか? 風呂場でさえ、納豆の臭いがしてるんじゃないかって思ってしまう程追い詰められた当時小学6年生の俺を」

「それで中学から私たちの通ってる中学校に来たわけか。あんな島によく来たなって思ってたけど」

「京都はダメだったんだ。俺の周りには洗脳された奴らが多くて、手遅れだった。だから、関東で暮らしている親戚の下に逃げた」

 

 皆が俺を同情の視線で見た。

 ただ、一人だけ違う視線を向ける人物が……紋々だ。

 

「どうした、紋々。おねむか? さすがはチビッ子」

「なあ、金時よ。お前が敵と称するその人物は女性か?」

「ああ、歳は一つ上だな」

「むむ、まさかそうであったとはな――金時、すまぬ」

 

 紋々が急に頭を下げてきた。

 

「どうした? 与一のあまりにも残念っぷりに耐えられなくなったか?」

「おい」

「そうではないのだ。お前が敵と定める人物――松永燕であろう?」

「…………」

「ちょっと我との件でな、あやつとは仕事の関係を結んだわけだが、その際にお前の連絡先を教えて欲しいと聞かれたので、教えてしまったのだ。小さい頃から一緒だった弟のような存在が急にいなくなってしまったというのでな。それは可哀想だと思ったし、幸い我の知る人物だったから」

「気軽に教えてしまったと。ふっふっふっふ、紋々、お前は大変なことをした」

 

 俺がそう言うと、紋々はしゅんとなった。

 それと見て、弁慶にアイコンタクト。

 頷いてくれるあたり、通じたようだ。

 

「これは罰を与えねばらならない。個人情報の大切さと言うものを教えてやろう」

「覚悟は出来ている」

「その心意気やよし」

 

 弁慶に合図を送ると、がっちりと紋々をホールド。

 いきなりの事に紋々は焦るがもう遅い。

 

「かつて、英雄源義経が泣きじゃくった拷問」

「そ、そんなものが……」

 

 驚愕。

 ナイスリアクション。

 

「こちょこちょの刑――こちょこちょこちょこちょ」

「あっはははははは、や、やめ、るのだ!! あはははは」

「それは無理な相談だ。こちょこちょこちょ」

 

 紋々は目に涙をためながら笑い続ける。

 義経は当時のことを思い出したのか、やられてもいないのに苦悶の表情を浮かべる。

 与一は呆れ顔。清楚先輩は苦笑い。

 弁慶は当然ながら、俺に加担している。

 

「ふーはーふーはーふー……」

 

 笑い疲れた紋々が床に倒れたまま起き上がってこれない。

 まあ、これは彼女の罪だから仕方がない。

 

「さて、俺の情報がバレた理由は分かったけど、もうそこは良い。問題はどうやってアイツを屠るかだ」

「ねえ、ちょっと気になったんだけど、普通に倒せば良いんじゃない?」

「無理です。アイツの強さはまさに鬼神だった」

「でも、それって小学生の頃の話でしょ? 今なら……」

「……なるほど!! いや、しかし待て。違うんだ、アイツには一つ厄介な技が」

「金時が恐れる技とは、義経は少し気になるぞ」

 

 いや、あれは技と称していいかどうか……。

 

「アイツは人の食事に瞬時に納豆を乗せる。あの時点で、相当な速さだったから、現在の速さはまさに一瞬だろう。うどんを食べようとしたら、いつの間にか納豆が掛かってるなんてことがよく有るぞ」

「ねぇよ」

「お前はアイツの恐ろしさを知らない」

 

 きっと与一もアイツの毒牙に掛かってしまうんだろう。

 

「じゃあ、近づかないようにするしかないね」

「アイツはどこからともなく現れる」

「幽霊か」

「ぶっちゃけ俺もそうじゃないかと疑っている。ここの執事達と同じで、神出鬼没」

「げぇ」

 

 与一が苦虫を潰したような表情になった。

 まあ、コイツもヒュームさんには苦労しているからな。

 

「やはり抹殺するしかないか。ドン、ここはお願いします」

「へぇ、私!?」

「マフィアのボスのクローンと噂される清楚先輩なら、こうどっかーんとやってくれるはず」

「それ英雄じゃないだろ」

「そこは気にしない」

「気にしてよっ!! 私は紫式部か清少納言あたりのクローンだと思っているの!!」

「二人ともタイプが違うし。清少納言は性格が悪かったとか、紫式部さんがデスってた気がする……あ、ちょっと納得」

「金君は私の事をなんだと思っているのかな?」

 

 ニッコリと笑っているけど目が笑っていない。

 言い知れぬ圧迫感に、与一ともども後ずさった。

 

「(ねぇ、あの時々出る威圧感半端なくない?)」

「(ああ。あの人に強く出られると断りきれないからな)」

「(もしかして、超凄いクローンとか?)」

「(可能性はあるな)」

 

 コソコソと会話をしていると、清楚先輩が近づいてくる。

 

「何を話しているのかな?」

「そんなの清楚先輩が綺麗で美人だなって話に決まってるじゃないですか」

「与一君?」

 

 む、ここでメンタルが豆腐と名高い与一に的を絞ってくるとは!!

 

「金時の奴が悪口を言ってました」

「おい!!」

 

 こいつ、友人を売りやがった。俺がよくやる手をここで発動するなんて!

 

「金君、ちょっとお話しようか」

「い、いぇっさー……」

 

 ずるずると引きずられて行く俺の頭の中には、ドナドナの歌が不意に流れた。

 

 その後、納豆地獄を味わった俺は、二度と清楚先輩に対してふざけないことを心に誓った。あの人、ホント怖いっす。

 

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