舞う英雄   作:生物産業

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第7話 敵来る

 翌朝、正直憂鬱な気分だ。

 俺は与一の部屋に泊まり、もしかしたら有ったかもしれない襲撃に備えていた。

 有ったかもというより確実に有ったんだ。

 だって制服を取りに帰ったら、明らかに人が入ったあとが有ったから。

 不法侵入で訴えようかな?

 

 犯人が奴ではない可能性?

 それはありえない。

 だって、冷蔵庫にこれでもかと言う程の納豆のパックが入れられていたもの。蓋が空いてたら俺は死んでいただろう。

 

「ハァー」

「お前、そんなに嫌なのかよ」

「それはお前が弁慶をどう思っているかという質問と同じだな」

「……すまん」

 

 与一君は気遣いのできる子でした。

 まあ、与一は俺と違って別に弁慶が嫌いな訳じゃない。ただ圧倒的に苦手なのだ――拒否反応が出るくらい。

 俺の場合は咄嗟に迎撃態勢が入るな、奴になら。弁慶さんとかマジ女神に感じるレベルだもん。

 

「川神が納豆に染まるのはどのくらいかな……」

「そんな遠い目をするなよ」

 

 与一が心配してくれてるのだが、足取りは非常に重い。

 学校、サボろうかな。

 

 

 

 

 時とは無情に過ぎ去るものだ。

 どんなにゆっくりと歩いたとしても、学園に向かって進めば着いてしまう。

 遅刻は確実なのだが、辿りついてしまえばもう時間など関係ない。

 

「いきなり川神流無双正拳突き!!」

 

 そして現実も無情だ。

 もしかしたら、別人ではないかと言う淡い期待。

 そんな期待も目の前で行われている物をみたら粉々に砕け散ってしまった。

 武神と激しい猛攻を繰り広げている人物は、間違いようがない。

 

「松永燕……ハァー」

「あれがお前の言っていた奴か。武神相手にそれなりに戦えているな」

 

 与一が感心したように言う。

 それもそのはずだ。

 この川神学園で、武神川神百代と渡り合える人物はそうはいない。

 決闘を申し込んでも、1分も持たずにやられるのが関の山だろう。

 だが、目の前で行われている戦いは、5分は超えていた。

 

「なんでも武器が使えるのか。器用なもんだな」

「まあ、使えるってだけっぽいけど。武器を変えた時点で別人だと思えば関係ないな」

 

 昔から無駄に器用だった。

 大抵の事は出来る。たぶん爆弾処理とかも平気でやれるんじゃないかな。

 

「だが、あのままじゃ勝てないな」

「今だけは武神を応援する!! 殺っちまえっ!!!」

「どんだけの恨みがあるんだよ」

「聞きたい?」

「……遠慮しておく」

 

 チキンめ。

 金時君の悲しいエピソードはたくさんあるんだぞ。一つくらい聞いてくれるのが友人の務めだろ。

 たぶん、松永燕という存在を見る目が、今から180°変わる事になるだろうけど。

 

「終わったな。引き分けか」

「ちっ、ここはルールでもなんでも破って仕留めるところだろ。武神ともあろうものが情けない」

「他人の力頼みのお前が言うセリフじゃねぇな」

「お前は自分で弁慶を打倒そうと思うのか?」

「…………俺は特異点だからな」

「それは苦しい」

 

 歓声が沸き起こる中、松永燕は審判をしていたルー先生からマイクを受け取った。

 観客が彼女の勇姿を称え、歓迎すると盛り上がってくれたことに対しての感謝を述べるつもりなのだろう。

 

「よく見ておけ。これが川神学園、納豆計画の始まりだ」

「なんとか計画っていうフレーズは好きだが、そこが納豆になるだけで、なんかしょぼさが割り増しされるな」

「バカめ、そんなこと言ってられなくなるぞ。気が付いたら近くに納豆があるなんて状況がざらにある」

「それはそれで怖いが、別に俺は納豆は嫌いじゃないからな」

 

 俺たちが見守る中、松永燕は生徒たちに向かって猛アピールを開始した。

 

『私が武神との戦いで、なぜ粘れたかと言いますと』

 

 腰に付けていたベルトのようなところから、あるものを取り出す。当然納豆だけど。

 

『秘密はこれ。松永納豆!! もちろん、これを食べて強くなるわけじゃないけど、粘りが出ます!!』

 

 はい嘘。アイツは納豆を食べると戦闘力が膨れ上がる。

 逆に納豆を奪うとダウンする。弁慶の川神水と同じ。

 

「すげえな。あれだけ露骨な宣伝なのに、一気に生徒の心を掴んだぞ」

「それがアイツの凄さだ。俺の小学校もたったの一年で洗脳されてしまった。顔とあの雰囲気が良いから、人からは好かれる」

「あ、そう言えばネットでみたぜ。たしか納豆小町って名前でアイドルみたいなことをやっていたな。歌も出していて、オリコンにも入ったとか」

「日本は既に腐ってしまったのか、納豆だけに」

「別に上手くはないからな」

 

 海外に逃げるしかないのか?

 向こうの人たちは納豆を敬遠するはず。いや、待て。アイツならもしかしたら洗脳が可能かもしれない。世界を納豆で征服する女……なんて恐ろしい奴。

 

「さて、教室に行こうじゃないか。さも通常の時間で登校していた感を出して。さり気なさが大事だな」

「出席確認を取ってるはずだから無意味だろ。まあ、俺たちのような存在は嫌でも目に付いちまう。この溢れんばかりの闇が――」

「さあ、行くぞ」

「最後くらいまで話聞いてくれても良いだろ!!」

 

 その後、さり気なく教室に入ったのだが、担任にバレて、鞭を食らうはめになった。

 

 ◇◇◇

 

 学校の中では戦々恐々だった。授業が終わり休み時間になれば、必ず窓際に移動する。

 いつでも逃走できるようにだ。

 

「お前、今日おかしくねぇか? 体調が悪いなら言え」

「ゲンさん……」

「勘違いすんじゃねぇ。おめえの事を梅先生から任されちまったんだ。おめえに何かあったら俺の責任だろうが」

「ツンデレ乙」

 

 目つきと口調の所為で不良扱いされるているゲンさんこと、源忠勝。義経の子孫かと思って聞いてみたら全然関係がないって言われたのが話すキッカケとなった。

 席が俺の前という事もあり、担任の梅子先生から俺の面倒を見るようにと。転入した日に言われ、何かと気遣ってくれる非常に優しい人だ。

 俺が女だったら確実に惚れている。

 

「バカ言ってんじゃねぇよ。ま、冗談が言えるなら身体に問題はないって事か」

「あ、ゲンさんって確か何でも屋だよね? ならさ、ちょっと抹殺して欲し――」

「金ちゃ――うっ」

 

 その言葉が聞こえた瞬間、全身から一気に汗が噴き出す。

 ゲンさんと話していたことで気が緩んでしまった。

 背後から掛けられた声に咄嗟に反応して、身体を上手く入れ替えて首筋に一撃。

 意識を奪う。

 

「一子!! おい、何してんだ!!」

「か、一子だったのか。焦ったぜ、ふぅー」

「ふぅーじゃねえよ!! 一子気絶してんだろうがっ」

「俺の背後を取るとは……成長したな。よいしょ」

「てめぇはどこかの13かよっ」

 

 無理やり気絶した一子を起こす。

 

「は! 私は一体何を……」

「ゲンさんのあまりにイケメンすぎる顔を見て、感動のあまり気絶したんだよ」

「吹いてんじゃねぇよ。おめえがやったんだろ」

「というか、私とタッちゃんは幼馴染なのよ。そんなことで気絶してたら身が持たないわよ」

 

 幼馴染……あれ、なんかおかしいな。俺のイメージする幼馴染ってこんな関係だっけ?

 いや、まあ、確かにアイツも俺を金ちゃんって呼ぶけど、おかしいな、ゲンさんと一子みたいな関係じゃ全然ないぞ。

 

「ゲンさん、幼馴染と上手くやる方法って存在するんだね」

「お前、ホントどうしたんだよ。さっきも抹殺とか口走ってなかったか?」

「ああそうだ、ゲンさんに依頼する内容は抹殺して欲しい人が……」

「出来るかっ!! 俺に新聞の一面を飾らせる気か!」

「見た目だけなら、問題なし」

「てめぇ、ぶっ殺すぞ」

 

 どうぞ。アイツをやっちゃってください。

 

「ねえ、金ちゃん、さっきから金ちゃんを呼んでる人がいるよ。松――」

 

 窓を開けて飛翔する。

 俺は鳥。鳥なんだ。

 与一辺りは、人間は飛ぶことを拒み歩き続くことを選んだんだとか言いそうだが、それは違う。

 人間はその気になれば飛べるから、歩いているだけなんだ。

 だから、俺は飛べる。

 

「無理だったっーー!!!」

 

 人間は空を飛べません。

 

 …………

 

「与一~、何とかして」

「気持ち悪い声を出すな。それと無理な相談だな。松永燕、あれは弓兵の俺ではどうしようもなさそうだ」

「いや、そこはコソコソ、隠れて暗殺とか」

「お前、ホントに疲れてるんだな」

 

 昼休みになり、屋上で与一とだべっている。

 窓から落ちたという事を良い訳に、午前中の授業を保健室で過ごし、襲撃を回避した。

 そして、今は昼休み。

 屋上なら出入り口は一つで、逃走経路は無数にある。いざとなったら、与一を囮に使おう。

 そういう事で、今俺たちはここにいる。

 

「ん?」

 

 屋上の扉が開いた。

 俺は全神経に指令を出す。逃げる準備を整えろと。

 

「なんだ、二人で昼の弁当か?」

「直江か。危うく全力で与一を投げつけるところだった」

「「おい!」」

 

 二人からツッコミが入ったが、正直俺はそれくらい切羽詰まっている状況だ。

 

「お前、今日はホントに変だな。急に窓に向かって飛び出すし」

「金時、俺たち人間は飛ぶことを拒んだ種族なんだぜ?」

「俺の予想通りとは与一は分かりやすいな。そして直江はなぜ胸を押さえている」

「コイツは俺の同類なんだってよ。世界の特異点同士と言う訳さ。コイツの仲間が言っていたぞ」

「な~る、要は中二病だったわけね。良かったね卒業出来て」

「ああ、与一を見ていると心の底から思うよ」

 

 中二病と元中二病……類は友を呼ぶって奴だな。

 

「じゃあ、そんな中二な直江君に一つ助言を頼みたい。クラス内で軍師なんて呼ばれちゃってる直江君、とある人物を排除したいんだが、どうすれば良い?」

「何か引っ掛かる言い方だな」

「いやいや、普通軍師とかありえないから。与一が闇の眷属とか言ってるとの同じくらいのレベルだから。さすがは元中二病、感覚が常人のそれを超えている」

「俺は闇そのものだがな」

 

 はい、与一君はしゃらーぷ。

 

「冷静に考えれば、確かにそうだ。気づかなかった……」

「ま、直江の中二は置いておいて、どうすればあの松永燕を屠れるかを」

「金ちゃん、私をそんな風に言うなんて、お姉さん悲しいよ」

 

 まさかだろう。

 俺たちは屋上のフェンスを背にしているんだぞ。

 それなのに背後から声が聞こえるとかありえないだろ。

 

「なっとー!!」

 

 まさかの背後からの奇襲。

 フェンスを跳躍し、俺たちの前に降り立つ。

 太陽を上手く利用して、下着が見えないようにした辺りはさすがと言うべきか。

 直江の落ち込みが顔に出ている。

 

「終わった……世界の終焉だ」

「お前、どんだけこの人の事嫌いなんだよ」

「まさか、そんなに嫌われていると思わなかった……冗談じゃなくて、かなりショックだよ」

「坂田と松永先輩は知り合いなのか?」

「いや、初対面です」

「幼馴染なのー。昔は一緒によく遊んだよね」

「おそろしくかみ合ってない」

 

 かみ合う訳ないじゃん。

 

「金ちゃん、久しぶりだね。なんかすっかり大きくなっちゃって。うん、合格点を上げる」

「できれば会いたくなかった。あと、人の家に勝手に侵入して納豆を置いて行くな」

「あれは、ちょっとしたお茶目だよ。ちゃんと持って帰るから、今日金ちゃんの家に行くね」

「まさか、人の家に来るための要因を自分で用意するなんて……」

「ふっふっふっふ、私は策士なり~」

「笑い方は坂田に似てるな。どことなく雰囲気も」

「直江、辞世の句は詠んだか? 今なら一瞬で楽にしてやろう」

 

 なんて暴言をはくんだ。俺の人生でワースト3に入る屈辱。

 

「金ちゃん、暴力はいけないよ。はい、松永納豆を食べればその怒りも忘れるから」

「うっ。ふざけんなよっ!! 捨てろ、それ」

 

 一気に距離を取る。

 コイツが納豆を持つと危険でしかならない。

 

「ごめんね。別に悪気が有ったわけじゃないんだ。納豆しまうね」

「おい、坂田、あまりそう言う態度は良くないんじゃないか? 先輩だってお前のことを思って」

 

 お、まさか燕がしゅんとしただけで、落ち込んでると思っているのか?

 直江、お前はにも分かっていない。

 腹が真っ黒、身体は納豆で出来ている燕は色々と腐っている。一番は頭。相手を騙すなんてのは十八番なわけよ。

 

「与一、教室に戻ろう」

「ああ」

「もー金ちゃん、冷たすぎー!!」

「昔とは違うんだ。だから、なるべく話しかけないでください。ホントマジで」

「そんなに私の事嫌い?」

「納豆を押し付けるところがかなり。嫌がらせのレベル。好きになる要素がない」

「おい、失礼だろ!! 久しぶりに会ったのに」

「直江、お前は知っているか? 大好きなものがすべて納豆まみれにあの残酷さが。目の前の食事がすべて納豆料理に変わるんだぞ? 軽く死にたくなる」

「う、それは……」

 

 直江も理解してくれたようで何よりだ。

 

「もう、昔みたいなことはしないよ。あの時は私も子供だったからね。ついつい自分の好きなものを他の人にも食べてもらいたくなっちゃったんだ。もうしないよ」

 

 真剣な顔で言う燕だが、そう簡単に信じられる訳もない。

 俺の誕生日。最高級の秋田産のかまぼこが納豆まみれになったことを俺は今でも覚えている。あの時の絶望感は半端でなかった。

 あのかまぼことはもう出会えないんだぞ。一期一会なんだ。

 

「俺はアンタを信用しない。かまぼこを返せ」

「む~ごめん、ホントごめんね!! こうなったら私がなんでも奢っちゃうから!!」

「最高級のかまぼこ、一年分」

「おい、それは俗物すぎるだろ」

「与一、それくらい俺の悲しみは深いんだ」

「私も一年はちょっと……」

「じゃあ、仲直りは無しの方向で」

「む~イケズ~」

 

 まあ、一年は冗談としても、燕に何かを任せたら、絶対納豆が絡んでくる。

 俺の知っている燕はそう言う人間。ここ何年かでどう変わったかは知らないけど、俺の知ってる燕はそうなのだから仕方がない。

 

「じゃ、ここでは全く関わり合いのない他人という事で。与一行こう」

「……金ちゃん」

 

 直江がいるし、燕は無駄に元気だから大丈夫だろう。

 ハァー女々しい感じだな。でもなー、毎日納豆は嫌だからな。こればっかりはどうしようもない。

 

 ……

 

「金ちゃん、勝負しよう」

「さっき別れて、すぐに来るとか、マジないわー」

「そのあれを見るような目は止めてくれないかな? お姉さん泣いちゃうよ」

「泣き叫べばいいんじゃない? それを携帯で取ってネットにアップするから」

「ひどっ」

 

 教室に戻った後、直ぐに燕はやって来た。

 もう止めてもらいたい。

 さり気に人気者な燕が超人気者の俺の下に来るとなると、色々と騒がしくなってしまう。

 

「断じて、金太郎は人気者じゃないから。くー川神水が美味い」

「人の教室までやって来て、さらにはさらっと人の考えてることを読むの止めてくれない?」

「なんか、私が空気扱い」

「今、愛しの弁慶さんとラブラブ中なんで、どっか行ってくれません?」

「ラブラブ?」

 

 弁慶さん、そこは空気読んで!! お願い。

 

「金ちゃんの彼女さん?」

「そうそう」

「んーそこまでは行ってないかなー」

「弁慶を信じた俺がバカだった」

「まあ、仲は良いのは事実」

「ふーん……あの武蔵坊弁慶と親しい関係か、やるねー金ちゃん」

 

 なーんか、変な事を考えているな。

 コイツがこう言う顔をする時は、大抵悪だくみを考えている証拠。

 

「で、勝負って何? やだよ、面倒だし」

「聞いておいて断るって酷い話だよね」

「金太郎、最低~」

「弁慶さんは川神水でも飲んでて」

「んー」

 

 川神水を注ぐとくいっと一気飲みして倒れた。

 そのまま机の上で寝ていてね。

 

「そうやって弁慶を落としたんだね」

「あ、俺、弁慶を届けないといけないんで、さよならー」

「ちょいっとお待ち」

 

 俺が弁慶を背負って横を通り過ぎようとした時、燕に道を塞がれた。

 

「ヨンパチ!! 松永先輩がいっぱい写真撮らせてくれるってさ!!」

「何ぃぃいいい!!! 良いのか? やっほー!!」

 

 2-Fのパパラッチ、福本育郎。みんなからはヨンパチと呼ばれている。

 彼は女性を追い求めるある意味美の探究者。まあ、大抵は下着の盗撮とか犯罪行為が多数を占めているけど、川神なら良しとされる。

 

「後輩の期待に応えるのも先輩の仕事ですよね?」

「金ちゃん、随分と強かになったね」

「年上に性格のおかしい人が居たんで、その所為じゃないですか?」

 

 カシャ、カシャと写真を取られているので、ポーズを取りながら器用に話す燕。

 なぜか、ウルトラ○ンのようなポーズがあるけど、好きなのか?

 

「じゃあ、写真会を続けてください」

「せんぱーい!! ちょっと軽く回ってもらえませんか?」

 

 パンチら狙いなのが露骨に分かるが、燕は期待に応える。さすがはアイドル。

 

「おいおい、弁慶さんをおんぶなんて羨ましすぎるぜ」

「泣くなよ」

「こうでもしないと、俺様はお前を殺してしまいそうだ!! その背中に夢一杯を感じてるんだろ?!」

 

 いつもモテたい、モテたいと言っている島津岳人。そのために鍛えた体は無駄にマッチョだ。

 黙っていれば、モテそうなものだが、ヨンパチと同様にエロい。

 エロいだけならまだしも、欲望に忠実なため、そう言った発言を往来で言ってしまうため、女子からの人気はそれほど高くない。

 わりと男らしいから、葵冬馬に薦めておこう。

 

「男の背中は夢を背負うもんだぜ?」

「無駄にカッコいいこと言ってるけど、その現実を目の当たりにすると最低だよね」

「さすが、ツッコミモロ男」

 

 師岡卓也。ガクト曰くムッツリスケベ。

 このクラスでも貴重なツッコミ担当。

 

「それにしても、お前、松永先輩と親しかったんだな」

「翔一、それは勘違いだ。親しくもなんともない。小さい頃、家が近かったと言うだけ」

 

 ガクトやモロ、さらには直江などが所属しているグループ、風間ファミリーのリーダー。

 自他共に認める自由人で、思い立ったが吉日を地で行く男だ。

 

「あんな美人と知り合いとか、羨ましすぎるぜ」

「ガクトだって、一子とか椎名とか知り合いにいるじゃん」

「京は大和一筋だし、ワン子はマスコット的なキャラだ。俺様はもっとぼんきゅぼんが良い」

「ガクトは理想が高いよね」

「モロ、男なら常に理想を高くだろ。ああでも、彼女欲しい」

「羽黒とかで良いじゃん。アイツも男に飢えてるし。やったね相思相愛な関係」

「俺様は人間の彼女が欲しいんだっ!!」

 

 ガクトがそう言うと、遠くの方から「超失礼系なんですけどー!!」と聞こえてきた。

 まあ、確かにそうなんだけど、ただお前のメイクは濃すぎるぞ。普通にすればいいのに。

 

「む~~」

 

 弁慶さん、吐くのは止めてくださいよ。

 それとガクト、股間を押さえるな。

 

「ああ、なんて色っぽい声。金時、俺と代わってくれ!!」

「さすがにお前に友人を預ける気になれないな」

 

 ホントに何するか分からないから。

 

「なら、せめて松永先輩を紹介してくれ!!」

「どうぞ、自己紹介でもなんでもしてくれ。俺は関係ない」

「お前、何かあったのか? 人辺り良さそうな先輩なのに」

「翔一、世の中見た目と中身が違うなんてよくある事さ」

「それは分かる!! モモ先輩とかその最たる例だからな」

「ほーう、ガクト、それはどういう意味だ?」

「も、モモ先輩……」

 

 武神が降臨なされた。

 なんでこうも後輩の教室に来るんだよ!!

 しかもなぜか直江がグロッキー状態で捕まっている。

 ああ、なんかもの凄く親近感がある。昔の俺を見ているようだ。

 

「ほら、言ってみろ。私の中身がなんだって?」

「そ、そりゃあ、素晴らしいなって思うだけですよっ」

「嘘はいけないぞ♪ お仕置きだ」

 

 その後、ガクトは星になった。

 

「成仏しろよ」

「死んでねぇよ!!」

「なんてタフガイ。あの攻撃を受けてその程度で済むなんて。アバラ粉砕コースだぞ」

「ふんっ、普段から殴られ慣れているからな」

「自慢するところじゃないから」

 

 きっとサンドバック代わりなんだろう。不憫な……。こいつも与一と同じか。

 

「強く生きてくれ」

「そんな憐れんだ視線を向けるなっ!!」

「そんな事より、まさか燕の気になる男の子が、お前だったとはな」

 

 なんか目を付けられた。

 

「俺と松永先輩は今日初めて会った仲ですよ?」

「金ちゃん、嘘は良くないな~。私と金ちゃんの仲は相当深い関係だよ」

「ちっ」

 

 写真撮影が終わったのか。無駄に話し過ぎた。

 

「露骨な舌打ち!?」

「つ、燕、本当に仲が良いのか?」

「良いよ!!」

「納豆の食べ過ぎで、とうとう頭まで腐ったか」

「酷すぎるよっ!! ってこれくらい冗談を言えるくらいの仲かな」

「へー」

「せめて否定をしてくれる優しさが欲しいかな」

「ほー」

「モモちゃん!! 金ちゃんが苛めるよ~」

 

 耐え切れず武神に泣きつく燕。

 それをよしよしと撫でる武神の顔はなぜかとても嬉しそうだった。

 

「私の友達を泣かせる奴を許すわけには行かないな~」

「へー」

「む、ホントつれない奴だな。ちょっと勝負くらいしてくれても良いじゃないか」

「俺、武人じゃないんで」

「ワン子を倒しておいてよく言う」

「「マジ!?」」

 

 ガクトとモロが反応した。

 

「ワン子が嬉しそうに教えてくれたぞ。成長した感じがしたって」

「それは一子の元々の力ですよ。こういうのは先輩の役目でしょうに。俺にかまけている暇が有ったら妹さんの特訓でも手伝っていれば良いんじゃないですか?」

「う、それを言われると姉としての立場がないが……」

「ホントに金ちゃん、逞しくなったよね。昔は私が付いてないとダメだったのに」

「ナチュラルに過去の捏造をするのをやめてくれません? 俺はむしろ逃げてばっかりだったから」

「燕は弟分に嫌われていたんだな。私を見習え。大和はこんなに懐いているぞ」

 

 グロッキーでぐでんぐでんになっている人間を懐いているとは言わない。

 

「直江、お前相当なMなんだな。尊敬するよ。年上キラーという名誉ある称号をあげるから、燕のことも落としてくれない? そして宇宙に旅立って」

「まさかの地球追放!?」

「というか、燕先輩の都合もあるだろう」

「とか言いながら、すでに松永先輩から燕先輩に呼称が変わってるし。さっき別れたほんの少しの間で中を発展させたか。さすがだ。その調子で頑張って。椎名なら、きっと一夫多妻制を許してくれる」

「いや、たぶん京なら――ごふっ」

 

 ガクトが何かを言おうとした時、また星となった。

 正確には黒板消しがこめかみに当たって倒れただけだけど。

 

「私は大和の後ろを付いて行くだけ。病んだりはしないよ」

「京の場合、ストーカーだよね」

 

 モロが冷静なツッコミを入れたが、特に何もされなかった。

 

「俺様とモロの扱い差を感じるんですけどっ!!」

 

 まあ、ガクトは殴られキャラなんだろう。

 

「というか良いんじゃないか? 大和はモテるし、一夫多妻制なら万事解決じゃね?」

「キャップ、それをすると俺様やモロのようなモテない組が女を手に入れる可能性が極端に減る事になる」

「ならモロとくっつけばいいじゃん」

「「いやだよっ!!」」

 

 息は合ってる。お似合いじゃない?

 

「じゃあ、やはりここは直江争奪戦を行うしかない。参加者は相手を倒すあるのみ」

 

 これで体よく燕が排除されることになる。

 武神相手なら、グッパイだろう。というか、ここは本気で武神に頑張ってもらいたい。

 

「モモちゃん相手に大和君を取り合うのは面白そうだけど、私はパス。まだ大和君とは知り合ったばかりだしね」

「燕は強制参加でしょ。武神と戦って散ってくれ」

「さり気に最低な事言ってるよね、金ちゃん。なら、金ちゃんが私と戦おう」

「俺にホモの気はない」

 

 何をとち狂った事を言うんだ?

 

「そうじゃないよ。金ちゃんはどうしても私を屠りたいみたいだからね。まあ、大半が私の所為だし、しょうがないんだけど、やっぱり、幼馴染と仲直りはしたいな。だから、恨みっこなしで勝った方が負けた方の言う事を聞くって事で」

「武人じゃない俺に武人の燕が勝負を挑んでくる時点で不公平だよね。しかも恨みっこなしとか普通に無理。ハンデを要求する。燕は手足を縛った状態で勝負」

「いや、さすがにそれはハンデを負いすぎだろ」

 

 武神は黙ってろ。

 もしこれに勝つことが出来れば、燕を俺から遠ざけることができる。

 卑怯もクソもないわ!!

 

「勝つためには手段なんて選ばない」

「うわ、なかなか最低なこと言ってる」

「モロ、黙らないと女装させてガクトとデートさせるぞ」

「やだよっ!!」

「俺様はありかな」

「「ガクト……」」

「じょ、冗談だって!! 本気にするなよ」

 

 全然冗談に見えないんだけど。

 

「じゃあ、私が審判を行う。まあ、これは決闘ではなくただの遊びだから、松永の燕としても問題ないだろう」

「ありがとね、モモちゃん」

 

 燕のウインクでクラスに歓声が起こる。なーぜー?

 

「いや待て……燕が武神とくっつくというのもありか!!」

「私としては望むところだが、なぜその結論に至ったのか――まあ、良い。とりあえず燕と金時で勝った方が負けた方のいう事を一つ聞くという事で」

「金ちゃん、えっちな事はダメだよ」

「ハンデは?」

「スルーは酷いよっ」

 

 実はバカだろ。

 

「そうだな、私としてはハンデなんて必要ないと思うんだけど」

「俺、一般人、あっち武道家、普通、ハンデある!!」

「なんで片言なんだよ。まあ、そうだよな。金時は武術をやってないって事になっている訳だから、それで燕が倒しても、ただの苛めにしか見えないか――どうする燕?」

「んー……ちなみに金ちゃんの望みは?」

「武器なし。その腰に付けている怪しげなものは没収。納豆はゴミ捨て場にボッシュート」

「捨てないよっ!!」

「でも、そこら辺が妥当だな」

 

 というか、納豆を武器として使われたら、勝ち目なんてない。

 速攻退却する自信がある。

 

「うーん、不確定要素がある戦いはしたくないんだけど……ま、いいか。金ちゃんにお姉さんの強さを見せてあげる」

「じゃあ、放課後、私の立会いの下勝負を開始する。しないとは思うが、反則行為を行った場合、私が介入するぞ」

「具体的に反則行為って何? あ、ちなみに納豆は武器だから、使ったら速攻で燕の負け」

「まあ、事前にフィールドに仕込みをするとかくらいか」

 

 ちっ、考えていたことが封じられてしまった。さすがは武神。俺の二手三手先を読んでいる。

 

 

 

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