~文人SIDE~
俺はものすごい速さで廊下を走っていた。
そして目の前に現れた階段を飛び降りようとした瞬間、亮介に動きを止められた。
「くそ……っ、離せっ! このままじゃ、明久がっ、明久が…っ!」
「文人、落ち着け。少しは周りの迷惑も考えたらどうだ」
「んなっ…! 亮介、テメェは明久が心配じゃねーのかよ!?」
「そんなの、心配に決まってるだろっ!!」
俺はその言葉に息を呑んだ。亮介が、こいつが、大声を出すなんて滅多にないからだ。
そんな俺を、亮介は睨みつけた。
「お前が明久を心配する気持ちはわかる。俺達だって明久を心配してるからな……。でもな、1人で突っ走って、挙句の果てに何の策もなしに倉庫に行って、それで明久を人質にとられたらどうするんだ? お前は勿論、俺達だって迂闊に手が出せなくなる。そのことを、お前は考えていたのか?」
「っ!!」
そこまで言われて、俺は取り返しのつかないことをしようとしていたことを理解した。
亮介の言う通り、全員で奇襲を仕掛けたとしても、明久が人質にとられたら俺達は手を出せないままやられて終わりだろう。
それだけじゃない、下手したら向こうは、明久に危害を加える可能性がある。
悔しくて顔を歪ませると、亮介は優しく微笑んでから携帯を取り出した。
俺が怪訝そうに見ると、口角をつり上げて電話をかけた。
しばらくすると、受話口から澪の声が聞こえてきた。
『もしもしー?』
「今文人を捕まえた。そっちはどうだ?」
『あ、捕まえた? こっちは今のところ、暴力沙汰にはなってないよ。よくは聞こえないけど、なんか話してるみたい』
「そうか……。俺達も今からそっちに向かう」
『ん、わかった』
そしてそのまま、プツッという音がした。その後亮介が携帯をしまう。
亮介は「行くぞ」というと、俺の横に並んで階段をふわりと飛び降りた。そして舞うようにして綺麗に着地する。俺も亮介に続くようにして階段を飛び降りた。
チッ、やっぱ亮介みたいに綺麗には着地できねーか。なんかくやしーな。
俺は明久を心配しつつ、亮介に対抗心を燃やした。
俺達が倉庫の前に着くと、茂みに隠れるようにして座ってる皆の姿があった。
皆と同じように座り、倉庫を一瞥した。しかし中からは途切れ途切れの話し声が聞こえてくるだけで、大事にはなっていないようだった。
そのことに安堵して何かあるまでその場に寝転んでいようとした時、いきなり倉庫内から誰かが殴られるような音がした。それも複数。
「えっ、今の音……」
「明久…っ!?」
俺達は慌てて立ち上がり、倉庫の扉を一気に開けた。そして明久を探した。
しかしそこには明久の姿はなく、大柄の男が5人倒れているだけだった。
その男達に竜牙と麻菜が近づいて話しかけた。
「おい、明久をどこにやった?」
「本当のことを話さないと、何をするかわからないよ?」
「っ……知ら、ねぇよ。俺達を倒してどっか行っちまった……グフッ!? ゴボォッ!!」
「言ったよねぇ? 本当のことを話さないと、何をするかわからないって……聞いてた?」
男がそう言った瞬間、麻菜は男の腹を蹴り、その勢いで踵落としをした。それを見て俺達は冷や汗をかいた。
おいおい……これ、ヤバくないか? 麻菜のやつ、本気でイラついてやがる……。
このままじゃ、本当に何をしでかすかわからねーぞ……。後ろの男4人は気絶しちまったし……。
そう思っていると、裕実が1歩前に出て麻菜の横に並んだ。そして服の裾を引っ張る。
「……麻菜、やりすぎです。そろそろ……」
「裕実……、っ、わかった……」
麻菜はそう言ってこいつらを睨み、3歩後ろに下がった。それに合わせて裕実も下がる。
そんな麻菜の代わりに奈乃が前に出る。そしてしゃがんで目線を合わせて聞いた。
「それで? 本当に明久をどこへやったの?」
「だ、だだだ、だからっ、本当に知らねぇって! 本当に、俺達を倒してどっか行っちまったんだって!」
「ふーん……」
奈乃はそう言うと、立ち上がってこっちを見た。
亮介が首を傾げると、首を振りながら口を開いた。
「本当に知らないみたい。一応誘拐された、っていう可能性は薄れたけど……」
「じゃあ、明久はどこに行っちまったんだ? つーか、どうやってここからいなくなったんだ?」
俺が思わずそう聞くと、皆黙り込んでしまった。
ここにいなくて、こいつらは誘拐していない。だが、俺達が入ってきた倉庫の扉からは出てきていない。明らかに矛盾している。
静寂が続いていると、裕実が何か気づいたのか、トコトコ小走りである場所に向かった。
そしてその辺りを調べてから俺達の方に振り向いて言った。
「……あの、食材が減っているんですが……。しかも、明久に頼んだものが、そのままそっくり……」
「「「……………は?」」」
「「「……………へ?」」」
は? 食材が減ってる? しかも明久に頼んだ分が、そのままそっくり?
それを聞いた瞬間、俺達全員は顔を引きつらせた。つまり、俺達は明久と……
「「「すれ違ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」」」
俺達は男の存在など忘れ、教室に向かって走り出した。
それが、ミスだったことに気づかずに――――。
「ふぅ……どうやら、誤魔化せたようだね。さて、僕も教室に戻らなきゃ」