番外編はしばしお待ちください……!
~NO SIDE~
無事清涼祭を終えた明久達は、クラスで打ち上げをするために集まっていた。
お菓子や飲み物など色々買った面々は、雄二に合図をするように促した。
それに気づいた雄二は立ち上がり、咳払いをしてから言った。
「コホンッ、あー……皆、ご苦労さん。終了を祝して……乾杯!」
『『『乾杯!』』』
カランカランッと辺りにグラス同士がぶつかる音が響く。
「明久ー、乾杯!」
「うん、乾杯♪」
「ウチとも乾杯しよー!」
「俺ともしよーぜ!」
明久は皆に乾杯をねだられて慌てた。しかしそれだけでも、明久は嬉しくてたまらなかった。
無事に終えた明久は、まだ乾杯をしていない文人と麻菜を探した。
しかしどこを見渡しても、文人と麻菜は見つからなかった。
「……………?」
2人はどこにいるんだろう、そう思いながら明久は首を傾げた。
文人と麻菜は、誰もいない校舎裏にいた。
最初は2人ともずっと無言でいたが、そんな雰囲気に我慢できなくなったのか、文人が「あのさ」と切り出した。
「………何?」
「あん時……俺が明久を助けに行こうとした時、どうして麻菜は俺のことを止めたんだ?」
そう、文人はずっと気になっていた。麻菜も明久のことが大切なのに、どうして止めたのかを。
すると麻菜は意味深長なため息をついて、呆れた様子で文人に話しかけた。
「あのさ、文人も明久の性格をわかっているでしょ? 私達を巻き込みたくなくて今回のことを内緒にして、その事にすら罪悪感を感じてた、あの明久だよ? もしあの場で止めに行ったら、明久は『内緒にしちゃった、巻き込んじゃった、助けてもらっちゃった』って、さらに罪悪感を増やすだけじゃないの」
「あ……」
そこまで言われて、文人は自分があの時何をしようとしていたのかを理解した。
自分がしようとしていた行為は、明久に罪悪感を増やさせるただの自殺行為だと。
そんなことにすら気づけなくって悔しくなった文人は、拳を力強く握り、グニャリと顔を歪めた。
そんな文人を見た麻菜は、優しい笑みを浮かべて文人の頭を撫でた。
「わかってるよ、文人はただ明久を助けたかっただけだって。それに、あの場で冷静だったのって私と裕実と亮介だけだったっぽいしね」
「………そりゃ、そーだろ。明久があんな目にあったら、誰だって冷静でいられなくなるってーの……」
「うん、そうだね。だから、あの屑のことは任せてよ」
「ああ、わか………は? え、いや、ちょ、麻菜? 今、おまっ……」
文人は麻菜の言葉に目を何度も瞬きさせて、慌てて麻菜を止めようとした。
しかしその張本人である麻菜はその声が全く聞こえていないのか、いつの間にか持っていた資料をパラパラと捲っていた。
「どーしよっかなぁ……どうすればあの屑を生き地獄に堕することができるかなぁ? もういっそのこと、この資料を全部ぶちまいちゃおうかな…? でも、そんなんじゃ全然足らないしなぁ……もっと、社会的に抹殺できる方法は――」
「ま、麻菜っ! そろそろ戻ろーぜ!? 明久達が心配してっかもしれねーしよ!」
「――え? あぁ、うん。確かにそうだよね。かなりここに長くいるし、もしかしたら探してるかもしれないしね」
「よ、よっし決まり! んじゃ、早く行こーぜ!」
「えっ、あっ、ちょっ、文人!? そんなに強く引っ張らなくていいから!」
さっきの麻菜が怖くて仕方がなくて早く明久達のところへ戻りたかった文人に引っ張られながら、麻菜は落とさないようにぎゅっと資料を握った。
「あっ、2人ともお帰りー! そろそろ探しに行こうかなって話を………え、どうしたの?」
「いやっ、別に何でもないぞ明久!」
「私は何でもあるんだけど……」
「えーっと……とりあえず、何か飲む? 烏龍茶とオレンジジュースがあるけど……」
「俺オレンジジュース!」
「………ま、いっか。私は烏龍茶でお願い」
「うん、わかった」
明久はそう言って微笑むと、奈乃と一緒に飲み物を取りに行った。
その時に麻菜は裕実と澪の近くへ、文人は亮介と竜牙の近くへと行った。
文人の疲れ具合を見て何かあったと察した亮介と竜牙は、皆に聞こえないくらいの小声で話し始めた。
「文人、お前一体麻菜と何があったんだ?」
「感じ的に告白……じゃねーよな」
「当たり前だっつーの。………出たんだよ、リトルデビル麻菜が」
「「あー……」」
文人の言葉を聞いて、亮介と竜牙は遠い目をした。
さっきの状態の麻菜を、文人達は『リトルデビル麻菜』と呼んでいる。
普段は明るくて小悪魔な性格な麻菜だが、明久が傷つけられたら色々なことをして三途の川に逝かせるだけでなく、その人物に生き地獄へ堕すために社会的に抹殺させようと試みるのだ。
そんな麻菜を文人達は知っているが、明久はそれを知らない。あまりにも恐ろしすぎるからだ。
それを間近で見た文人、そしてそれを聞いた亮介と竜牙は、顔を若干青くしてため息をついた。
「文人ー、オレンジジュース持ってきた………え!? どうして今度は悲壮感がすごい漂ってるの!? てい
うか亮介君と竜牙も!? え、なにこれ、本当に大丈夫!?」
そんな時に丁度明久が3人のところへ来て、かなり漂う悲壮感さに驚いていた。
そんな明久に「大丈夫」と伝え、座るように促した。
明久はあまり納得していないのか、渋々という感じで3人の近くに座った。
しばらくは無言で飲み物を口に含んでいたが、明久は何かを思い出して亮介に話しかけた。
「そういえば亮介君、売り上げはどうなったの?」
「ん? えーっと……おっ、かなりの売り上げだな。誰かさんのおかげで、な」
「そっかそっかー、誰かさんのおかげでかー」
「そりゃよかったな、誰かさん」
「……………それ、褒めてるの? それとも貶してるの? それとも怒ってるの? それとも呆れてるの?」
「「「貶してないし怒ってもいない。呆れは1割、あとは褒めてる」」」
「………すごい微妙な気分なんだけど……」
複雑そうに顔をしかめる明久を見て3人は楽しげに笑い、それにつられて明久も笑った。
「なになにー? 楽しい話してるのー? 混ぜてー!」
「もう、澪ってば……本当、テンションが高い……」
「……それが澪の良いところです」
「そうだね。まぁ、混ざりたいのは私達も同じなんだけどね♪」
明久達が話していると、奈乃達が飲み物を持って話ながら近づいてきた。
そしてそのまま座り、麻菜以外全員明久達に寄りかかって静かに息をたてて寝た。
「「へ?」」
「「は?」」
寄りかかられた明久達も、ただ見ているだけの竜牙ですら驚きを隠せなかった。
説明を求めるために麻菜の方を向くと、麻菜は苦笑を浮かべながら口を開いた。
「それが、誰かがお酒を間違えて買ってきちゃったらしくって……しかもそれを飲んだのが、運悪く奈乃達
で……」
「ああ、そういうこと……って、あれ? 文人、亮介君?」
麻菜の言葉に文人と亮介が返さなかったことに疑問をもった明久は、名前を呼びながら振り返った。
しかし明久はその光景を見た瞬間、またしても納得した。
――――そこには、文人に寄りかかって寝ている奈乃と、亮介に寄りかかって寝ている裕実がいたからだ。
実はというと、文人は奈乃が、亮介は裕実が好きなのだ。
そんな好意をもっている相手に寄りかかられたら、誰だって無言になるだろうと思ったからだ。
しかし明久達が見る限り、奈乃も文人が、裕実も亮介が恋愛感情として好きだ。
お互いに両思いなのに付き合っていないのだからさらに厄介だと、明久は常々思っていた。
「文人も亮介君も、罪な男だよねぇ」
「……………明久って本当、自分のことにだけは鈍感よね……」
「へ?」
「いや、なんでもないから気にしないで」
そう言って麻菜はニコリと笑うが、本心ではいつもそう思っていた。
今明久に寄りかかっている澪も、本当は恋愛感情で明久が好きなのだ。だから今明久に寄りかかって寝ているのだ。
でも自分のことに関して超が何個もつくほど鈍感な明久が、そんなことに気づくはずもなかった。
麻菜は早く付き合えばいいのにと思いながら、空を見上げた。
もう今は既に夜。暗闇の中に光っている星がとても綺麗に見える。
「………私も、そんな相手ができるのかな……?」
そんな麻菜の呟きは、周りのうるさい声にかき消された。
こうして、色々あった清涼祭も、最後は静かに幕が下りたのだった。
それと同時に、新たな事件が巻き起こるとも知らずに――――。